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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第39話 王女殿下、聖国聖女猊下からの話を聞き、悪役令嬢の真意に気付く

(第一王女視点)

第一王女は、聖国聖女から『帝国の通告』について話を伺い、悪役令嬢が表舞台に立つことを決めた真の理由に気付きます。

[ブックマーク、ご評価いただきました皆様方、心よりお礼申し上げます]

 わたしはミスラク王国が滅亡の瀬戸際から一気に救い上げられていく様を目の当たりにしていた。

 そう、全ては聖女であるメリユ様が、ご来城された一日前から始まり、今やあのセラム聖国までミスラク王国の味方についてくださろうとしているなんて、夢のようだ。

 たとえ神のご慈悲がミスラク王国に向けられているのだとしても、メリユ様がこうして積極的に動かれなければ、王国の運命をこれほどの短時間で捻じ曲げることは不可能だっただろうと思う。


「はあ、うぅ、メリユさ、メリユ聖女猊下、本当にありがとう存じます」


 もしここにサラマ聖女様やお兄様がいらっしゃらなければ、またわたしは感情の赴くままにメリユ様、いえ、メリユ聖女猊下に抱き付いていただろう。

 それを必死に抑え込んでいても、涙が少し滲んでくることくらいは許して欲しいと思う。

 何せ今わたしは王国の歴史に残る奇跡のまっただ中にいて、その奇跡を引き起こしたメリユ聖女猊下の前にこうしているのだから。


「メグウィン第一王女殿下、わたしも今まで通りお呼びいただければと存じます」


 そんなわたしに、変わらない穏やかさでメリユ聖女猊下、いえ、メリユ様が微笑まれ、今まで通りに呼んで欲しいと告げられる。

 そんな神々しい使徒様と同じお姿であられるのに、わたしとの距離を再び近付けてこられるメリユ様に、わたしの心臓は今にも身体の外に飛び出してしまいそうなほどに飛び跳ねる。


 何せ、大国=セラム聖国のサラマ聖女様に即聖女認定され、『猊下』と敬われるようなメリユ様にそんなことをおっしゃっていただいたのだもの。


「よ、よろしいのでしょうか?」


「はい」


 わたしが確かめるようにそう問うても、メリユ様は笑みを深くされるばかり。

 そんなメリユ様に、わたしの中でたくさんの感情が暴れ出し、言葉にしたい思いの数々が溢れ出してしまいそうになる。


「メリユ様、心よりお礼申し上げます。

 本当にメリユ様は、全てをお見通しでいらっしゃるのでございますね。

 本来は、お茶会の席で急なご婚約のことについてご説明申し上げる予定だったのございますが、急なご来客で予定が変わり……サラマ聖女様との会談の席に恐縮ながら、ご同席いただこうと考えておりましたところ、急に使徒様のお姿でご降臨されました際は心臓が止まるかと思いました」


 神よりご神託があったのか、それともメリユ様がわたしたちの動向に常に気を配られていたのかは分からない。

 それでも……少なくとも、神のお膳立てがあり、メリユ様もサラマ聖女様に聖なるお力とお姿をお示しになられるのに絶好のタイミングで動くことができるようご準備されていたことだけは確か。


 もしわたしがメリユ様と同じ立ち回りを求められたとしたら、心労でそれだけで潰れてしまうだろうと思う。


 お兄様との急なご婚約のお話だって、たとえ神よりお告げがあって把握されていたのだとしても、普通の貴族令嬢であれば、冷静に振る舞い続けることなど不可能だろう。

 本当に、これほど無茶な立ち回りを立て続けにこなされていて、微笑みを絶やさずにいられるメリユ様には尊敬の念しか湧いてこない。


「いえ、待って……」


 もう少しでメリユ様のお手を握り締めに行きそうになりかけていたところに、サラマ聖女様の呟きが耳に入り、わたしは我に返る。

 心配そうなカロンゴ様、エリヤス様の間で、サラマ聖女様は深刻そうなご表情で俯き、何かを考え込まれているご様子だった。


 そして、お考えをまとめられたのか、軽く頷かれて、顔を上げられたサラマ聖女様は


「メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下、カーレ・レガー・ミスラク第一王子殿下、メグウィン・レガー・ミスラク第一王女殿下に至急お伝え申し上げたいことがございます」


 改まったご様子でそう切り出されたのだった。


「何でございましょうか?」


 わたしがそう問わせていただくと、


「わたくしが教皇猊下とご一緒に貴国の中央教会への派遣されることが決まった際、オドウェイン帝国から一方的な通告があったのでございます」


 サラマ聖女様は、まっすぐにメリユ様やわたしたちを順にまっすぐに見詰められながら、オドウェイン帝国からセラム聖国へ通告があったことを告げられたのだ。


「一方的な通告?」


「はい、わたくしたちの使節団が通ってまいりましたキャンベーク街道は、セラム聖国から直接ミスラク王国に抜けておりますが、オドウェイン帝国との国境ともかなり近い位置にあるのはご存じの通りかと。

 そのオドウェイン帝国とセラム聖国の国境付近で大規模な演習を近々やる予定で、場合によっては越境もあるかもしれないが目を瞑って欲しいという一方的な通告でございました」


 それは……どういうこと?

