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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第31話 悪役令嬢専属侍女、悪役令嬢の秘密を覗き見る

(悪役令嬢専属侍女視点)

貴賓室に入るのに躊躇する悪役令嬢専属侍女は、悪役令嬢の秘密を扉の隙間から覗き見してしまいます。

 目の前にはあまりにも立派な王城の貴賓室の扉。

 ビアド辺境伯領城もそれなりには立派だと思いますが、やっぱり他国から来られた国賓もお泊りになるお部屋は違います。

 何度この扉に触れても慣れられそうにはありません。


 そして、今は緊張に手に震えて、うまく扉を開けることができないのです。


 わたしは、聖女様であるらしいお嬢様とちゃんと向き合うことができるのでしょうか?

 まだお嬢様=聖女様と信じ切れていないということ。

 そして、お嬢様ご自身の口から聖女様であるということをお伝えいただけずモヤモヤしていること。

 ……もあって、わたしの心は揺れているようです。


 本当に『聖女様』とは何なのでしょうか?

 ビアド辺境伯領にもあるような攻城兵器を使っても破ることのできないという結界を張ることができる?

 神命により神罰を与える対象を天界に連れて行くことができる?

 御前会議で聞かされたお話を思い返してみても、お嬢様がそのような存在だとは思えません。


 わたしはどのようにお嬢様に接すればよいのでしょうか?


「お嬢様……」


 わたしは緊張で鼓動が速まるのを感じながら、できる限り静かに扉を少し開き、中にいるお嬢様のご様子を窺おうとしてしまいました。

 そっと、隙間から覗き込みますと、窓辺にお立ちになっているお嬢様が見えます。


 何をなさっておられるのでしょうか?


「“Show console”」


 聞いたことのお言葉を呟かれたかと思いますと、お嬢様の斜め前の空中に透明な青いガラス板が現れたのですっ!!


 わたしは言葉を失ってしまいました。


 これは……一体、何の奇術なのでしょうか?

 いえ、こ、これが聖女様の奇跡? なのでしょうか?


 見たことも聞いたこともないことをなさっているお嬢様に、わたしは心臓が破裂しそうなほどドッドッドッと脈打つのを感じてしまいます。


「ふぅ……」


 そして、お嬢様が両手を空中に突き出されると、何と! 空中に細かいタイルが並んだような板が現れ、お嬢様はそれに触れ、何かをなさり始められました!

 すると、あの青いガラス板に、見たこともないような文字なのか、紋様なのか分からないものが並んでいくのです!


 お嬢様が何をなさっているのかまるで分かりませんが、今なさっていることだけでも、自分の目を疑わずにはいられないようなものなのです。

 そういえば、第一王女殿下が聖女様は聖なるお力の行使に手続きが必要だとおっしゃっておられました。


 つまり……今、お嬢様は、何かしらの聖なるお力を行使されようとしている、ということなのでしょうか?


 わたしの知らないお嬢様。

 わたしは息が詰まるような、苦しさを覚えて、お嬢様を隙間からじっと見詰め続けます。


“vrVRMxReader vrmxReader_tmp”

“vrmxReader_tmp SetFileName "./Meliyu_ver2.vrmx"”

“vrPolyDataMapper vrmxMapper_tmp”

“vrmxMapper_tmp SetInputConnection [vrmlReader_tmp GetOutputPort]”

“${avatar_${admin_meliyu_id}} SetMapper vrmxMapper_tmp”

“${avatar_${admin_meliyu_id}} Update”


 規則性があるようでないような紋様。

 これでお嬢様は一体何をなさろうというのでしょう?


「姫様っ」


 どなた様のお声でしょうか、わたしの背後から聞き慣れないお声が聞こえ、わたしが振り返りますと、女騎士に護衛された……ひ、姫さ、いえ、第一王女殿下がそこにいらっしゃっておられたのですっ!!


「っ!!!」


 わたしが思わず声をあげかけましたところ、第一王女殿下が畏れ多くもわたしの唇に人差し指を当てられ、静かするようご指示されました。


「ミューラ様、わたしもご一緒してよろしいでしょうか?」


 耳元で第一王女殿下に囁かれるというあまりにも名誉(?)な体験に、ゾクゾクするものを感じながら、わたしはコクコクと頷きます。

 わたしが姿勢を低くしますと、第一王女殿下がその上から身を乗り出すようにして、扉の隙間を覗かれます。


「“Execute batch for update-avatar-of-meliyu”」


 そして、次の瞬間、お嬢様がまた何かしら呪文のようなものを呟かれるのが聞こえます。


 青いガラス板には、下から上へ、やはり読み取ることのできない文字、紋様のものが大量に流れていき、お嬢様は真剣な眼差しでそれを読み取られているようでした。

 第一王女殿下は、お嬢様のなさっていることをわたしよりは理解されているご様子でしたが、『っ』と息を呑まれているようなご様子でもありました。


 お嬢様、お嬢様は何をなさるので……っ!?


