表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
39/322

第38話 聖国聖女猊下、悪役令嬢を聖女認定する

(聖国聖女猊下視点)

天使形態で現れた悪役令嬢について第一王女が経緯を説明し、聖国聖女猊下は、悪役令嬢を聖女認定します。

 それから、わたくしたちは、メグウィン第一王女殿下から使徒様=メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下が今のお姿になられるまでの経緯を伺った。

 ミスラク王国の片隅、いえ、オドウェイン帝国と接し、いざこざの絶えないビアド辺境伯領で、領民に危害が及ばないよう密かに聖女としてご活躍されていたという猊下が、此度本格侵攻を決めたらしいオドウェイン帝国の動きを察知して、表舞台に立たれるご決意をされ、今に至ったというお話。

 それはいかにもそれらしいお話で、殿下が嘘をつかれているご様子はなかったものの、そう簡単に受け入れられるものではなかった。


 無論、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下が聖女であられることを否定するつもりはない。


 これほどの奇跡を起こされ、天界に近衛騎士団を招かれたというお力と権限をお持ちの聖女猊下は、間違いなく聖なるご存在であらせられるのだ。

 しかし、聖女猊下が……タダの貴族令嬢から、神により聖女に認められたというところには疑念がある。


 デビュタント前の貴族令嬢とは到底思えないほどの落ち着かれた雰囲気と、あの聖女猊下と触れ合わさせていただいた際に感じられた深い慈愛の御心。


 メグウィン第一王女殿下はお気付きになられておられないようだが、セラム聖国の聖女として、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下は、神より遣わされた使徒様が受肉されたご存在であられるとしか思えないのだ。


「アルーニー、ギシュ」


 わたくしは、紙片を取り出すと、教会上層部とその側近にしか伝わらないはずの暗号を短く記してアルーニーとギシュに手渡す。


『使徒様受肉の可能性あり』


『聖騎士団派遣の必要性あり』


 額より汗を伝わせながらアルーニーとギシュがさっと暗号に目を通して、同意を示すように頷く。

 やはり、二人にとっても聖女猊下が元々タダの貴族令嬢だったという説明は受け入れ難く、わたくしが考えたように、使徒様受肉の可能性に同意してくれたようだ。


「メグウィン第一王女殿下、詳しくご説明いただき心より感謝申し上げます」


「いえ、わたしも……メリユ様のこととなりますと、なかなか心を落ち着かせることができず、つたない説明となりました点がございましたら、申し訳ございません」


 頬を上気させたようなご様子のメグウィン第一王女殿下に、わたくしも思わず同情したくなってしまう。

 正直なところ、今教皇猊下にお会いしても、うまくご報告できる自信がないほどには、わたくしも使徒様=聖女猊下に心を揺れ動かされてしまっているのだ。


「そんなことはございません、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下のご事情、よく理解することが叶いました」


 わたくしがそう申し上げると、メグウィン第一王女殿下は驚いたように目を見開かれ、


「サンクタ? せ、聖女……猊下?」


 と呟かれる。

 そう、わたくしが『サンクタ』の称号と『猊下』を付けて、聖女猊下のお名前を口にさせていただいたのはこれが初めてだったのだ。


「メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下、今のお話に間違いなどございませんでしたでしょうか?」


 わたくしは、心臓の高鳴りがまた酷くなってくるのを感じながら、お翼を広げられながら微笑みを絶やされない聖女猊下に確認を取る。


「もちろん、ございません」


 なるほど、表向き、聖女猊下は、使徒として彼女に受肉した可能性を匂わせることさえもされたくないということでいいようだ。

 お言葉は最小限。

 何度か権限がないとおっしゃられたとのことだが、やはり不必要なことは可能な限り言葉にされないおつもりなのだろう。


「サ、サラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下、メリユ嬢を聖女とお認めいただけるということでよろしいだろうか?」


 今まで口を閉ざされてきたカーレ第一王子殿下が、前のめりになられて、そう問われられる。

 やはり、セラム聖国を代表してきているわたくしが、聖女猊下を聖女認定するかどうかがミスラク王国として一番気がかりだったところなのだろう。


「ええ、これほどの奇跡を拝見させていただきながら、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下を認めない愚か者などセラム聖国中央教会にはおりません。

 それより、メリユ嬢とは……いささか不敬ではございませんか?」


 わたくしとて、見た目の幼さ故に他国で軽んじられることはよくある。

 それでも、聖務をこなしているところを見せ付ければ、誰だって黙るものだ。

 聖女猊下は、それ以上の奇跡を見せ付けられていらっしゃるのに、カーレ第一王子殿下はどういうおつもりなのだろうか?


