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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第313話 ハラウェイン伯爵令嬢、『時』の止まった世界で悪役令嬢と話をする

(ハラウェイン伯爵令嬢視点)

落ち着きを取り戻したハラウェイン伯爵令嬢は、『時』の止まった世界で悪役令嬢と話をします。


[ご評価、新規にブックマーク、『いいね』いただきました皆様方に深謝申し上げます]

 『鳥船』の中、『時』の止まった世界で、わたしが落ち着くのを待ってくださってから、メリユ様が改めてご説明してくださいました。

 神は、現時点でわたし=ハードリー・プレフェレ・ハラウェインの姿を、メリユ様の変身候補としてご用意されていなかったということ。

 そのため、致命傷を負ってしまったわたしを救うには、メグウィン様、メルー様、ミューラ様、そしてメリユ様のお姿から変身対象を選ばざるを得なかったとのことでした。

 そして、最終的に(理由は不明なものの)神が直近にご用意されたメリユ様のこのお姿をわたしに宛がうことを決意されたとのことでした。


 もし神が(怪我を負っていない)ハードリー・プレフェレ・ハラウェインの姿を下賜されなければ、最悪の場合、わたしは生涯をメリユ様のお姿で過ごすことになるということなんです。


 それはすなわちわたしはハラウェイン伯爵家の第一子、その血を引く娘として扱ってもらえないということを意味します。

 心はハードリーのままであっても、女当主になることは不可能ということになるのでしょうね。

 もっとも、お母様はまだぎりぎり子をなせるお歳ですし、弟(妹)が生まれる可能性もあることでしょう。

 それならば、ハラウェイン伯爵家が断絶するということもないかと思います。


「ふふ」


 ご心配なさらなくてよろしいんですよ、メリユ様。

 そもそも、メリユ様がハラウェイン伯爵領をお救いくださらなければ、オドウェイン帝国の工作活動で、伯爵家は滅茶苦茶になり……あの先遣軍によって滅ぼされていたことでしょうし。

 わたしが恨み言なんて言う訳がないんですよ?

 わたしは、メリユ様のためなら、命を捧げて……あのときに終わっていても、満足だったんですから。


 それがメリユ様のお姿で蘇らせていただけるなんて、これ以上ない幸いと言えることなんです。


 以前から思っていました。

 どうして神は、メグウィン様やメルー様、ミューラ様のお姿はメリユ様の変身候補として下賜なさっても、わたしの姿はご用意されないのだろうと。

 もしかしたら、この機会に、わたし自身がメリユ様と同じになっても良いと、認めてくださっていたのではないのでしょうか?


「ハードリー様?」


「色々とお気遣いくださいましてありがとう存じます、メリユ様。

 ですが、そのようなご心配は杞憂なんです。

 わたしには、神がメリユ様のお姿をわたしに下賜できる機会をくださったのではないかと思えますもの」


「それは……」


 正直に言いましょう。

 わたし、メルー様が羨ましかったんです。

 もちろん、わたしにもできることがあって、メリユ様の聖なるお力の管理やメリユ様の身の回りのお世話ができることを至上の喜びと思ってはいたのですが、直接聖なるお力を振るえ、なおかつ、聖なるお力が足りなくなったときにはメリユ様に譲渡することができるようなメルー様が羨ましくてならなかったんです。


 何より、姉妹のように接されているご様子に嫉妬していたのも事実です。


 メリユ様は平気なお顔で、誰にでもなられますけれど、このような感じなんですね?

 メルー様と同じお姿になられて、メルー様に姉妹のように接されていたとき、このような感じだったんですね?

 今回はわたしの側がメリユ様と同じになった訳なのですが、メリユ様と同じ、お揃いの赤髪で、お揃いの声で、姉妹のようにいられること、うれしくてならないんですよ。

 これは本当の気持ちです。

 わたしの本音なんです。


「ハードリー様……」


 オドウェイン帝国で、聖なるお力を振るわれるにあたり、余力はあった方がよろしいでしょう?

 メルー様と一緒に、わたしにも聖なるご命令をご執行されるのを手伝わせてくださいまし!

