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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第90話 ハラウェイン伯爵令嬢、正夢を見る(!?)

(ハラウェイン伯爵令嬢視点)

第一王女、悪役令嬢と同じ寝台で眠りについたハラウェイン伯爵令嬢は正夢と思われる夢を見てしまいます(!?)


[『いいね』いただきました皆様に厚くお礼申し上げます]

 これほど心休まる穏やかな夢を見たのはいつ以来のことでしょう。


 夢の中でわたしは、自分の馬で猊下をハスカルを見渡せる丘までお連れしていたのです。

 隣には、乗馬服姿の殿下がご自身の馬に乗っていらっしゃっていたと思います。

 丘は、周囲一面黄色のクロッカスの花々が咲き乱れていて、わたしは、猊下と殿下にこの大好きなハラウェインの春の景色をお見せできたことにとても喜んでいたのです。


「猊下、猊下っ」


 あのとき、ええ、猊下が意識を失われ、そのお身体をわたしと紐で縛っていただいて、アリッサ様の馬に乗せていただいたときとは、まるで違います。


 すっかりお元気になられた猊下は、それはもうお楽しそうにクロッカスのお花畑をご覧になられていて……そんな猊下の横顔をお傍で眺めているだけで、わたしは上ずった気持ちになってしまうんです。


 猊下がこの地に齎された平和。


 そのおかげで、わたしたちは、こんな幸せな光景を見ることができているのですから、わたしが猊下に特別な感情を抱いてしまうのも無理はないことでしょう。

 できることでしたら、ハラウェイン伯爵領の素敵なところを全てご覧いただいて、ハラウェイン伯爵領をお好きになっていただいて、このままずっとご滞在いただけたなら、どんなにうれしいことか。

 夢の中で、わたしは、猊下、殿下とこんな心温まる日々を過ごしていきたいと思ってしまっていたのでした。






「はっ」


 夢の中で馬を走らせようとしたそのタイミングで、わたしは目覚めてしまいました。

 馬好きなのは、自他ともに認めざるを得ないところなのですが、まさかこんな目覚め方をしてしまうなんて。

 少々恥ずかしくなりながら、わたしは、ふと自分の右手が誰かの手を握り締めているのに気付いてしまうんです。


「……げ、猊下っ!?」


 そう、昨夜、寝る前にわたしのネグリジェにお着替えいただいた猊下が、わたしのお隣でお休みになっていらっしゃったのです!

 本当に、声を押し殺せてよかったと思います。

 もし猊下を起こしてしまっていたなら、わたしは……どれほど恥ずかしい思いをしていたことでしょう。


 今でさえ、自分の頬が熱く火照ってしまっているのを自覚してしまっているのです。


 もし今猊下に『どうかされましたか?』なんて訊かれてしまえば、しどろもどろになってしまうのは間違いないでしょう。

 ですが、今のわたしの胸の内に満たされた感情は、決して悪いものではないのです。

 むしろ、心地良く、このままずっとこんな気持ちを抱いたままでいられたらいいのに、と思えるほどのものなんです。


「本当に……猊下がお目覚めになられてよかった」


 昨日、猊下がお目覚めになられるまで、わたしはどれほど不安で心細かったことか。


 殿下と交代で、猊下のご容体の変化に一喜一憂していたのがウソのよう。

 今はこうして(すぐお隣で)安らかに寝息を立てられている猊下に、わたしは自分が思わず破顔してしまうのを抑えることができません。


 本当に寝台傍でずっとハラハラしながら、付き添っていた昨日のあのときまでとはまるで違うのですから!


 わたしがほんの少し猊下のお手を握っている左手に力を込めてしまうと、猊下が僅かながら握り返されてくる感覚があって、わたしは心臓が飛び跳ねるのを感じてしまうのです。


「ふふ」


 それにしましても(状況が状況だけに選択肢がなかったからとはいえ)猊下がわたしの寝台をそのまま使われることになるだなんて。

 そして、今は猊下と殿下がわたしの寝台でお休みになられているだなんて。


 猊下から漂ってくるお花のお香りに、わたしはドギマギしてきてしまいます。

 お花のお名前までは存じ上げていませんが、確か、南のナシル王国からの持ち込まれる香水にこのようなお香りのものがあったように思います。

 もし猊下が別の寝台に移られた後も、このお香りが残ってしまいましたら、わたしは……はたしてぐっすり眠ることができるのでしょうか?

 いえ、猊下にお守りいただいているような思えて、逆にぐっすりと眠れてしまうのかもしれませんが、どうなのでしょうか?


「……そういえば」


 昨夜猊下が身に纏われていらっしゃったあのドレス。

 何でもご変身された際に(猊下がご着用されていた)わたしのネグリジェが聖なるお力で変わってしまったものであるようなのです。

 どうやら聖なるお力で変わってしまったものは、元に戻せないようで……猊下には『弁償させて欲しい』とおっしゃっていただいたのですけれど、そんな貴重なもの、わたしの方でもどう扱って良いのか、分かりません。


 いえ、むしろ、領城で厳重に保管しておくべきものなのではないでしょうか?


 ……ちょっと待ってください。

 今は猊下に(わたしの)別のネグリジェをご着用いただいているのですけれど……これ、結構お気に入りのものだったのですが、どうすればよろしいのでしょう!?

 げ、猊下が着られていたネグリジェをわたしがまた着ると?

 考えただけで、頭がぐるぐるしてきそうです。


「……っ」


 そして、わたしはふと夢の中で、猊下が……そう、わたしの馬に一緒にご騎乗いただいていた猊下が、わたしと同じ髪型をされていた(らしい)のを思い出して、ドキリとしてしまうのです。


 ……『お揃い』?


