第80話 悪役令嬢、ハラウェイン伯爵令嬢のベッドで休みながら多嶋さんと話をする
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、第一王女とハラウェイン伯爵令嬢が湯浴みで離れている間に、多嶋さんと話をします(!?)
うん……なんか雰囲気に流されるまま、メグウィン殿下、ハードリーちゃんと更に親密になってしまったような気がするんだが。
え、何これ、よかったの?
わたしは、メグウィン殿下とハードリーちゃんが休息の(準備の)ため、立ち去った夕方のハラウェイン伯爵領城の一室で茫然となっていた。
最後に少し話をした感じだと、このお部屋はハードリーちゃんのお部屋で、今横になっているのはハードリーちゃんのベッドであるらしい。
何でも日当たりの良さでは、賓客用の部屋よりハードリーちゃんのお部屋の方がよかったから、ここに決めたってこと。
で、賓客用のベッドを運び込む時間的余裕もなかったことから、シーツとかを変えて、メリユをここに寝かせたんだって!
はあ、ハスハス、ハードリーちゃんのいい匂いがしそうって……リアルじゃ自分のベッドじゃねーか!?
「……にしても、とんでも展開が続くなあ」
本編のヒロインちゃんだって、メグウィン殿下、ハードリーちゃんと仲良くなるのに半月くらいかかっていた気がするんだが。
いや……気がするんじゃなく、実際かかっていたよね。
たった二日でハードリーちゃんにまで抱き付かれる関係性にまで発展……。
すげぇ、メリユスピンオフすげぇ!
VRテスト版だから、シナリオ端折っているのかもしれんけど、マジ神展開のオンパレードだわ!
テスターがわたし一人とか、マジもったいな過ぎるんだが!
「はあ、できないのは分かってるけど、マジ布教したい!!」
前にも思ったけれど、これビデオキャプチャしてツベに載せたい。
もしできたなら、エターナルカーム信者どもがこぞって押し寄せ、ループ再生し捲るであろうよな!
メリユスピンオフだから、本編シナリオとのリンクが切れかかっているところはあるけれど、幼い頃のメインキャラが超絶ハイクオリティーモデリングで3D化され、AIによって人間のように振る舞ってるのよ!
メグウィン殿下やハードリーちゃんを前にすると、会話に意識集中し過ぎて余裕なくなっちゃうけれど、ビデオで後から見られたなら、3Dアニメ化並みのインパクトあるわよね!
「まあ、わたしがメリユを操っているというのに不満抱く信者連中が大量発生しそうではあるけれどもなあ」
コメント欄がわたしへの非難で溢れ返ったらどうするべ!?
まあ、ビデオキャプチャできてもツベにアップすることはないんで、無用な心配か。
「はあ」
さて、多嶋さんにはフィードバックというより言いたいことあり捲りな訳なのだが、どうするか?
ポーズするためのメニューを出そうとしても出ねーしなあ、これ。
弟君じゃないけれど、アルファ版にしたって不完全過ぎる!
幸い、この展開だと(このまま)夜になったら、『今夜はゆっくり休みます』に持ち込んで、何とかなるのかもしれんけど、メリユの体温急降下と時間自動進行・スキップのタイミングがまるで読めないのが困る。
実時間進行モードに入っているときは、メリユの体温が戻っていたということ?
いや、違うな。
メリユの体温が戻っていた時間、結構長かったみたいに言っていたし、HMD電源オフ連動でメリユアバターの一時非アクティブ化によって体温が急低下してるってこと?
うん、そっちの方があり得そうなかなあ?
「メリユ様?」
いけね、ハナンさんが部屋に残っているんだった!
わたしは布団に潜り込むと、何でもないと軽く首を振り、
「いえ、少し考え事を」
「そうでございますか?
