表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
6/306

第5話 悪役令嬢、専属侍女を落とす

(悪役令嬢視点)

前日の夕方、悪役令嬢を乗っ取ったファウレーナ、当然のことながら専属侍女から疑われてしまいます。

 デモシナリオは自動進行して翌朝になった。

 カーテンの外から聞こえてくる鳥たちの囀りすらもスズメがチュンチュン鳴いている日本とは違う。

 これぞ中世ヨーロッパ似の異世界。

 はあ、リアルだ。


 昨日のアレを誰かに見られてしまった可能性も考慮して、寝る前に自分の身を守る手段も用意した。

 自分の身体を中心に半径一メートルを囲む透明なシリンダー(円柱)をバリアとした訳。

 最初、コリジョンディテクション(衝突判定)が床上の全てとなっていたせいで、近くの家具とかを押し退けそうになったのには焦った。

 取り合えず、コリジョンディテクションの対象をNPC及びその付属物に絞ったので、壁に穴を開けたり、階段を削り取ったりせずにすみそうだ。

 何せ、悪役令嬢=メリユ・マルグラフォ・ビアド辺境伯令嬢になっているんだ。

 自衛の手段は今から持っておいて損はない。


 さて、昨日の夜、貴賓室の侍女さんに朝食を王族の方々と一緒に取るというお話をいただいた訳だが。

 むっふっふっ、ついにカーレ殿下とメグウィン殿下と近距離で会話ができるのかと思うとゾクゾクしてくる。

 オープニングで王城に到着した主人公=わたしが挨拶を交わしたシーンはオートプレイであまりじっくりカーレ殿下たちを見ることができなかったから、本当に楽しみ。


 いや、もうね、NPCの3Dキャラメイクがすご過ぎる。

 立ち絵やイベントスチルのイメージはしっかり脳裏に焼き付いている訳だけれど、超納得できる3D化で感動ものだった。

 これで、カーレ殿下と接吻なんてできた日には鼻血が出そうだ。


「さて、着替えて……」


 コンソールで服装を変えて、朝食に備える。

 鏡の前に立つと、まだ幼い十一歳のメリユが自分の姿として映る。

 うん、メリユも3D化、完璧だよね。

 目とかはリアリスティックになったし、肌の質感も本物みたいで、顔立ちだって最近のゲームらしく不気味の谷は完全に渡りきっている。

 声は基本自分の声で吹き込んでいるんだけれど、相手のNPCにはどう聞こえているんだろうか?

 まあ、基本文字化してから、それに適合する応答をAIで自動生成しているだけだから、声自体は何とも感じないか?


「……なんて無礼な……あなたには貴族令嬢としての常識がないのかしら?」


 本編が始まってから学院でヒロインにぶつけるメリユの台詞を試して呟いてみる。

 ああ、すごい、自分自身がメリユになるってこんな感じなのか。

 幼くとも既に悪役令嬢としての迫力は充分にある。

 もう、これ、ボイスチェンジャーさえあれば、完璧にメリユに成り切ることができるよね?


「ぉ、おはようございます、お嬢様。

 申し訳ございません、すぐにお着替えを……」


 先ほどのメリユの台詞が部屋の外にも漏れてしまっていたのだろうか、メリユ専属の侍女=ミューラさんだっけ?

 彼女が申し訳なさそうに入ってきて、自動お着替え完了していたわたしを見て、目を見開いている。


「ぉ、お嬢様、ご自身でお着替えされたのですか!?」


 カールしがちなダークアッシュの髪に目はぱっちりしたそばかす顔。

 悪役令嬢メリユにいつも苛められ、オドオドしているミューラは、ゲーム本編で見ていても気の毒な限りだったけれど、もうこの頃から嫌がらせを受けていたのだろうか?

 ミューラは、男爵令嬢でメリユの五つ上だったはずだから、今十六歳か。

 うーん、十一歳のメリユ相手にそこまで顔を青くするなんて、怯え過ぎ。


「構いません。

 もしどこかおかしいところがあれば、直していただけますか?」


 メリユの悪役令嬢化シナリオから外れてよいという話だったから、昨日のゲーム開始時点で、ヒロインの親友=ハードリー・プレフェレ・ハラウェイン伯爵令嬢のキャラを参考に別人格を演じさせてもらっている。

 ハードリーの伯爵家は元々オドウェイン帝国とも繋がりがあったとか何とかで、それが途中ヒロインの活躍にも繋がってくるのだ。

 悪役令嬢の破滅エンドを回避するには、あのハードリーの品のよさは、ぜひとも真似すべきと思う訳。


「ぉ、お嬢様、何か悪いものでもお召し上がりになられましたか!?」


 震える声で何てことを言うのやら!