 ああ、何ということでしょう!

 今まで考え付きもしませんでしたけれど、猊下の御髪をわたしが編ませていただいて、

わたしとお揃いの髪型にして差し上げて、お揃いの服で揃えることができたなら、あの夢の世界を再現できるのではないでしょうか?


「それは」


 何て素敵なことなんでしょう!

 以前、ハスカルの城下で、商家の家の娘と思しき女の子たちが二人、お揃いのリボンとスカートを身に着けて仲良く手を繋いでいたのを見て、羨ましく思ってしまったわたしなんです。

 もし猊下、殿下と『お揃い』にできましたなら……ええ、どれだけ心躍ることでしょう。


 もちろん、ハナン様には反対されそうですし、猊下や殿下のお立ち場も考えますと、公式の場では難しいこととは思います。


 ですが、私的な場ということであれば、お許しいただけるのではないでしょうか?


「……ハードリー様?」


 っ!?


「で、殿下!?」


 すっかり油断してしまっていました!

 何ということでしょうか、もしかすると、ものすごくだらしない表情をしていたところを見られてしまったかもしれません!


「やり直しです」


「メ、メメ、メグウィン様、おはようございます」


「はい、おはようございます」


 殿下の生暖かい眼差しが……やはりそういう表情をしてしまっていたのでしょうね。

 はあぁ……。


「ハードリー様、顔色がすっかりよくなられましたわね」


「そ、そうでしょうか?

 夢見はとてもよかったのですが」


 ええ、できれば、もう少し夢の世界に留まっていたいところだったのです。

 せっかく、猊下とご一緒に騎乗で領内を見て回る素敵な夢でしたのに。


「どんな夢でした?」


「そ、それが、メグウィン様とメリユ様に領内の春の景色をご覧いただこうと、馬で回っている夢でした」


「っ」


 殿下は驚かれたように上半身を起こされ、わたしの方を見てこられます。

 どうかされたのでしょうか?


「同じです。

 わたしも全く同じ夢を見ていました。

 最後は、領都ハスカルを見下ろせる丘に、ハードリー様、メリユ様とご一緒に訪れていたんです」


 は、はい?

 そ、それは、一体……?

 まさか、本当に、わたしたちは同じ夢を見ていたというのでしょうか?

 さすがに少し信じられませんが。


「あの、メグウィン様、その夢の最後で、メリユ様とわたしは……」


「ええ、メリユ様はハードリー様の馬に騎乗なさっておられましたわ。

 確か、出発前に、ハードリー様が『どうしてもご一緒に乗っていただきたい』と言い張っておられましたが」


 えええ、その辺り、記憶が曖昧なのですが、夢の中のわたしは一体何を言っていたのでしょうか?

 恥ずかしさのあまり、少し身体が痒くなってきてしまいました……。


「ちなみに、わたしの髪型、覚えていますか?」


「メグウィン様の髪型、ですか?」


「ハードリー様がどうしても『お揃い』が良いとおっしゃって、メリユ様の御髪とわたしの髪を編んでくださったのですけれど?」


 いやぁぁ、夢の中でもわたし、そんなことを言い張っていたんですか!?

 そ、そういえば、お隣にいらっしゃった、殿下の髪型、確かに普段と違っていたような印象がありましたけれど、わたしと同じこの髪型に、わたし自身でして差し上げていたとは……どうしてか、出発の前辺りの夢の記憶を思い出せません!


「そ、そんなことになっていたんですね。

 わたしはその辺りが曖昧で……ですが、本当にわたしたちは同じ夢を見ていたのでしょうか?」


「何せ、ご神託を賜れる聖女様がここにいらっしゃるのですから。

 きっと、正夢と考えてよろしいのでは?」


 ……確かに、そうなのかもしれません。

 いいえ、きっとそうなのに違いありません!

 聖女であられる猊下と手を繋いだまま、眠りについていたのですから、神から正夢を授かってもおかしくないことなんでしょう!


「では、全てが終わりましたら、メリユ様とメグウィン様に領内をご案内できるのですね?」


「ええ、それくらいのお時間は、お父様、いえ、陛下からもいただけると思います。

 王国が滅亡の危機から救われたなら、メリユ様にはしっかりご静養いただかなくてはならないでしょうし」


「そうですね」


 殿下とわたしは、それぞれ猊下のお手を握り締めたまま、寝台の両側で微笑み合いました。


 昨日お目覚めになられた直後にご聖務を執り行われた猊下はやはりご疲労の色が濃いようで、まだ深く眠りにつかれているご様子。


 ですが、昏睡状態でいらっしゃったときと異なり、良い夢をご覧になられているのか、少し笑みをその寝顔を浮かべられていらっしゃって、殿下とわたしとタダ(昨夕までとは異なり)安心しながら猊下のそんなご尊顔をずっと眺めていたのです。

 きっと、猊下のことですから、あの夢の続きをより長くご覧になっていらっしゃったのでしょう。


 猊下がお目覚めになられたのは、それから五刻後のことでした。

※休日ストック分の平日更新です。


『いいね』いただきまして誠にありがとうございます!

大変励みになっております!


さて、今回のお話は、ハードリーちゃん視点な訳ですが、何気なく、ハードリーちゃんの中で悪役令嬢メリユの優先度が上がってしまっていたようですね。

領を災厄の危機から救い、更には幼馴染の命を救い、騙し取られた献金まで取り返してくれた訳ですから、当然と言えば当然かもしれませんが。


何にせよ、やはりヒロインたちの関係が深まっていくのは、『よき』です!

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