第336話 王女殿下、悪役令嬢がオドウェイン帝国皇帝に警告を発する場に立ち会う
(第一王女視点)
第一王女は、オドウェイン帝国帝城にて悪役令嬢がオドウェイン帝国皇帝に警告を発せられる場に立ち会います。
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皇帝陛下が押し黙られたところで、サラマ様が特使の主要な方々のご紹介を進められていく。
メリユ様に続き、メルー様、ハードリー様(メリユ様そっくりなお姿に少しどよめきがあった)、わたし、ルーファ様。
王女とはいえ、サンクタ、聖女の称号を賜っている訳でもない、メリユ様の補佐役に過ぎないわたしがこのような順序がご紹介いただけるだなんて光栄な限りだわ。
「陛下、お初にお目もじ仕ります。
ミスラク王国第一王女、メグウィン・レガー・ミスラクでございます」
カーテシーで自己紹介するものの、オドウェイン帝国の皇帝陛下に対するご挨拶として礼を欠いていると言わざるを得ないだろう。
もちろん、これも、事前に決めたこと。
あくまで特使はオドウェイン帝国に警告を発するためにここまで赴いたのであって、決して通常の外交使節としての訪問ではないの。
さて、これで帝国側はどうでるのかしら?
外は大荒れで風雨は強まる一方で、まるで嵐の夜のよう。
神よりのご警告としての雷と嵐が現に生じてしまったことで、皇帝陛下以外の方々も下手に口を挟めないご様子ね。
「続きまして……」
そして、サラマ様は、捕虜となっていたアレム第二皇子殿下、テーナ第二皇女殿下をご紹介される。
使徒様のお姿のメリユ様に、皆の注目が集まり過ぎていたせいだろうか。
今更ながら、帝国側に衝撃が走ったのが分かったわ。
「……アレム、テーナ、これはどういうことだ?」
帝室、帝国貴族の方々がどよめくよりも先に皇帝陛下が(怒りの籠った声音で)そう問われたの。
無理もない。
彼らの認識では先遣軍を率い、ミスラク王国に侵攻中の二人が帝都ベーラートにこうしているのだから。
それこそ、侵攻前に敵前逃亡とした思われても仕方がないだろう。
「へ、陛下、これは……」
「お父様、オドウェイン帝国のミスラク王国への先遣軍は全滅いたしました」
思わず声が裏返ったアレム第二皇子殿下に代わり、落ち着きを払われたテーナ第二王女殿下がそうご報告される。
そう、それこそが事実。
『時』の流れを止められ、物言わぬ像にされた先遣軍の騎士兵士たちは全滅したと言って良いだろう。
「全滅!?」
「まさか、そんなことが!?」
「あり得ぬ、あり得ぬぞ」
「鎮まらんか!」
ついにざわめき始める帝室、帝国貴族の方々に、皇帝陛下が怒鳴られる。
その覇気に当てられてか、即座に静まり返るその様子からは、まさにこの『方』あっての帝国だと感じられる。
「テーナ、説明せよ」
「はい、先遣軍は神より星降り、雷などのご警告を受け、聖女猊下からのご勧告も受けましたものの、それを無視して侵攻しようとしました結果、ご神罰がくだり、兵らは嘆きの立像と化し、全滅したのでございます」
「嘆きの立像とは何だ?」
「兵らは硬質な像として固まり、未来永劫、ご神意の背いた者たちの末路を晒すことになったのでございます」
そんなテーナ第二皇女殿下のお答えに、帝国側の方々からは非難の声が飛び交う。
「ふざけるなっ、このっ、この反逆者が!
敵前逃亡した挙句、そのような戯言申すなど帝室の一員として恥ずかしくないのか!?」
「そうだそうだ!
兵が像になる訳がない、殿下らは聖国の幻術に化かされたのではないか!」
「全くだ!
聖国は幻術使いを頼り、今も帝国を騙そうとしているだ!」
このときばかりは皇帝陛下も止めることもなく、テーナ第二皇女殿下を侮蔑されるような眼差しで鋭く見詰められ、殿下が羞恥のあまり顔を真っ赤にされるのが分かった。
「まあ良い。
先遣軍が役に立たぬと言うのなら、本軍をぶつけるまでだ。
テーナ、聖国の連中と接して、気でも触れたか?