 今度はわたしだってメリユ様の妹分として、メリユ様のお手伝いしたいんです。

 ええ、このお力が世界を滅ぼし得るものだってことも分かっています。

 絶対に悪いことに使ったりはしないと誓います。

 どうか、わたしに何なりとお命じくださいまし。


「分かりましたわ、ハードリー様」


 顔を上げると、優しく微笑んでくださるメリユ様がいらっしゃるんです。

 その瞳に、メリユ様と同じ姿になったわたしが映っていて、それだけ高揚感を覚えてしまいます。


 ええ、本当に神は、メリユ様を救った見返りとして、わたしのために、このお姿を用意されていたのではないかって思えるんですもの。


 もちろん、わたしをハードリーとしてお救いくださろうと、必死に動いてくださったメリユ様には感謝しているんです。

 メリユ様の、わたしの血が染み付いたご礼服を見れば、分かるでしょう?

 心の臓を貫かれたのですもの、わたし自身、最期の瞬間は……一応覚えていますけれど、ほぼ即死に近かったのでしょうね。

 それをこんなにも生き返らせようとしてくださるだなんて、それだけで、メリユ様の愛を感じます。


 一方で、神は、最初からわたしをメリユ様のお姿で生き返らせる前提で動かれていたと思えば、色々納得できるんです。


 メリユ様はわたしをハードリーとして生き返らせられなかったことに責任を感じていらっしゃるようですけれど、わたしは……本当にこの姿になれて、ご褒美だと感じているんですよ?

 わたしはそう言葉を重ねて、メリユ様にもご納得していただきました。






「さて、ハードリー様、『時』の流れを元に戻す前に、メルカ様のご処遇につきましてお話いたしましょうか?」


「はい」


 『時』の止まった世界で、わたしのすぐ傍で取り押さえられているメルカ様。

 メリユ様のお命を狙われたことについては、そう簡単に許せそうにありませんけれど……オドウェイン帝国の工作活動に受けていたハラウェイン伯爵家の『人間』としては、きっと何かしらのご事情があるのだろうなと思うんです。

 ええ、わたしが命を落としかけたのも、メルカ様のせいなのですけれど、やっぱりメリユ様を狙われたことの方が許せなく思うんですよ?


 もっと、自分を大事にしなさいって?


 それはそうですよね。

 お母様、お父様にも叱られてしまいますよね。

 何より、メリユ様にご心配をおかけしてしまったんですし、はい、気を付けます。


「それで、そのメルカ様ですが……メリユ様がサンクタ、セラム聖国の聖女認定を受けていらっしゃるのを考えますと、セラム聖国の大逆罪に値するのではないかと思います」


 わたしにでも、それくらいは分かります。

 セラム聖国に通じるキャンベーク街道が主要道であるハラウェイン伯爵領、その伯爵家の娘ですもの、セラム聖国の体制についても学んでいますもの。

 セラム聖国における教皇猊下、聖女猊下の殺害は、ミスラク王国における王族殺害と同義、同等であると……宗教国家である以上、最上位聖職者はそういう扱いだと伺っています。

 それは、国外における未遂のものであっても、協定にもとづき、聖国の司法に委ねられるそうなんですよね。


「ですが、メルカ様のご事情も……伺った上で判断すべきかと思います」


 どうしてそう思うか、ですか?

 メルカ様もハラウェイン伯爵家と同じようなご事情を抱えていらっしゃったのではないかと思うからです。

 このご理由によっては、減刑できるのではないかと思うんですが、いかがでしょうか?


 そんなわたしの提案に、メリユ様は頷いてくださいました。


 メリユ様もやはりわたしと同じ思いでいらっしゃったんですよね。

 本当にお優しいお方。

 まずはわたしの気持ちを聞いた上で、メリユ様は酌量してくださるおつもりだったでしょう。


「ありがとう存じます、メリユ様」


 思わず頬が緩むのを感じてしまいます。

 今、わたしはメリユ様と同じお顔で笑ってしまっているのでしょうか?

 本当に今すぐにでも鏡を見てみたいんですよ、メリユ様。


 良いですか?


 もし今神がハードリーの姿を下賜してくださって、元に戻れることになりましても、すぐには戻るつもりはないんですからね?

 だって、元に戻ったら、(きっと)聖なるご命令のご執行のお手伝いができないじゃないですか?

 この世界=エルゲーナを平和な世に戻すため、元に戻ったりしないんですからね、ハードリーは。


 何より、大好きな『人』と同じ姿でいるのをたっぷりと堪能させていただいてから、元に戻してくださいまし、メリユ様。


 そんなお約束をして、わたしたちは『時』の流れを元に戻すことになったのでした。

ご評価、新規にブックマーク、『いいね』いただきました皆様方に深謝申し上げます!

アンフィトリテは大変うれしゅうございます!


ハードリーちゃん、落ち着きを取り戻して、しっかりメリユとお話できたようで良かったですね。


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