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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第81話 ゴーテ辺境伯令嬢、寝る前に偽聖女見習いを探しにやってきた悪役令嬢に助けられる(!?)

(ゴーテ辺境伯令嬢視点)

聖女見習いを名乗る女を探りにやってきたゴーテ辺境伯令嬢は、うっかりその女に見つかってしまうも、寝る前に偽聖女見習いを探すことにしてやってきた悪役令嬢に助けられます。

(なお、悪役令嬢は、ワールドタイムインスタンスを弄ることで(うっかり)無双してしまいます)

 エレム・メティラーナントサンクタ・シェラーダ様。

 セラム聖国中央教会の聖女見習いを名乗られる、エレム様はどうにも怪しい。

 教皇猊下とサラマ聖女猊下の使節団がご入国された直後にご入国され、使節団より先にご帰国されるという彼女たち。

 修道騎士を連れているのはいいとしても、装備などに違和感があるの。


 仮にもセラム聖国と接する国境線を守護するゴーテ辺境伯家の人間だもの、セラム聖国の事情にはそれなりに通じているし、わたし=マルカ・マルグラフォ・ゴーテは何よりセラム聖国の風俗には興味があって、服装や装飾品の流行りにも詳しいと自負しているの。


 そのわたしがエレム様と接してまず気が付いたのが、言葉の発音がセラム聖国のものと若干異なっていたということ。

 そして、エレム様の護衛をされている修道騎士やお連れの修道士、特に修道騎士の装備が少し前の横流し品である疑いを抱いたこと。


 もしかすると、セラム聖国以外の間者かもしれない。


 そう思ったわたしは、薄暗くなった時間を狙って、彼女らの馬車に潜入したのだわ。

 もちろん、狙ったのは、一番警備の少なかった馬車。

 おそらく他領で得た献金や宝飾品を積んでいるのだろう馬車には、修道騎士たちが張り付いているし、そもそもわたしは盗みを働きたくて潜り込んだ訳ではないの。

 あくまで、馬車内にセラム聖国以外の国の痕跡がないかどうかを確かめるため。


 お兄様たちはまるで疑わられていらっしゃらないようだけれど、絶対に彼女たちは怪しいのだわ。


「ふぅ」


 お日様はバーレ連峰の向こうに沈み、馬車内はもう真っ暗闇なのだけれど、これでも麓の森林地帯で修練を積んでいる身。

 目を慣らせば、それなりにものは見えるの。


 さて、怪しいものはないかしら?


 一応、大半のものはセラム聖国内で買い求めたのか、違和感のないものが多い。

 それでも、年がら年中セラム聖国との交易に携わる商人たちを見ているからか、やはり引っかかるものがあるのも確か。


「……これは」


 そんな中、わたしは明らかにセラム聖国の中央教会関係の人間が持っているには、不自然な一品を見付けてしまう。


 皮の水袋。


 この皮はセラム聖国で流通している水袋で使用されているものではないわね。

 何の動物の皮かしら?

 どちらかと言えば、もっと北の方の国で流通しているものような……まさかよね?


「けれど、どこの派閥であろうと、この水袋は不自然だわ」


 教皇派で固められた使節団と同行されていない以上、彼女らが教皇派ではないのは間違いないの。

 それでも……たとえどの派閥であっても、こんな他国の水袋を所持していることには違和感があるの。


「っ!」


 突然バンという音と共に、馬車の扉が開けられる。

 そこに現れたのは、長身で銀髪美人のエレム様。

 わたしはうかつにも水袋を手にしたまま、身を硬くしてしまう。


「まあまあ、マルカ・マルグラフォ・ゴーテ辺境伯令嬢様。

 我が使節団の馬車に忍び込まれるとは、いけないお方ですわね」


 バレた。

 一応黒ずくめの格好に着替えていたのに、やはり体形と仕草で分かってしまったのかしら?


「……」


「ふぅん、その水袋に気が付かれるとは……それで何かお分かりになられたのでしょうか?」


 挑発的なエレム様のお言葉。

 エレム様の背後には、多数の修道騎士たち。

 気配を断って(いつの間にか)周囲を囲っているとか、普通ではないのだわ!


