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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第57話 悪役令嬢、寝室に戻られた王女殿下と更に仲を深める

(第一王女視点)

国王陛下、王妃陛下との協議を終えた第一王女は、悪役令嬢の待つ寝室に戻り、今まで打ち明けられなかったことを打ち明けます。

 はあー、疲れた。

 ノベルゲーのはずのエターナルカームで、NPC=『ゲームの登場人物』とリアルタイムで会話をしまくり、イベで共同作業まで行うとか、マジでもう別ゲームになっちゃってるんじゃないのよ、もうっ!

 しかも、ゲームエンジンに介入させるコードを書き捲る羽目になるとは……まあ、好きだからいいんだけどさあ……いよいよ、多嶋さんの意図が分からなくなってきたなあ。

 コーディング能力のあるユーザってか、プレイヤーってどんくらいいると思っているんだか?


 うーん、ベースシナリオ+AIによるNPC反応自動生成、そしてアルファ版テスターによるゲームエンジン介入で、どんな(物語的)化学反応が起きるか見定めようとしているとか?

 もしかして、わたしのプレイをキャプチャ(録画)して、公開しようってんじゃないわよね?


 セーブポイントもよく分からないし、そろそろおトイレにも行きたいし。

 ホントに勘弁してもらいたいもんだわ!


「お嬢様、ホットミルクはいかがでしょうか?」


「ありがとう、ミューラ」


「ぃ、いえ」


 すっかり懐いてしまった専属侍女ミューラがホットミルクの入ったカップを持ってきてティーテーブルの上に置いてくれる。

 メグウィン殿下は、国王陛下、王妃陛下への報告のため、暫く離れていて……先ほど戻って来られたハナンさんがお茶とアップルパイをご用意くださっていたのでありがたくいただいたのだけれど……これに+αホットミルクか。

 メリユの膀胱状態はよく分からんのだけれど、わたし自身、結構溜まってきているのもあって、VR体験でもそろそろキツイ感あるわ。


 ……睡眠に入ったところで、セーブポイントか休憩入るよね、これ?


「それにしても……」


 王城のメイドさんたちが寝室を整えてくださっているのだけれど、天蓋付きベッド×二台ってのは、すごい光景だわ。


 うーん、ホントにあの悪役令嬢メリユが、メグウィン殿下と……お泊り会をするのよね?


 マジ神展開過ぎて、ドキドキが止まらないわ。

 そのせいで、お花を摘みにすら行けなくなっているのだけれど……早くメグウィン殿下戻ってきて、お話を進めていって欲しい(切実)!


「天蓋付きベッドねぇ」


 天蓋部分からは二重になっている短いヒラヒラした飾りカーテンのようなものが下がっていて、更に(それとは別に)ベッドサイドを完全に隠せる(床近くまである!)本格的なカーテンが枕元でタッセルでまとめてある。


 いやー、天蓋付きベッドってこうなってるのねー。


 初めてマジマジと見れたような気がするわ!

 小学生の頃、何かに影響されて天蓋付きベッドで寝てみたいとか思ったことがあったような気がするけれど、まさかVRゲーム世界で体験できることになるとは。


 ってか、これ、どうやって寝るのかね?


 勝手に歩いていたときと同じで、AIの自動行動進行?

 それとも、傍にベッド持ってきて、同じように寝れるようにしとく?


 いや、待って!?

 ゲーム本編では絶対に体験できないメグウィン殿下とのお泊り会イベなのよ!!

 ベッド持ってきて、実際に横になって、その向こうに(同じように)横たわっているメグウィン殿下がいらっしゃるというシチュエーションを味わえるというのに、その準備を怠るとか絶対あり得ないわ!


「あぁぁぁ、冷静になれ、わたし、ベッドを持ってこなくたって、位置情報一時カットしてベッドとの位置関係修正しておけばいいじゃん!」


 わたしはゲームエンジンへの介入コードを書いて、HMDの位置姿勢情報反映を強制的にカットすると、リアルの椅子とベッドの位置関係を確かめながら、(客人用)天蓋付きベッドとの位置合わせに成功するのだ、ふふん!






 ミューラと戯れること、十数分。

(いや、ミューラに天使形態の翼を弄られたりしていただけだったりするのだけど)

 ようやくメグウィン殿下が戻って来られたのだった。


「お待たせしてしまい申し訳ございません、メリユ様」


「いえ、そんなことはございません。

 お茶とアップルパイ、ホットミルクをおいしくいただいておりました。

 ハナンさんにもどうぞよろしくお伝えくださいませ」


 顔を上げられたメグウィン殿下は、天使形態のままのわたしをご覧になられて、目をウルウルされている。

 あー、やっぱり(ミューラもだけど)この姿って琴線に触れるものがあるみたいね。


「ぁ、あの、明日朝出立の件ですが、お父様、お母様にご承認いただけました」


「それは何よりでございます」


「明日の朝は、何卒よろしくお願いいたします、メリユ様」


「はい、承りました(クスッ)」


 また少しばかり言葉遣いが硬くなってしまうわたしたちに、思わず二人同時にクスリと笑ってしまう。


「いけませんね、ようやく二人でお話できますのに」


「お互い立場もありますから、仕方ないことです」


 わたしがそう笑いながら応えると、メグウィン殿下はまた目元にジワリと涙を滲ませられて、


「何てお美しい……。

 メリユ様がまだそのお姿のままでいらっしゃって、わたし、とてもうれしいですわ」


 両手で口元をそっと覆いになられるのだ。


「……そうでしょうか?」


「ええ、実は、申し上げるのも恥ずかしいのですけれど、幼い頃に王都の中央教会で使徒様のフレスコ画を拝見しました後、実際に使徒様と会話を交わすことができないものかと空想していたことがあったのです」


「そうだったのですね。

 あくまで仮初の姿で、中身が人の子であるわたしでは、物足りないことでしょうけれど」


 わたしがアドリブでそうお伝えしていたところ、


「いえっ!

