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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第63話 悪役令嬢、送り屋業務を完遂する(!?)

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、専属護衛隊と第一王女をハラウェイン伯爵領に送り届ける仕事を完遂します。

 “Translate”コマンドを使えば、NPCアクターも管理者権限アバターも、他の一般オブジェクトも全て相対位置指定で移動させることができるんだけれど、まさか悪役令嬢であるわたし=管理者権限アバターが護衛隊の皆さんの送り屋に徹する羽目になるとは思いもしなかったわ。

 まあ、大半の近衛騎士さんたちは、ハラウェイン伯爵領に着いた途端、大袈裟に喜んでくれていたようだから、まあ良しとするか。

 護衛対象であるはずのわたしに運ばれることに、カーディア様がやけに申し訳なさそうにしていたのは、それはそれで印象に残っているけれどね。


 バシュッ!


「ふぅ」


「「聖女猊下、お疲れ様でございますっ」」


 練兵場に戻ってきたわたしの両側には、フルアーマー女性騎士のエルさんとカーラさん。

 万が一の場合に暴れ馬からわたしを護るためということで張り付いてくださったんだけれど、よく訓練された軍馬だけにトラブルは一回もなく送り屋業務も終えられそうだ。


 ちなみに、なんかユリユリなシチュエーションにドキドキしてしまったのは内緒だ。


 最初は必死さのあったお二人だけれど、回数を重ねる内に慣れてこられたようで、移動が完了すると、キャイキャイできるだけの余裕も出てきたようだ。

 お話を聞いていた感じでは、お二人は、王妃陛下の護衛の女性騎士としては最若手なのだそう。

 だから、女子高校生・女子大生的な元気さ、活発さが感じられるのかもしれない。


「いよいよ最後でございますねっ」


「はあ、最初は瞬間転移に怖さも覚えていたのですけれど、今は、一瞬で違う景色の場所に飛べるこの感覚がクセになってきそうです」


「ええ、ハラウェイン伯爵領に飛んだ途端、王都より澄んでいて、少しばかり寒さの残った空気が身体を包んで、本当に転移したんだって実感が湧くのですもの!

 普段の騎乗の移動ですと気付けないことも多くて、とても新鮮でございました!」


「それは何よりでございます」


 ……おおう、NPCキャラのはずなのに、なんかお姉さん眩しいぜ。


 っと、馬車からハナンさん、セメラさんと、メグウィン殿下が下りてこられる!?

 ああ、ハナンさん、セメラさんがメグウィン殿下の降車を手助け、エスコート(?)しようとしているのか?

 こうやって見ていると、メグウィン殿下って本物のお姫様なんだなあと思ってしまう。


 ちなみに、こういう動作パターンって、どうやってAIに覚え込ませているんだろうか?

 多嶋さんには訊きたいことが増えていくばっかりだ。


「メリユ様っ」


 うん?

 なぜにまたメグウィン殿下の目が真っ赤に、目の周りが腫れぼったくなってらっしゃるの!?

 わたしが(?)マークを浮かべている間にも、メグウィン殿下はわたしに抱き付いて来られる!!


「わ」


「申し訳ございません、メリユ様。

 わたし、メリユ様がお怪我をされるのではないかと心配で心配で、気が気でなくて」


 現実なら、すごくいい匂いがしていそう……。


「大丈夫でございますわ。

 この通り、護衛のお二人のおかげで、怪我一つしておりませんもの」


「ですが……お力をかなりお使いになられたのでは!?」


 う、身体を少し離されこそすれ、顔と顔が近い近い!

 そんなにご心配いただく必要なんてありませんから。

 そもそも、管理者権限でスクリプトをゲームエンジンに介入実行させてるだけだから、メリユというアバターの何かパラメータが減衰するようなこともあり得ないしね。

 せいぜい、単純作業の繰り返しで、わたしの精神が若干擦り減ったくらいかしらん?


