第334話 ハラウェイン伯爵令嬢、帝城に乗り込む
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は帝城に乗り込みます。
[ご評価、ブックマーク、『いいね』いただきました皆様方に心よりのお礼を申し上げます]
上空には今もわたしたちの乗ってきた著大な『鳥船』があるため、今も『日食』のような状態は続いていて、(明かりの少ない)オドウェイン帝国の帝城はまるで夜の暗がりに溶け込んでいるかのようでした。
ええ、元は、ミスラク王国の王城なんて比較にならないほど、立派なものだったのだと思います。
しかし、その帝城の窓は割れ、帝国の紋章が縫われた旗は千切れ、庭園は荒れ放題で……まるで廃城同然のようなんです。
これでは、威厳なんて感じようもありませんよね?
あと、きっと、『鳥船』の表面に突き出したたくさんの立派な建物を見てきたせいもあるんでしょう……今のわたしには、オドウェイン帝国と言ってもこの程度なのかなと思ってしまうんです。
おかしいですよね?
ハラウェイン伯爵令嬢であるわたしが、こんなことを考えているなんて。
伯爵令嬢と言えば、聞こえは立派ですけれど、所詮小国の田舎貴族なんですよ?
あの運命的な再会がなければ、わたしは、たまに王都に行く程度の貴族令嬢で、田舎のハラウェイン伯爵領で領民の方々に寄り添えればそれで良いなと思って過ごしていたんだと思います。
「本当に、何が起こるか、分からないものですよね?」
第一王女殿下=メグウィン様との出会いも、今では当然そうあるべきものだったと思えますけれど……初めてお会いしたばかりですのに(なぜか)気に入られてしまって、とても混乱したんですよ?
何より、メリユ様=ファウレーナ様との出会いは(今では)もう運命以外の何ものでもないって思いますけれど……最初のアレだけは、今でも悔やまずにはいられないんですよ?
そして、本当に色々なことがありましたよね?
わたしは、あの瞬間にメリユ様のために命を落としても本望だって思っていましたのに、今はこうしてメリユ様のお姿をお借りして、ここにこうしていられることがうれしくてなりません。
しかも、わたしもメリユ様と同じ聖なるお力を使えるようになって、聖女であるサンクタの称号までもいただけるって言うんです。
今では、メリユ様、サラマ様、メルー様、メグウィン様たちと特使の方々の先頭に立っているんですから、信じられませんよね?
「城扉を開けよっ」
使徒様のお姿で、宙を進まれるメリユ様のご進行を妨げることのないよう、オドウェイン帝国の近衛騎士様のお偉い方が必死に動かれているのが分かります。
メリユ様やわたしたち=特使に向けて攻撃を仕掛けてこられたときは心底『あり得ない』と思いましたけれど、まともな方もおられるんですね?
ふふ、何だか少し偉そうでしょうか?
前のわたしなら立派な帝城と、傲慢に振る舞われる帝国の近衛騎士様に怯えていたのだと思います。
でも、メリユ様と同じ聖女に成れて、自信も付いたんだと思います。
何より、一度は死んだはずの身ですもの、怖いものなんてもうないんですよ?
この命も、この身体も、この心さえも、全てはメリユ様のもの。
メリユ様のバリアに護られていて、何を怖がることがありましょうか?
「おい、急がんか!」
「し、使徒様だ」
「本当に聖国が……動いたと言うのか!?」
「おい、槍を下げろ、使徒様に当たる!」
重そうな立派な城扉を開く作業が慌てて行われる中、多くの方々がメリユ様をご覧になられ、驚愕され、そして、メリユ様に続くわたしたちも見てこられます。
それでも、不思議と、緊張感はありません。
むしろ、誇らしいくらいなんですよ?
メリユ様のお姿で、聖女然としていられるわたしに、にやけてきてしまいそうなくらいです。
こんなことがあって本当に良いんでしょうか?
ご褒美にしたって、もらい過ぎなくらいに思いますよね?
もう少しで両手を両頬を押さえずにはいられなくなりそうになりながら……突如城扉の前で速度を落とされたメリユ様にハッとなります。
「メリユ様?」
確かに城扉を開ける作業が追い付いていないのもありそうですが?
……ああ、バリアが当たってしまうんですね?