 そんなことは全くございませんっ!!」


 メグウィン殿下は顔を真っ赤にされて、わたしの言葉を否定してきて、少しばかり驚いてしまった。


「はい?」


「使徒様のお姿のメリユ様は、幼い頃のわたしが想像していた通りのご存在であらせられます!

 いえ、使徒様のお姿を取られていなくとも、メリユ様は、わたしが親友として誇りたくなる特別なお方なのですわ!」


 (ゴクリ)

 おおう、聞いていてこっちまで恥ずかしくなっちゃいますぜ……。

 なんか、そう……まるで告白を聞かされているような、そんな感じがするのよね。


「そうだとうれしいのですけれど」


「はぃ、今も、わたしは……あのときの空想が、現実になっているようで、胸の高鳴りが抑えられないのです!

 本当に、メリユ様は、天界より神が遣わされし使徒様そのもののように思えて、こんなわたしでは、メリユ様の友人として相応しくないのではないかと、自信がなくなってきそうで……」


 感情が高ぶり過ぎて、ポロポロと涙を零されるメグウィン殿下。

 うぅ、そんなの見せられたら、お姉さんも涙ぐんできちまいますよ!


「ご安心くださいませ、メグウィン様は、わたしにとっても誇りです。

 ミスラク王家の第一王女殿下として、ご年齢以上にご立派にそのお役目を果たされていると思いますわ」


「ずるいです、ずるいですわ!

 メリユ様の方がずっと大人びていらして、これまでだってずっとお一人で聖務のご執行を成し遂げられてきていらっしゃるのに」


 何がずるいのかは分からないけれど(わたしの言い方?)わたしは両腕を広げて、メグウィン殿下を迎え入れる。


「ぃ、いえ、わたし、汗臭くないでしょうか?」


「何をおっしゃるのですか?

 先ほどはご一緒に聖務をした仲ではありませんか?」


「はぅ……メリユ様、花のお香りが……」


 あああ、やっちまったぜぃ!

 VRで抱き合っているだけとはいえ、お姉さんもドキドキが止まらないんだが。


 んん、ありゃ、メグウィン殿下の身体から力が抜けていっているような。


「はぁ、夢みたいです……」


「メグウィン様?」


「先ほどハードリー様のことをお話しましたけれど、ハードリー様とは、まだこういう関係になったことはなかったんです」


「関係とは、気軽に抱き合ったり、という意味でしょうか?」


「はい、以前視察の際、馬車の窓から、わたしと同じくらい年の、仲の良さそうな女の子が二人抱き合って、別れを惜しんでいる姿を見てしまって……わたしにはどうして、そういう友人がいないのだろうって思ってしまって」


 なるほど。


「今までハードリー様を除けば、わたしの王女としての立場に目が眩んで近付いて来られる方ばかりで……もしハードリー様ともっと友情を深めることができなければ、もう一生そういう関係をどなたかのご令嬢と結ぶことはできないのではないかと……そんなことばかり考えていたんです」


「メグウィン様」


「それが……まさか、たった一日ばかりで、メリユ様とこんな関係になれるなんて、夢のようなのですわ」


 そうだよね。

 今回ばかりはわたしから行ったけれど、今日一日だけで何回メグウィン殿下の方から抱き付かれたっけ?

 ふふ、メグウィン殿下って、そういうのに憧れがあって(本編の)ヒロインちゃんとも仲良くなっていったんだわ。


「メグウィン様は、情熱的なお方なのですね」


「そ、そうでしょうか?」


「わたしでよろしければ、いつでも抱き付いていただいて構いませんので」


 HMDの視界に揺れるメグウィン殿下の金髪の御髪。

 それがビクリと震えるのが分かる。


「も、申し訳ございません……考えてみれば、わたし、今日一日、何度メリユ様に抱き付かせていただきましたでしょう……」


「いえいえ、公的な場でならともかく、私的な場では、メグウィン様のお気持ちの通りになさってよろしいかと」


「……本当ですか?」


 さすがに『はしたない』ことをしたという自覚はお持ちだったみたいで、おそるおそる訊いてこられるのがかわいい!


「もちろんです。

 親友以上の間柄なのですから、わたしとしては、ありのままのメグウィン様を受け止める所存ですわ」


「うー、ずるいです、ずるいですわ、メリユ様ぁ」


 HMDの視界が揺れる。

 更に間近に迫るメグウィン殿下の御髪。

 きっと目いっぱいの力で抱き付いて来られているのだろうメグウィン殿下に、わたしもまた心が温かくなってくるのを感じてしまうのだった。

ようやくガールズトークっぽくなってきましたね!

年相応のメグウィン殿下が見られて何よりでございます!

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