第315話 聖国アディグラト家令嬢、襲撃の後始末に関わる
(聖国アディグラト家令嬢)
聖国アディグラト家令嬢は、聖教側の立場で襲撃の後始末に関わります。
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テーナ・インペリアフィリーノ・オドウェイン第二皇女殿下=テーナ様たってのご希望により、メリユ様、メルー様、メグウィン様、ハードリー様のいらっしゃる場へお連れしたわたしたちは、テーナ様が大逆罪を犯された女騎士の真実をつまびらかにされるところを(その後ろから)見ることになった。
本当にサラマ様もご寛容になられたものだと思う。
聖国は、元々帝国の干渉を嫌っていたし、今や帝国が聖都の聖職貴族たちを唆して聖国を操り人形にしようとしていたのも明らかになっている以上、高位聖職者として帝国の皇族を許せないと思われるお気持ちもおありだろうと思うのに。
全てはメリユ様のおかげなのね。
メリユ様のおかげで、わたしたちは世界を俯瞰して見られるようになった。
罪を犯した者が、はたして悪の心だけで動いたのか、そうでないのか……致し方のない理由があったのではないのかと、使徒様に近い視点で見られるようになったと言えるのかもしれない。
「お嬢、気を付けてくだせぇよ。
どう考えてもあの騎士の嬢ちゃん一人でやれたことじゃありやせんぜ」
「分かっているわよ。
ミスラク王国の影に内通者がいるのは明白だけれど、聖国側にも内通者がいないとは言い切れないわね」
神の目があったとしても、罪人全てに天罰が与えられる訳ではない。
常に神の加護の下にあるはずのお方=メリユ様ですら、あの女騎士による暗殺の危機に晒されたように、神から見れば、『人』などゴマ粒のようなもの……最初から明確な悪意を持って動いているような場合を除き、確実に守護される訳ではないのよね。
実際、メリユ様に神の目というものがどのようなものか拝見させていただいて思い知ったわ。
タダ、今回の場合……神が意図して女騎士の動きを止めなかった可能性もあるのかしら?
一度命を落とされたはずのハードリー様。
わたしたちも聖騎士たちに護衛されていたから、ハードリー様が凶刃に倒れられた瞬間まで見ることができなかったけれど、ハードリー様が血だまりに沈んでいらっしゃるところは少しだけ見えていた。
それが聖なる光と共に、血だまりが消え、ハードリー様がメリユ様のお姿で生き返られたのを見てしまったとき、ご神意がそういうものであったのではないかと思ったわ。
ハードリー様は、神により聖なるお力を振るわれるに相応しいお方として選ばれたのよ。
あの女騎士の凶刃からメリユ様を防ぎ、お命を一度落とされたのも、神からの『ご試練』だったのではないかしら?
使徒ファウレーナ様と同じお姿を与えられ、それだけのお力を下賜されたことは……少し羨ましくもあるけれど、あのような試練を潜り抜けられるかと問われれば『無理』としか答えようがない。
しかも、試練だと告げられずにあのようなことができるかと言われれば……わたしには無理だと思うのよ。
「それにしても、ハードリー様があの女騎士の身内を救われるだなんてね」
「まさに、新しき聖女様に相応しいお振舞いでさあ!」
「ふふ、その通りでございますね」
突然サラマ様がアファベトとわたしの会話に入って来られてドキリとする。
「サラマ様」
「全ては神の思し召しということでございましょう」
サラマ様はそうおっしゃられると、優しく微笑まれる。
そう、これが神の御前で行われた『ご試練』と考えれば、全て辻褄が合うのよね。
特使の護衛の騎士たちにとっては、本来あってはならないような失態。
それすらも神は利用され、新たな聖女猊下を誕生させられたのね。
「まずは、ハードリー様を聖女様に生まれ変わらせられたこと。
これは、特使が帝国に赴くにあたり、神が必要であるとお考えになられたということかと存じます。
そして、特使の派遣が、此度の暗殺未遂により、遅れるのことのないようにすること。
あの方とご一緒に人質とされていたお身内の方を瞬間移動させられることでそれも解決されると、神はお考えになられ、メリユ様方に託されたのでございましょう」
さすがはサラマ様。
ご神意をよく見抜いていらっしゃる!
