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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第78話 シナリオクラッシャー悪役令嬢、ハラウェイン伯爵令嬢を号泣させる(!?)

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

二日ぶりに昏睡状態から目覚めた悪役令嬢は、ハラウェイン伯爵令嬢を号泣させてしまいます(!?)

 うへ~、お夕飯食べてる間、お母様にみっちりと叱られたんだが。

 そりゃあ、お夕飯すっぽかしてゲームやり続けたのはわたしも悪かったとは思うけれど、わたしだって、一応お仕事=バイトとしてテスターやっている訳だし、遊びみたいに言われるのは納得がいかないわよ!


 にしても、ポーズできなかったあのゲーム、どうなっちゃってるんだろう?


 HМDの電源は弟君に切られちゃったし、コンソールで最低限の後始末はしておいたとはいえ、メリユアバターは放置状態になっている訳なのよね。

 AIの行動自動補完でどうにかなるものでもないだろうしなあ、もしかして、メリユ、絶賛気絶中だったりするんだろうか?

 いや、管理者アバターを一定時間放置することで、ゲームオーバーになって最初からやり直しとかっていうのもあり得る?


 うぅ、せっかく、メグウィン殿下とかカーレ殿下の好感度、上がり捲ってたっていうのに、ここでリセットとかなったら立ち直れないよー。


「はあ……」


 しっかし、シリンダークリッパーでの“Clipping”、マジ鳥肌ものだったなあ。

 いくらVR版だからと言っても、どう考えても、乙女ゲーに普通実装される機能じゃなかったわよね?


 うーん、弟君のせいで、微妙なタイミングでゲーム世界から離脱しちゃった訳なんだけど、(ゲームオーバーになっていなかった場合)あの大爆縮で怪我人とか出たりしてないよね?


 まあ、キューブバリア張ってたんで、大丈夫だとは思うけれど、夕飯前に解除しちゃったんだよなあ。

 まさか、キューブバリア解除直後に倒木がみんなを襲っていたりとかしてないか、すっごい不安。

 嫌な想像ばっか、浮かんできてキツイぞな。


「コンソールチェックっと」


 うん?

 んー……、これは、ゲームオーバーにはなってない、か?


 気になるのは、経過時間なんだけれど、今ゲーム内時間どうなってる?


 “vrTime”のワールドタイムインスタンスの状態を調べてみる。

 時折、睡眠時間とかは自動進行で一気に時間が進んじゃったりするからなあ、このゲーム。


「……はっ!?」


 ぃ、いや、待って?

 わたし、食事で席外してた時間って、お母様のお説教があったとはいえ、たったの三十分くらいよね?


 ……ゲーム内時間、大爆縮発生から丸二日経っているんだが。


 しかも、今はなぜか実時間進行モードに戻ってるぽいし!

 マジでこの三十分の間に何あったし!?

 そりゃ、大爆縮をやらかした日の夜時間帯がスキップというか、自動進行するのは納得できるけどさあ、なぜ翌々日の午後になっとるんじゃ、これ!?


「オーマイガーッ!」


 わたしは嫌な汗がまたも噴き出てくるのを感じながら、HМDの電源ボタンを入れて被る。

 ゲームオーバーになっていないんなら、絶対メグウィン殿下とかハナンさんたちに滅茶苦茶心配かけちゃってるよね?

 うぅ、ゲーム世界に戻ったら、そっちはそっちですごく叱られそうな予感があるんだが。


『"Pose Error - Change your HMD pose to the initial pose as guided"』


 うん?

 初めて見るエラーがHМDに表示されてる?


 ポーズ、姿勢エラー?


 初期姿勢が合っていないんで、ガイドに従って姿勢変更しろよってこと?

 確かに、こう姿勢を変えろって指示はグラフィカルに出てるんだけれど、これってつまり横になれってこと?


「あー、こりゃ、意識不明で寝込んでるパターンですわ……」


 まあ、そりゃそうよねー。

 プレイヤーいないんだもん!

 アバターもそりゃぶっ倒れてますわ!


 こりゃ、起きた途端、マジお説教モード突入確定なのでは?


 今お母様にお説教され捲ったところなんで、容易に想像付いちまうぞな。

 ぐぬぅ、覚悟の上でベッドに寝転がりますか。

 もうこうなったら『疲れたんで今夜は休ませてください』って休養展開に持ち込んじまうかなあ。


「う……消化できてねー……」


 やっぱ、すぐ寝るのは無理じゃね?


 お夕飯食べてまだ十分ちょいくらいだしなあ。

 というか、汗が酷いので、ポーズできる状態になったらシャワーも浴びたい。

 弟君が今お風呂入っている訳なんだけれど、うーん、一時間くらいきりのいいところまでゲームして、どうしてもポーズできなかったら、多嶋さんに連絡して止めてもらうか、これ?

