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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第86話 王女殿下、湯浴みの間に悪役令嬢がしていたことに気付いてしまう(!?)

(第一王女視点)

ハラウェイン伯爵令嬢の部屋に戻った第一王女は、湯浴みの間(休んでいたはずの)悪役令嬢がこっそりとしていたことに気付いてしまいます(!?)


[ご評価、『いいね』いただきました皆様方に心よりお礼申し上げます]

 湯浴み前に、王都へ『メリユ様お目覚め』の急報を報せるための早馬を走らせ、お兄様たちの出立に影響が出ないように対応したわたしたち。

 メリユ様のお目覚めが後少しでも遅れていれば、明日の朝にも聖女専属護衛隊はハスカルを出立することになっていただけに、本当にぎりぎりのタイミングだったと思う。


 メリユ様が(王城に)ご来城されてから今日で五日目。


 普段であれば、五日なんて、詰め込まれた公務や社交などであっという間に過ぎ去って思い出なんてろくに残らないものなのに、この五日はあまりにも濃密過ぎて、その一日の一瞬一瞬を掬い上げて思い出に耽るのも大変なくらいだわ。

 特に昏睡状態になられたメリユ様をハードリー様、ハナンとお世話したこの二日間ほどは心の振れ幅があまりにも大きくてどうにかなってしまいそうだったもの。

 ハードリー様と泣いたり笑ったり、『メリユ様が早くお目覚めになって欲しい』ってこれほど深く神にお祈りを捧げたのも初めてのことだったかもしれない。


「メリユ様は……もう大丈夫なのよね?」


 お目覚めになられたメリユ様が(問題なく)薬湯をお飲みになられて、ハードリー様とも距離を確かに縮められて、全てが良い方向に進んでいるように思えるのに、どうしてこれほどの不安を覚えてしまうのかしら?


 メリユ様が全てをお話になってくださらないから?

 もちろん、メリユ様が神より課せられたご制約によって全てをお話になられないことは分かっている。

 けれど、メリユ様は誰かが傍で見ていなければ、きっと(これまでと同じように)タダ黙って、たったのお一人で聖務を執り行われようとされるのだろう。

 それが怖い。

 そう、わたしはそれを何より怖れているのだわ。


 こうして目を離している間にも、メリユ様はどこかへ行かれてしまうかもしれない。

 そして、その聖務の中でお命を落とされてしまうかもしれない。

 そんな恐怖がわたしの心に強く植え付けられてしまったように思うの。






 そんなわたしがハードリー様とお部屋に戻ったとき、それは(一部ながら)現実のものとなっていた。


 ハードリー様がメリユ様のご体温を測られると、ご自身のご額をメリユ様のご額に付けられたとき、少しモヤモヤしたものを覚えたのも一瞬。


「メリユ様のお肌が……スベスベに?」


 ハードリー様が不思議そうにそう口にされたとき、わたしは全身に鳥肌が立つのが分かったの。

 メリユ様のお肌のご感触が変わるのは、いつもご変身の直後。

 使徒様のお姿に変わられたときも、年上のお姉様のお姿になられたときも、わたしはずっと傍にいたのだもの。

 それに、ハナンが時折汗を拭いていたとはいえ、ずっと寝込まれていらっしゃったメリユ様のお肌が今スベスベになっているなんて明らかにおかしいのだから、その訳が分からないはずがないのよ!


