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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第83話 悪役令嬢、緊急事態にうっかりゴリラ令嬢化してしまう(!?)

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、ゴーテ辺境伯令嬢の緊急事態にうっかりゴリラ令嬢化してしまいます(!?)


[ご評価、『いいね』いただきました皆様に深くお礼申し上げます]

 ……うん、マルカちゃんがちょこまかと馬車の間を移動したりしている様を見ているのは、これはこれで微笑ましくていいのだけれど、時間経過と共に焦りの方が大きくなってきちゃった。

 あれよね?

 もしこのままメグウィン殿下、ハードリーちゃんたちが湯浴みを終えて、お部屋に戻って来ちゃったら、メリユがまた行方不明になったって大騒ぎになっちゃうのはほぼ確定なのよね?


「ヤバひ……」


 一応、ベッド上の偽装工作はしてきたけれど、メリユのアバターがそこにある訳じゃないから、近付かれたら一発即バレだし……できるだけ早く戻んなきゃ!

 あー、こんなことなら欲張って、ハラウェイン伯爵領からの献金もついでに持って帰ろうとか思わなきゃよかったよ。


 ん……いや、待てよ?


 今のわたしってワールドタイムインスタンスを弄れるんだし、マルカちゃんに探させるんじゃなくて、時間を止めてわたしが探せばよかったんじゃね?

 うあああ、わたしのお馬鹿!!

 そうじゃん!

 今のわたしならワールドタイム上ゼロ秒で、探し当てることだってできるのに、何マルカちゃんにやらせちゃってるのよ?


 あー、暫くオタ人格封印して真面目になろ。


 マルカちゃん眺めてニタニタしてる場合じゃないわよ?


「すぅ、はあ」


 わたしはハードリーちゃんのお部屋で初お披露目となった時間停止音声コマンドを再度発動することにする。

 従来の音声コマンドは、どうやら間違ってコマンド発動したときにキャンセルできるよう、三秒のラグがあるみたいだけれど、こっちはねー、わたし=メリユに紐付けたローカルタイムインスタンスを一気に三秒進めさせることで即実行が可能となったのだ!

 さて、


「“Stop world……」


 ガサッ


「ひっ」


 そう、わたしが時間停止音声コマンドを発動しかけるのと、それは同時だったと思う。

 近くの木立の上の方から、小さな物音がするのと同時に、マルカちゃんが怯えたように、ううん、自分を何かから護ろうとするかのように、右手、左手を顔の前にかざしてビクリと震えたんだ。


「……Time!”」


 その瞬間、世界から音という音が全て失われる。

 景色は……まあ、木立が風に少し揺れていたりしていたのが止まったくらいなのだけれど……いや、時間止まってるのに光は動いているってどういうことやねんってのは、まあゲーム上のご都合主義ってことでいいとして……あれは!?


 そう、確かに一瞬シュンッて何か飛んできたようには感じたんだけれど、マルカちゃんから五十センチと離れていない空中に何かが塗られた弓矢が静止していたんだ!


「は?」


 ぃ、ぃ、いや……マジ、どういうことよ!?

 こ、これって、もしかして今マルカちゃんが弓矢で射られちゃう寸前だったってこと!?

 え……何、これって、もしかして偽聖女見習い一味にまだ捕縛できてないヤツがいて、そいつがマルカちゃんを狙っていたということ!?


 いえ、そうね。

 あり得る。

 何せ相手はオドウェイン帝国の工作部隊なのよ!

 さっきもマルカちゃんを平気な顔をして消そうとしていたくらいだもの、万が一に備えて暗殺できるようなヤツを周囲に配置していてもおかしくない!


「……も、もしかして、わたしがマルカちゃんから離れて、ほどよく油断した頃合いを狙ってマルカちゃんを射ったってこと!?」


 あああああ、それっぽい!

 っていうか、よくわたし今のタイミングで時間を止めたわよね!?

 今になって鳥肌立ってきたし!

 もし今時間止めていなかったら、あの弓矢の向きからして、マルカちゃんの胸元に突き刺さっていたじゃん!


「かーっ、何てことやってくれんのよ!?

