第43話 悪役令嬢、再度や・ら・か・す
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
外交的・政治的なお話から解放された天使形態の悪役令嬢は、またもやらかしてしまいます。
「ふぅ、では、外交的、政治的なお話はこれまでにいたしましょうか?」
取り合えず、話もまとまったところでみんなでお茶を飲み、落ち着いてきたところで、王妃陛下がマジマジとわたしを見詰めてこられる。
うう、何か嫌な予感がするぞな!
王妃陛下のお人柄は何となく分かってきたように思うのだけれど、カーレ殿下との婚約話とかも多分この人が絡んでるよねー。
「それにしましても、メリユ聖女猊下には驚かされましたわ。
元からあの人、こほん、国王陛下の親友であられるビアド卿の第一子であられる時点で、カーレの婚約者候補には挙がっていたのですけれど、影からの報告にあったあれがご演技だったとは」
「王妃陛下、ご存じでいらっしゃいましたか。
お恥ずかしい限りでございます」
いやー、悪役令嬢メリユの素が、すっかり演技だったってことにされてんじゃんよ!
まあ、わたしが昨日から乗っ取ってるも同然で中身別人な訳なんだけれど、ううむ、どうなってしまうんだってばよ!?
「あの擬態も、神命によるものなのでしょうが、見事に騙されましたわ。
まさか、中身がここまで落ち着き払ったご令嬢、それも神に認められし聖女猊下でいらっしゃるとはね」
「恐悦至極に存じます」
ああ、何これ、もしかして試されイベなの!?
激ヤバな感じがするんだけれど……。
「カーレとの婚約につきましては、やはり、先にメリユ聖女猊下にご神託があったのでございましょうか?」
「……大変恐縮ではございますが、わたしにはそれをご説明申し上げる権限がございません」
さっきも使っちゃったけれど、この言い訳、セーフなのかしらん?
冷や汗止まんね……。
「ふふふふ、すごいわね。
いえ、失礼いたしました、メリユ聖女猊下、これでメグウィンと同い年とは」
「そうでございますね。
我が国のご令嬢で、メリユ様ほど堂々とお母様と対峙できる方は他にいらっしゃらないかと」
んん?
メグウィン殿下も何そんなに目をキラキラさせてるの!?
「メグウィン、『対峙』とはどういうことなのかしら?」
「ぃ、いえ、失言でございました」
「それにしましても何てお美しいお姿……メリユ聖女猊下、もしよろしければ、そのお翼で飛ばれるところを拝見させていただいても?」
あー、王妃陛下もやはりこの天使形態が気になっていらっしゃったってことか。
まあ、メグウィン殿下の母親だもん、性格も似たようなところがあって当然よね?
でも、そんなに悪役令嬢が飛ぶところ見たいものなのかしらん?
ま、お安い御用よってね!
「はい、もちろんでございます。
“VerticalMove 2.0”」
三秒待ってね。
はい、一、二、三っ!
翼がバサバサーッと羽ばたいて、わたしの身体が二メートルほど宙に浮き上がる。
「「「おおお」」」
さっき壁から突入してきたところをご覧になっている皆様方まで驚かれている。
まあ、わたしの自由意思で飛んでいるというのを改めて見て驚いてるってことなのかな?
「これが聖女猊下の聖なるお力!
まさか人が使徒様と同じように宙を舞うことができるとは」
「ええ、本当に!
なんてお美しいのでございましょう!」
ええ、銀髪聖女サラマちゃんまで何涙目になってるかな?
「メリユ様、お背中にお翼のある感覚というのはどんなものでございますか?!」
メグウィン殿下もなんか食い付いてこられるし……うーん、HMDのVRゲームに過ぎないんだから感覚なんてないんだけど、夢を壊すのも悪いわよね。
「そ、そうでございますね。
背中に、腕とはまた異なるものが生えているという感じでしょうか?」
……こ、こんなのでいいのかしらん?
「はあ、すごいです!
メリユ様は使徒様方と同じ感覚を味わわれていらっしゃるのですね!」
くぉっ、罪悪感ぱないわ!
「ふぅ、何て素晴らしいのかしら。
これほどのお力を持つ、聖人の家系を王家が長らく見過ごしていたなんて、本当に信じられないことだわ」
「わたしもそう思いますっ!」
ううう、王妃陛下の眼差しがやばひ!
やっぱり、メグウィン殿下のお母上だわー!
「王国成立後、いくらイスクダー様が密やかにお過ごしになられるのを望まれたのだとしても、王家はもっと報いるべきだったことでしょう。
いいえ、今こそ聖女猊下を王家に迎え入れることで、イスクダー様や幾代ものビアド辺境伯家の聖人の方々に少しは恩を返せることになるのでしょうか?」
「そうでございますね!
そのためにも、お兄様にはもっとご自身を磨いていただかねばなりませんね!」
ええっと、これ大丈夫なの?
王妃陛下とメグウィン殿下の目がちょっと怖いんだけれど!
「……そろそろよろしいでしょうか?」
「ええ、メリユ聖女猊下のご飛翔、大変ありがたく拝見させていただきました。
本当にメリユ聖女猊下のそのお姿がなければ、セラム聖国との交渉自体、あり得ないものだったことでしょう」
あれ?
セラム聖国の使節団(……だっけ?)は、最初から王城訪問予定だったのではなくて?
わたしはてっきり予定通り、銀髪聖女サラマちゃんたちがご訪問されている最中に飛び込んじゃったかと思っていたのだけれど……もしかして、わたしがやからした結果、銀髪聖女サラマちゃんたちが来ることになったってことなのかしらん?