生き返られたハードリー様が全て納得していらっしゃったご様子からして、『時』をお止めになられて、メリユ様のお姿へと変えられたのだろう。
それにしても、次から次に起こるご奇跡に、感嘆の言葉も出ない。
この『鳥船』の中の光景ですら、この世のものとは思えないほどのものなのだから。
それに使徒ファウレーナ様を凶刃から救ったハードリー様がファウレーナ様=メリユ様と同じお姿になられたのも神話の一節であるかのよう。
「ルーファ様、全てはメリユ様のお言葉通りにしなければならないことではございますが、聖教としての落としどころもまた見付けなければならないのも事実でございます。
お供していただけますでしょうか?」
「はい、もちろんでございますわ、サラマ様」
本当に……敢えて言えば、サラマ様=サラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下とこのようにお話できる関係になっているのも不思議なことね。
「メリユ様、ハードリー様、失礼いたします。
まずはハードリー様の御快癒、そして、聖女メリユ様と同じお姿、お力を神より下賜されましたこと、本当に喜ばしく存じます。
大変なところかとは存じますが、少しばかりお話させていただきとうございます」
そうして、わたしたちはテーナ様の後ろからメリユ様、ハードリー様のいらっしゃるところへと向かったのだった。
特使の帝国への派遣を遅らせてはならないということで、協議はすみやかに行われたわ。
聖国側、王国側の違いはあれど、聖都ケレンからずっと共闘してきた親しき間柄であるのもあって、異論が挟まれることもなかった。
聖国側の要望としては、ハードリー様のご意向に従い、女騎士メルカ・メイゾ・バフェタの生存を確約しつつも、その名を捨てさせ、表向きは大逆罪で処することとなった。
彼女は別の名前で聖教のため、神のために、尽くすことになるだろう。
ハードリー様のご要望で、彼女の姉とは一度だけ会わせることになったが、大逆罪を犯した者とは思えないほどの厚遇と言えるだろう。
そして、彼女の姉の救出がハードリー様により執り行われた。
「エクセキュート アイ オブ プロヴァダンス!」
まずは神の目が呼び出され、その姉の場所が探られた。
メリユ様によると、『アクターアイディー』と呼ばれる、神により『人々』に与えられる真名のようなものには、その血に連なる者たちを辿れるような仕組みがあるらしい。
その仕組みを使って、彼女の親族をあたり、それらしい場所に囚われていたその姉を見付け出したのだ。
神の目により大きく拡大され、映し出された(不安そうながらも)健康そうな姉の姿に、女騎士がその場で泣き崩れたのは言うまでもない。
わたしたちはまさに神のお力を振るうということがどういうことかを、また改めて見せ付けられたのだ。
「善なる者のみが使うことを許された、聖なるお力……」
「何ですかい、そりゃ」
「ハードリー様こそ、使徒ファウレーナ様と共に生きられるのに相応しいお方だと思ったということよ」
本当にこれほどのお力を与えられていながら、自分の命を(一度は)奪った相手の姉を救おうとされるのだから、ハードリー様こそウヌ・クン・エンジェロに相応しいのは間違いないわね。
本当にこれでまだデビュタントどころか、学院にすら通われていないだなんて、信じ難いことだわ。
わたしの学院生活は一体何だったのかと思ってしまうわね。
いえ、それも今に繋がるのに必要なものだったのだから、悪くはなかったということかしら?
聖職貴族として、これほど神や神のご眷属様方に近しい場所にいられるのは、自分の人生で最良の栄誉と言って良い。
世界が平和を取り戻したそのときには、きっとこのようなご奇跡も鳴りを潜められるのだろうが、それはそれで良いのよ。
神の直接的な関与を必要としない世界こそ、本来あるべきものなのだから。
ただ、その頃のわたしは、それを少し寂しく思ってしまうかもしれない。
それでも……数十年後、わたしに孫が生まれる頃には、このご奇跡の数々を誇らしく語れるのだろうと思うと、それはそれで楽しみに感じられるのだった。
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久々のルーファちゃん視点でございますが、やはり、彼女は彼女で、このお話にとってはなくてはならない存在なのでございますよね?




