表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
43/322

第42話 悪役令嬢、王妃陛下からの情報に驚く

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

天使形態の悪役令嬢は、王妃陛下から齎された最新情報に驚くことになります。

「なるほど……サラマ聖女猊下、情報共有いただき心より感謝申し上げます。

 それでは、わたくしからも一つ、最新の情報を共有させていただければと存じます」


 銀髪聖女サラマちゃんより『タダ、サラマとお呼びください』と言われても、未だ猊下を付けられ続ける王妃陛下。

 やっぱり、外交の場ということで、お仕事モードということなのかしらん?


 にしても、ゲームプレイ二日目にして、悪役令嬢メリユが外交の場に居合わせているというだけで、何起きてんの!? って感じですわー。

 はあ。


「最新の情報でございますか?」


「ええ」


 王妃陛下はなぜかチラリとメグウィン殿下の方をご覧になられてから、


「つい先ほど早馬で届いたばかりの情報ではございますが、キャンベーク街道が封鎖されました」


 とおっしゃる。

 って……


「「「はっ!?」」」


 そのお言葉に(マイクオフにしていたメリユを除く)応接室にいた全員が思わず、声を上げてしまう。

 銀髪聖女サラマちゃんからの情報でも出てきたキャンベーク街道。

 王都から西の辺境伯領、更にはセラム聖国に通じる重要な街道って話だったはず。


 それが封鎖されているとか、どうなってんの!?

 オドウェイン帝国が予想より早く動いたのか、それとも何かの事故か?


「ば、場所は?」


 いち早く冷静さを取り戻した銀髪聖女サラマちゃんが王妃陛下に問いかけられる。


「西の辺境伯領の手前、王都寄りにございますハラウェイン伯爵領でございます。

 何でも峡谷で大規模な土砂崩れが発生し、キャンベーク川が堰き止められているとか」


「ハ、ハラウェイン伯爵領でございますか!?」


 王妃陛下のお言葉に、思わず立ち上がられるメグウィン殿下。

 ハラウェイン伯爵領って……ああ、そっか、メグウィン殿下とヒロインちゃんの親友、ハードリーちゃんの地元じゃない!?

 ああ、もう、オドウェイン帝国が攻め込んでくるってだけでも大変なのに、何てイベント突っ込んでくるかな、シナリオライターさんは!


「王妃陛下、それはキャンベーク街道も埋まったということでしょうか?」


 冷静さを保っているカーレ殿下が、王妃陛下にそう尋ねられる。

 うん……確かに街道が埋まって復旧できないという状況であれば、オドウェイン帝国が越境してきても侵攻が遅れる可能性はあるものね。


「いいえ、街道の対岸側だそうで、今のところ街道には直接被害はないとか。

 タダ、堰き止められた部分が決壊すると、下流にある街道も大きな被害に遭うことが考えられるため、ハラウェイン伯爵が封鎖を決められたということでございます」


 あー、堰き止め湖がかなりの規模になり始めているってことか?

 キャンベーク川を堰き止めてる土砂ダムが崩壊すれば、巨石なんかに加えて土砂崩れで発生した木々なんかも混じった土石流が一気に流れ出る訳だから、大災害になりかねないわねー。


「なるほど、では最悪の場合、ハラウェイン伯爵領に大被害が生じて、混乱している最中にオドウェイン帝国軍が侵攻してくる可能性もある……ということでございますか」


 銀髪聖女サラマちゃんも深刻そうな表情で、最悪な場合の可能性の一つを示す。

 うん、確かにそうなるのよね。

 土石流による大被害の救助、復旧作業の最中に攻め込まれでもしたら、大混乱は必至。

 そもそも土石流の被害がなくても、先遣五万に対処できる軍備もない小国であるミスラク王国には酷過ぎる事態だわ!


 って、まさか、これも管理者権限で何とかしろって事態なの!?


 わたしはシナリオライターさんの意図を考える。

 いや、(ああは言って実は)多嶋さんが何か仕込んでいる可能性もあるだろうけど、管理者権限が使えるってことは、まあ何だってありなのよね?

 水が粒子法シミュレーションなのだとして、基本瓶みたいなサーフェースモデルの中に閉じ込められる訳だから、環境パラメータ全オフで作成した平面一枚でも黒部ダム級のダムは作れる訳か?


 はは、見た目そんなじゃ恐怖だから、厚みは持たせた方がいいだろうけれど、崩壊なんてあり得ないダムの作成で大規模災害の回避は可能って訳ね!


