第316話 ダーナン子爵令嬢、『鳥船』での移動を体験する
(ダーナン子爵令嬢視点)
ダーナン子爵令嬢は、『鳥船』での移動を体験します。
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お姉ちゃんの姿になられたハードリー様=リーラ様が襲撃を行った(あのメルカ様と同名な)女騎士様を砦に瞬間移動されて、特使は再びご出発の態勢を整えられたんだ。
本当に、ハードリー様が倒れられたときは心臓が止まりそうだったのだけれど、すぐさまお姉ちゃん=ファウレーナ様=メリユ様と同じ姿で復活されたのにもびっくりし過ぎて心臓が止まりそうになったよ!
さすがはハードリー様=リーラ様。
前世でもそうだったように、今世でも他の『人』にはできないようなことをなさるんだよね。
今はこうしてお姉ちゃんの妹分になってるあたしだけれど、自分の立場はちゃんと弁えているつもりなんだよ?
ハードリー様が復活されたときだって、ホッとしつつもお姉ちゃんと『ウヌ・クン・エンジェロ』のお二人の邪魔にならないようにそっと見守っていたんだから!
「タダ、あんまり、ハラハラさせないで欲しいかなあ」
そうね。
あたし、わたくしがメルサ・サンクタ・スピリアージ・アリファナードだったときもそうだった。
こんな感じだったと、メルー側の自分を保っていてもメルサは思っちゃうのよ。
タダ、あまりあたしの心臓をびっくりさせないで欲しいなとも思っちゃう。
まあ、贅沢な悩みだとは思っているのよ?
もう二度と見ることなんてできないと思っていた、お姉ちゃん、メルカ様、リーラ様がお揃いになられて、世界を変えられようとされているんだから。
改めて前世の苦労も報われたなあって思っちゃうわよね?
「“Begin-flight object-10 to pin-id 105”」
今あたしたちはまた輪になっているの。
あたしの隣にはメグウィン様=メルカ様とハードリー様=リーラ様。
そのハードリー様がお姉ちゃんの姿になっていて、お姉ちゃんは使徒様の姿に戻っていて、頭が混乱しそうだけれど、さっきよりもずっと神話の中にいるような気持ちになるの。
「「「一、二、三」」」
『鳥船』の出航。
あたし=メルーは川舟に少し乗ったことがある程度なんだけど、まさか経典にある『鳥船』で空を飛ぶことになっちゃうとか、本当にもうびっくりだよ。
前世じゃ、絶対にできなかった体験に、ほぉっとなっちゃう。
胸が熱くなって、ワクワクしちゃう。
空を飛ぶってどんな感じなんだろう?
お姉ちゃんからは予め、速さが増す間は進む方向を向いていて後ろ側に引っ張られるような感覚があるって聞いてはいたんだけれど……
「わわっ」
本当に馬車が急に動き出したときのような感じがあって、少ししてからドーンって大きな音が著大な『鳥船』の中に響き渡ったんだ。
お姉ちゃんが進む方向に背を向けていて、あたしが進む方向を見ている形になっていたんだけれど、お姉ちゃんが使徒様の翼をバサッとされるのも見えたわ。
そしてね、ゴーンって変な音が何度か響いたの!
あたしが思わず、山よりも高いっていう『鳥船』の中の空を見上げると、お空の上から下に向かって突き出した建物の周りにある雲が急に渦巻き始めるのが見えたんだ。
うん、これが『鳥船』の出航なんだって思った。
海のお船だと、何かを鳴らすって聞いたような気がするんだけれど、これはそんなものじゃない!
『鳥船』の中のお空に浮いている雲が模様を作っていってすごいんだ。
今度はね、ヒュウヒュウって音も聞こえて、少しばかり風を感じるの。
「「「ぉぉぉ」」」
あたしたち以外の『人』たちは皆、跪いていらっしゃったんだけど、思っていた以上に後ろに引っ張られる力が強くて、騎士様たちの鎧がね、ガチャガチャする音も聞こえたわ。
身体の感じで分かるの。
どんどん速くなっていってるんだって!
