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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第30話 悪役令嬢専属侍女、御前会議から解放され悪役令嬢の変化を振り返る

(悪役令嬢専属侍女視点)

招聘された御前会議からようやく解放された悪役令嬢専属侍女は、貴賓室に戻る道すがら悪役令嬢の変化を振り返ります。

 お嬢様がおかしくなられたのは、ワルデル様にねだって王城にまで付いてこられ、その王城に到着された瞬間からでした。

 そう、それまでは第一王子殿下にいかにして接近するかという話をうんざりほど聞かれて、またひと騒動起こるに違いないとげんなりしていたのですから。

 それが、王城内に入られた途端、お嬢様は急に静かになられ、王城の様子をやけに真剣な眼差しでご覧になられ始めたものですから、一体何が起きたのかと思ったものです。

 そして、馬車からお下りになられ、第一王子殿下、第一王女殿下、宰相閣下に迎えられた際も、模範的貴族令嬢のそれでカーテシーをされ、わたしははしたなくも口をぽかんと開いてしまう羽目になりました。

 それこそ、お嬢様がいきなり第一王子殿下に身を寄せていかれるような不敬を働くのではという懸念すら抱いていたというのに、お嬢様は猫を被られたかのように礼儀正しく振る舞われていたのですから。


 その後の晩餐でも、その不気味なまでの大人しさを維持されたお嬢様に、わたしは不審の念を募らせていったのですが、そこでなぜか王城侍女のハナン様からお嬢様の好みなどについて伺いたいと連れ出され、結構な時間応接室で根掘り葉掘りお嬢様の最近の様子までも含めて訊かれることになりました。


 何か妙……。

 王城側もお嬢様に対して何かしら疑念を抱かれているのでは? と思ってしまったのも無理ないことでしょう。


 貴賓室に戻る途中で、わたしはお嬢様が悪意をもった何者かによって偽者と入れ替わっているのではないかという可能性すら考えるようになっていました。

 もし本当であるならば、ワルデル様に至急ご報告しなければならない案件。

 それでも、専属侍女であるわたしが、入れ替わりに気が付かなかったとなれば、わたしの責任が問われることになるのではないかという不安も同時に生じて、わたしはひとまず一晩様子を見ることにしようと決めたのでした。


 その後、王城侍女のアメラ様に代わり、お嬢様がお休みになるまで傍に仕えていたのですけれど、お嬢様はあり得ないことに、一度もわたしを叱責されることなく……むしろ、何かにつけてわたしに礼を言うまでになられていたのです!

 こんなこと、普段のお嬢様なら決してあり得ないこと。

 だから、わたしは翌朝のお嬢様のご様子を確認して、偽者のお嬢様を問い詰めようと決めたのでした。


 結局よく眠れないまま、翌朝を迎え、貴賓室の扉前でお嬢様のお目覚めに備えていると、


「……なんて無礼な……あなたには………常識がないのかしら?」


 誰かに対してご立腹そうにお言葉を吐かれる……お嬢様のお声が聞こえてきてわたしは飛び上がりそうになりました。

 一体誰がこの扉を通ることなく貴賓室内に入られたというのか、それとも、わたしに対する叱責なのでしょうか?

 いずれにせよ、お目覚めになられたお嬢様のお着替えなどに対応するのはわたしの役目。

 慌てて貴賓室内に飛び込んだのですが、目に映ったのは、完璧なまでにドレスに着替えられたお嬢様でした。


 そして、貴賓室内にはお嬢様以外、どなた様もいらっしゃいませんでした。


 お嬢様が偽者であるという確信を得たわたしは、本物のお嬢様を返すよう必死に懇願したのですけれど……(わたしが偽者だと思った)お嬢様は『自分には事情がある』ということ、『次の段階に進むことにした』ということを告げられ、これまでのわたしへの態度に対して謝罪されたのですっ!


 わたしは本当に茫然となりながらも、これまで演技でわたしに対して辛く当たっていたというお嬢様の謝罪のお言葉を受け入れました。


 だって、お嬢様が酷いことはおっしゃられても、直接暴力に訴えるようなことは一度もなかったのですから。

 ご自身の使命のためにそうせざるを得なかったと言われてしまうと、わたしこそ、お嬢様のそんなお心に気付けなかったことに恥ずかしくなり、本当のお嬢様が本当にこんなお優しいお方ならば、今度こそちゃんと仕えようとそう思って、お嬢様の手を握ってしまったのです。

 以前の(演技だったという)お嬢様ならこんなこと、絶対にお許しになられなかったでしょう。

 けれど、演技をやめられたお嬢様はお優しくわたしの手を握り返しこられ、わたしはなぜか涙が止まりませんでした。






 そう……そこまではよかったのです。

 これで専属侍女の仕事を投げ出して実家に帰って、お父様に叱られるようなこともなく、これまで通り仕事を続けていけると安堵していたくらいだったのですから。


 それがまさか『御前会議』なんていうお父様ですら出られたことのない会議に招聘され、お嬢様についてのご協議の場に身を置くことになってしまうだなんて。


 お嬢様が近衛騎士団第一中隊をまるごと結界に閉じ込められた?

