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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第32話 悪役令嬢、天使形態について説明する

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、王女殿下や悪役令嬢専属侍女らに自身の天使形態について説明します。

 貴賓室の床に倒れ込んだメグウィン殿下とミューラは、なぜかまだ扉近くに残っていたらしいハナンさんやアリッサさんたちに引き起こされたものの、異常な緊迫感が漂っていた。


 わたしを熱い眼差しで見詰めながら、未だ指を組んで手を合わせ続けるメグウィン殿下に、目を瞑って必死に(何かに)拝み続けるミューラ。


 この場で一番年上だと思われるハナンさんが必死にメグウィン殿下を正気に戻そうと頑張っておられるけれども、かなり……とんでもないことになっちゃっている気がする。


「あ、ああ、ああぁ」


「で、殿下、お気を確かにっ」


 ……いや、えっと、メグウィン殿下、本当に大丈夫なのかしらん?

 顔を真っ赤にして、涙もポロポロ零れてるし……いや、かなりダメな感じな気が。


「あぁ、はあ、はあ、何て、神々しいのでしょう」


「殿下っ」


「ああ、ハナン、ごめんなさい……はあ、はあ。

 メ、メリユ様も、扉の隙間から覗き見るような真似、はあ、た、大変失礼いたしました」


 ようやく正気に戻ったらしいメグウィン殿下がまずハナンの方を見て謝ってから、わたしの方に謝罪してくる。

 その途端、そのすぐ隣にいたミューラがなぜか平伏してくる。


「も、申し訳ございません、お嬢様!

 全てはわたしの責任なのですっ!

 わたしが扉の隙間から覗き見などしていたせいで、第一王女殿下まで巻き込んでしまったのですっ!」


「ミューラ様!?」


「お嬢様のご使命のお手伝いをすると決めておりましたのに、このような騒ぎを引き起こしてしまい、わ、わたしは、どのように責任を取れば……」


 平伏したまま震えているミューラに、メグウィン殿下がそっと寄り添う。


「ミューラ様、どうか落ち着いてくださいませ。

 そ、その、メリユ様は、わたしたちが覗き見ているのをご存じの上で、そのお姿をお見せくださったのだと存じますわ。

 そのように理解してよろしいでしょうか、メリユ様?」


「だ、第一王女殿下、そ、それはどういう……?」


「昨夜はわたし、兄の命で貴賓室の壁裏で潜り、メリユ様の監視の任に就いていたのですが、メリユ様はそれを全てご承知の上で、神聖なお力の一部をお示しくださったのです。

 つまり、メリユ様は、ミューラ様にご自身の正体を明かすおつもりだったのだと推察いたしますわ」


 平伏した姿勢のまま、顔だけを動かしてメグウィン殿下の方を見て、随分と驚いた様子のミューラ。


 えっと……どうにも口を挟めないような状況になってきているのだけれど、わたしはどうすればよろし?


「そう、そうなのですね。

 ミューラ様でも、メリユ様のこのお姿は初めてご覧になられたと、そういうことなのでございますね?」


「は、はあ……ぇ、ええ、そうですっ」


 メグウィン殿下のお言葉を聞いて、顔色の戻ってくるミューラ。

 えっ、何、なんで熱っぽい視線でわたしを見てくるのかな?


「それでは、メリユ様にお伺いさせていただきたく存じます。

 メ、メリユ様の本当のご正体は、使徒様ということでよろしいのでしょうか?」


 ミューラの身を引き起こしてから、そのミューラと一緒に上目遣いでわたしをじっと見詰めてこられるメグウィン殿下に、わたしはドキリとさせられた。


「そのお姿、中央教会の礼拝堂にございます、使徒様の絵姿とほぼ変わらないものと存じます。

 その光輝くお翼、メリユ様は人の身ではない、という理解でよろしいでしょうか?」


 えっと、これを肯定するのはまずいわよね?

 取り合えず、否定するのが正解ということでよろし?