「少なくとも、貴女方がセラム聖国の人間でないということは分かりましたわ」


「はあ、水袋ばかりは……出立のときに使用していたものを残していたのが徒になりましたわね」


 もう隠す気もないとは。

 これは……わたしの身が危ないのでは?

 今までに感じたことのない緊迫感を覚えながら、わたしは彼女たちの隙を窺がう。


 けれど、ダメね。

 隙がない。

 教皇猊下とサラマ聖女猊下の使節団に付いていた修道騎士たちと比較しても遜色がないどころか、むしろこっちの方が強いかもしれないと思ってしまう。


「貴女は一体どこの国からの間者なのかしら?」


「まあ、仮にもメティラーナントサンクタを賜ったわたしに、そんな不敬な口を利かれてよろしいのかしら?」


「どうせ偽者なのでしょう?」


「ふぅん」


 エレム様は、目を細められて、わたしの様子を窺がっているみたい。

 このまま下手に刺激すると、拉致どころか、消されるかもしれないのだわ!


 一体どうするのがよいのかしら?


 精一杯の虚勢を張ってみるのだけれど、それすらも見抜かれているように思えてしまう。

 わたし一人で動いてしまったのは、本当に失策だったのだわ。

 身体はもちろん、声も震えが出ないように気を付けていても、嫌な汗が脇や掌に滲み始めるのを感じてしまう。


「はあ、マルカ・マルグラフォ・ゴーテ辺境伯令嬢様、あなたにはここで消えていただくこといたしましょう。

 セラム聖国とゴーテ辺境伯家が揉めてくれれば、我々としましても好都合ですし」


 ダメ、本当に命の危機なのだわ。

 ごめんなさい、お母様、お父様、お兄様!

 いつも勝手なことばかりする娘でごめんなさい。

 けれど、せめて彼女らが他国の間者だったということだけは、伝えたいのに!


 初めて覚える恐怖に、わたしはついに脚がガクガクと震え始めるのに気付いてしまう。


「っ」


 アムール、マルコス、ごめんなさい!

 貴方たちを出し抜いてしまったせいで、貴方たちも処罰を受けることになってしまうかもしれないわ。

 アゼーナ、シーナ、ごめんなさい!

 貴女たちを騙して抜け出して、いつも心配ばかりかけてごめんなさい!


「ふふ、抵抗する気があるのなら、その懐の短剣を使っていただいて構いませんわ。

 それとも、自害されるのなら、それも構いません」


 もちろん、最低限の抵抗くらいはさせてもらいますわ!

 けれど、どうやっても後ろの修道騎士たちには叶わないということくらい、分かってしまうのだもの!


「……」


 それでも、わたしは覚悟を決めて、懐の短剣を握り締める。

 せめて、一人でも倒すことができれば……御の字かしら?

 彼女らにとっては、わたしを倒すのなんて朝飯前なのだろうけれど、それでも嫌な緊迫感は一気に高まっていくのが分かる。


 そして、そんな一触即発の空気が辺りを満たしきろうとした、そのとき、


 シュッバッ!


 空気の破裂するような音と共に、今までこの場になかった気配がわたしと彼女らの間に出現したのだわ!


「っ!??」


「なっ!?」


 わたしはもちろん、エレム様や周囲の修道騎士たちすらも身動ぎできなくなってしまう。


 闇が支配し始めた刻限に突然現れたその気配の持ち主は……何と妙齢の女性。

 おそらく十六、七くらいの、デビュタントを済まされたくらいの女性だった。


 まるで血のような真紅(いえ、暗いからそう見えるだけかも?)のドレスを纏われ、


「ご機嫌よう、皆様」


 とカーテシーされてご挨拶されるのだ。


「な、何者!?」


 エレム様もかなり警戒されてか、後ろに下がり、修道騎士たちが代わりに前に出てくる。


「騎士様方、貴族令嬢を前に何をされていらっしゃるのでしょうか?」


 カーテシーを終えられた女性は、異常なほど落ち着かれた声で、修道騎士たちに問いかける。

 剣に手をかけている修道騎士たちを前によくそんなことを訊けるものだわ!?


「あなた、キャンベーク街道沿いの貴族令嬢ではないのでしょう?

 ……まさか、あなた、ミスラク王国の影!?」


「影……?」


 影と言えば、王家を守り、王家の情報源とも言われるあの影!?