 つまり、メリユ様は、わたしたちが湯浴みをしていたこの短いお時間の間に、(ハナンに気付かれないように)こっそりとご聖務を執り行われていたということになる。


「メリユ様、少しばかりよろしいでしょうか?」


 今までメリユ様にぶつけたことのないような低い声がわたしの喉元から漏れる。

 これは怒り、それとも焦り。

 わたし自身、よく分からない。

 ええ、でも、そうよ。

 たとえメリユ様がご聖務を執り行われていたとしても、メリユ様には何一つ悪いことはないと分かっているのだけれど、わたしはもう我慢することができなかった。


「ハードリー様」


「でん……いえ、メグウィン様?」


 戸惑い気味のハードリー様に場所を譲っていただいて、わたしは、メリユ様に近付く。

 薄暗いながらも、お傍で拝見させていただければ、メリユ様の変化がはっきりと分かる。


 だって、つい先ほどだって、抱き付いてしまったばかりなのだもの。


 今のメリユ様の頬は(この二日寝込まれて汗ばまれたお肌ではなく)薄くお化粧されていて、髪も後頭部で編まれているのが分かってしまう。

 そして、きっと、この下も……。


「メリユ様、失礼いたします」


 きっと、わたしは怖い顔をしているのだろう。

 ハードリー様とハナンが『何事か』といった雰囲気でわたしを見てきているのだもの。

 それでも、わたしは確かめずにはいられなかった。


 そう、メリユ様が首まですっぽりと被られているこの羽毛の掛布団を捲れば……。


「……メグウィン様?」


 わたしが掛布団を両手で掴みにかかっても、メリユ様はきょとんと首を傾げられるだけ。


 そんなお姿にわたしは……もはや、怒りなのか、焦りなのか、それとも悲しみなのかも分からないまま、力任せに引っ剥がしてしまう。


 ファサッ!


 そう、掛布団の下に隠されていたのは(思っていた通り)初めてメリユ様にお会いしたあの日と同じドレスを身に纏われたメリユ様のお身体があった。


「っ!?」


 すぐお隣でハードリー様が息を呑まれるのが分かる。

 そうよね、ハードリー様にだって、これで、メリユ様の『今のお姿』の意味がお分かりになるだろう。


「メリユ様っ、これは一体どういうことなのでしょうかっ!?」


 本当にこれほどまでに声を荒らげてしまったのはいつ以来だろう。


 もちろん、メリユ様にお会いしてからは、カブディ近衛騎士団長のご無礼な振舞いに声を荒げてしまったこともあったかもしれないけれど、こんな泣き声混じりの怒声ではなかったと思うもの。


「メグウィン様?」


「わ、わたしたちが湯浴みで離れている間に、聖なるお力をご行使されたのでしょう?

 ハナンっ、あなたがついていながら、どうして!」


 ハナンに対しても八つ当たりをしているとわたし自身、理解している。

 それでも、乱れる感情のままに、わたしはそんな言葉を口走ってしまっていた。


「で、殿下、申し訳ございませんっ!

 書類仕事が残っておりましたもので、注意が散漫になっておりました」


 視界の隅でハナンが深く頭を下げるのを見ながらも、わたしはメリユ様を睨み付けてしまう。


「一体、どのようなご聖務、ご神命を神よりくだされたのでしょう?

 それは、メリユ様のお身体よりも優先されるようなもの、だったのでしょうか?」


 メリユ様に当り散らしながら、わたしはようやく理解してしまう。

 そう……わたしは、あまりにもメリユ様への配慮がなさ過ぎる神に対して、怒りを覚えてしまっているのだわ。

 本来であれば、二日間の昏睡状態からようやく目覚められ、暫くはご静養いただかなくてならない身でいらっしゃるメリユ様に新たなご神命くだされるなんて、神はメリユ様を何だと思われていらっしゃるのかしら?


 地上で神のご意思通りに動かすことのできる便利な駒?


