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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第33話 王女殿下、悪役令嬢への天使形態下賜の理由を知る

(第一王女視点)

王女殿下は、悪役令嬢の天使形態に思いを更に強くし、その後の王子殿下との協議で悪役令嬢への天使形態下賜の理由を知ります。


[脱字のご指摘誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます]

 神より下賜されたというメリユ様の天使=使徒様形態(?)のお姿。

 それは、まさしく中央教会の礼拝堂に描かれた使徒様の絵姿そのもので、あまりの神々しさに王族であっても拝まずにはおられないものだった。

 背中より生え広がる白きお翼は、羽ばたかれていなくとも、常に聖なる光の粒を周囲に放っていて、それだけで悪しきものを容易に打ち払ってしまえるかのように思える。

 そっと指に触れたお羽は、鳥の羽毛よりもずっと軽く、柔らかく、空気に解け込んでしまいそうなほどで、舞い散る光の粒は、わたしの掌の中を通り抜けて空気中へと消えていくのだ。


「………」


 これで、仮初のお姿だなんて。

 メリユ様ご自身がご否定なさらなければ、誰もがメリユ様を使徒様として称えるに違いない。

 結果的に、カブディ近衛騎士団長のご報告は正しかったということになるのだろうけれど、仮初とはいえ使徒様同然のお姿を神がメリユ様に下賜された理由は、はたして何なのだろうか?


 より容易に空を飛ばれるため?

 いいえ、移動の命令で宙を浮くことすら可能なはずのメリユ様に、そんなことのために神が使徒様のお姿をお与えになられるとは思えない。


 より容易にメリユ様のお立場を明らかにするため?

 そうね、それが一番しっくりと来るかもしれない。

 何しろ、メリユ様はご自身のお力を、お立場をはっきりとさせるために、鏡の御柱を出現させる必要にまで迫られたのだから。

 神は、そんな大がかりな奇跡を起こさなくとも、メリユ様のお立場をはっきりさせることのできるお姿が必要と判断されたというのが無難なところかしら?


「メリユ様、このお姿から元のお姿に戻られることは可能なのでしょうか?」


「……可能かとは存じますが、今すぐに戻るのはかなり難しいことかと存じます」


 なるほど、メリユ様にとっても急に下賜されたお姿だけに、元に戻る手続きにはそれなりの手間がかかりそうだということなのだろう。


 王城内の有力者が、ほぼメリユ様の秘密を存じ上げている今、この天使形態というお姿に乱心する者は出ないだろうが……あまりにも神々しいこのお姿に、心奪われるものは多いだろう。

 今のわたしだって、正直、冷静でいられているかと問われれば、否と答えるしかない。


 だって、こんなにもお美しいのだもの。

 使徒様の姿を纏われたメリユ様が、柔らかに微笑まれ、光を放たれているご様子を見ているだけで、わたしの目には涙が滲み、心は感動で満ち溢れる。

 中央教会に描かれたフラスコ画の使徒様も、初めて拝見した際は心奪われたものだけれど、一度こうして本物を見てしまうと、もうあのフラスコ画に同じ気持ちを抱くことは難しいことだろう。


「ああ………」


 もし本当にメリユ様が王太子妃となられたならば、メリユ様がわたしのお姉様になられるのかしら?


 メリユお姉様。

 これほど敬愛できる方を、お姉様と呼べることができるのだとしたら、どれほど心躍ることだろう。


 わたしもぜひメリユ様のお隣で並び立ちたい。

 いえ、せめてメリユ様の一助となれるよう傍で支えたい。

 そんな強い気持ちが胸の内に湧き上がってくる。


「はあ………」


「殿下」


 そう、わたしはメリユ様とご一緒に戦うと決めたのだもの。

 お父様やお母様がどれほど反対されたとしても、必ず聖女護衛小隊の補佐役としてご一緒してみせるわ!

 それにメリユ様のお立場を王族であるわたしが保証することは、人を動かす際にもきっと有用なことだろうと思うもの。


「姫様っ!」


「は、あ、何、アリッサ」


「そろそろ、王子殿下のところに行きませんと」


「あ、そ、そうね」


 アリッサに声をかけられて、わたしはお兄様にお会いしに行くところだったことを、今更ながらに思い出す。

 いけないわ。

 本当にメリユ様を見させていただいていると、メリユ様のことばかり考えてしまう。

 でも、このお翼の、お羽の感触が……手放すには、どうにも名残惜しい。


 ご覧なさいよ。

 セメラなんて、反対側であんなに恍惚となって、メリユ様のお翼を撫でているわ。


「セメラもいい加減にしないか!

 聖女様にも失礼だろう!」


「ああ、もうちょっと、もうちょっとだけ!」


「………」


 うう、今のわたしも傍で見れば、あんな感じなのかしら?

 メリユ様、ご不快に思われていなければよいのだけれど。


「た、大変失礼いたしました、メリユ様」


「いえ、お気持ちは理解できますので」


 まるで、やらかしてしまった妹を慰めるような、年上に感じられる微笑みを向けられて、わたしはまた身体が火照ってくるのを感じてしまったのだった。






 それから、セメラを強引にメリユ様から引き剥がし、アリッサ、セメラを伴ってお兄様のもとへと急いだわたしたちを迎えたのは、難しい表情をお浮かべになられているお兄様だった。

 先ほどは、メリユ様を王太子妃候補にするというお話が出てからというもの、顔を赤くして冷静さを失われていたお兄様に一体何があったのかとわたしは訝しむ。


「お兄様、お待たせしてしまい申し訳ございません。

 顔色があまりよろしくないようですけれど、何か、悪いことでも?」


「ああ、影から報告のあった教会の動きだが、教皇から先触れがあった」


「教皇猊下から先触れでございますか!?」


 もう午後もいいお時間だというのに、こんな唐突に先触れが来るなんて。

 まさか、鏡の御柱の件で、直接乗り込まれるというの!?


