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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第52話 王女殿下、悪役令嬢の力で透明人間になる(!?)

(第一王女視点)

第一王女は、悪役令嬢の聖なる力で、透明人間になってしまいます(!?)

[ブックマーク、ご評価いただきました皆様方、心よりお礼申し上げます]

「メグウィン様、お試しされますか?」


 わたしがあたふたしていたのをメリユ様は別の意味でお捉えになられたのだろう。

 昨夜覗き孔から拝見させていただいたときのような、悪戯っ娘な笑みを僅かに含んだ笑みでわたしの顔を覗いてこられる。


 お試し……つまりは、姿を消す、わたしの身体を透けさせるご命令を試すかどうかということなのだろう。


 おそらくは、前代のビアド辺境伯様を除けば、この数年、この世界で(きっと)誰も触れられたことのない聖なるご命令。

 それをわたしの身でお試しいただけるなんて、何て光栄なこと!


「わたしなどでいいのでしょうか?」


「ええ、安全は保障いたしますので、ご安心くださいませ」


「いえ、メリユ様のお力を疑ったりなどしておりませんっ。

 タダ、このような体験をわたしがしてもよいものなのかと」


「メグウィン様は、わたしの親友以上のご存在なのですから、お気になさらないでくださいませ」


 先ほどもいただいていたお言葉だったけれど、改めておっしゃっていただけると心の中から熱いものが溢れてくるのを感じてしまう。


「では、準備いたしますね」


 メリユ様は、わたしを安心させるかのように優しい微笑みをお浮かべになられてから、両手を空中に浮かべられ、


「“Show console”」


 と呟かれる。

 そして、空中にヒュンと出現する青く透明な板。

 そう、メリユ様は、聖なるお力の行使にあたっての手続きをされるのだ。

 ティーカップを移動させたり、透明にされたり、バリアを張られたり……色々されてこられたのだけれど、今度はわたしの身体に対して、神のお力が作用するのかと考えると、ドキドキしてきてしまう。


 今、まさにわたしはお伽話の世界の中にいるかのよう。


 魔法だとか奇跡だとか、書物に書かれたお伽話も元を辿れば、聖人様が起こされた聖なるお力の行使だったのかもしれない。


「あの、メリユ様、その神への手続きをなされる聖人、聖女様は……今この世界に、他にいらっしゃるのでしょうか?」


 わたしは思わずメリユ様に尋ねてしまう。

 セラム聖国の中央教会から認定されているサラマ聖女様ですら、メリユ様のような聖なるお力を行使されるのは難しいように見受けられたし、はたしてメリユ様以外にいらっしゃるのかと思ってしまったから。


「そうですね……今、管理者権限をもっているのは、わたしだけかと思います」


 (ゴクリ)


 やはり、今この世界にいらっしゃる、神に聖なるお力の行使を、この世の理に干渉する権限をお持ちの聖女様は、メリユ様タダお一人ということ!

 サラマ聖女様だって、所詮は地上にいる人間であるセラム教会の方々が、勝手に聖女認定しているだけであって、本物は神により直接認定されるということなのだろう。


 そんなお方が、わたしの傍にいらっしゃる。


 わたしはまたあの感動がぶり返してきてしまって、目頭が熱くなってくるのを覚えてしまった。


「さてと」


 メリユ様の手元に細かい、青く透けたタイルのようなものが現れると、メリユ様の手が小刻みに動いてそれを叩いていく。

 おそらくあれで聖なる文字を打ち込まれ、手続きをされるということなのだろう。

 お伽話と、本物の聖なるお力の行使は違うものだというのを実感してしまう。


 そう、だって、これが本物なのだもの!


 手にも止まらぬような速さでメリユ様の指は動き、コンソールというものに読めない聖なる文字の羅列が広がっていく。

 これらを全てご理解されているなんて、本当にすごいことだと思う。


 聖女様になるというのは、心構えだけでなく、これだけの知識も必要ということ。


 真剣な眼差しで手続きをされていくメリユ様のお姿は、(何度拝見しても)わたしと同じ十歳のご令嬢だとは到底思えない。

 何だかんだと不満を抱きつつ、この何年とわたしがしてきた努力なんて、メリユ様がされてこられた努力には到底及びもしないのだ。

 だって、メリユ様は三歳から聖女様になられるべく、様々な修行を励まれてこられたに違いないのだから。


「メリユ様……」


 練兵場でもそうだったけれど、手続きを始められてからのメリユ様は普段よりお辛そう。

 いえ、手続きに間違いがあってはならないから、かなりの緊張感をもってされているということなのかしら?

 タダ、また汗を掻いていらっしゃるご様子からみるに、人の身で神への手続きをするというのは、何かしらご負担になるものがあるのかもしれない。


 そう、例えば、メリユ様に宿られている聖女様としてのお力を代償としているとか?


 アリッサ、セメラたちから聞いた話では、疲労した近衛騎士たちの回復のために聖水を出された後はかなりお疲れのご様子だったとのこと。

 やはり、メリユ様には聖なるお力の行使にご無理がないよう、すぐ傍でお世話が必要ということなのだろう。

 そして、これまではきっと専属侍女のミューラ様がこなされてきたのだわ!