お夕食前に一度医師の診察を受けていただき、その後、少しばかりスープをご用意いたしたく存じます。
どうかそれまでゆっくりお休みくださいませ」
「はい、ありがとう存じます」
わたしは一言礼を言って、隣にあるベッドをチラリと見詰める。
……メグウィン殿下とハードリーちゃん、湯浴みを済ませたら、ここでお休み、するってことでいいのよね?
キャーッ、またお泊り会きちゃーっ!
って、待て待て、こっちはまだ実質病人ってことになっているんだから、そうもいかんよね。
多分、カーレ殿下たちがハラウェイン伯爵領に追い付くまで、領城でお泊りさせてもらうんだから、今日、明日くらいは病人として大人しくしておこう。
「ん」
今ピロンって音が。
PC版Li-neか?
これは……多嶋さん!?
えっと、お夕食までお休みしてるってことになってるから、HMD外しても大丈夫か?
わたしはそっとHMDを外して、ノートパソコンの画面を見詰めるのだ。
「うげっ、リアルの時間、零時回ってる……で、何だろ?」
いや、まあわたしの方から訊きたいことは山積みになっているんだが。
『やあ、お疲れ様、ファウレーナさん。
ちょっと気になったことがあったんで、連絡させてもらったよ』
『何でしょうか?』
『馬鹿でかいクリッパーインスタンスが残っていたんで、管理者権限で消させてもらったよ。
別に再利用なんてしないでしょ、あれ?』
うげっ、そっちか!?
確かに『土砂ダム』と溜まった泥水を丸ごとクリップしたまま放置していたんだったわ。
そりゃ、あんなでかいインスタンス残したままなら気になるわよね。
『すみません、デリートし忘れていました』
これはもう、普通に謝るしかないわ。
すんませんっしたー!
『いやいや、こちらの意図通り、ハラウェイン伯爵領を救ってくれてありがとう。
この調子でこれからも頼むね』
……んんん?
『意図通り』『ハラウェイン伯爵領を救ってくれてありがとう』
これは、わたしがほぼベースシナリオ通りに動いたから褒められたってことでいいのかしらん?
しっかし、普通のアルファ版テスター業務と全然違うんだよなあ、これ。
『あの、AI自動生成のNPCの反応に違和感はまるでないんですが、バグレポートみたいの必要なんでしょうか?』
『いんや、いつものバグレポート形式ではなくて、思ったままのことをLi-neかZooomで報告してくれたらいいよ?』
『分かりました』
おかしいな?
いや、そりゃね、AI生成の自動反応なんて、訓練データ不足か、もしくは訓練データがもろに出過ぎて、元キャラが向こうに透けて見えるとかならまあありそうだけれど、ネットワークモデルの問題とかもない訳じゃないでしょ?
バグレポートなしってちょっと違和感が。
まあ、今のところ、文句のない出来なんだけどさー。
『それにしても、ファウレーナさんも役者だね。
ライターさんが感心していたよ、あれ、完全にアドリブで対応しているでしょ?』
マジっすか!?
シナリオライターさんに感心してもらえるとか、わたし、すごくない!?
『はい、大変恐縮です』
いや、Li-neじゃ、んなこと書かないけどね。
『はは、ファウレーナさんは多才だね。
ライターさんのお手伝いなんかもできそうなんじゃない?』
おおお、分岐シナリオの整理とかチェックとかでも全然okですぞ!
何なりとお申し付けくださいな!
『どうもありがとうございます。
もしわたしにできそうなことがあれば、ぜひお申し付けください』
『うん、そのときはよろしく頼むね。
はは、まさか、メグウィン第一王女、ハードリー伯爵令嬢とあれほど仲良くなってしまうとは予想外だったよ。
まさにファウレーナさんシナリオって感じで、楽しませてもらってる』
……多嶋さん、どこまでゲーム進行状態知ってんの!?
まさか、わたしの行動、会話ログデータ全部チェックしてるんじゃないわよね!?
『いやー、わざと意識不明状態を作り出して、NPCたちをハラハラさせたりとか、緩急付けた展開に持ち込んだところはなかなかよかったよ』
ひぇっ!?