 今のわたし以上に黒づくめのお姿と伺っていたのだけれど……まさか、このご令嬢のお姿も変装なのかしら?


 少なくとも、わたしに助け舟を出してくださろうとしているのは察して、少しうれしく思うのだけれど、この女性に一体どれほどのお力があるというのかしら?


「もしそうなら……この場から逃がす訳にはいかないわね。

 ほら、すぐに片付けるのよ!」


 エレム様のお声に、エレム様の前に出られていた修道騎士の方、二人が瞬時に剣を抜き、切りかかる!


「「っっ!??」」


「はっ!?」


 今、な、何が起きたの!?


 赤いドレスが残像のように一瞬にして空中を流れ、二人の修道騎士たちは空中に縫い止められたようになった剣を取り落とし、おかしな向きにねじれた指を震わせながら、声にならないような悲鳴を上げる。


「「がっ、がぁぁ」」


「まっ、ま、まさか、素手で!?

 この女、体術を使うのだわ!?」


 驚愕のあまり、エレム様が目を見開き、更に後ろへと下がっていく。


「ボリアック、ナシル、出番よ!

 すぐにこの女を片付けなさい」


「「はっ」」


 今度はフルアーマーではなく、皮のベストアーマーをした体格のいい男たちが二人出てくる。

 きっとこの女性に対抗するため、体術を使える者を出してきたのだわ!


 ダメ、体術となると体格が違い過ぎるのだわ!


「こんな小娘、俺の蹴りで一発でさあっ」


 おそらく、ボリアックと呼ばれた方の男だと思う。

 その男が女性を蹴り飛ばそうと、筋肉隆々の太い脚を勢いよく振るう!

 何てことなの!?

 あの女性の体重じゃ、絶対簡単に飛ばされてしまう……なのに、なんで受け止めようと細い両腕をクロスして出されているの!?


「っ!」


 わたしが思わず目を瞑りそうになった、次の瞬間、


 バアン!


 と肉が石柱にでも体当たりでもしたかのような音が響き……女性は身動ぎ一つせず、その男の蹴りを受け止めていた。


「は……?」


 いや、逆に身動ぎ一つしない女性の腕に右脚をぶつけに行ったボリアックという男は逆に弾かれたかのように(後ろに)転がっていき……明らかに骨折しているらしい脚を抱えて、野太い悲鳴を上げ始めたの!?


「ぎゃあああ、俺の脚が、脚がぁぁ」


 あまりにもあり得ない光景に、わたしが言葉を失っていると、また女性はクロスしていた腕を下ろして、何か唱えられると、


「っ!??」


 一瞬にして、エレム様の背後に立ち、エレム様の両肩を両手で押さえられていたの!?


「ふぅ、偽の聖女様たちの手がかりを少しでも探そうと思いましたが、ビンゴでしたわ」


「あ、あ、あ、あなたは……!?」


「投降してくださいませ。

 さもなければ……どうなるか、お分かりいただけますでしょう?」


 この暗がりの中でも、エレム様が怯え震えられているのが分かるの!

 す、すご過ぎるのだわ!

 これが王家の影の方のお力?

 女性の影で、これほどのお力の方がいらっしゃるだなんて!


 エレム様が捉えられたことで、次々と武器を放棄していく修道騎士たち。


 わたしはこの女性、いえ、このお方によって、自分の命が救われたのだということを実感しながら、憧れの眼差しで見詰めてしまうのだった。

いずれは出てくる予定だった、ゴーテ辺境伯令嬢視点です。

唐突に来ましたね、、、


はい、前話で多嶋さんから偽聖女見習いを何とかするように言われたことで、悪役令嬢メリユはこそっと部屋を抜け出し、早速ワールドタイムインスタンスを弄って、実質超加速とか何かをやらやらかしてしまったようです、、、

あとは管理者権限で物理無効もやっているみたいです(?)

メリユが空気を読めていないようで申し訳ございません、、、(もはや乙女ゲーじゃない)


ちなみに、王城で地図を拝借したときに、メリユ=ファウレーナはゴーテ辺境伯領までの距離も測っていたりするのですよね。

それで適当に飛んできたはずなのですが、本当にビンゴで、一発で正解を引き当てたようで、本当にラッキーでした(!?)

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