第50話 悪役令嬢、王女殿下の心の壁を砕く
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
第一王女の寝室に招かれた悪役令嬢は、胸元に泣き付いた第一王女との関係を更に深めていきます。
わたしの顎から斜め下辺りに見える、メグウィン殿下の頭。
タッチコントローラーでそっと頭を撫でてあげているんだけれど、HMDで見えているのは悪役令嬢メリユのかわいらしい手で、何だか不思議な感じ。
ラノベやアニメのように、フルダイブシステムができれば、もっと直感的に手を動かせて、五感全てでメグウィン殿下を感じられるんだろうなと思うと、少し悔しい。
小型マニピュレータ式か、電気刺激式で触感を作るシステムはできてきているから、卒業研究では、メグウィン殿下と抱き合っているのが分かるくらいのシステムは作ってみたいなあ。
それにしても、このVR版のエターナルカームじゃ、メグウィン殿下はまだ十一歳だっていうのに随分しっかりしているわよね?
こうして甘えてくるところは(滅茶苦茶うれしい!)年相応だなあと感じるけれど、言葉遣いなんかは日本の高校生並みかそれ以上かなあとも思ってしまう。
ほら、資料館とかに展示してある、戦前とか戦中の十代の子供が書いたはがきを見ると、今の時代の大人でも書けないくらいお堅い文章だったりするじゃない?
やっぱり、今みたいにモラトリアム感たっぷりな十代と違って、エターナルカームの世界じゃ、もっと大人びていることが求められているんだなあって思ってしまう。
何より、メグウィン殿下は第一王女という立場。
お姉さんとかいれば、もう少し甘えることもできたのかもしれないけれど、第一王子のお兄さんじゃなかなかそうもいかないだろうし、なかなか素直な気持ちを表に出すことができなかったんだろうなって思ってしまう。
「んー、わたし、メグウィン殿下をすごくリアルに感じちゃってるなあ」
多嶋さんから得られた情報からすると、シナリオライターさんが書いたベースシナリオ上に沿う形で、プレーヤーの言動に対してNPC=ゲームの主要キャラの反応を自動で作っているみたいだけれど、本当に会話しているという感覚がある。
音声合成も最近は相当レベル高くなってきているけれど、感情の籠り方とか、声優さんが向こうにいるのでは(?)って思ってしまうレベルなのよね。
しっかし、元ノベルゲーのはずのエターナルカームをここまで没入感高いインタラクティブVRゲームに仕上げておいて、これを非公開にするなんてもったいな過ぎるよ!
まあ、わたしのプレイデータを元に、別のVRゲーム制作に活かしてくれたら、それはそれでいいんだけれどさ……エターナルカームVR版、現状のアルファ版ですら、ファン垂涎の出来だよねー。
「まあ、管理者権限で何とかしろって展開自体……まあ、一般プレイヤーにはちょっと無理ゲーって感じするけど」
元々のエターナルカームは、タダのノベルゲー。
好感度パラメータはあるけれど、剣や魔法を使っての戦闘とかはないから、元よりHPとかMPはないし、このVR版がイレギュラー過ぎるのよねー。
で、管理者権限で何とかしろってヤツも、スクリプト弄ってゲームエンジンに介入実行させてるから、コーディングできるテスターしか無理じゃんって感じなのよ!
マジで、どういうつもりでこれを作ったのか、訳分からんわー。
てか、好感度パラメータ……こっちはこっちであるっぽいよね?
なんか、メグウィン殿下とも、カーレ殿下とも仲良くなっちゃっているし、メグウィン殿下は現在進行形でこんな感じになっちゃっているしなー。
も、もしかして、ハードリーちゃんたちも落としていっちゃっていいのかしらん?
「ぐふっ!」
ぁ、あかん、変な声出ちまったぞい!?
えっと、とにかく、今はメグウィン殿下の心配のタネを取り除くところから始めないとね。
「(ぐすっ)メリユ様、何度も何度もお恥ずかしい姿をお見せしてしまい、申し訳ございません」
うん?