 そんな……メリユ様だって、普通に人として生まれ、人として育ち、人としての幸せを享受されて然るべき、十一歳の少女だというのに、女性だというのに。

 もし神がそういうお考えでいらっしゃるというなら、神に苦言を奏上仕りたいくらいだわ。


「……メグウィン様、そのお怒りのお気持ち、大変ありがたく思いますわ。

 ですが、此度のことは、わたしが動かずにはおられないことだったのですわ」


「今のメリユ様が動かれなくてならない状況とは一体何なのでしょう!?」


「そうでございますね、少々お待ちを……」


 薄く微笑まれながらも、わたしと向き合ってくださるメリユ様。

 それでも、『こんなときですら、神のお許しがなければ、わたしたちにご説明いただくことも難しいと言うの』と思ってしまう。


「……はい、お待たせいたしました」


 メリユ様は、ゆっくりとベッド上で上半身を起こしになられて、いつになく真面目なご表情でわたしを見詰めてこられる。


「すぅ、はぁ」


 目を細められ、一呼吸を置かれてメリユ様は、


「かの聖女見習い様でございますが、今ゴーテ辺境伯領でご暗躍されていらっしゃいまして、つい先ほどゴーテ辺境伯令嬢がそのお命を奪われる寸前だったのでございますわ」


「「「っ!?」」」


 ゾッとするようなことをおっしゃられた。

 かの聖女見習い様とは、このハラウェイン伯爵領でも献金を騙し取り、ハードリー様たちを苦しめられた方のことで間違いない。

 まさか、その方がゴーテ辺境伯領に移動して、よりにもよって辺境伯令嬢、マルカ様だったかしら、そのお方のお命を狙われていただなんて。


 いえ、王国とセラム聖国の離間を目論むオドウェイン帝国の次なる一手なのだとしたら、普通にあり得そうなことね。


 状況によっては、ゴーテ辺境伯家が独断で砦を閉鎖し、キャンベーク街道の国境を閉ざすようなことだって起こり得るわ。


「で、では、メリユ様は、その至急のご神命で……ゴーテ辺境伯領に飛ばれていらっしゃたとおっしゃるのですか!?」


「はい、皆様には事前にお伝えすることができず申し訳ございません。

 ですが、ゴーテ辺境伯令嬢はご無事で、今は辺境伯領城にお帰りいただいております」


 メリユ様に告げられた、あまりもの事実に、わたしは全身に鳥肌が立ち、震えのあまり足腰にすら力が入らなくなってくるのを感じてしまう。


 本当に、そんなこと、メリユ様でなければ、いえ、メリユ様以外には決して解決できないことなのだもの!


 オドウェイン帝国の魔の手が迫りつつあるのは分かっていたけれど、メリユ様が弱られているこの状況ですら、そんなことが王国内で起きかけていたなんて。


「そ、そんなの、怒りようもないではないですか……」


 そう、今回の出来事は……今のメリユ様が弱られたお身体に鞭打たれてでも動かれなければ、マルカ様は確実にお命を落とされていたということになるのだもの。

 そして、そこからオドウェイン帝国の工作による被害は徐々に王国を蝕んでいったに違いないのだもの。


「どうして、こんなにも早く……」


 あまりにもタイミングの悪かったハラウェイン伯爵領での『土砂ダム』の発生。

 そして、時を同じくして動き出したオドウェイン帝国の離間工作。

 それらの全てがメリユ様に大きなご負担となって圧し掛かってきているだなんて!


 どうして神は、メリユ様にゆっくりとお休みいただくお時間すらお与えになってくださらないのかしら?

 わたしはそんなことすら思ってしまう。


「っ………」


「メ、メリユ様、マルカ様は一体どのような状況で、その……」


 わたしが言葉を詰まらせている間にも、ゴーテ辺境伯家のソルタ様とマルカ様とは幼馴染でいらっしゃるハードリー様はかなりの衝撃を受けられたご様子で問われるのだ。


「そうでございますね。

 もう少しで弓矢により暗殺される寸前でございました」


「マ、マルカ様が暗殺されかけるだなんて、そんなっ……オドウェイン帝国がもうそこまで悪虐な手を打ってこられるだなんて……」


 ハードリー様が震える左手を右手で必死に押さえていらっしゃるのが分かる。

 わたしは、いえ、わたしもオドウェイン帝国の悪虐な一手に、怖れというよりは怒りのあまり、身体が震え出すのを止められない。


 メリユ様のおかげで『西の、ゴーテ辺境伯領側から侵攻がある』という情報を得て、ここまで早く動き出すことができたというのに、わたしたちは一体全体何をやっていたというの!


