第47話 悪役令嬢、お誘いを受ける
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
(実質)第一王子と悪役令嬢の婚約祝いの晩餐会で、悪役令嬢は第一王子、第一王女とより親密な関係になり、あるお誘いを受けます。
「はあ」
キッツ、まさかメリユのお父様から疑われることになろうとは!
(いかにもメリユのお父様って感じの、赤毛のダンディーオジサマで、近衛騎士団長と比べたらずっと若いし、見た目滅茶苦茶好印象ではあるんだけどね!)
ミューラといい、やっぱ、身近な人から疑われやすい設定になってるのかしらん?
いやー、にしても、“Meliyu_ver1.vrmx”が正解でよかったわ。
多分、こっちがエターナルカームのVR版のメリユアバターデータだとは思っていたけど、また別のバージョンだったらどうしようかと思った。
「にしても、ここまで演技力求められるとか……一般向けとしてはダメじゃない?」
いや、絶対今のって演技力求められていたよね?
台詞覚えていたらいけるって感じしなかったし!
そりゃ、わたしはそういうの好きというか、得意(?)だからいいんだけど、不得意なプレイヤーだと、『この偽者め!』ってなっちゃうってこと?
あー、こりゃ、多嶋さんに要報告だわ。
にしても、クラウドに上がってるアバターデータ、どんだけあんのよ?
どっかの時点でポーズできるなら、アバターデータ確認して何のデータかリスト化しておかないとヤバイかもなあ。
「メリユ様、メリユ様」
HMDのスピーカーから聞こえてきたメグウィン殿下のお声に、ドキッとして左隣の席にいらっしゃるメグウィン殿下の方を見ると
「その、神より賜られたあのお姿へはもう戻られないのでしょうか?」
目をウルウルされて、上目遣いにわたしの方を見てこられる。
うっ、相変わらずインパクトあるなあ。
にしても、さっきまではわたしの方が身長高くて、上から見てる感じだったら、また同じ目線の高さになっていると変な感じがする。
「こら、メグウィン!
メリユ嬢も、何度も力の行使を繰り返されていてお疲れのことだろう。
あまり無理を言うものではないぞ」
「カーレ第一王子殿下、お気遣いいただき恐縮でございます。
ですが、わたしは大丈夫でございます」
うーん、明らかにカーレ殿下のわたしに対しての雰囲気、柔らかくなったよね?
正直、フラグの立ち方とかもよく分からないし、好感度とかもどう処理されているのかも分からないんだけど……まあ、実質婚約祝いの席ってことになっているのだし、普通に喜んでいいのかなー?
「そ、その、メリユ嬢。
公式には王太子妃候補という形になっているとはいえ、実質的に正式な婚約と考えているのだが……その、もう少し、くだけた形で呼んでいただけないだろうか?」
「それは……カーレ殿下もしくは、殿下と?」
「いや、殿下は要らないと思う」
え……今、カーレ殿下、すごく照れていらっしゃったよね?
と、尊い!
今の本編だったら、絶対スチルになってたはず!
ええい、なんでスクショできんのか、できんのなら、管理者権限で実装しちまうぞ!
あああ、何という欲求不満!
「で、では、私的な場のみ、カーレ様と?」
「ああ、それでよい」
(ゴクリ)
いけね、今生唾飲み込んじゃったけど、マイク拾ってないよね?
も、もし拾っていたら、このAIはどう処理するんだろ?
「ずるいです、ずるいです!
メリユ様、どうかわたしも、ただメグウィンとお呼びくださいませ!」
うおお、今度はメグウィン殿下に揺すぶられている?
HMDが揺れてる訳でもないのに、視界揺れてるし!
んはあ、カーレ殿下とメグウィン殿下に挟まれて、お二人の方からこんなに距離を詰めて来られるとか、マジ超絶神展開きてね?
マイクオフ、『すぅはあ』『すぅはあ』
えほんっ!
「では、私的な場のみ、メグウィン様とお呼びしても?」
「も、もちろんでございますわ!
ぜひそうお呼びいただけますとうれしく存じます」
うわー、ぱぁっとお花を咲かせるようにメグウィン殿下の笑みが広がってる!
悪役令嬢のはずなのに、まさか王族とこんなに親しくなれるとか、最高過ぎんか!?
「それで、その、メリユ様?」
「何でございましょう?」
若いカーレ殿下の照れっぷりもたまらんのだけれど、急にもじもじして俯くメグウィン殿下、何なのこのかわいい生き物はって感じよ!
「もしメリユ様さえよろしければ、今夜は、わ、わたしの部屋でお泊りになられませんか?」
お泊りイベ、来やがったーっ!!
ちょい待ち、ショートなVRテスト版とはいえ、展開速過ぎんか!?
お姉さん、頭の中、どうにかなってしまいそうですわーっ!!
「(ゴク)よろしいのでございましょうか?」
「は、はい」
はわーっ!!
「それでは、ぜひそのようにお願いいたしたく存じます」
「(やりましたわ!)」
今メグウィン殿下、小さくガッツポーズらしきものしなかった?
いや、どう見てもかわい過ぎるんだけど!