「いいえ、メグウィン第一王女殿下、わたしは殿下と同じ人の身でございます」


「は、いえ、しかしっ!」


「この天使形態は、先ほど賜ったばかりのもの。

 仮初のものなのでございますわ」


 ま、まあ、多嶋さんからもらったばかりのものだし、間違ったことは言ってないわ。

 言ってないわよね?


「ぉ、お待ちくださいませっ! 天使形態とは!?

 メ、メリユ様は、神より使徒様のお姿をつい先ほど下賜されたと、そういうことなのでございますか!?」


「天使形態……お嬢様の、天使形態!?」


 メグウィン殿下が脳みそフル回転中といったご様子でお訊きになってくる中、ミューラは何やら茫然としているみたい。


 いやいや、現実逃避(?)してる場合じゃないから……さーて何て答えるのがいいのかしらん。

 いや……さっきみたく、ノーコメントに徹すべき?


 あまりペラペラ喋るのはどう考えても得策ではなさそうね?


「申し訳ございません。

 わたしには、これ以上ご説明申し上げる権限がございません」


 ハッとしたような表情をされるメグウィン殿下。

 何だか、これだけでも映画の中にいるような気分になってくるわね。


「わ、わたしこそ、大変申し訳ございません!!

 神命に関わるようなこと、お伺いしてしまうなんて、短慮が過ぎましたわ。

 きっと、神が下賜されたということであれば、それ相応のご理由があるのでございましょう」


「いいえ、構いませんわ、メグウィン第一王女殿下」


「メリユ様のご慈悲に心より感謝申し上げます」


 ドレス姿のメグウィン殿下がその場で頭を下げられ、メイドさんたちがどよめく。


「殿下」


「あ……いけない! ハ、ハナン、アリッサ、セメラ!

 ここにいる侍女たちを全員、一旦拘束なさい。

 侍女の交替も中止、王国の最高機密に触れてしまったのだもの、対応はお父様方とも協議の上、これから考えるわ」


「「承知いたしました」」


 腰が抜けそうになっていたメイドさんもいたのだけれど、不穏な言葉に、また床に座り込んでしまう。


「あなたたち、そんなに心配しなくていいわ。

 おそらく、メリユ様とわたしに関わる仕事に就いてもらうことにはなると思うけれど、守秘義務さえ守ってもらえれば昇給は間違いなしよ」


「姫様、我々は……?」


「アリッサとセメラは今更でしょう?

 まあ、今またとんでもない秘密に触れてしまった訳だけれどもね」


「はあ、まあそうですね。

 ちょっと、セメラ、さっさと現実に戻ってこい!」


 メイドさんたちの影になっていて、気が付かなかったけれど、セメラさん、またポーッとなってる。

 本当に大丈夫?


「あ、ああっ、誠に申し訳ございません、メリユ様。

 また、はしたないところをお見せしてしまい、お目汚し失礼いたしましたっ」


 また、急にハッとなって、真っ赤な顔でこちらを振り返り、なぜか謝罪されるメグウィン殿下。

 うん?

 素が出てしまったことを恥ずかしがってるっていうこと?


「いえ」


 むしろ、年相応の姫様っぽくてよろしいのでは?


 って、あれ、ミューラ?

 何?

 気付くと、ミューラがおそるおそるといった様子ながら、顔を赤らめながらわたしの方に近付いてくる。


「ああ、お嬢様、使徒様のお姿、ものすごくお美しいですぅ。

 その光輝く翼に触らせていただいても、よろしいでしょうかぁ?」


「あっ、ミューラ様、ずるいですっ!

 メリユ様、わ、わたしも、触れさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 ええっ、メグウィン殿下も!?


「あああ、光と水の聖女様、わたしもそのお翼に触れさせていただきとうございますっ!」


 セメラさんもか!

 何、このカオス!


 いや、そのゾンビみたいな近寄り方、超怖いんですけど!


 ……この後、わたしはその三人にもみくちゃにされてしまったのでした、めでたし、めでたし。

 って、そんな訳あるかいなっ!?

悪役令嬢が天使形態をとるとか……はたして、ありなんでしょうか?

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