 次の瞬間、わたしは目を限界まで見開いていました。

 何しろ、お嬢様の身体から光の細かい粒のような舞い散り始め、貴賓室内に幻想のような世界が広がったのですから!!


「っっ!!」


 第一王女殿下も驚きのあまり、わたしの背中に体重をかけて、扉の隙間に目を押し当てていらっしゃるようです。


 これが、お嬢様の、聖女様のお力なんでしょうか?


 まるでお嬢様を分解して消し去ってしまいそうな勢いになりつつある光の粒の噴き出し方に、わたしはゾッとするものを感じてしまいます。

 この次の瞬間、お嬢様の身体全てが光の粒となり、この世から消え去ってしまう……そんな怖ろしい想像すら浮かんできてしまうくらいです。


「ぉ、お嬢様……」


 わたしは目が涙ぐんでくるのを感じながら、お嬢様周囲に広がっていく光の粒々にお嬢様ご自身のお身体が真っ白になり、見えなくなっていくのをただ眺めていることしかできませんでした。


「メ、メリユ様っ」


 第一王女殿下もわたしと同じく嫌な想像を抱かれたのでしょう。

 ぐぐっと扉の隙間を押し広げようするようなお力が加わるのを感じてしまいます。


 しかし、第一王女殿下やわたしが不安を覚える中、眩過ぎる真っ白な光が貴賓室内を埋め尽くし、わたしたちは思わず目を瞑ってしまいました。






 目が、痛い……。


 瞼を閉じていてさえも真っ白な神々しい光が透過して、目が痛くなるのを感じます。

 お嬢様、大丈夫なんでしょうか?

 わたしは心が押し潰されそうな不安に取り付かれながら、いち早く目を開かなければと思いました。


 間もなく、真っ白な光が収まり……元の静けさが戻ってきます。


 王城の中庭園で囀る小鳥たちの鳴き声が微かに聞こえるのに耳を澄まし、わたしは(それとは別に)すぐ近くで翼が羽ばたかれるような音がするのを感じました。


「っ!!!」


 傍で第一王女殿下が呼吸を乱されるのを感じ、わたしも瞼を上げ、お嬢様の方を見てみます。

 まだぼやける白い視界に、白い人影?


 ………使徒様?

 ぃ、いえ、あ、あ、あれは一体どなた様なのでしょう?


 赤く綺麗な長髪。

 背中には、光の粒を放つ大きな白い翼。

 身体は教会の絵画に出てくる使徒様が纏われる純白の柔らかそうなドレスを身に纏い、その裾からは裸足の足が見えています。


 お嬢様!?

 そう、使徒様にしか見えないお姿の、あのお方のお顔は間違いなくメリユお嬢様のそれで間違いなく、相変わらず微笑みを浮かべられ、ガラス窓に反射して映る今のご自身のお姿を確かめられておられるようでした。


 そ、そんな、お嬢様が、し、し、使徒様!?


「ぁっ、ぁっ、ぁっ!」


「メ、メ、メリユ、様っ!!」


 第一王女殿下も、わたしも、信じられないようなお嬢様のお姿に身体の震えが止まらなくなります。

 奇跡のような光景に目に涙が滲んできて、呼吸もまともにできなくて、わたしはタダ苦しそうに水面に口を突き出す魚のように、口をパクパクさせることしかできませんでした。


 もはや全身の筋肉が言うことを聞かなくなり、わたしは扉の隙間を維持し続ける力も残っていません。

 このまま、部屋に倒れ込んで、お嬢様に気付かれれば、お嬢様は覗き見ていたわたしたちをどのように思うのでしょう?


 怖い、使徒様となられたお嬢様から失望されることが怖い。


 それでも、もう手に力は入らなくて、第一王女殿下を支えて続けることもできなくて、


「「きゃあ」」


 第一王女殿下とわたしは、とうとう扉を押し開き、貴賓室内に倒れ込んでしまったのでした。

悪役令嬢のとんでもない秘密(?)を目撃してしまった悪役令嬢専属侍女ミューラ、一体どうなってしまうのでしょうか?(遠い目)


なお、第一王女殿下はお茶の前に第一王子と話をしておこうと移動中、たまたま通りかかったところでした。

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