「それはお父様への拝謁依頼なのでしょうか?」


「メグウィン、相手は聖国の教皇だ。

 拝謁ではない、会談というのが妥当だな」


「あ、大変失礼いたしました」


 そうだ、聖国から我が王国の中央教会にご訪問中の教皇猊下は、お立場上、お父様より下になることはない。

 いけないいけない、気を付けなければ。


「さすがに教皇自ら乗り込んでくる訳ではないようだが、聖女が至急の会談のため、王城を訪問したいということだ」


 聖女……?

 ああ、教皇猊下とご一緒に王国をご訪問されていた聖国の聖女様がこちらにいらっしゃると?


 メリユ様の使徒様=天使形態を拝見させていただいた後だけに、外交的に不敬だとは分かっていても、所詮人の決めたエセ聖女様のように思えてしまうのに、笑いそうになってしまう。

 もしメリユ様がいらっしゃっておられなければ、聖国の聖女様のご訪問を本当に喜ばしく思ったことだろう。


「中央教会とは明後日、教皇猊下と会談されるということで調整が進んでいたはず。

 それを、聖女様は、本日この後すぐご訪問されるということなのでしょうか?」


「ああ、あの結界、いやバリアだったか、あれを教会側は無視することはできないと考えたのだろう」


「はあ、そうでございますか。

 聖国との関係を考えますと、受けざるを得ないことでしょうね。

 ご対応は、お兄様がなさるのでしょうか?」


「ああ、いくら聖国が格上の隣国とはいえ、教皇自らのご訪問という訳でもないのに、陛下が予定を割いて対応とはいかないだろう。

 わたしと……そうだな、お前も来るか?」


「ええ、ぜひともお願いいたしたく存じますわ」


 お兄様はしっかりしていると思いたいのだけれど、メリユ様関連となると、いまいち安心できないように思えるので、わたしも出た方がいいのは間違ないだろう。

 もしお兄様が先ほどのメリユ様の使徒様=天使形態をご覧になられていたら、本当にどうなっていたことか。


 いえ………待って!?


 メリユ様の使徒様=天使形態。

 まさか、神は中央教会から人が、いえ、教会の聖女様がいらっしゃることを察知されて、本物の聖女様の存在をお示しになるおつもりで、メリユ様にあのお姿を与えられたのでは!?


「っ!!」


「どうした、メグウィン?」


「いえ、今とんでもないことに気が付いてしまいまして」


「何だ?

 あまり時間もないのだから、何かあるなら、ここで言うといい」


「実は、先ほど、メリユ様が神より使徒様のお姿を賜られまして……」


「………はっ!???」


 目を点にして、理解できないという顔をさせるお兄様。


「今貴賓室にいらっしゃるメリユ様は、中央教会の礼拝堂に描かれた使徒様と同じお姿を取られています」


「いや……待ってくれ。

 理解が追い付かない……服装が使徒と同じものになっていると?」


「いえ、今のメリユ様は光り輝くお翼を背中に生やしていらっしゃいます」


 まあ、実際にご覧になられなければ、お兄様にもあの神々しさはご理解していただくのは難しいだろうと思う。


「……………メリユ嬢は、使徒であることを否定されたのだろう?」


「はい、神より仮初ながら使徒様と同じお姿を与えられたと」


「はあ……仮初ながら使徒同然の姿に変わったと?

 本当にメリユ嬢は神に見守られし存在であるのだな」


「ええ」


 ああ、何てこと。

 メリユ様が天界と通じているというのは、思い知っていたはずなのに……そう、そうなのね。

 メリユ様の存在は、神すらも常に気をかけられるほどのものだなんて!


「では、そうか……中央教会から聖国の聖女が来るということを前提に、神はメリユ嬢にそのお姿をお与えになったとメグウィンは考えているのだな」


「その通りです、それ以外に考えられません。

 聖国の聖女様も、メリユ様のお姿をご覧になられれば、神に選ばれし聖女様の存在をお認めになられることでしょう」


「……なるほど。

 それで聖国を味方につけると……そういうことか」


 そ、そうなのだわ!

 『聖国を味方につける』

 お兄様にご指摘されるまで、わたしは気が付かなかったけれど、確かに聖国の聖女様に認められるということは、聖国を味方につけるということに繋がるのだわ!


 何てことなのだろう!

 メリユ様の一挙手一投足には、王国の立ち位置、行く末すらも変えてしまうお力、意味がおありになるというの!?


 一つ目は、王国守る盾としてのお力をお示しになり、『王国が帝国の侵攻で滅ぶ』という運命を回避できるということを証明なされ、王国の重鎮から絶望を取り除かれた。

 そして、二つ目は、今聖国に『王国に神から認められし聖女様あり』とお認めいただくことで、王国の立ち位置をよりよいものにできるということをお示しになられようとしている。


「メグウィン、まさか、泣いているのか?」


「これで泣かずにおられましょうか?

 メリユ様のおかげで、半日も経たずして王国に希望の灯りが点ったのですから!」


「そ、そうだな」


 ああ、ダメね。

 聖国の聖女様がいらっしゃるまでに、ハナンを呼び戻して、お化粧を直さないと。

 メリユ様がこれほどの重責を担われている中、第一王女であるわたしが、聖国の聖女様にこんな泣き顔でお会いする訳にはいかないものね!


 わたしは、わたしも、メリユ様のように強き女性になりたいと、いえ、なってみせると心に誓って、お兄様との協議を終えたのだった。

また色々勘違いされているようですが……悪役令嬢の立場インフレーションが止まりませんね、、、

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