「サラマ聖女さ……猊下、兄はメリユ様の婚約者なのでございます」


 わたくしは、驚きのあまり、一瞬言葉に詰まる。


「………そうなのでございますか?」


 使徒様の受肉された聖女猊下が小国の第一王子殿下と婚約?

 聖女猊下が『救国の奇跡』を起こされることを邪魔するつもりはないが、その後、聖女猊下が最終的に王妃に収まるような事態は、セラム聖国として見過ごすことはできない。


 わたくしは、思わず聖女猊下の方を見詰めて、また心が苦しくなってくるのを覚えてしまう。


 今のお話が出ても全く動揺をお見せなさるようなこともなく、全てをお許しになられるような笑みを浮かべられている聖女猊下は……この小国=ミスラク王国をどうされるおつもりなのだろう?


「サラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下、これは大変失礼した……。

 わたしもまだ婚約したてで……彼女との距離をどう近付けていったらよいものか分からないのだ」


「いえ、わたくしのことは、ただ、サラマとお呼びいただいて構いません。

 しかし、猊下はそうもいきませんでしょう」


「そ、そうなのでございますか?」


 メグウィン第一王女殿下が困惑したようにわたくしにお問いになられる。


「はい、経典はもちろん、聖人についての記録がある聖典でも、使徒様のお姿を下賜されたような聖人の存在は記されておりません。

 猊下は、聖女としても特別なご存在であらせられるのでございます」


「お、あ……そ、そうなのか?」


 頬を赤く染められたカーレ第一王子殿下も、わたくしの言葉に動揺されたようだ。


「はあ、カーレ第一王子殿下、わたくしとて、ミスラク王国が何を望まれているのか分かっているつもりでございます。

 メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下が動かれるということでございましたら、セラム聖国中央教会は聖騎士団を派遣させていただきます」


 正直なところ、カーレ第一王子殿下を安易に喜ばせるようなことを、この場で言いたくはなかった。

 それでも、セラム聖国の中央教会としては、聖女猊下の動向を常に押さえていく必要が出てきてしまったのだ。


「そ、それは……つまり」


「はい、オドウェイン帝国が本当に侵攻を行った場合、セラム聖国としてそれを認定し、状況次第で帝国を非難することとなるでしょう。

 特に聖騎士団に手出しした場合につきましては言うまでもございません」


「おお……」


「お兄様!」


 メグウィン第一王女殿下が喜び勇んで、兄であるカーレ第一王子殿下のお手に握られる。

 やはり、急な会談であっても関わらず、殿下お二人がご対応されたのは、この言質を引き出したかったというところも大きかったのだろう。


「はあ、うぅ、メリユさ、メリユ聖女猊下、本当にありがとう存じます」


「メグウィン第一王女殿下、わたしも今まで通りお呼びいただければと存じます」


「よ、よろしいのでしょうか?」


「はい」


「メリユ様、心よりお礼申し上げます。

 本当にメリユ様は、全てをお見通しでいらっしゃるのでございますね。

 本来は、お茶会の席で急なご婚約のことについてご説明申し上げる予定だったのございますが、急なご来客で予定が変わり……サラマ聖女様との会談の席に恐縮ながら、ご同席いただこうと考えておりましたところ、急に使徒様のお姿でご降臨されました際は心臓が止まるかと思いました」


 ……はい?

 カーレ第一王子殿下との婚約は、急なものだった?

 いや、それは後で考えるとして……来客とはわたくしのことだろうけれども、あのご降臨は、全てお見通しだった聖女猊下がタイミングを見計らってご降臨されたということ!?


 まあ、確かにあれ以上はないくらいのタイミングではあったのだけれど、聖女猊下は、壁の中からわたくしたちの動向を窺っていらっしゃっていて、あのようにご降臨されたということであるなら、まさに使徒様ということだろう。


「いえ、待って……」


 聖女猊下が、全てを見通されるお力をお持ちということであれば、隠し事をするというのは、わたくしたちのためにはならないということになる。


 そう、わたくしたちは、もしかすると、今聖女猊下に試されているのかもしれない。


 出し惜しみしていた情報を、今ここで出し切ることがきっと神のご意思に沿うことになるのだろう。


「メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下、カーレ・レガー・ミスラク第一王子殿下、メグウィン・レガー・ミスラク第一王女殿下に至急お伝え申し上げたいことがございます」


「何でございましょうか?」


 お三方を代表するように、メグウィン第一王女殿下がそうお応えになられるのを見ながら、わたくしは、オドウェイン帝国からの通告についてお伝えすることにしたのだった。

仕事が立て込みまして、更新が遅くなり申し訳ございません。

少しずつ再開してまいります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