 お嬢様が聖女様で、近衛騎士団第一中隊を天界に召された?

 お嬢様が近衛騎士団第一中隊への神罰を減刑された?


 国王陛下、第一王子殿下、第一王女殿下、宰相閣下、近衛騎士団団長閣下なんていうわたしにとって雲の上の方々と一緒にいるというだけでも目が回りそうなのに、お嬢様がとんでもない存在だったらしいと知って、わたしは全身の震えが止まらなくなりました。


 お嬢様が使徒様のごとき聖女様。

 だから、アメラ様もハナン様も、お嬢様の情報を必死に得ようとわたしに近付いてこられていたのだろうとわたしは気付きました。

 そして、わたしが国王陛下ですら一目置かれる聖女様の専属侍女なんていう大役を担っていたということに手汗が止まらなくなったのです。


「お嬢様が、せ、聖女様だったなんて……」


 まだ、かなり、ううん、相当に信じられない気持ちの方が強いです。

 けれども、お嬢様が演技をする必要があったというご事情については何となく分かったような気もしたのです。

 もしお嬢様が、最初から、誰が見ても完全無欠の聖女様でいらっしゃったのならば、もっと早く国内外から目を付けられていてもおかしくはなかったでしょう。

 何より帝国と接しているビアド辺境伯領であれば、帝国側から密偵や工作兵に狙われる可能性も高くなっていたはず。


 だからこそ、それを避けるためには、お嬢様は愚鈍な貴族令嬢の振りをされていたということになるのでしょうか?


「そ、そんなことって……」


 わたしは、名乗られたものの、記憶にすら残らなかった王城の侍女お二人に連れられて、応接室から貴賓室へ向かう道中で、フラついてしまいます。


「「ミューラ様、大丈夫ですか!?」」


「は、はい、すっ、すみません……」


 ……本当にわたしなんかがお嬢様のお役に立てるのでしょうか?


 今朝方、『お嬢様がご使命を果たされる、そのお手伝いをする』と宣言しておいて、今更何を言っているのだと、お父様がいらっしゃれば叱責されることでしょう。

 それでも、震えが止まらないのです。


 先ほどの御前会議で伺ったお話では、お嬢様は、聖女様であることを本当は明かされるおつもりはなく、帝国との小競り合いに密かに干渉され続けるおつもりであったと。

 そして、ビアド辺境伯家でお嬢様の後を継がれることになる次代の聖女様が現れるまで、その使命を果たされ続けるおつもりであったと。


 それが、この度の帝国本格侵攻の兆候により、このままでは王国が滅亡するおそれがあるということで、お嬢様は表舞台に立たれる決意をされたらしいということでした。


「はあ」


 本来はタダの貴族令嬢専属侍女に過ぎないわたしが聞いてはいけないことを、わたしは聞いてしまったのでしょう。

 それこそ、万が一にでも、わたしが口を滑らせれば、王都は大混乱に陥ってしまうに違いありません。


 そんな王国の一大事に、お嬢様はおひとり聖女様として立ち向かわれる、と。


 そういうことらしいのです。

 途中からは頭が真っ白になってしまって、最後の方は何が話し合われたのかも覚えていません。

 特に第一王女殿下にご質問されて以降は、もう何も言葉が頭に入ってこない状態になりました。

 こんなわたしでも、お嬢様はお傍に仕えることをお許しくださるのでしょうか?


「ミューラ様、わたくしども二名も交替で、貴賓室付けの侍女担当に入ります。

 貴賓室外で待機しておりますので、何かございましたら、何なりとおっしゃってくださいませ」


 気が付くと、わたしはお嬢様のいる貴賓室前まで来ていました。

 どうやら、お二人は今貴賓室の扉傍で待機されている二人の侍女と入れ替わりに、担当に入られるということのようです。


「分かりました。

 どうもありがとうございます」


「いえ。

 それでは、どうぞよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いいたします」


 お二人はにこやかにわたしに頭を下げてから、交替予定の二人に近付き、交替する旨を告げられているよう。

 そして、そこに貴賓室からハナン様が出てこられたのです。

 他の四人の侍女たちが揃って頭を下げると、ハナン様は軽く頷いて、声をかけられています。


 うん、やっぱりハナン様は他の侍女の方々よりお偉い立場にあるみたいです。


 わたしも頭を下げると、ハナン様から『お嬢様にはわたしがすぐ戻る旨伝えてある』とのことを伺いました。

 うぅ……わたしはまだお嬢様と顔を合わせる心の準備できていないというのに、何ということでしょう。


「すぅ、はあ」


 わたしは緊張のあまり息が乱れるのを感じて、深呼吸を繰り返しつつ貴賓室の扉へと向かうのでした。

関係改善(落とされた?)はしましたけれど、まだ周囲の悪役令嬢=聖女様という評価を受け入れられないミューラ。

さて、どうなるのでしょうか?

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