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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第60話 王女殿下、心地の良い朝を迎える

(第一王女視点)

第一王女は、お泊り会の翌朝を悪役令嬢と共に心地良く迎えます。


[ご評価、ブックマークいただきました皆様方、厚くお礼申し上げます]

 甲高くかわいらしい囀りが特徴のハッコウチョウの鳴き声でわたしは目覚める。

 ぼんやりとした意識のままゆっくりと瞼を上げていくと、いつも通り、ベッドの天蓋がそこにあって、何かこう……幸せで心地良い夢を見ていたことを思い出すのだ。

 そう、確か、メリユ様、ハードリー様とお茶会をしていて、楽しく何かを話していたような……そんな記憶がある。

 それが現実だったらどんなによかっただろう……と思いつつ、わたしはハッとするのだ。


「メリユ様っ!?」


 枕の上で頭を回転させて、壁側を眺めると、そこにはもう一つ天蓋付きベッドがあって、艶やかな赤毛のメリユ様がお休みになられていた!


 よかった。


 一瞬、昨夜メリユ様がわたしの寝室でお休みになられたのも夢の一部だったのではないかと思ってしまったのだけれど、昨日の、昨夜のメリユ様との出来事は全て現実だったのだと理解し直して、わたしはまた胸の内側がじんわりと熱くなってくるのを感じてしまう。


「メリユ様……」


 初めて拝見するメリユ様の寝顔。

 昨日はあれほど大人びて見えたメリユ様も、こうしてお休みになられていると、同い年の、十一歳の女の子なのだと思える。


 こんなかわいらしい方が、大人顔負けの絶対的なお力をお持ちになられているなんて。


 けれど、お休みになられている間は、普通の女の子なのだ。

 万が一にも、バリアなしでお休みされているところを襲われるようなことがあれば、簡単にお命を落とされてしまうのかもしれない。


 そう、だからこそ、王国は全力でメリユ様をお護りしなければならない。


 聖女専属護衛隊の補佐役を任される以上、わたしは全霊を傾けてメリユ様の護衛とお世話の取り仕切りをしなければならないだろう。

 メリユ様が一日にお使いになられることのできるお力の総量はまだ存じ上げないけれど、昨日天界に続くバリアの中で一度かなりのご疲労に襲われていたということであるから、限度を超えたご無理をなさることがないようわたしがしっかりしなければならないのだ。


「よし」


 本当に……今まで王女として公務は数多くこなしてきたけれど、これほど胸が高鳴る公務は初めてだと思う。

 昨日一日だけでも、物語が一本で書き上がってしまいそうなほどの奇跡があって、これからも、日々のその公務に新たな奇跡が待ち受けているのに違いないのだから。


 本当であれば、忍び寄る滅亡の影に絶望に囚われ、帝国の本格侵攻に怯えながら過ごすはずだった日々がこうして薔薇色の日々に変わってしまうなんて、昨日の朝のわたしなら、到底信じられなかったことだろう。


「ふふ」


 メリユ様の補佐役。

 お母様、お父様を順に説き伏せ、ご了承いただけたときのあの高揚感が蘇ってきて、思わずうれしさに声を漏れてしまう。

 特にハラウェイン領での奇跡をご説明申し上げた際のあのご尊顔は、今も忘れられない。

 お父様ですら『信じられない』とばかり、驚愕に表情を失われていて、可笑しくて仕方なかった。

 わたしが誇ることではないのかもしれないけれど、メリユ様のなされたことを誇らずにはいられなかった。


「……メグウィン様、おはようございます」


 わたしが必死に笑い声を堪えていると、わたしの気配、いえ、視線に気付かれたのだろうメリユ様がお目覚めになられて、わたしに微笑みかけてこられる。


 ああ、なんて人を安心させるような微笑みだろう。


 わたしがもし殿方なら、絶対に、今のこの瞬間に恋に落ちただろう自信がある。

 それくらい朝日に照らされる聖女なメリユ様も微笑みは優しく、神々しかった。


「おはようございます、メリユ様」


 わたしの親友以上のご存在で、未来のお姉様が、こうしてわたしのお傍にいらっしゃって、わたしと心を通わせてくださっている。

 それだけでわたしは幸せだった。






 それからは、メリユ様はミューラ様に、わたしはハナンたちにお着替えを手伝ってもらい、朝食を取りに広間へと向かう。

 ハナンからこっそりと影からの報告のまとめを受け取って、軽く目を通したのだけれど、あの後サラマ聖女様が動かれたことで王都内の信心深い者たちの混乱は落ち着いたとのことだった。