 シナリオライターさん、本気でわたしを寝かさないつもりなの!?」


 もう本気で目が醒めちゃったし!

 これさあ、マルカちゃんがここで命落としちゃう分岐シナリオもあったってことよね!?

 うん……そもそも、わたしがゴーテ辺境伯領に飛んできてなければ、マルカちゃん、命落としていたのか?

 むしろ、今シナリオの修正力的なものが働いていたって見ていいの?


 ぐむむ、メリユスピンオフ、いくら本編シナリオとは別物とは言っても、マルカちゃんを退場させようとか最悪よ!

 これじゃ、本編でヒロインちゃんがソルタと仲良くなって、マルカちゃんとも仲良くなる分岐が破綻しちゃうじゃない!?


「くぅ、こうなったら徹底抗戦よ!

 多嶋さんに好きにしていいって言われているんだものっ!」


 そりゃ、今すぐにでもハラウェイン伯爵領ハスカルの領城に戻らなきゃいけないのは分かっているわよ!

 でも、マルカちゃんをそのままにはできない!

 そうね、ゴーテ辺境伯家だって、歴史ある辺境伯家、そこなら安全なはず……なら、もう出し惜しみなしで、マルカちゃんを“Translate”コマンドでゴーテ辺境伯領城まで送り届けておくか。

 さすがに今弓矢を射った暗殺者以外にも仲間がいるとしても、領城にまで忍び込むのは困難でしょ?


 もち、今射ったヤツ以外に仲間がいないか、一定範囲内のアクターIDサーチで周辺捜索はぬかりなくしておくけどね!


 こうなったら、シナリオクラッシャーファウレーナと呼ばれようが知ったことか!


「よし、まずはマルカちゃんの安全の確保ね!」


 わたしはタタタッととっさに自分の身を守ろうとしつつ、目を瞑っているマルカちゃんの傍まで行くと、マルカちゃんの胸元に突き刺さろうとしている弓矢を右手で握る。

 へへん、こちとら管理者様だ。

 物理無効で弓矢はメリユアバターに刺さりっこないし、慣性力も無視して見せるわよ!


「“Move world time!”」


 これで一旦時間を動かして、弓矢を落としておきましょ!

 って思ったら……


 バキッ


 ヤベ……力入れ過ぎて折れた!?

 静止していた時間が動き出した途端、タッチコントローラで弓矢に手を伸ばしてAI動作補正で掴んでいた弓矢がその場で折れて砕け散った……。


「ひぅ、ひぃ……ぅ?」


 背後でかわいらしい悲鳴を上げているマルカちゃんが、異変に気付いたみたいで『ぅ?』とか言っちゃってる!

 ああ、このお声だけでもかわゆい!

 よき!(封印したと違うんか!)


「…………ぉ、ぉ、お姉様っ!?」


 そりゃ、まあ驚くわよね?

 突然わたしが降って湧いたんだもの。

 そして、突き刺さるはずだった弓矢は砕かれ、わたしの足元に落ちちゃってるんだもの。


「ぎりぎりになってしまい申し訳ございません。

 ですが、もう安心でございますわ!」


 わたしがそう告げてあげると、


「……ウソ、わたし、今確かに……うぅ」


 茫然と呟くマルカちゃんのお声が聞こえる。

 きっと、マルカちゃんは自分が命を落とす未来をあの瞬間に想像してしまっていたに違いない。


 うん、許さん!


 愛らしいマルカちゃんを怯えさせるとは、暗殺者め一体どうしてくれようか?


「“Acceralate”」


 引数まで付けるのがうざかったから、一ワード音声コマンドした超加速命令。

 いや、単にワールドタイムインスタンスの時間刻み幅を変えているだけなんだけれど、これでわたしは二十倍速く動けるの!


 まず……あれか、木の上にいる暗殺者を“Pick”して、アクターIDを取得して、そのワールド座標を入手、相対距離を計算して、“Translate”


 わたしは暗殺者の背後に飛び、その空中に留まりながら、タッチコントローラで身軽そうな暗殺者の胸元に腕を回す。

 ふふんっ、貴族令嬢に背後から抱き留めれて光栄に思いなさいな!

