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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第341話 帝国皇女殿下、神罰の第一段階を目撃する

(帝国第二皇女視点)

帝国第二皇女は、神罰の第一段階が執行されるのを目撃してしまいます。


[『いいね』いただきました皆様方、深謝申し上げます]

 ご神罰の第一段階。

 それが聖都ケレンで生じたようなものになるのか、もしくはあの砦でのようなものになるのか、わたくしには分からない。

 タダ、たとえメリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下のご温情があろうと、聖都ケレンほど甘いものにはならないはずとわたくしは思うの。


 お父様は今この時点においても、帝国が主導権を握れると信じ、まるで疑っておられない。


 帝国の絶大な力を持ってすれば、聖女猊下らのお力すらも何とかできるとお考えなのだろうと思う。


「はぁ」


 けれど、現実は違うの、そうではないの。

 現に、聖国と王国の国境にある砦で、バリアと呼ばれる結界に囚われた者たちは全員は嘆きの立像に変えられてしまった。

 そう、神が我が帝国に失望され、神の方がわたくしたちを不要とご判断されれば、それこそわたくしたち全員を嘆きの立像に変えられてしまうかもしれない。

 そうなったとき、帝国は神のお怒りに触れた愚かな亡国と呼ばれることになるのだろう。


「そんなことは……」


 今帝国の危機を正しく理解できているのは、わたくしとアレムお兄様しかいないというのに、どうして止められないの、止められなかったの!


 今も余裕を残していらっしゃるお父様をお止めすることのできる言葉が思い浮かばない。


 これほどまでに帝国が追い詰められていると分かっているというのに、何てこと。

 いっそ、ご神罰の第一段階というものをお父様にお見せしてしまった方が良いのかもしれないと思い始めているわたくし自身が何とも情けなく思えてしまう。


「神罰、神罰、本当に余に痛みを味わわせることができると言うか?」


「ええ、軍事がそれほどまでに大事とおっしゃられるのでしたら、それに関わる者を止めてしまえば良いだけのことですわ」


「ははは、止めるとはどうするのだ?

 余に示してみせよ」


 お父様の笑い声に、わたくしはゾッとなった。

 お父様は本当に何もお分かりになっていらっしゃらないのね。


 『止める』とは、嘆きの立像に変えられてしまうということ。


 それこそ全軍の騎士、兵士が全員立像に変えられてしまってもおかしくないのよ!

 そうなれば、国境を護っている騎士、兵士たちも無力化され、我が帝国は完全に無防備になってしまう。


 つまりは、帝国は攻める側から攻められる側に変じてしまっておかしくないということ。


 どうすれば良いと言うの!?

 メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下がどんなにお優しいとはいえ、神が帝国の滅びを望まれていらっしゃる場合……どんなに緩めていただいても(これまでのお話からすれば)軍事に関わる者たち全員が立像へと変えられてしまう可能性はかなり高いと思うの。

 ええ、神のお怒りを考えれば、それですら、相当にご温情をおかけいただいているということになるのでしょうね。


「ええ、もちろん、そのようにいたしましょう。

 タダ、どうぞ後悔なさいませんよう」


「猊下……」


 メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下の穏やかなそのお言葉に静かなお怒りを感じ、わたくしはそれ以上言葉をかけようとすることすら叶わなくなっていた。


「“Set focal point with avatar-of-meliyu position”

 “Set camera position with new-pin-id”

 “Execute Eye-of-Providence with zooming mode x50”」


 そして、猊下は聞き覚えのあるご命令を発せられるの。

 これは……『神の目』

 聞き覚えのあるプロヴァダンスというお言葉に、わたくしはハッとなる。


 間もなく、猊下の目の前に半透明な謁見の間が映し出されていたの。

 『鳥船』を含めた帝都周辺を映し出されていたものと異なり、かなり大き目に映し出された、それ。


 目を凝らしてみれば、お父様やわたくしたちすらも小さな人形のように映っていて、わたくしの動きもそのまま反映されているのが分かったわ。


「ほう、どのような奇術なのだ、それは」


「“Execute Picking-actors-to-blacklist”

 “Start picking”」


 珍しいものを見るような目で、『神の目』のそれを見詰められるお父様のお声に、聖女猊下はもう何も返されない。

 ブラックリストというものが何かは分からないけれど、とても嫌な予感がするわ。


「“Pick”

 “Pick”

 “Pick”

 “Pick”

 “Pick”」


「何を呟いておる?