 まあ、王城内は王城内で混乱に陥っていたから、サラマ聖女様には感謝しかない。

 ただ、周辺各国に繋がる街道にそれなりに動きがあったということから、王都に潜入していた各国の密偵がバリア=鏡の御柱の報告に動いたことは間違いないだろう。

 現時点で、彼らの取り押さえはなし。

 行商人を装っている彼らをいきなり捕縛するのは悪手過ぎるという判断だ。

 ただし、メリユ様の暗殺を企てたり、何らかの工作を仕掛けようとする場合は即座に捕縛する準備はしている模様。


「それで、ゴーテ辺境伯領とハラウェイン伯爵領方面にはあの情報は伝わっていないのよね?」


 ハナンにこっそりと尋ねる。


「ええ、昨夜殿下からお話がございました通り、メリユ様の転移の術……いえ、ご移動のご命令で瞬時にハラウェイン領に向かわれるということでしたので」


 そう、早馬を出したところで、結局アリッサをメリユ様に送り届けていただく方が早いのだから、当然の判断だろう。


「それはそうでしょうね。

 アリッサに送り届けてもらうことになっている書簡もお父様にご準備いただけて?」


「はい、タダ、ハラウェイン領は混乱しているに違いないということで、帝国侵攻の経路と想定されていることには触れていないということでございます」


 なるほど、キャンベーク川の堰き止めで混乱している最中に、そんな情報が齎されては領内が更に大混乱に陥るのは必至。

 メリユ様にご解決いただいてから、お伝えする方が良いのだろう。


「あと、カーレ第一王子殿下はゴーテ辺境伯への書簡の準備が整ってからご出発されることになりましたので、殿下とメリユ様には、お先にハラウェイン伯爵領に赴いていただくことになるかと」


「そうですか」


 最初はメリユ様、お兄様、わたしで、赴く予定ではあったけれど、キャンベーク川の堰き止めが発生してしまった以上、予定の変更は仕方がないのかもしれない。

 できることなら、サラマ聖女様が率いられる聖騎士団とも共に赴きたかったところではあるのだけれど、理想通りに進まないのが現実というものだ。


「アリッサの準備は進んでいる?」


「ええ、アリッサ様は既にご出発の準備を整えられているとのこと。

 あまり気負われ過ぎなければ良いのですが」


 まあ、王族訪問の緊急の先触れを近衛騎士が担当することはよくあることだけれど、女護衛小隊から抜擢されるのは初めてだものね。

 緊張し過ぎて、顔を強張らせているアリッサを思わず想像してしまって、可笑しくなってしまう。

 彼女には少し申し訳ないけれど、わたしとしては、彼女にこそ活躍してもらいたいという気持ちあってのこと。

 これで女護衛小隊の地位が向上してくれれば良いのだけれど。


「殿下とメリユ様の護衛には、近衛騎士団第一中隊からの選抜者を担当させる予定でございます。

 希望者が多く、カブディ近衛騎士団長閣下が自らお選びになられたとのこと。

 また、近傍警護には、王妃陛下からのご指示で女護衛小隊からルジア以下四名も付けるとのことでございます」


 あのメリユ様の奇跡を直接体験した近衛騎士団第一中隊だけあって、希望者が殺到するのも当然のことでしょうね。

 それにしても、お母様がルジアたちを近傍警護のために寄こしてくださるなんて。

 まあ、どんなときでもメリユ様とわたしの近傍警護は確実にしなければならない以上、女性の騎士は多い方がいいものね。


「影は?」


「ハラウェイン伯爵領に潜伏中の者に、わたしが直接接触して動かします」


「それがいいのでしょうね。

 王城内が手薄になって、こちらが帝国の侵攻経路を把握しているのを気付かれてはいけないでしょうし」


「はい」


 わたしは(きっと)全てを把握されているに違いない隣のメリユ様を窺がい、


「メリユ様、本日はどうぞよろしくお願い申し上げます」


「はい、承りました」


 分かっているとばかりのその微笑みに改めて安堵するのだった。

後半はタイトルとは打って変わって、凛々しいメグウィン殿下が見られましたね。

いよいよ動き出すミスラク王国の面々、まずはハラウェイン伯爵領の災厄の完全解消でしょうか?


※ハッコウチョウはヨーロッパ辺りにいるスズメ目ヒタキ科の鳥さんです。

 チュンチュンとは鳴きません。何かを喋っているようなかわいらしい鳴き声です。

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