 おほほほほっ!

 そんなことを思いながら、


「“Decelerate”」


 超加速解除の音声コマンドを実行する。


「ぐぼぁっ!??」


 うん?

 ちょっと強く抱き締め過ぎちゃったのかしらん?

 酷い悲鳴が聞こえたわ。

 まあ、物理無効だし、力覚フィードバックもないから、こっちは加減が利かないのよねー。


「き、貴様っ、いつの間に……ぐがぁっ!」


 ヤッベ、何かバキッって音がしたような。

 ………まあ、ヤツの意識飛んだみたいだし、よしとしよう。


 でも、後で多嶋さんに『ゴリラ令嬢』とか言われそうな気が……これ、他者視点で見たら、酷い光景じゃない?

 うん、これは絶対ツベにアップできないわ……さすがにこれは元からする気も起きないけれど。


 わたしは暗殺者に手錠をかけると、地面に降り立ち、捕縛した連中のところに放り込んでおくのだった。

 ちなみにアクターIDサーチもかけたけれど、周辺五百メートルにアクターなしだったから、取り合えずは安心かなっと。






 さて、わたしが戻ってくると、まだマルカちゃんはその場で茫然と立ち尽くしていた。

 おー、よしよし、怖かったわよねー。

 わたしは微笑んで、マルカちゃんの優しく頭を撫でてあげる。

 うん、メリユ(大)いいよ!

 お姉さん視点でマルカちゃんを愛でられるとか、よきよきよ!(もはや封印する気なし)

 まあ、メリユ(小)の同い年視点も貴重だけれどね。


「マルカ様、大丈夫でございましたでしょうか?」


 わたしが声をかけると、マルカちゃんがバッとわたしの胸元に飛び込んできて、フードが捲れる。

 うおお、ウェーブがかったポニテが、ポニテが!

 スポーティーマルカちゃん、マジよき!

 暗くて色味分かんないのが悔しいけど!


「お姉様、お姉様ぁっ、うえぇぇぇ」


 う……何この既視感。

 いや、ついさっき、ハードリーちゃんのお部屋でもあったなあ。

 って、何、わたし、メグウィン殿下含めて、一日で何人泣かせ捲っちゃってんの!?

 泣きゲー(そもそも意味違う)じゃないけれど、一日でヒロインたちを何人泣かし捲れるかって別種の泣きゲーを開拓できそう。


「もう大丈夫でございますよ」


 わたしがそう声をかけても、マルカちゃんはわたし=メリユ(大)のなかなか立派な胸に自分の顔を埋めて泣きじゃくっている。


 あああ、母性本能に目覚めてしまいそうですわー!


 わたしは、物理無効解除して(『ゴリラ令嬢』とか言うなし!)そっとマルカちゃんを抱き締めてあげるのだ。


「お姉様ぁ、わたし、ぐずっ、すごく、怖かったのですわ、うぇぇん」


 そうよね。

 さっき、偽聖女見習いたちに消されそうになったときだって、無理して強がっていたのよね?

 だって、まだ十一歳のご令嬢なんだもの!

 本当によく今まで頑張ったって思うわよ!


「さ、さっきは、もう、これで、うぅ、終わりなのだと、うぇぇ」


「マルカ様、もう安心でございますわ。

 わたしが、領城までお送りして差し上げますから」


 あああ、触覚がないのが物足りない!!

 電気刺激式でもマニピュレータ式でもいいから、マルカちゃんの頭の感触をくれぇ!


「お姉様、ぐずっ、わたし、本当に生きているのでしょうか?」


「ええ、もちろんでございますわ。

 マルカ様には素敵な未来がたくさん待っているのですもの、こんなところで終われる訳がございませんでしょう?」


「ぁ、ありがとう存じますっ、お姉様あ!」


 うおおお、そのセリフ全てに濁点を付けてしまいたくなるような迫真の泣き演技(!?)

 マルカちゃんのそんな泣き声に、わたしは『よきよきよき』と頭の中を埋め尽くされてしまうのだった。

あー、やってしまいましたね……。

これは色々隠せなさそうですが、大丈夫でしょうか?

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