 こういうミューラの馬鹿正直なところがメリユの怒りを招いて、ネチネチといびられる結果に繋がる訳か。


「いいえ、王宮の厨房をお作りいただいたお料理をいただいたのですよ?

 毒見もされていましたし、そんなことはあり得ません」


「しかし、お嬢様は王城に入られてから明らかにおかしいです!」


 まだ言うか、コイツ。

 なかなかに優秀なAIだ。

 いかにもミューラっぽい。


「ミューラ、先ほどの言葉は王宮の料理人や毒見の方を疑うような言葉です。

 わたしの前だけならともかく、大変失礼なことなので、部屋の外では気を付けてくださいね」


 むふふ、だてにゲーム本編をやり込んでいないのだよ。

 ハードリーがどれほどヒロインを育ててきたことか、最初の頃、色々やらかすヒロインを支えてきたハードリーの女房っぷりは半端ない。

 そのハードリーをトレースすれば、メリユも自然と悪役令嬢破滅コースから外れていくに違いないと思うのだよ。


「ぁ、ぁ、あなたは誰なんですか!?

 絶対にお嬢様ではありません、お嬢様の偽者に違いありません!

 お嬢様を、お嬢様を返してください」


 おうふ、更に動揺するのか、ミューラよ。


「ミューラ、落ち着きなさい。

 仮にも北の辺境伯家の令嬢専属侍女の発する言葉ではありませんよ?」


「…………」


 『誰だ、お前』みたいな表情やめい!


「ぉ、お願いします、お嬢様をお返しください。

 もしワルデル様にお嬢様が偽者と入れ替わっているのがバレたりしたら、わ、わたしの命が……」


「はあ、もう……わたしのお父様を何だと思っているのですか?

 ミューラの気持ちも分かりますけれどね、わたしにも事情があるのです」


「……偽者様のご事情とは何なのですか!?」


 まだ、偽者だと決め付けるんだ。


「ごめんなさい、ミューラ。

 専属にしてから今までのことは謝罪します。

 演技とはいえ、あなたには辛く当たってしまったわ」


「は、はあ!?

 き、気持ち悪いです!」


「ちょっ、ちょっと、ミューラ、さすがにそれは傷付くのだけど……。

 まあ、今までのことを思えば仕方のないことね、ごめんなさい」


「………」


 未だに信じられないという表情に、わたしの目を覗き込んでくるミューラ。


「専属のあなただから言っておくわ。

 わたし、昨日から別の段階に進むことにしたの。

 だから、もうあなたに今までのように当たることはないわ」


「別の段階、とは?」


「今はまだ詳しく言えないのだけれど、わたしの使命と言っていいものよ」


「使命ですか?

 ぉ、お嬢様はその使命のために、あんな性格の捻じ曲がった悪女を演じられていたと?」


 コイツ……。


「……そ、そうなるわね。

 あなたには随分と迷惑をかけたわ。

 それで……また、あなたに負担をかけるようで申し訳ないのだけれど、これからわたしがしようとしていることをあなたにも手伝って欲しいの」


「ぉ、お嬢様が……その使命とやらのために、演技であんなことをされていたなんて……わたし、全く気付きもしませんでした。

 ですが……考えてみれば、わたし、酷いことは言われてましたけど、痛いことはされていなかったのですよね。

 それは、お嬢様としても悪女として振る舞うのが不本意で、わたしのことを考えてくださっていたからだった、ということなんでしょうか?」


 おう?


「本当に申し訳ございません!!

 専属にまでしていただきながら、お嬢様のお心に全く気付けなかったなんて、専属侍女として、わ、わたしは失格です」


 いや、そんな涙まで浮かべて……急に態度変わり過ぎじゃない?


「ミューラ、そんなことはないわ。

 わたしの酷い叱責にも耐えて、今まで尽くしてくれたのだもの。

 わたしには、ミューラ以外の専属侍女は考えられないわ」


「お嬢様!」


 パァァッと輝く笑顔。

 そばかす素朴&素直専属侍女がかわい過ぎる!


「わ、わたしなんかで、よろしいのですか?

 わたしのような者でも、お嬢様が使命を果たされる、そのお手伝いができるのでしょうか?」


「ええ、ミューラだからこそお願いしたいの」


「お嬢様」


 感極まったミューラがわたしの手を握ってくる。

 いや、ハプティック機能はないから、感触は分からないし、手に握っているコントローラ位置無視してミューラに自分の手が持ち上げられている様は、見た目変な感じだけれど、なんかすごくうれしい!

 まさに、できることなら、このVR世界に本気でダイブしたいと思った瞬間だった。

かわいい専属侍女、傍にいるとうれしいですね(遠い目

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