 気でも触れたか?」


 ピックという言葉に続いて、わたくしは異変に気が付いてしまうの。

 特使の方々を取り囲む、近衛騎士の者たちの中から、身体の輝き出す者が次々に現れるのに。

 間違いないわ。

 『神の目』で猊下が指さされた方が白く輝いているのだから、おそらくは嘆きの立像化されるのに選定されたということなのでしょう。


 全軍を一度に全滅させられるのかと思い込んでいたわたくしに対して、メリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下は、ここまでのご温情をかけてくださるなんて、思いもしなかった。


「何だ、何が起きておる!?」


「身体が!?」


「光を放っている! わたしの身体が、どうなっているんだ!?」


「何の光なのだ、それは!」


 騒ぎ出す近衛騎士たち。

 そして、ざわめき始める、帝室、貴族の者たち。


 彼らもまた猊下が何かされ始めたというのは理解できたよう。


 しかし、輝き、光を放ってしまった者たちの末路は……ええ、彼らのご家族のことを思うと胸が痛んだわ。

 もちろん、大半が嘆きの立像へと変えられてしまった先遣軍のことを思えば、今更何なのだと言われよう。

 けれど、わたくしだって(今ならば)その痛みも理解できるようになったのよ。


「“Execute batch for Stop-LocalTime-Instance-for-AllActors with blacklist.dat”」


 続く猊下のご命令のご執行の響きに、わたくしはゾッとなる。


 ええ、これは間違いなく選定された者たちを嘆きの立像へと変えてしまうもの。


 お父様に分からせるためとはいえ、尊い犠牲に胸が痛んだ。


「は?」


「何だ!?」


 間もなく、先ほど身体を輝かせてしまった者たちの動きが止まり、体勢を保てない姿勢で立像になった者たちがその場で順に倒れ始める。

 周囲にいる者たちは、ただ驚き、声を上げるのみ。


 その間にも、立像たちは勢いよく大理石の床に倒れ込み、


 ドォン、ガンッ、バキィ!

 重苦しい音が次々に立ち始めたのよ!

 フルアーマーを着た者たちは分かりづらいけれど、顔出ししている者たちならよく分かる。


 顔を思い切りぶつけ、鼻頭辺りから大理石の小さな破片を飛ばす者。


 まさか床の大理石より硬く、丈夫な立像に変えられてしまうだなんて。

 微かではあるが、床にその衝撃が響き、足元が揺れるのも分かってしまう。


「ひっ!?」


「ひゃっ!」


「うぉっ!!」


「ぎゃあ」


 幸運にも嘆きの立像化を免れた者たちが悲鳴を上げる。

 そして、慌てて立像化した仲間を助けようと動き始めるのだ。


「ぉ、おい、どうした!?」


「何だ、何がどうなっている!?」


「硬い……まるで石像のような、ひぃっ!!」


 鼻頭で大理石の床を割った者を抱き起した者がその硬さに驚き、動きを失ったその顔を見て、恐れおののく。


「何をしている!

 なぜその者たちは倒れたのだ!」


「殿下、ヘイスのヤツが石像になっちまいました!」


「何を馬鹿なことを………」


 ラスコレーお兄様が、ご自身の連れてこられた近衛騎士たちに近付き、嘆きの立像化した者に触れられる。。

 そして、その言葉が本当であることを察されたのだろう。


「石、石になっているだと!?

 何だ、この硬さは、あり得ぬ、あり得ぬぞ!」


 騒ぎ出されるラスコレーお兄様に、


「ラスコレー、騒ぐな、見苦しい。

 一体どうしたと言うのだ?」


 お父様が少しばかり強張られたようなお声で尋ねられる。

 ええ、ようやく間近に危機が忍び寄ってきたのを実感されたのだろう。

 ご神罰がご執行されてからでは手遅れだというのに……ああ……本当にわたくしはお止めすることができなかったのね。


「先ほど光った者が石像になっております!

 石化の魔法か、何かだと言うのか……こんな奇術があって良いはずが」


「まさか……」


 お父様に簡潔にご報告されてからも、茫然とそう呟かれるラスコレーお兄様。

 隣にいらっしゃるアレムお兄様はずっと押し黙ったまま、額を手で押さえられ、ふらふらなさっていた。


「はあ、テーナ、これがそなたの申していた嘆きの立像というものなのか?」


 そして、思わぬタイミングで、お父様からわたくしに声がかけられる。


「は、はい!

 先遣軍の騎士、兵士たちは、皆同様に立像と化し、全滅いたしました」


「このようなことが!」


 ようやくお父様はご理解されたのだろう。

 嘘偽りなく、オドウェイン帝国の先遣軍……ミスラク王国を各国侵略の足掛かりとするために派遣された騎士、兵士たちが皆立像とされてしまったということを。


 間もなくして、お父様のご尊顔、そのお頬が真っ赤に染まると、


「手段を問わぬ、そこの聖女らを斬れ! 斬れ!」


 とおっしゃられたのだった。

 お父様、何ということを!

 わたくしは、思いも寄らない方向に事態に進み出したことに、頭から血が引いていくのを感じたのだった。

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