「ご安心くださいませ、ゴーテ辺境伯令嬢、いえ、マルカ様にはソルタ様に全てをお伝えするようお願いしております。

 ですので、マルカ様は領城でご安全にお過ごしになられていらっしゃるはずですわ」


 そんなメリユ様のお言葉にわたしはふと気付いてしまう。


 暗殺寸前だった現場からマルカ様を救い出されたとおっしゃったメリユ様。

 その意味は、ちなわちマルカ様はご移動のご命令で、瞬間移動によってお命を救われたのだということに。


「そ、それでは、マルカ様は……?」


「はい、わたしの力についてご存じでいらっしゃいます」


 なるほど……そうなのね。

 ハラウェイン伯爵家の皆様には、メリユ様のお立ち場、お力のことを伝えるのも大変だったのだけれど、ゴーテ辺境伯家のマルカ様はもうご存知でいらっしゃると。


 今度はお兄様と……間に合えば、サラマ聖女様もご一緒にゴーテ辺境伯領に赴くことになるのだから、ご理解いただくのはもう少しうまく、すんなりといきそうではあると思っていたのだけれど、既にマルカ様がメリユ様のことをご存知でいらっしゃるなら、マルカ様にもご協力いただくのが良さそうね。

 そして、わたしたちは、侵攻への備えの遅れを挽回しなければならないのだわ!


「ですが、メリユ様、ご救出の際はご変身されていらっしゃったのでは?」


 ハナンの指摘が入る。

 ええ、そうね、今メリユ様がこのお姿になられているということはきっとそうなのだろう。


「はい、あの年上の姿の方で対応させていただきましたので、もしかすると、すぐにお分かりいただけないかもしれませんが……もしそのようでしたら、最初からあの姿で自己紹介させていただく方がよろしいかもしれません」


 そう……やはり、いよいよメリユ様がご変身された後のお姿でご活躍されることも増えてきてしまうのね。


 けれど、メリユ様がどんなお姿でいらっしゃろうと、わたしは、メリユ様のお隣で、メリユ様をお支えしたいという気持ちは変わらないもの。

 だから、わたしは、わたし自身の率直な気持ちをメリユ様にお伝えすることにしたのよ。


「はあ、メリユ様、マルカ様をお救いいただきまして誠にありがとうございます。

 ミスラク王国第一王女として深く感謝申し上げます。

 ……ですが、もう此度のようにたったのお一人でご聖務に向かわれないようにお願いいたします!!」


「メグウィン様?」


「メリユ様、今もわたしは、キャンベーク川の上空で試練を受け、その後、わたしの寝室で誓いを立てた、あのときの気持ちに変わりはございません。

 わたしもお隣に並び立ちお支えする者として、絶対にメリユ様のお手を離したくはないのですわ」


 わたしは、またも涙が零れてくるのを感じながらも、メリユ様のお手を取って、握りしめる。


「ですから、メリユ様もどうか、この手をずっと離さないでいてくださいませ。

 わたしからの一生のお願いでございます」


 再び温かさを取り戻されたメリユ様のお手。

 この温もりをもう二度と手放したくはない、手放すことなんて絶対にあり得ないとわたしは思うのだった。

皆様、いつも応援いただきまして誠にありがとうございます!!

『いいね』を連続でいただき、『いいね』に見合うお話になっているかどうかハラハラしていたりしますが、アンフィトリテは本当にうれしゅうございます!


さて、本さ……ぃえ、メグウィン殿下、さすがによく悪役令嬢メリユをご覧になられていらっしゃいますね!

メリユがマルカちゃんを助けに行ったと正直に打ち明けたことで、これ以上怒ることはできなかったようですが、メグウィン殿下としては、もうこれ以上メリユに一人でどこかへ行かせたくないというお気持ちが強くなられたよう。

二人の仲は更に深まっていきそうでございますね!

(本当に地獄ような状況に陥らずに済んでようございました!)


なお、今週末はフル休日出勤のため、本日は振替日活動です。

申し訳ございませんが、次回は月曜日もしくは火曜日更新の予定でございます。

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