 午前一時くらいまでなら、基本多嶋さん反応してくれるしなー。


「はあ」


 わたしはもぞもぞとベッドに入り込むと、HМDに表示されるガイドグラフィックに合わせて横たわる。

 ふむ、枕の上に頭のせたら、ちょうどな姿勢で、エラー消えたよ!


 さて、どんなシーンからゲーム再開されるのかは分からんのだけれど、お説教の覚悟だけはしておこう。


『“Connecting to Server - Please wait”』


 ゲームサーバへの接続中。


 間もなくHМDの有機ELパネルは真っ暗になり……うん、瞼を開いていくようなエフェクトが!

 うん?

 ゲーム内時間の一昨日の朝って、こんな感じだったっけ?

 微妙にアップデートされているような?


 というか、知らない天じょ……ううん、知らないベッド天蓋だ。


 どこの寝室?

 誰のベッド?

 王城でメグウィン殿下のお部屋でお泊りしたときのそれではないし、もしかしてハラウェイン伯爵領城のお部屋のベッド?


「っ」


 すぐ傍で誰の息を呑む呼吸音が微かに聞こえる。


 ついでに、カサッっていうシーツの擦れる音はリアルの(わたしが寝ているベッドの)シーツか、それとも、ゲームの仮想世界のベッドのシーツの方か?

 そんなどうでもいいことを考えながら、わたしはゆっくりとその呼吸音がした方に頭を向ける。


「メッ、メリッ……」


 HMDに有機ELパネルに大きく映し出されるのは、ベッド傍でわたしを覗き込む……ハードリーちゃん!?


 あのモスグリーンのドレスから少し質素な感じのスカイブルーのドレスに着替え、髪型こそあの三つ編みシニヨンのままだったけれど、その髪は少し乱れ気味で……何より、あのかわいらしいお顔は少し浮腫みがあって、目元には目クマまで出来てる!?


 そんなハードリーちゃんが信じられないとばかり、目を見開き、次の瞬間には、顔をくしゃりと歪ませ、涙をポロポロと零し始めるんだ!!


「よかった……わ、わたし、メリユ様がっ、ぐすっ、もう、お目覚めになられないんじゃ、ぐすっ、ないかって」


 ガチ泣きやん!?

 マジで何があったし!

 ……って、わたし=メリユが二日間意識不明になってた、のか?


 で、それで、ハードリーちゃんがガチ泣きする要素あったっけ?


 わたし、滅茶苦茶敵視されてたと思ったんだけど?

 悪役令嬢メリユがそうなったところで、因果応報っていうか、『ざまあ』ってなるところなんじゃね?


「ハードリー様、どうかされましたか?」


 わたしは(少し困惑しつつも)寝起き(?)らしく、大人しめの声で優しくハードリーちゃんに尋ねてみる。


「メリ、メリユ、様、わたしっ、わたし、うあああん」


 えぇぇぇ、ハードリーちゃん、号泣されちゃってるじゃないのよ!?


 いや、ちょい待ち、どうしてハードリーちゃん、わたしのこと、『メリユ様』呼びになってんの!?


 さっき(ゲーム内では二日前)まで、すっごく余所余所しい感じに呼ばれてたと思うんだけどなー。

 わたしは訳が分からないながらも、タッチコントローラーでメリユの手を動かして、ハードリーちゃんの方へと伸ばす。


 すると、両手でバッとわたしの左手を握り締め、そのままご自身の右頬へと擦り付けるんだ!?


「メリユ様ぁ、メリユ様ぁ、うあああん」


 ???

 ハードリーちゃん、いい子だから、悪役令嬢メリユであっても、二日間意識不明なんてことになっていたのに心を痛めてくれたってことなのかなー?


 もしそうなら、いい子過ぎ!


「そんなに泣かないでくださいませ、ハードリー様」


「だって、わたし、ぐすっ、ものすごく怖くて、ぐすっ、もしメリユ様にっ、何もお伝えできないままっ、ぐすっ、メリユ様が……うあああん」


 メリユ様が……?

 んん、何て言おうとしたんだろう、ハードリーちゃん。

 わたしがゲームオーバーになったとしても、ハードリーちゃんが悲しむようなことなんて何もないはずよね?


「ハードリー様?」


「ぐすっ、はあ、はあ、メリユ様、ごめんなさい!

 わたしは、何とお詫び、ぐすっ、申し上げたら、いいのか!

 こ、こんなにっ、なられる、までっ、ぐすっ、全てのお力をっ、出し尽くされて、我が領をお救い、くださったのに、わたしは、わたしはっ」


 いやいやいや、それはわたしじゃない(ってことになってるから)

 気にしなくていいことなのよ?


「ハードリー様、それはわたしのことではございませんから。

 どうぞここにはいらっしゃらない、その、年上の聖女様に、お伝えくださいませ」


 わたしがそう(できるだけ)優しく伝えてみると、ハードリーちゃんは、顔を全力で左右に振って、嗚咽までし始めてしまう!?