んんん、ちょっと混乱するなー。
「やはり、全ては神の思し召しということなのでございましょうか!」
「そうなのでございましょうね」
はあ、どこまでがイレギュラーで、どこからがシナリオ通りのイベントなのかよく分からないけれど、なんか、また皆様がお祈り体勢に入りかけてて、ゾゾゾッてしてくるぞな。
「“VerticalMove -2.0”」
ま、取り合えず、着地しますわー。
三、二、一……ほーい、着地ーっ!
って、なんでそう、うっとりと見てくるかなー?
「ちなみに、メリユ聖女猊下、そのお姿はいつでも解除できるものなのでしょうか?」
あああ、ヤベ!
すっかり忘れかけていたけれど、メリユの通常形態のデータもらわないといけないのだったわ!
「お母様、メリユ様は、何をされるにも神への手続きが必要になるのでございます!」
メグウィン殿下、ナイス!
訳知り顔でドヤってるのがかわいい!
「なるほど、それを拝見させていただいても?」
うげっ、さすが王妃陛下めざとくていらっしゃる!
というか、多嶋さん、そろそろ気付いてデータ送ってくれてるかな?
「少々お待ちくださいませ」
わたしはHMDを少し外して、ノートパソコンでPC版Li-neを確認。
んんっと、あー『クラウドの方に直接アップしておくね』って着てるし!
多嶋さん、仕事中なのにマジサンクスですわー!
さって、管理者用のクラウドスペースを確認してっと。
……なんかファイル複数個あるんだが……むむ、これか?
“Meliyu_ver0.vrmx”
でいいのかなあ?
“Meliyu_ver1.vrmx”
“Meliyu_ver1-2.vrmx”
とかあるのも気になるんだけど、まっ、いっか!
さっきのバッチのファイル名を書き換え……いやいや、引数で与えられるようにすべき?
まあ、ちゃちゃと書き換えちゃおう!
ほほいのほいっとな!
「ふぅ」
これであとは音声コマンド実行するだけっと。
「“Execute batch for update-avatar-of-meliyu with file-named Meliyu_ver0.vrmx”」
HMDを被り直しながら、コマンドを丁寧に音声入力しながら戻ると、王妃陛下がコンソールをものすごく真剣な眼差しでご覧になられていた!
思わず『ひぇっ』って悲鳴出かけたがな、もう!!
はい、一、二、三っ!
メリユの身体が、メリユの天使ドレスが淡く輝き始める。
うん、さっきの天使形態化でもきれいだったけれど、今回も身体から白い光の粒が周囲に噴き上がっていくのが何とも幻想的だわ。
「お母様、お下がりくださいませ」
「ぇ、ええ」
さっきの変身を知っているメグウィン殿下が王妃陛下の手を引っ張って、距離を取ってくれる。
さーて、元に戻ってくれよう!
わたしは先ほどと同じようにHDRの有機ELが最大輝度になるのを感じながら、少しばかり目を瞑り……そして、瞼裏に感じる光が弱まったところで目を開ける。
「…………」
うん?
何か変?
何か、こう……目線の高さが、あれっ、王妃陛下と同じくらいになってない?
「メ、メメ、メリユ様………」
『うわっ、わたしの○収低過ぎ?』の広告画像みたいに両手口を押さえられているメグウィン殿下……が、あれっ、小さくなってる!?
「メリユ嬢、そ、そ、そのお姿は!?」
カーレ殿下は……あれっ、身長差、かなりなくなってない!?
………こ、これってもしや?
嫌な予感を感じながら、ゆっくりと視線を落としていくと、十一歳のメリユにはあり得ないご立派なお胸がそこに付いていた!
おい、ちょい待てや、女子大生のわたしの胸より大きいやんか!?
って、そんな突っ込み入れてる場合か!?
ええっと、つまり、ver0って本編の学院在学中メリユの3Dデータかよ!
ああああ、やらかしたーっ!
ver1が、多分、十一歳のメリユか!
って、そんなん分かる訳ないやろがーいって、多嶋さんや!
「げ、猊下……!?」
「メ、メリユ聖女猊下、ど、どうされたのでしょうか、そのお姿は?」
あはははっ、そりゃあ、いきなり十一歳の少女がセクシーなお姉さんに変身なんかしたらびっくりしますよねー。
魔法少女ものなら、ステッキで大人の女性にへ・ん・し・んとか定番なんだけれど、乙女ゲー世界でそんなことやらかすなーっ!
しかも魔法のない世界観だからなー、天使形態に続いて、またこんなことになってしまうとは、不注意過ぎる!
さーて、どう言い訳したらいいものか、これしかないか。
「……どうやら、これも神の思し召しのようで、ございます」
「……」
驚き過ぎて、皆様、お言葉を失っていらっしゃるようでございますわー。
あははは……。
……にしても、ドレスも赤くなってるし、フリルとかの装飾だってさっきより豪華になってるし。
こんなドレス、本編にあったっけか?
……あったわ。
国外追放が決まったあの日に悪役令嬢メリユが着ていたのがこれやんかーっ!
あまりの縁起の悪さに、わたしは思わず『オーマイガーッ!』と叫びそうになってしまったのだった。
魔法で大人の女性に変身というのは、魔法少女ものではかなりありふれた展開と言えるでしょう……が、まさか中世舞台の乙女ゲー世界でやらかしてしまうとは、さすがファウレーナさんです(褒めてない
今回はやらかし回(?)ですが、次回以降はもう少し真面目にお話を進めていく予定です。
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