 キャンベーク街道は、メリユ様が守られてきた北の辺境伯領を通っておらず、隣の西の辺境伯領を通っているはず。

 あの辺りはかなりの山岳地帯で、峡谷に沿ったキャンベーク街道でのみ、王国とセラム聖国間の行き来はできるけれども、オドウェイン帝国に通じる道は一切なく、いくら国境線が近いとはいえ、王国もセラム聖国も帝国に対しての防備は一切していない。


 いえ、そもそも帝国だって、あの山岳地帯で多少の越境をしても、その先には進めず、王国やセラム聖国にちょっかいを出せないという前提で、表向き、そういう通告をしているに違いないのだ。


 けれど、もしその前提が崩れていたら?


「まさかっ!!」


 お兄様がダンッと音が出るほどテーブルに手を叩きつけて立ち上がられる。


「ソルタのいる西の辺境伯領側から攻め込もうとしているということか!?」


 西の辺境伯領から……オドウェイン帝国が我がミスラク王国を攻め込もうとしていると?


 っ、何てこと!

 西の辺境伯領が接しているのは、王国を取り囲む大国の中でも一番友好的なセラム聖国で、防備が一番薄いのよ!?


「まさか、帝国は王国侵攻のために、キャンベーク街道に向けて山岳部を抜ける道を敷設しているということでしょうか?」


 わたしは嫌な汗が噴き出すのを感じながら、お兄様に尋ねる。


「おそらく、そうだろうな。

 まずい、西の辺境伯領から北の辺境伯領へはまともな道がないはず。

 北の辺境伯領の支援を受けようにも領軍の移動には迂回をしなければならないし、北の辺境伯領の防備が手薄になっても、常に軍を張り付かせている帝国に付け入れられるだけだ!」


「………っ!!」


 いえ、待って!

 そもそも北の辺境伯令嬢であられるメリユ様が動かれたのはなぜ?


 帝国がすんなりと北の辺境伯領に攻め込むのであれば、メリユ様が王城にご来城される必要はあったかしら?

 北の辺境伯領で密かに聖なるお力を行使され続けてきたメリユ様が、こうして表舞台に立たれることにされたのは……まさか!?


「メグウィン?」


「メ、メリユ様は……その、西の辺境伯領での防備に、直接当たられるよう、此度ご来城を決意されたということなのでございましょうか?」


「なっ! 何だって!?」


 このサラマ聖女様からいただいた情報は本当にゾッとするようなものなのだけれど、それでも顔色一つ変えずにいらっしゃるメリユ様は……やはり、西の辺境伯領での防備で、表舞台に立つための立場を得るために動かれていたということなの?


 なんてこと!!

 メリユ様は、サラマ聖女様からの情報を得られる前から、オドウェイン帝国の動向を察知されて、王国を守るために動かれていたんだわ!


「やはり、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下は全てをご存じの上、動かれていたということでございましたか」


 サラマ聖女様が口元を手で押さえられ、目を赤くされている。

 いえ、サラマ聖女、聖国を味方に付けられたことでさえ、未だに信じられない思いだというのに、サラマ聖女様からこの情報を引き出され、王国がどこを守るべきか示されただなんて、本当に身体の震えが止まらなくなってくる。


 きっと、メリユ様は、お持ちの権限の都合上、わたしたちに直接お伝えになれないことがたくさんあるはず。

 それは、まさに超越者でいらっしゃるからこその戒めと言ってよいものだろう。


 それをうまく回避しつつ、わたしたちに情報が通るようにここまで立ち回られ、今こうして西の辺境伯領からの侵攻可能性を実際知ることができたのは、本当にメリユ様のご努力、ご尽力の賜物だと思う。


「メ、メリユ様」


 それだけではない。

 メリユ様は、この状況を作り出された上で、御身自ら、国防のために帝国に立ち向かわれるおつもりだなんて……どうしてそこまで心を律して聖女として振る舞われることができるのだろうと思ってしまう。


「メ、メリユ嬢……」


「猊下」


 いえ、そこまでの御心をお持ちのお方だからこそ、セラム聖国中央教会に残る聖人の方々の記録にもないような使徒様のお姿を神より賜れられたのだろう。

 わたしは軽く頷かれるメリユ様を見て、心の中で花びらが舞ったような気がした。


 敬愛の心が芽生えるというのは、きっとこういうことなんだと思う。


 お歳は同じとはいえ、メリユ様が本当にわたしのお姉さまになられたなら、きっとわたしはメリユ様をお手本として敬い、いつも傍に寄り添ってお手伝いをし……そして、甘えたい気持ちを抑えられなくなるに違いない。


 ……っ!

 って、わたしは何を考えているの!?


「メリユ嬢、あなたは、本当に西の辺境伯領で王国の防備に当たられるために、そして、王国の民の命を救うために、これまで動かれてきたのか?」


 全ては、王国を守るため。


 今までのように北の辺境伯領でこっそりとご活躍され続けるだけでは済まなくなったために、メリユ様はこうして動かれてきたのだわ。

 本当に、本当に、これほど聖女様に相応しいお方が他にいらっしゃるかしら?


「ああ」


 再び軽く頷かれるメリユ様に、お兄様でさえも目に涙を浮かべられる。

 お兄様がそんなお顔をされてしまったら、わたしは、もう涙を止められなくなるに決まっているのに。


 わたしは今にも零れそうになってきた涙を手で拭いながら、(珍しく照れられたように)軽くお翼を羽ばたかれるメリユ様を眩しく思いながら、見詰め続ける。


 そう、今ここに起きている奇跡は、わたしの魂の中で一生輝き続ける記憶として残るのだ。

 わたしはそう確信したのだった。

振替休日活動中です。

なかなか余裕がなく、更新が遅れまして申し訳ございません。

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