すんません、敢えてああいうことにしたのではなくて、弟君のせいでああなってしまったんです。
せっかく感心してくださっているみたいなんで、言わんけれども。
って、いや、今はそんなことを気にしている場合ではないわ。
ゲームのポーズができないと下手すると今夜眠れないかもしれないんだもの!
『あ、ありがとうございます。
ところで大事なことをお尋ねしたいんですが、よろしいでしょうか?』
『畏まってどうしたんだい、ファウレーナさん?』
『ゲームのポーズといいますか、セーブメニューが出てこないんですが、どうやってゲームから抜けばいいのでしょうか?』
『うん?
ファウレーナさんも、ワールドタイムインスタンスを“GetProperty”で調べていたよね?
リファレンス見れば分かると思うけれど、あれで時間の進行遅らせたり、止めたらいいじゃない?』
あれか!
マジで現時間確認にしか使っていなかったわ……。
なんでリファレンス調べなかったし!!
『まあ、睡眠時間帯とかは、ベースシナリオに従ってAIが自動進行でスキップさせることもあるけど、それ以外は、基本ワールドタイムインスタンス弄ってもらっていいよ』
いやね、そりゃ、管理者権限持ちなんだけど、ゲームサーバ内の時間進行遅らせるとかいうチート使えるとかマジ思わなかったわ!
というか、一応元ノベルゲーなんだから、セーブポイントくらい作っておこうよ!
『わ、分かりました。
調べて使ってみます』
『ああ、あとね、リファレンスには載せてなかったけれど、“AddObserver”でNPCのアクター登録すれば、管理者アバターと同じ時間進行で動かすこともできるからね』
『は、はい』
……今何気にすごいことを聞いてしまったような気がするんだが。
マジか、実質『時間魔法』使えて、好きなNPCも巻き込めるんだ。
え、つまりは何かのときにやっちゃっていいってこと?
『取り合えず、伯爵夫人の件と、例の偽者聖女見習いの件、お願いね。
まあ、ファウレーナさんのことだから、分かってくれているとは思うけれど』
っ!
危ねーっ、メグウィン殿下、ハードリーちゃんたちとの関係進展に舞い上がって忘れかけてたわ!
クソ、何気にクエストみたいの、あるんじゃん、このゲーム。
『分かりました』
わたしは冷や汗を掻きながら、了承しておく。
いやあ、ビデオありのZooom会議でなくてよかった。
『じゃあ、後はよろしくね』
あれっ、まだちょって待ってよ、多嶋さん。
訊きたいことはまだたくさんあって、むむぅ!
『あの、一応確認ですけれど、NPCってこちらの演技っていいますか、声の抑揚にも反応してますか?』
『ああ、もちろんしているよ?
失念していたけれど、ファウレーナさん、今度ちょい役でいいなら、声優もやってみたいかい?』
『AI生成音声があれほどリアルででもですか?』
そこなのよね。
写真風、イラスト風のキャラ、背景、キャラの動き、音声までAIで自動生成できる時代。
もちろん、人気絵師さんのスチルや人気声優さんのアフレコは、今でもゲーム人気を左右するものだけれど、正直このエターナルカームVR版は、AIパワーを見せ付けるという意味で危険な水域に入っているものと思ってしまう。
あ、そっか……公開中止になった理由に、それもあるのかも?
『もちろんだとも。
ファウレーナさんの血の通った演技はなかなかのものだったよ。
じゃあ、お休み』
『お休みなさい』
うん、なんかすごいことを色々言われた気がする。
シナリオライターさんの手伝い?
(ちょい役であっても)ゲーム声優?
もしかして、このエターナルカームVR版で、わたし、色々試されていたりするんだろうか?
わたしはそんなことを思ってしまって、寝る前にも関わらず、湧き上がる高揚感を止められなくなってしまうのだった。
ワールドタイムインスタンス、何気に伏線が……ってことで、またファウレーナさん、やらかしてくれそうですね。