馬車だとすぐにこの感覚は治まる。
馬車の速さなんて知れているもの。
でも、『鳥船』は全くそんな気配がないの。
タダひたすらに速くなっていっていて、ちょっと怖くなっちゃうくらい!
「メリユ様っ」
「これから音の速さの二倍まで加速いたします」
メグウィン様が少しばかり不安そうに尋ねられるんだけれど、お姉ちゃんはいつものように微笑まられながら、とんでもないことをおっしゃるの!
音の速さの二倍?
音って(あの)山に木霊して返ってくる、あの速さの二倍で山より大きい『鳥船』が飛んじゃうって言うの!?
わわわ、後ろに引っ張られる力がどんどん強くなってるような気もするよ!?
「少しジーがかかりますが、どうぞご安心くださいませ」
ジーって何!?
うぅ、お姉ちゃんとハードリー様だけが平然とされていて、他の皆はびっくりしてるよ!?
上のお空もぐるぐるしているし、『鳥船』って凄過ぎない!?
ゴーとか、ボーンって音も聞こえるし、『鳥船』って動くだけで大変なことになるんだって思っちゃったよ!
時間にして、一刻、ううん、どんなに長くても二刻は経っていないって思うのに『鳥船』はまた凄い勢いで止まっていって、なんと、オドウェイン帝国の帝都ベーラートにもうご到着しちゃったんだって!
うん、その日中には着くとは聞いていたけれど、こんなに早いとか聞いてないよ!?
あたしの中のメルサが言うの!
どんなご奇跡よって!
瞬間移動もぶっ飛んでいると思うけれど、こんな著大なお船がお空を飛んで、あっという間に国と国の間を飛び越えて、何日、何十日もかかるような場所まで行けちゃうとか、使徒様方って本当に特別なんだと思ってしまう。
「げ、猊下、凄い風で、ございますなっ」
そう、止まったら止まったで、さっきとは逆方向に強風がビュウビュウ吹いていて……うん、また髪を整えなきゃいけないよね、お姉ちゃん?
話かけてこられた騎士団長様も、初めての体験に膝がガクガクされているみたい。
「もう暫くいたしますと収まるかと存じます」
「そ、そういうものでございますかっ!?
それで、今、某らは、て、帝都ベーラートの上空におるということで、合っているので?」
「はい、もう到着しております」
お姉ちゃんの周りだけ風が止まっているように見えるんだけれど、目の錯覚かな?
「何と! 『鳥船』とは、そ、それほどまでに、速いものでございますかっ!?」
「ええ」
「メリユ様、もう帝都にお着きになられていると、そう理解してよろしいのですか!?」
聖騎士団の列の方からサラマ様も(強風に耐えながら)いらっしゃって、驚かれているみたい。
「ええ、予定より少し遅れてしまいましたので、加速を少し速めてしまい、皆様方にはご迷惑をおかけいたしました」
……あたしたちの商隊なんて使徒様からすれば、川亀さんどころか蟻さんよりも遅く見えちゃうのかもしれない。
メルーとしても、そんな風に思っちゃうよ。
「ああ、何という、記録を、記録を取らなくては!
アルーニー、ギシュ、お願いね」
サラマ様、あたしもそのお気持ちよく分かっちゃうよ。
あたしも、前世のメルサなら……うん、聖女としての立場で、経典に記すための資料を残さなきゃって思っちゃうもの!
「あの、メリユ様……メリユ様とハードリー様は大丈夫なご様子でございますが、わたしたちは一度装いを整えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そんな中、すっかり髪がお乱れになってしまわれたルーファ様が、困ったご様子でそうおっしゃるんだ。
うん、そうね。
あたしも髪の毛が……まずいことに。
「では、メルー様はわたしが!」
そんなことを思っていると、お姉ちゃんの姿のハードリー様が迫ってきて……うん、リーラ様はやっぱり今生でも変わらないんだなあって思ったの。
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この規模の中空の物体が加速・減速すると、さすがに無視できない乱流が内部で発生するようでございますね、、、