この身体になって、色々分かるようになってきたように思います。
バリアは絶対的な結界、障壁ですもの。
このまま進まれれば、メリユ様のバリアで通路のアーチが破壊され、帝城の上の方を支えきれなくなって(下手すると)崩壊してしまう、ということですよね?
「皆様、バリアを縮小いたします。
隊列のご変更をお願いいたします」
メリユ様が振り返られて、わたしたち=特使の皆様に告げられます。
帝城の前院に下りてからの隊形と、城内に入ってからの隊形は元々変えることになっていましたから、混乱はありません。
タダ、聖女の皆様とメグウィン様、ルーファ様たちに続いて(こちらは)これまで護衛に囲まれていた帝国の皇子殿下と皇女殿下のお姿が見えたことで、近衛騎士様たちに衝撃が走ったのが分かりました。
「殿下!?」
「第二皇子殿下と第二皇女殿下が、なぜここに!?」
「どういうことだ!?」
「もしや、裏切ったのか!」
「鎮まれぇ、迎賓中であるぞっ!!」
「「「はっ、ははっ」」」
本来であれば、聖国と王国の国境にいらっしゃるはずのお二人がここにいるのですから、混乱もされるでしょうね?
あのお偉い方がいらっしゃらなければ、お二人はもっと非難浴びることになっていたのかもしれません。
振り返れはしませんけれど、きっとお二人は針の筵なことでしょう。
そうしている間にも、城扉は開き切り、中途半端に蜜蝋の灯った通路が露わになります。
きっと、普段であれば、もっと明るいのでしょうが、衝撃波の突風に吹き消され、まだ灯し直すことができなかったのでしょうね?
「な、何だ!?」
「はあ!?」
「し、使徒様!!」
迎賓の準備で間に合わなかったらしい、混乱のまっただ中にある帝城の通路。
侍従の方が驚きのあまり書類を撒き散らかされ、侍女の方が壁に張り付かれ、衛士の方が近衛騎士様に引っ張られて通路の隅に連れて行かれるのも見えます。
「み、道を開けろ」
「使徒様など、どこにお通しするんだ!?」
「謁見の間に決まっておるだろうが!」
「急げ」
メリユ様はそんな大騒ぎされている帝国の方々を(今も)あの微笑みでお待ちになられているのでしょうか?
通路の準備が整うまでの間に、メリユ様が広げられていたお翼をすぼめられ、何かを唱えられます。
バリアの中に僅かな風が吹いて、バリアが狭まったのを感じます!
これはそういうこと、なんですね?
「こ、こちらへ」
あのお偉い方の言葉に、メリユ様がすぼめられたお翼を少し動かされて、いよいよ帝城の中に入って行かれます。
メリユ様のお背中を追っていますと、通路の上の立派なアーチも、今はとても狭く感じられます。
バリアの大きさを変えられたとはいえ、下手をするとそのアーチやシャンデリアを破壊してしまいそうですよね?
あのバリアって、張っている側からすると何かに当たっても反動(?)みたいものはないようなんです。
つまり、わたしがわたしでバリアを張って、適当に帝城の壁に向かって行けば、それだけで(わたしは何も感じることなく)壁に穴を開けることも簡単にできてしまうようなんですよね?
「おい止まれ!」
「迎賓中だ!」
通路同士が交わるところに差し掛かったところ、お皿を運ばれていた給仕の方が近衛騎士様に止められ、落としかけたお皿を必死に押し留められているのが見えました。
それだけではありません。
多くの文官、侍従、侍女の方々が、メリユ様のお姿に凍り付かれ、息を呑んでいらっしゃるのが分かったんです。
「ほ、本物?」
「宙に浮いている……本物の使徒様なのか!?」
「まさか、そんな」
そうですよね?
まさしく神話の中の光景なんですもの。
普段はどんなに偉そうにしていらっしゃる帝国貴族の方々でも、迎賓中ということすら忘れて、茫然と独り言を呟かれたり、お隣の方と驚愕のご表情で話し合われたりしているんです。
そうなんですよ、わたしたちは今歴史の中にいるんです。
わたし、わたしたちにとっても忘れられない光景は、数百年に一度あるかないかの史実=ご奇跡として経典や歴史書に残されることになるんです。
貴方貴女方もほら、しっかりと目に焼き付けておくと良いですよ?
そんなことを言い回りたい気持ちにかられながら、わたしは堂々とお城の通路を進んでいったのでした。
ご評価、ブックマーク、『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様方に心よりのお礼を申し上げます!




