第41話 悪役令嬢、王妃陛下にまで勘違いされかける
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
天使形態の悪役令嬢は、突然乱入(?)してきた王妃陛下に使徒と勘違いされかけます。
「お話は全て聞かせていただいたわ!」
この声、そしてこのお姿は……またしても、ティティラ王妃陛下!???
いや、王妃陛下って、こんなキャラだったっけ?
国賓がいる状況で、いきなり突入してくるとか、マジで大丈夫なの? とか思っていると、
「っ…………」
あ、王妃陛下フリーズした。
え、何、わたし見てフリーズしてる?
というか、王妃陛下の護衛の皆さんもフリーズされているわね。
ああ、これ=天使形態のせいか?
なんか、いつの間にか、ここにいる人たちには受け入れられてたんで忘れていたけど天使形態のままだったわ。
あはは、そりゃ、フリーズしても、無理ないですわー。
「は、はは、ぉ、王妃陛下」
「お母様、またでございますか……」
カーレ殿下とメグウィン殿下が『またか』という顔をされている。
なるほど、これは……よくあることなのね?
「し……使徒様ぁぁぁ!?
こ、こ、これは大変失礼いたしました!!」
膝を付かれてわたしを拝み始めるティティラ王妃陛下。
王妃陛下の護衛の女性騎士様たちも膝を付いて拝み始めている。
………ああ、メグウィン殿下たちの過剰反応に慣れてきたせいで麻痺しかけていたけれど、やっぱりこのゲーム異常状態入ってるわ。
王妃陛下に拝まれる悪役令嬢とか、いよいよ行くとこまで行っちまったな。
いや、ホントにヤベーよ、このゲーム。
「ぉ、お初にお目にかかります、ミスラク王国が王妃ティティラ・レガー・ミスラクでございます」
突然自己紹介を始める王妃陛下に、部屋に最初からいた皆の方がフリーズする……。
「………ぉ、お母様、こちら、メリユ様でございますが?」
「は?」
「メリユ様です」
「メリユ嬢………?
確かに赤い御髪と、かわいらしいそのご尊顔は………まさか、本当にメリユ嬢なのですかっ!?」
目を剥いてクワッとわたしを見てこられる王妃陛下。
少し怖い……。
「はい、そうでございます」
「ま………」
「ま?」
「まあまあまあ、何ということでしょう!?
あのメリユ嬢がこのようなお姿に!? メグウィン、一体どういうことなのか説明なさい!」
ああ、これは間違いなくあの王妃陛下ですわ。
朝食のときにお会いしたときから、そういう雰囲気は感じ取っていたけれど、こういう感じなのね。
でも、やっぱりお若い!
「影からその辺りはお聞きになっていらっしゃなかったのでございますね。
メリユ様は神より仮初ながら使徒様のお姿を下賜されてまして、このお姿になられたのでございますわ」
「な、何ですって!?
神より使徒様のお姿をっ!??」
「はい、それでご来城されたセラム聖国中央教会のサラマ聖女様からも聖女とご認定いただきました」
「何てこと!
メリユ嬢が聖女様で、聖女様が使徒様で、使徒様がメリユ嬢だなんて」
「ぉ、お母様、落ち着いてくださいませ」
「落ち着いている場合ですか!?
では、メリ、いえ、聖女様のお姿は、仮初とはいえ、本当に使徒様同然のものということでしょうか?」
「はい、そうでございます」
今度は、銀髪聖女サラマ様がお答えになられると、王妃陛下も失態に気付かれたらしい。
「こ、これは大変失礼をいたしました!
ご挨拶の順を逸してしまいお詫び申し上げます。
お初にお目にかかります、ミスラク王国が王妃ティティラ・レガー・ミスラクでございます」
「わたくしはセラム聖国中央教会で聖女を務めさせていただいております、サラマ・
サンクタ・プレフェレ・セレンジェイと申します。
ここでは、猊下の方が遥かに目上でございますので、どうぞお気になさらないでくださいませ」
遥かに目上!?
いやいや、銀髪聖女サラマちゃんは一応大国セラム聖国の聖女様よね?
「猊下とは、聖女様、いえ、メリユ嬢のことでしょうか?」
「はい、仮初とはいえ、使徒様の姿を下賜された聖女は、猊下が初めてかと存じます」
「そうなのですね。
サラマ聖女猊下、猊下は、メリユ嬢、いえ、メリユ聖女猊下とカーレの婚約をお聞きになられましたか?」
「はい」
おいおいおい、いきなりカーレ殿下との婚約の話が出てきてるんですけど!?
「猊下がミスラク王国の北の辺境伯令嬢であるとは伺いましたが、第一王子殿下とのご婚姻につきましては、セラム聖国中央教会としても簡単に見解を出すのは難しいかと。
聖女、聖人はセラム聖国中央教会にて聖務を行うこととなっておりますので」
はあ!?
悪役令嬢メリユが聖国で聖務を行う!?
いや、もう意味が分かんないですわっ!
「しかし、イスクダー様の際は」
「はい、承知しております。
イスクダー様の際は、極秘の取引でそうなったとの記録は拝読しております。
しかし、いくらわたくしが聖女の立場にいるとはいえ、わたくし一人でその判断をすることはできません」
「そうですか、承知いたしました。
その辺りは戦後に話し合せていただくことといたしましょう」
「そうでございますね」
……何やら、勝手に外交取引が進んでいっているような。
って、王妃陛下がカーレ殿下の両肩に手を置いて、
「カーレ、必ずや聖女様のお気持ちを繋ぎ止めておきなさい!
いいですね?」
とんでもないこと言い始めた!
「は、はい、王妃陛下!」
「ことは王国の今後を左右します。
絶対に逃してはなりませんよ」
「も、もちろん、承知しております!」
えぇぇ……これって、わたし=メリユの気持ちを繋ぎ止めておけってこと!?
ぃ、いや、そりゃ、ミスラク王国として聖女(?)メリユを手放したくはないって判断なのだろうけれど、カーレ殿下にそんな顔されてしまうと、うぅぅ、困っちゃいますわ!
え、何、このゲーム、完全にメリユ・スピンオフで、本当にメリユがカーレ殿下と結婚しちゃっていいの!?
わたしがドキドキしながらカーレ殿下を眺めていると、すぐ傍のメグウィン殿下がジト目で(さっき抱き付いていた)カーレ殿下を睨んでいるのに気付いてしまったのだった。
んんん、なぜに!?
まあ、こんな状況では、悪役令嬢が婚約者候補筆頭で確定ですかね。