「ハ、ハナン、メリユ様がわたしの寝室でお泊りされることになりましたの。
用意の方、お願いできるかしら?」
「承知いたしました」
うわ……ハナンさん、そんなところにいたんだ。
HMDだと気配とか分かんないから、マジビビる!
メイドさん数人とすすすっと引き下がっていくところもプロっぽいなあ。
「ふぅ……できることでしたら、サラマ聖女様もお泊りしていただけたらよろしかったのですが」
銀髪聖女サラマちゃんは、中央教会に戻って教皇様と至急協議しないといけないとかで帰っちゃったんだよね。
せめてお食事くらい一緒に取れたらよかったんだけれどねー。
「……」
んん、メグウィン殿下が何やら熱っぽい視線でわたしの方を見てくるぞな!?
「そ、それにしましても、たった一日でメリユ様が、わたしのお姉様になられるなんて思いもよりませんでしたわ」
お、お姉様?
そういえば、さっき、そう呼ばれたような気も?
「メグウィン、それは、さすがに気が早いのではないか?」
ああ、カーレ殿下と婚姻したら、わたし……んん、メグウィン殿下のお姉さんになっちゃう!?
うおおお、メグウィン殿下に『お姉様』とお呼びいただけるとか、脳内物質がドバドバ出て、かなりマズイことになっちゃいますわー!
「ですが、お兄様はメリユ様とご結婚されるおつもりでいらっしゃるのでしょう?」
「う……」
はえ?
「先ほどだって、ご成長されたメリユ様のお姿に懸想されていらっしゃったのでは?」
「メ、メグウィン、何てことを言うんだ!?」
はわわ、もうどっちを向いていいのか、お姉さん、分からないよ!?
首がおかしくなりそう!
「うふふ、本当、本当にお美しかったですわ、メリユ様。
あんなメリユ様をお姉様としてお慕いできるなんて、はあ、考えただけでわたし……」
ダメだ、スクショじゃ、ダメだ!
これは画面録画必須! 絶対必須!
こんな頬を染めて、恥らって(?)おられるメグウィン殿下、録画以外あり得ない!
こんなの何度だってリプレイ余裕よ、かぁーっ、HMDの覗き孔にスマホのカメラ突っ込んで録画できんか!?
「はは、すまない、メリユ嬢。
メグウィンは昔から姉を欲しがっていてな、先ほどのメリユ嬢の姿が、どうやらメグウィンにとっての姉の理想像に近かったらしい」
ははーん、なるほど!
つまりゲーム本編だと、ヒロインちゃんを『わたしのお姉様になるんだ』って見ていたってことね?
そういう裏設定があるとは知らなかったわ!
シナリオライターさん、グッジョブ!
「そうだったのでございますね」
「しかし、メリユ嬢がわたしの婚約者で、メグウィンの姉か。
本当に一年前は……いや、今朝でさえ、考えもしなかったな」
カーレ殿下は、柔らかいご表情で、妙に盛り上がっている大人=国王陛下、王妃陛下、メリユのお父様の方を眺めておられてる。
「ビアド卿と国王陛下、いや、父上の関係を考えれば、メリユ嬢が王太子妃に押される可能性は普通にあったのだが、その、一年前はメリユ嬢の演技にすっかり騙されてしまって、当時はメリユ嬢との婚姻は全く考えられなかった」
「そうでございましょうね」
ま、あの悪役(我儘)令嬢メリユじゃあね。
『何この女、うざ!』って感じだったでしょうし。
「まさか、その、メリユ嬢が自領や王国のために密かに尽くしてくれているとも知らず、本当に申し訳ない。
オドウェイン帝国の侵攻についても、メリユ嬢に頼り切りになるのかもしれないが、少なくとも力の行使にあたり、メリユ嬢の護りが緩くなるであろうところは我々が全力で護るつもりだ」
うわ、男の子だ。
これって、本来ヒロインちゃん向けの台詞よね?
『全力で護る』とか言われたら、お姉さん、どうにかなっちゃいそう!
「はい、何卒よろしくお願い申し上げます」
「メリユ嬢」
何このすごくいい感じ。
今は十一歳版メリユだから、カーレ殿下がさっきよりかっこよく見えちゃうよ?
「お兄様ばかりずるいです!
わたしもメリユ様とご同行して、必ずやメリユ様を支えてみせますから!」
「メグウィン様、大変ありがたく存じます」
「はい!」
本来の悪役令嬢メリユなら、決してあり得なかっただろう、尊く温かいな光景に、わたしは思わずウルっとなってしまう。
多嶋さんに何か言われなくても、このお二人の笑顔を守りたいとお姉さんは思うのだ!
そのための管理者権限だもんね。
ハードリー、ハードリーちゃんも必ず救ってみせるから、待ってなさいよ!
わたしは思わず握り拳を作ってしまいながら、決意を新たにするのだった。
まだこの時点でもプレイ開始からゲーム内時間で一日半程度しか経っていないんですよね、、、
悪役令嬢メリユの立ち位置は、滅茶苦茶なレベルで変わってしまっていますが、、、