「そ、そんな……お母様、ハードリー様たちはご無事なのでしょうか?」


「ええ、今の時点では、ハラウェイン伯爵家の方々は皆ご無事だそうよ。

 タダ、堰き止めている土砂の高さまで水面が到達するのに三日もかからないかもしれないということで、救援要請が出されています」


「も、もし決壊すれば、ハラウェイン伯爵領はどうなるのでしょうか!?」


「ブドウの産地であり、ワインの主要の生産地でもあるハラウェイン伯爵領は大打撃を蒙るでしょうね」


「ああ、ハードリー様!」


 きっと(近い内に起こり得る)その大打撃に悲嘆に暮れる親友のハードリーちゃんを想像されたのだろうメグウィン殿下が泣きそうな表情を浮かべられる。


「ぉ、お母様、もちろん救援隊は派遣していただけるのでございますよね?」


「一応送りはしますが、我が国の土木技術では、決壊を防ぐことは不可能でしょう。

 あくまでハラウェイン伯爵領の民の避難誘導を助けるので精いっぱいでしょうね」


「そんなっ………」


 ついにまたメグウィン殿下の目尻から涙が零れる。


「メグウィン」


 メグウィン殿下を心配そうにする見られるカーレ殿下。

 涙をポロポロと零されていたメグウィン殿下は、急にハッとしたようにわたしの方をご覧になられる。


「そ、そうだわ、メリユ様、メリユ様なら」


 翼を広げたまま(隣に)座っていたわたし=メリユに近付かれるメグウィン殿下に、わたしも立ち上がり、椅子を押し下げると、メグウィン殿下は抱き付かんばかりの勢いで近寄られ、わたしの手をギュッと握ってこられるのだ!


「メリユ様、どうかメリユ様、ハードリー様を、ハラウェイン伯爵領の皆様をどうかお助けくださいませ!」


 ううっ、メグウィン殿下にそんなに目をウルウルさせて迫られると、ぐむっ、む、胸が苦しっ!

 何この神展開!

 悪役令嬢メリユにメグウィン殿下が泣いて縋ってこられるとか、これもまた超展開過ぎますわー!


「メグウィン、無理を言うものではありませんよ」


 王妃陛下がそう窘められるものの、


「分かっております!

 わたしが勝手なことを言っているということも、メリユ様に神より課せられた多くの制約があるということも存じておりますっ!

 それでも、どうかあのバリアか何かでハラウェイン伯爵領の皆様をお守りくださいませ!」


 メグウィン殿下は更に距離を詰めて来られる!

 あああ、顔がガチで近い!

 HMDだと、ぱないですわーっ!


 って、そんなこと言ってる場合か!?


 落ち着けわたし!


「ご安心くださいませ。

 わたしはそのためにここに来たのでございます」


 演技するのは好きだけれど、声が震えてしまいそう。

 実際、AIには、わたしの声音、抑揚なんかはちゃんと伝わっているのだろうか?

 棒読みでも変わんなかったりは、しないわよね?


「メリユ様っ!?」


「おお、メリユ嬢、オドウェイン帝国の侵攻だけでなく、ハラウェイン伯爵領の民も救っていただけると!?」


 カーレ殿下まで席を立たれて、驚かれているご様子。

 これは、うまくいったのかしらん?


「メリユ様、メリユ様ぁ、あ、ありがとう存じますっ!」


 うおおお、やっぱ実際にメグウィン殿下に手を握られてみてぇ!

 HMDの視界では、こんなに手をギュッとしてもらってるのに、何の感触もないなんて物足りな過ぎる!

 いや、けれど、何にせよ、うれし泣きのメグウィン殿下が3Dで動いているのが尊過ぎる!!

 わたしは暫く恍惚となりながら、メグウィン殿下を慰めるのだった。






「はあ、メリユ聖女猊下、メグウィンが無理を申し上げてしまい誠に申し訳ございません。

 ハラウェイン伯爵領をご救援いただけるとのこと、ミスラク王国王妃として心よりお礼申し上げます」


「いいえ、ご過分過ぎるお言葉を賜り恐縮な限りでございます」


 ありゃ、何か言葉選びミスった気が! 『ご過分なお言葉』が正解か!?

 リアルタイムでAI生成の会話に付いていくの、マジ冷や汗ものだわ!

 うん、このゲーム、陰キャにはハードル高過ぎかも。


 これ実際、かなりのコミュ力ないと、プレイできんよね?


 乙女ゲーやり込んでるわたしだから、何とか会話繋いでるけれど、正直余計なことをいつ言ってしまうか分からなくてかなり怖いわ!