ようやくメグウィン殿下も落ち着かれてきたのかなー?
こういう感情を含んだ部分の言動生成って、ホントにどうなっているんだろって思っちまいますよ、ねー。
取り合えず、マイクオン!
「いいえ、等身大のメグウィン様と触れ合うことができて、うれしく存じております」
「そ、そうなのですか……?」
いけね、また本音がちょい漏れてしまった気が。
「あの、わたしこそ、メリユ様に過分なほどにご評価いただけて、本当にうれしく存じておりますわ」
「いえ、真実でございますから」
「もう、メリユ様、また少しお堅いですわ!
わたしは、もうメリユ様のことを親友以上だと思っておりますのに」
少し拗ねたようなお声が自分の顔のすぐ下辺りからして、ドキリとさせられる。
うん、だってメグウィン殿下の口調がもう一段砕けてお話になられているんだもの!
(ゴクリ)
「分かりました、メグウィン様。
親友以上と言っていただきありがとうございます。
わたしもそう思っておりますわ」
「メリユ様!」
メグウィン殿下がもう一度お顔をわたしの胸元に押し付けられる。
「ふあ、メリユ様、すごくいい匂いがします」
って、おい!?
メグウィン殿下ってそんなキャラだったっけ?
へ、変な学習データ混じってない?
いくら(甘えたいお年頃なのに)我慢し続けてきたと言っても、なんかキャラ崩壊してるぞな!?
「あの、メリユ様、わたし、オドウェイン帝国との戦争が終わるまで、メリユ様のお傍でお手伝いしますから、できることがあれば、何だって言ってくださいませ」
……いや、そうでもないか?
ヒロインちゃんにメグウィン殿下が心許したときもこんな感じだったっけ?
うん、確かに……口調が、そうこんな風に砕けて、素のご自分を見せてくださっていたような気もするな。
「ええ、メグウィン様にしかお願いできないようなことはたくさんありますから、ぜひ一緒に戦っていただけるとうれしく思いますわ」
「メリユ様!」
「それでは、まず、メグウィン様の心配のタネを一つ解決してしまいましょうか?」
「わ、わたしも同行してもいいのでしょうか?」
「もちろんですわ。
わたしに掴まっていただく必要はございますが、安全は保障します」
「では、ぜひわたしをお役立てくださいませ!」
メグウィン殿下のうれしいそうなお声がわたしの胸元に響いたような気がする。
もちろん、HMDからしか声は出てこないのだからそんなはずはないのだけれど、そんな感じがした。
「ええ、ではどうぞよろしくお願いします、メグウィン様」
「お任せくださいませ、メリユ様!」
さて、メグウィン殿下にお願いしなければならないことはいくつかある。
早速頼んでしまっていいのかしらん?
「それでは、詳細な地図と例のワイングラスをご用意いただけますか?」
まず“Tranlate”するのに必要な距離算出のための地図を。
そして、“Pick”するためのオブジェクトを、ご用意いただきましょう!
まあ、ワイングラスは……ワイングラスである必要はないのだけれど、様式美的なものよ。
練兵場で何か勘違いされていたっぽいしねー。
「分かりました。
すぐに用意させますわ!」
名残惜しそうにお顔を離されたメグウィン殿下はすっかり元気になられたご様子で、わたしに向かって力強く頷かれる。
そうして立ち上がられたメグウィン殿下は、テーブルの上にあった鈴を手にして鳴らし、ハナンさんたちをお呼びになられたのだった。
(お待たせいたしました、今週も振替休日活動中です)
ふーむ、大分仲良くなりましたね、この二人。
メグウィン殿下の口調がかなり砕けたものになってきたところからもそれが分かるように思います。
本当は甘えたがりなメグウィン殿下も、大分素の自分を出せるようになってきたようですし、この先も仲を深めていってもらいたいところですが……さて、どうなりますでしょうか?