「ご安心くださいませ、これくらい大したことではございませんから」


 そうそ、別のゲームのアルファ版テスターで必死にバグ探ししてたときに比べれば、本当に大したことないし!


「そ、それならば、いいのですけれど……」


「はい、ですから、わたしたちもハラウェイン伯爵領に向かいましょう」


 (声をかけ損なった感のある)女性騎士のお二人からものすごく生暖かい眼差しをいただいているような気が。


「お帰りなさいませ、メリユ様。

 専属護衛隊をお送りいただき、心より感謝申し上げます!

 殿下、また後ほどお化粧の方、直させていただきますね」


 おおう……ハナンさん、少しばかりお怒りモード?

 まあ、今日はせっかく前髪上げたのに、また泣かれちゃって、お化粧直しってことになっちゃって、正直頭痛いんだろうな。


 でも、目元のそんな表現までホントによくモデリングされているよね、このゲーム。


 って、ビデオキャプチャツール実装できてねー!!

 普通にこの光景をキャプチャして、ゲーム会社公式SNSから発信すれば、相当にバズりそうなもんだが。

 エターナルカーム信者のわたしが言うんだ、間違いない!


 くっ、何でもいいからキャプチャツール実装の時間をくれ、多嶋さん!


 わたしは本気で多嶋さんにLi-neで連絡しようかと悩むのだった。






 さて、送り屋最後の業務は、メグウィン殿下の馬車をハラウェイン伯爵領に送り届けることだ。

 (いや、そろそろ本気でこれ何のゲームなんだっけとか思ってしまうわ)

 王家の二頭立て馬車は、御者が昨日もお世話になった筋肉ダル……いや、ボウンさん。

 六人乗り馬車内は、メグウィン殿下の両側にセメラさん、ハナンさん。

 わたしの両側にエルさんとカーラさん。

 エルさん、カーラさんとも大分打ち解けてきたような気がするので、こう顔馴染みでホッとするというか、何というか。

 何せ、さっきまでまだ顔も覚えていない体格の良い近衛騎士様たちを何十人も送還(?)していた訳でね、安心感が違うのよ。


「?」


 んん?

 ハナンさんとセメラさんが若干緊張されているのは……ああ、“Translate”コマンドの移動が初めてだからか!

 御者席のボウンさんはどうか知らんけれど、そりゃ、顔が強張るのも分かりますわ。


「ハナン様、セメラさん、そうご緊張なさることはございませんよ。

 瞬間転移は、それはもう素敵な体験ですから!」


 少し調子に乗っているらしいエルさんが微妙に先輩風を吹かせている。

 ハナンさんだけ『様』付けってことは……貴族的にハナンさんの方が高位なのか、職場の立場的に上なのか?


「そうよ、ハナン。

 わたしなんてハラウェイン伯爵領の山々よりずっと上の星空に瞬間移動したのですもの」


「そ、そんなこと伺っておりません!

 メリユ様、そうだったのでございますか!?」


 おおう、こっちにも流れ弾が!?

 マウント取りたがっているメグウィン殿下というのも貴重なのだけれど、巻き添えにしないで欲しいですぅ。


「……わたしにとりましては、大地の上も空の上も同じでございますので、ご安心くださいませ」


「た、確かに、メリユ様は空をお飛びにもなられるのですから、そうなのでございましょうね。

 大変失礼いたしました」


 ハナンさんがハッとしたかのように謝罪される。

 そうも申し訳なさそうにされるとこっちも困ってしまいますぜ。

 って!?


「聖女猊下っ、お空もお飛びになられるのですか!?」


「は、はい、普通に飛ぶことは可能です」


「ほぁ」


 ……エルさん、滅茶苦茶食い付きいいな。

 ああ、元々王妃陛下の護衛だったから、あの後のこと、伝わっていないのか。

 天使形態、またどっかで使うことあるのかなあ?


 いけね、そういやアバターデータの一覧まだ作ってねーや。


「そうよ、エル。

 メリユ様は使徒様のお翼を背中に生やされて、お飛びになられるの!」


 元気が戻ってきたご様子のメグウィン殿下がエルさんに誇らしげに語っておられる。


「使徒様のお翼っ!?