「ふぅ……よし、わたしと接触しているアクターのIDを自動取得して、管理者アバターと同時に透明度変更を反映っと」


 神への手続き文(?)を完成されたのか、メリユ様は一息吐かれてから、コンソールに並ぶ聖なる文字の塊を何度も上下させて確認されている。

 やはり、間違いがないかどうかを確認するのも大変そう。

 わたしには、何が書かれているのかも理解できないけれど、メリユ様は人ならざる神や使徒の方々しか理解できない文字すら操られているのだと思うと、それだけでまた尊敬の念が込み上げてくる。


 そして、アクターだとか、管理者アバターだとか、聞いたこともないようなお言葉。


 アクターとは地上にいる人間のこと?

 管理者アバターとは、神に認められし聖女様であるメリユ様のこと?


 神に近いはずの中央教会の司教や修道士たちですら使われていないお言葉の数々に、本物の聖女様は違うのだと思わされる。


「うん……できたっと」


「メリユ様、お疲れ様でございます。

 どうぞお茶を」


「まあ、ありがとう存じます」


 王女であるわたしが普段することのないようなことを、こうして親友以上で、聖女様のメリユ様にできるということに胸の高鳴りが収まらない。


 今まではミューラ様の特権だったのだろうけれど、今だけはわたしの特権。


 世界でタダお一人の本物の聖女様のお世話をしている自分に少し酔いながら、わたしはお姿に似つかわしくないほど大人びたメリユ様がお茶を飲まれるお姿を拝見させていただくのだった。






「では、メグウィン様、わたしと手を繋いでいただけますか?」


「は、はい」


 お茶を優雅に飲み切られ、ティーカップをソーサーに戻れたメリユ様は、ニコリと笑ってわたしに向かって手を差し出される。

 メリユ様のお独り言を拝聴していた限り、聖女様であられるメリユ様と触れ合うことで、メリユ様とご一緒に姿を消すことができる手続きであるらしい。


 そう、いよいよ、わたしも聖なるお力を我が身に受ける名誉を賜ることになったのだ!


「その、これから、わたしは、メリユ様とご一緒に姿を消すということでいいのでしょうか?」


「ええ、そのご理解で間違いありません」


 うぅ!

 寝る前にお伽話を読んでもらいながら寝付いていた、まだ幼かった数年前のわたしなら本当に踊り出してしまっていたかもしれない。


 王女としての教育を受けていく中で、この世に起きるはずのない奇跡と、お伽話の全てを否定されて意気消沈してしまっていたわたしはもう過去のものなの。


 この世には、神から下賜された聖なるお力を行使されるメリユ様がいらっしゃるのだもの!

 そして、これから、わたしもヒロインの一人となって、この世を良い方向へと導いていくことができるのかもしれないと思うと、それだけで心が躍り出しそうになってしまう。


「よろしいでしょうか?」


「メリユ様?」


「あ、メグウィン様、いいでしょうか?」


「はい!」


 凝り固まったわたしの心が解れて、幼い頃のわたしが顔を出してしまいそう。

 けれど、それをお見せするお相手がメリユ様なら、なぜかいいような気がしてしまっていた。


 わたしは(手汗を少し気にしながら)白い手袋をした右手を伸ばして、メリユ様のお手に重ねていく。


 まるで憧れの魔法使い様と手を繋いでいるかのような高揚感に、どうにかなってしまいそう。


「では、いきますね」


「はい!」


 手袋越しにも伝わってくるメリユ様のお手の体温。

 このお手から聖なるお力がわたしへも流れてくるのだと思うと、息が弾んだ。


「“Set transparency of avatar-of-meliyu to 0”」


 っ!


 これがあの手続きを実行される呪文のようなものなのだわ!

 すぐ傍のコンソールに、また何か聖なる文字が流れていき、


「三、二、一」


 メリユ様の数えられる数字が減っていくと、


 ヒュン!


 メリユ様と、メリユ様のお手と繋いでいたわたしの右手、そして右腕が視界から消え、その向こう側が見えるようになったのだ!!


 (ゴクリ)


 唾を飲み込むと同時に、わたしの心臓がドッドッドッと激しく脈打っていく。


 今の一瞬で、メリユ様とわたしは、メリユ様の聖なるお力で、姿を消したというの!?


 わたしは身体が少し強張るのを感じながら、ゆっくりと視線を落としていき、先ほどまでそこに見えていたわたしのドレスとわたしの足が綺麗に見えなくなり、誰も座っていないかのように見える椅子の脚がそこにあるのを見てしまった!!


「あっ、あっ、あっ!??」


 本当に今手続きで、姿を消すご命令がなされて、メリユ様とわたしはこの世からその姿を消すことができたということを実感して、わたしは(我が身で)生まれて初めて味わう奇跡に感涙を零してしまった。

 もちろん、その涙すら見ることはできないのだけれど、わたしの熱い頬を伝っていく涙の感触だけははっきりと分かるのだ。


「メ、メリユ様っ、わたしの身体が、メリユ様のお身体も透明にっ」


「ええ、ご気分はいかがでしょうか?」


「はあ、まるで、お伽話の登場人物になれたかのようにですわ!

 感動が止まりませんっ!」


 今のわたしは、間違いなく、昨夜のわたしが想像だにできなかった奇跡溢れる世界にいるのだ。

 そして、これからわたしたちは、ハラウェイン伯爵領で、また一つ大きな奇跡を起こす。

 それにわたし自身が関われるということに、わたしの中に残っていた子供心は激しい興奮を覚えてしまうのだった。

またとんでも展開が……しかも、相変わらずタイトルが酷い、、、

ですが、メグウィン殿下が楽しそうで何よりでございます。


非常に強い台風が西日本に接近中とのことでございますので、どうぞ皆様お気を付けてお過ごし下さいませ。

(わたしも買い出しを済ませてこもっております、、、)

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