「本当に、メリユ様は、いえ、猊下は、そういうお方、ぐすっ、なのですね?」


「はい?」


「わたしは、ぐすっ、見てしまったんです!

 猊下が、今の、本当のお姿に、メリユ様にお戻りになられるところを」


 ……はい!?

 あれか、弟君にHMDの電源長押しで切れられちゃった後のコンソール作業で、アバターデータを戻したときのあれをハードリーちゃん、目撃しちゃったのか!?


「猊下にお怪我を、負わせてしまった上、ぐすっ、こ、こんな、猊下の秘密を暴くような真似、ぐすっ、決して許されないということは、うぅ、分かって、おります!

 きっと、ぐすっ、神から神罰が、ぐすっ、くだされる、ことでしょう。

 ですが、わ、わたしは、そのときまで、でも、ぐすっ、猊下のお傍で償いを、させていただきたく」


 いやいやいやいや、何言っちゃってるのよ、ハードリーちゃん。

 神罰とかそんなものある訳がないから!

 それに、ハードリーちゃんにまで『猊下』呼びわりされるとか、マジ落ち着かないから!


「ハードリー様、償いなんてものは必要ございませんわ」


「やっぱり、うぅ、殿下の、おっしゃっておられた、通り、ぐすっ、そうおっしゃってくださるんですね!

 ですが、わたしは、ぐすっ、自分を許すことが、うぅ、できないんです。

 もし猊下と、神がお赦しくださったとしても、ぐすっ、わたしはセラム聖国の修道院に、入って、償いをする所存です!」


 いやいやいやいやいや、何超とんでも展開きちゃってんの!?

 本編=学院編前にハードリーちゃんが修道院行きとかになっちゃったら、本編シナリオ破綻しちゃうしさ、このままじゃ、多嶋さんに本編クラッシャーメリユだとか、シナリオクラッシャーファウレーナとか呼ばれちゃうよう!!


「それでは、ハードリー様に『償い』を要求させていただいてもよろしいでしょうか?」


 ここはもうシナリオクラッシュ回避、最優先でしょ?


「はいっ、ぐすっ、何なりとおっしゃってくださいまし」


 頬には幾筋もの涙の跡。

 そして、今も増え、伝い落ちていく涙の滴。

 かわらしい鼻の下からもいよいよ鼻水が垂れ始めている、ゲーム本編では見たこともないようなハードリーちゃん。


「どうか、これからも領民の方々に寄り添うようなお心のお優しいハードリー様のままでいらっしゃってくださいませ。

 そして、ハードリー様ご自身が幸福であったと胸の張れるご人生を送ってくださいませ。

 それが、わたしの要求する『償い』でございます」


「そ、そんなの、『償い』じゃ、うぅ、メリユ様あぁ」


 目元が震え、目を細められ、ハードリーちゃんの目から大量の涙が零れ落ちていく。

 そして、両腕を広げたハードリーちゃんが、抱き付いてくる!??


 えっ、はっ、何が起きてんのよぉ!?


「うああああん」


 わたし、グワシッてな感じで、腕まで回されて、ハードリーちゃんにマジ抱擁されちまっているんだが。

 見てよ、すぐそこに、三つ編みシニヨンしてるハードリーちゃんの側頭部があって………ほら、ハードリーちゃん、付きっ切りで看病してくれていたのか、ちょい乱れかけてる感のある髪が、すごいリアル!


 ………いや、待て、今何気に超絶神展開来てね?


 ああああ、お姉さん、どうにかなってしまいそうですわー!!


「っ!」


 ……ん?

 今扉がカチャって開いたような音が?


「メ、メリユ様、ウソっ、メリユ様がお目覚めにっ、うぅ、うあああ、メリユ様あ!」


 このお声はメグウィン殿下!?

 ハードリーちゃんの側頭部の向こうにぎり見えるのは……うわああ、発射された弾丸のように飛び込んでくるメグウィン殿下じゃないですかあ!


 ベッドを回り込んで……うあああ、すごい勢いで突っ込んできてるぅ!?


 リアルに物理でぶつかって来られる訳じゃないと分かっていても、危ない危ないよぉ!?

 わたしは思わず目を瞑って、メグウィン殿下の『抱き付き』に備えてしまったのだった……どうなった!?

※休日ストック分の平日更新です。


これは……メグウィン殿下に続いて、ハードリーちゃんも落ちちゃったでしょうか?(茫然)


今回のお話では、メグウィン殿下の扱いが……少し酷く見えてしまいますが、こう見えて、メグウィン殿下は悪役令嬢メリユの王都への搬送準備をしていて離れていたんです。

どうにもタイミングが悪かったですね、、、


あと、二日間昏睡状態にあった弱ったメリユに突撃するのはさすがにどうかと思いますが、当然次回までに二人ともハナンから叱られることになります、、、

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