 猊下っ、機会がございましたら、ぜ、ぜひ拝見させていただきたいですっ」


 エルさんだけでなく、カーラさんまで目がキラッキラ。

 うぅ、天使形態アバターってそんなに良いものなのかしらん?


「そうでしょうそうでしょう。

 一度拝見すれば、感激のあまり、拝みたくなってしまいますもの!」


 ぉ、拝むだけは勘弁してくださいませ、メグウィン殿下。

 セメラさん、どれだけ激しく頷いていらっしゃるんですか!?

 ってか、そろそろ移動しませんとね?


「ふぅ、さて、皆様、そろそろハラウェイン伯爵領に向かおうと存じますが、よろしいでしょうか?」


「「「はい」」」


「は、はい、よろしくお願いいたします」


 まあ、ちょっと今回は対象が多いんだよなあ。

 リストでアクターID、オブジェクトIDを確認してから飛ぶか。

 正直、わたしが馬車に乗っていると、馬とか、御者席辺りが接触中ID認定されているか自信がない。

 一応、漏れが出ないように接触中IDに接触しているアクターIDも範囲に含むように改良したはずだけれど。


「“Show console”」


 馬車内のわたしの膝上に青く半透明なコンソールが出現する。

 エルさんが目を見開いて、ぐいぐいと覗き込んでくるのが分かる。

 やっぱり若いだけあって好奇心が強い子なのかな?


「“Check id list for contacting objects”」


 うーん、十六進表記のIDだから、マジでどれが何だかさっぱり分からん。

 触れたIDのオブジェクトを発光エフェクトかけられるようにしておいてよかった。


「今から移動対象の確認をいたしますので、皆様ご自身のお身体が光るかと存じます。

 特にお身体への影響はございませんので、ご安心くださいませ」


「もし光らなかったら、置いていかれるということですか?」


 エルさん、すごく積極的だな。


「ええ、そうならないようにするための確認ですわ」


「ほぁ」


「それでは、最初の方から……」


「わっ!!」


 わたしの膝上のコンソールを真剣に覗き込んでいたエルさんの身体が淡く発光する。

 発光エフェクトは、わたしの天使の翼と同じものの流用なんだけれどねー。

 にしても、最初から当たりを引くとは、エルさん、クジ運いいのかも。


「すごい、わたしの身体が光っています!

 綺麗……」


「まるで、使徒様のお姿でいらっしゃるときのメリユ様みたいですわ」


「エル、羨ましいです」


 馬車内はうら若い女子、女性ばかりだけというのもあって、ホントに賑やか。

 でも、ホントにこんな彼女らの反応もAIが自動生成しているのよね?

 あまりにも……そう、自然過ぎて、逆に違和感すら覚えてしまいそう。


「では、次の方」


「ぜひぜひ次はわたしを」


「わあ」


 異常に馬車内が盛り上がる中、次のIDをタッチしてみると……


「うおああ!??」


 御者席で野太い悲鳴が上げる。

 どうやらボウンさんだったようだ。

 ……うん、御者席でも対象に含まれててよかった。でも、ごめん。


「えー、ボウンさん!?」


「あ、ボウンさん、話聞こえてなかったから」


「くふふふ、あのアダッドがあんなに動揺するなんて」


「カーラ、ボウンに説明しておいてあげて」


「はい」


 予想外のボウンさんの動揺ぶりに笑い零れる馬車内。

 メグウィン殿下も『作り笑い』でない笑みを浮かべられるようになってきたみたいだし、結果オーライかな?

 そんなこんなで、わたしたちは、ハラウェイン伯爵領に旅立ったのだった。

一体悪役令嬢は何やっているんでしょうね……と思わなくもないです。。

ですが、前日練兵場で出会ったキャラたちとも仲を深めていくことができましたし、何より楽しそうですから、これはこれでよかったのですかね。

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