帝室の一員としての矜持すらも失ったか?
いずれ帝国以外の国々は、全て帝国に跪くのだということすら忘れたか?」
「お父様、神は聖なる秩序を保つよう望まれておられます。
これ以上、ご神意に背くようなことがあれば、この帝国へもご神罰が……」
「口を閉じよっ、この愚か者が!」
「ひっ」
皇帝陛下はテーナ第二皇女殿下を怒鳴り付けられると、サラマ様に再び向き合われる。
「さて、礼儀のなっていない聖国よりの御客人に問おう。
幻術はともかく、どのような新兵器が知らぬが、帝城に与えた被害、ただで済むと思うな?
聖都ケレンがどのようになるか見ものだな?」
これがオドウェイン帝国、皇帝陛下の本性。
『鳥船』を見ても、これほどの被害が帝城に出ても、オドウェイン帝国の力はこの世界=エルゲーナの何よりも勝っているのだと信じ切っておられるのだわ。
「陛下は、勘違いしておられるのでは?
神からすれば、この程度、ご神罰ですらございません。
そうでございますね、陛下がそのおつもりなのでしたら、神は本物のご神罰を帝都ベーラートにくだされることになるでしょう」
「小娘が」
サラマ様が毅然とされた態度でご警告を発せられるも、皇帝陛下はセラム聖国聖女猊下の肩書をお持ちでいらっしゃるサラマ様をそのように侮辱されるの!
本当に許し難いことだわ!
サラマ様は聖教において教皇猊下に次いで最も尊ばれるべきお方。
今でこそ、メリユ様が最上位に立たれおられるとはいえ、どの国においても国賓として丁重にもてなされるというのに。
「ザアクシー・インペリエストロ・オドウェイン皇帝陛下。
そこまでお疑いになられるのでしたら、仕方がございません。
最後のご警告として、貴国の海軍力を削いでご覧に入れましょう」
わたしは内心怒りを膨らませていると、普段と何一つ変わらない穏やかな口調で、メリユ様が(わたしたちに代わって怒ってくださっているかのように)そのようなご警告を発せられるの。
「海軍?
軍船のことか?」
「ええ、港に停泊中の軍船を神よりのご警告として残らず消滅させるのをお見せいたしましょう」
「ははは、今度はどのような幻術を見せていただけるのかな?」
「幻術などではございません」
メリユ様はそうおっしゃられると、お翼を広げられ、羽ばたかれ、天井高い謁見の間の宙に浮かび上がられるの。
ついに、メリユ様が動かれた。
そして、聖都ケレンのときと同様、神よりのご警告を目に見える形で帝室、帝国貴族の方々に突き付けられるのだわ!
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聖なるご命令が発せられる。
おそらくは、帝都にご視察に行かれた際にご覧になられたという軍船をこちらに呼び寄せられるのだろう。
ティーカップで驚きを隠せなかった少し前のわたしが可愛く思えるわね。
はたして、帝国の方々は空を飛ぶ軍船をどのように感じられるのだろう?
「一、二、三」
ドゥン!
ドゥン!
ドゥン!
次々と帝城のすぐ傍で衝撃波が生じていくのが分かる。
その一つ一つが港に停泊していたオドウェイン帝国の軍船なのだろう。
「な、何事!?」
「何の音だ」
「し、潮の香りがする?」
「あ、あれは何だ!?」
「み、見よ、ふ、船だ。
我が軍の軍船がっ」
「何をたわけたことを……はっ、はあ!?」
窓の傍にいた帝国貴族たちがいよいよ騒ぎ出す。
その様子を見たくてたまらないわたしだけれど、バリア内に留まっているのもあって今は我慢するしかない。
「鎮まらんか!
宰相、一体何事だ?」
皇帝陛下の傍に帝国の宰相閣下が走り寄られ、その耳元に何かを囁かれる。
あまりに理解不能なご説明だったのだろう。
カッと目を見開かれ、宰相閣下を睨み付けられると、皇帝陛下が玉座から離れられ、謁見の間の窓の方へと向かわれる。
そして、雷の稲光と共に、窓の外に軍船の影を見たの。
海から運ばれて間もないのだろう、軍船の底部からは今も海水が垂れていて、風雨の中、幽霊船のように帝城内に浮かんでいたのよ!
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