「神より代理行使を求められた神聖なるお力でございますか。

 実際のところ、堰き止められたキャンベーク川を何とかできるものなのでございましょうか?」


「お母様っ!」


 王妃陛下は宙に浮かんでいるティーカップをご覧になられながら、尋ねてこられる。

 まあ、ティーカップを浮かせるのと、土砂ダムを何とかするのでは規模が違い過ぎるものね。

 ご心配になられるのも無理はない。


「もちろんでございます。

 管理者権限を用いてハラウェイン伯爵領の皆様のご安全を確保しながら、必ずや解決してご覧に入れます」


「そうでございますか。

 何卒よろしくお願い申し上げます」


 さすがはお仕事モードの王妃陛下。

 真面目かってな感じよね。


「確かに拝命いたしました」


「拝命などと……わたくしには、神に認められし聖女猊下に命ずることなど叶わないでしょう。

 タダお願い申し上げるだけでございます」


 むむ、今王妃陛下、ニヤッと笑われたような。

 どういう意味なのかしらん?

 いや、そもそも聖女って王妃陛下が遜られるような立場?

 何だかからかわれているような気も……はあ、こういう貴族的な駆け引きって難しいものね。


「あとで国王陛下とも協議する予定ではございますが……王妃陛下、ハラウェイン伯爵領の救援には、わたしが向かってもよろしいでしょうか?」


 おお、カーレ殿下?


「そうね……それがいいでしょう」


 それって、カーレ殿下もわたしと同行されるってことよね?

 え、何、ドキドキするんだけど!?


 婚約って話だけでも、ドギマギものなのに、もしかして救援行く途中にも好感度上昇イベありってこと!?


「カーレ、ハラウェイン伯爵領には、メリユ聖女猊下による救援だけでなく、今後王都騎士団と近隣領軍の通過があることもお認めいただかなくてはなりません。

 ハラウェイン伯爵領の問題が解決すれば、すぐにゴーテ辺境伯領に向かい、オドウェイン帝国の侵攻に対する準備を進めるようになさい」


 いやー、国王陛下は国王陛下だなーとは思っていたけれど、王妃陛下も政務、軍務に関わられているのね、この国。

 なんかすごいわ。


「お母様、わたしはメリユ様の専属護衛隊の指揮を執りたく存じます。

 どうかお許しくださいませ!」


「「「はっ!?」」」


 ……は?

 メグウィン殿下、何言っちゃってるの!?


「なりません!

 デビュタントどころか学院にすら入学していない貴女が、護衛隊の指揮なんて執れる訳ないでしょう?」


「では、なぜわたしと同い年であられるメリユ様を最前線に立たせるようなことをお認めになられたのでしょうか?

 そもそも、オドウェイン帝国の侵攻を許せば、わたしも王族として処刑されるのです。

 それならば、メリユ様と最前線で並び立ち、お支えいたしたく存じます!」


 はあっ!? 何このエモい展開っ!?


「はあ、貴女はハードリー嬢が心配なだけではなくて?

 本当にメリユ聖女猊下をお支えする気があるというのですか?」


「も、もちろんでございますっ!

 ハラウェイン伯爵領のご救援はもちろん、王国防衛を果たすそのときまで片時もメリユ様のお傍から離れる気はございませんっ!」


 またも超展開来たーっ!

 『片時も離れない』とか、もうお姉さんドキドキが止まらないですわーっ!!


「はあ、頑固なのはあの人譲りですか……。

 仕方ありませんね、近傍警護を王都と先遣で分けるのもまずいでしょうし、メグウィンも同行を許しましょうか……」


 ふわあ、カーレ殿下+メグウィン殿下同行イベとか、マジで神がかってますわー!

 わたしの心臓もつかしらん?


 わたしがチラッとメグウィン殿下の方を見ると、


「やりましたっ!」


 思わずガッツポーズらしきものをしかけたメグウィン殿下に、


「メグウィン!」


 王妃陛下が叱るように名前を呼ばれる。


「し、失礼いたしました」


 謝罪するもホクホク顔のメグウィン殿下、いや、何これ、超スクショしたい!


「ティティラ王妃陛下、メリユ聖女猊下、カーレ第一王子殿下、メグウィン第一王女殿下、わたくしどもは、聖騎士団の編成もございますので、少々遅れて追いかけることになるかと存じますが、よろしいでしょうか?」


 そんなところに銀髪聖女サラマちゃんも加わる!


「もちろん、構いません。

 セラム聖国にご後援いただけるだけでもどれほどありがたいことか」


「はい、現地でお待ちしております」


 うー、そっか。

 銀髪聖女サラマちゃんは、さすがに一緒には来られないか。

 ハラウェイン伯爵領のイベントが急過ぎたのよねー、というか、これもシナリオライターさんの意図通り?


 正直、先が読めないシナリオ展開に感心しつつも、わたしは期待に胸を膨らませてしまうのだった。

次から次へとイベントが発生していきますね(汗

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] よくある悪役令嬢ものかと思いきや、一風変わった設定で面白いです。 何より文章が柔らかくてすごく読みやすいです。 王女殿下の暴走っぷりがいいですね。 主人公との関係がどうなっていくのかすごく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