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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第59話 王女殿下、悪役令嬢と聖なる誓いをする(!?)

(第一王女視点)

第一王女は、悪役令嬢と聖なる誓いを交わします。

 それから四刻ほどの間、わたしはメリユ様と並んでベッド脇に仲良く座り、色々なお話をした。

 今まで誰にも、ハードリー様にも打ち明けられなかったお話すらもしてしまったのだけれど、メリユ様は微笑みながらも真剣に聞いてくださり、まるで年上の女性=お姉様のようなご助言、ご提言をたくさんしてくださった。

 同い年の親友以上のご存在……それだけでも、充分過ぎるほどの幸せなのだけれど……途中からわたしはメリユ様をお姉様のように感じ、甘えてしまっていた。


 本当に、本当に、もしわたしにお姉様がいれば、毎夜こんな風に甘えることができたのだろうか?


 お兄様に不満は……いえ、大きな不満はないけれど、もう一人お姉様がいらっしゃれば、どんなによかったことだろうと常々思っていた。

 『聞いてくださいませ、お姉様』

 殿方であるお兄様には言えないこともお姉様にならば、打ち明けられることはたくさんある。

 そう、抱き付ける親友に、甘えることのできるお姉様、それが揃っていれば、王女としての責務による心の負担すらも全て吹き飛ばせるのではないか、わたしはそんな風に思ってきたのだ。


 それが同時に叶ってしまった。


「どうかされましたか、メグウィン様?」


 『どうかしたのかしら、メグウィン?』

 わたしは、次第に睡魔に襲われつつも、首を傾げるメリユ様のお姿に……あの、お姉様姿のメリユ様を重ねて、そのメリユ様がわたしのお姉様としてわたしにお声をかけてくださるところを想像してしまい、ぽぅーっとなってしまった。


 お兄様が王太子となり、メリユ様が王太子妃としてご結婚なされれば、本当にメリユ様がお姉様になられる!


 そうなれば、きっとわたしはこの人生で一番の幸せを感じられるようになるに違いない。

 もちろん、今のお兄様がメリユ様に相応しいとは思っていないのだけれど……早くご結婚していただきたいと思ってしまう自分もいて、心が相反してしまうのを感じてしまう。


「いえ、申し訳ありません。

 少し睡魔襲われてしまいまして」


 それでも、わたしは睡魔を理由に誤魔化したのだった。


「ふふ、今日一日色々お騒がせしてしまいましたから、メグウィン様もお疲れでしょう。

 最後は、ハラウェイン伯爵領までお付き合いくださいまして、感謝しておりますわ」


「そんな……き、きっと、わたしは、今日という日を一生忘れない自信がありますわ!

 メリユ様にハラハラさせられたことも、ドキドキさせられたことも、ワクワクさせられたことも、絶対に忘れ得ぬ記憶になると思います!」


「そうですか、メグウィン様にとってそれが良い記憶になってもらえるなら、それは……」


「いいえ、良い記憶に決まっています!

 わたしは、これからもメリユ様と、こんな素敵な記憶を積み重ねていきたいと思っております」


 わたしは思わずまたメリユ様の左手を取って、握り締めてしまっていた。

 ああ、こんな自分に素直になれたことが今まであったかしら?

 メリユ様と出会って、どんどん行動が積極的になっていくわたし自身に、わたしは驚いてしまう。


「そうですわね、わたしこそ、メグウィン様とそうありたいと思っておりますわ」


 メリユ様は、わたしが握り締めている左手をそっと持ち上げなさって、聖なる光球を浮かべられていた右手をそこに重ねられるのだ。


「ぇ」


 清純で綺麗な白い光球はわたしたちの手と重なり、わたしたちの手の中で、その柔らかな光を放ち続ける。

 それはまるで『聖なる誓い』を祝福しているような美しさで……わたしは必死にその光景を脳裏に焼き付けようとしていた。


 そう、だって、これは絶対に忘れたくない光景なのだもの!


「メリユ様」


「メグウィン様」


 こんな時間が一生続けばいいのに。

 わたしはそう思いながら、また目に涙が滲んでくるのを感じてしまう。


 お父様、お母様、お兄様……家族以外の方と、ここまで心を通合わせたのは、これが初めて。


 いずれ本物の家族=お姉様になるのだとしても、本当にメリユ様はわたしにとって掛け替えのない、特別な存在なのだわとわたしは思ったのだった。






 メリユ様がお隣のベッドに入られ、わたしもベッドに入ると、お互いに相手を確かめるように顔を向け合う。

 昨夜までは、一度足りとも客人=お客様用のベッドが入るのことのなかったその場所に、メリユ様のベッドがあって、メリユ様が今夜一晩お泊りされるのだ。


「……夢ではないですわよね?」


「ええ、まだ夢の世界には旅立ったおりませんもの」


「よかった……」


 いよいよ強烈な睡魔に襲われ始めたわたしは、思わず安堵の声を漏らしてしまう。

 だって、怖かったのだ。

 寝て朝目覚めてみれば、全てが夢だった……そんなことになってしまえば、わたしは立ち直れなくなってしまうかもしれない、そう思えていたから。


 わたしの心を救ってくださった、親友以上(今はまだ)お姉様未満のメリユ様。

 数々の奇跡をお見せくださって、王国を国難の数々からお救いくださる、真の聖女様であられるメリユ様。

 そのご存在が、夢幻でしかなかったなんてことになれば……もはや、王国にも、わたしにも絶望しか残っていないのだもの。


「メリユ様、どうか、これからもお泊りにきてくださいませ」


「ありがとう存じます。

 全てが終わりましたら、メグウィン様もビアド辺境伯領へもお泊りに来ていただけるとうれしいですわ」


「はい……」


 お兄様はご訪問されたことがあるけれど、まだわたしは行ったことのない北のビアド辺境伯領。

 帝国の侵攻問題が片付き、平和になったなら、きっとわたしもメリユ様のいらっしゃるビアド辺境伯領に訪問することができるだろう。


 そして、今度は……わたしがメリユ様のお部屋で、お泊りをするのだ。


 わたしはその想像だけで心温まるものを感じて、いよいよ眠気に身を任せてしまう。


「メグウィン様、どうぞ良い夢を」


 ゆっくりと閉じていく瞼。

 暗くなっていく視界。

 それでも、最後に聞こえた優しいメリユ様のお言葉に、わたしの(今夜の)夢の世界は光満ち溢れたものになるに違いないと、わたしは、そう思ったのだった。

メグウィン殿下にとって、一生忘れられないお泊り会になったようですね!

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