第304話 悪役令嬢、特使出発の式典に立ち会う
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は特使出発の式典に立ち会います。
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シテ○・デストロイヤーなUFOで、オドウェイン帝国に乗り込む日がやってきちゃった。
わたし自身がメリユになって、こんな礼装をするのは初めて。
ま、帝国の皇帝陛下ってのに謁見するんだし、気合いが入るのは当然なのだろうけれど、HMD越しとは違って、身に着けているのが体感できるだけに戸惑いも大きいのよね。
長い赤髪は、ハードリーちゃんによって編み込みクラウンに仕上げてもらい、薄いヴェールを被って、王国側の『人間』であるのを示すために小冠っていうメグウィン殿下のより小さ目のティアラみたいのをしているの。
頬には、おしろいにほんのり頬紅を加えて、唇にはバラ水を、睫毛は丁寧に漉き整えてもらって、悪役令嬢メリユの顔も、すっかり聖女らしい顔になっちゃった。
やっぱり、王族のメグウィン殿下と違って、聖女っていうことで、清純さが大事みたいね。
ルーファちゃんからの借り物の聖職貴族ドレスを少しだけ手を入れて、襟の継ぎ足しをしたみたい。
コルセットとかは使わずに、身体のラインが出るドレスじゃないからまだ良いけれど、手袋はまだ慣れないなあ。
「お姉ちゃん、綺麗」
「ふふ、メルーも綺麗よ」
もちろん、銀髪聖女サラマちゃんにメルーた……メルーちゃんも、聖女らしい礼装で、お揃いよ!
いやぁ、危ない危ない、オタクなわたしがメルーたんって言いそうになっちゃったよ。
「メリユ様、とてもお綺麗ですっ!」
「ええ、メリユ姉様、素敵ですわ」
いやいや、皆、褒め過ぎでしょう?
そんなに褒めたって何も出ないよ?
まあ、褒められちっても、借り物のメリユの顔、なんだけれどねぇ。
麗奈の顔もまあまあ整っている方ではあったけれど、異世界の異人種だけあって、メリユの方がやや彫りの深い外国人顔だから、まあ美人なのよね?
ははは、でも、やっぱり鏡に映る自分の顔、違和感がすごいわ!
髪もねぇ、こんなに伸ばして、しかも編み込みクラウンとか、マジ重量感あるのよね。
「猊下、殿下方、そろそろお支度を」
「「「はい」」」「ええ」
もちろん、着替えとかは済んでいるんだけれど、このまま特使(?)として出発することになるんで、持っていくものをメイドさんたちに渡して、暫くここには戻って来ないということになるのよね。
まあ、帝国での用事が済んでも、さすがに砦にはもう戻らないか?
さすがに王族が滞在するには不適切な場所だものねぇ?
今までは、[メリユ]がフォローしてくれていたのだけれど、今はわたしがミューラにあれを持っていってとか、これを持っていってとか、一々指示出ししないといけないから、なかなかに大変よ。
何せ、今までみたいに途中の何でもないようなシーンがスキップされる訳じゃないからね?
という訳で、支度を整えたわたしたちは、エレヴェティング・プレーンが下りてくる予定の王国側の広場にやってきたのだが、UFOの影になっているせいで寒いってことで、冬用のシュールコーって上着を着せてもらったわ。
UFOは、山にぶち当たるぎりぎりのところまで下降していて、圧迫感パネェっす!
しかも、結構風が吹き荒れているんだが、普通に気流を乱しまくっているのかもしれない。
皆、上を見てしまうのは無理ないわよねぇ?
「いよいよでございますわね」
メグウィン殿下の言葉に、わたしは小さく頷く。
出発の式典の挨拶は、帝国に向かわないカーレ殿下がされるらしい。
ま、この場では、宗教関係者除けば一番偉いし、何より王国側にいる訳だからね。
て、言っても、カーレ殿下、麗奈よりは年下なんだよなあ、よくこんな場で堂々と挨拶できるわと思ってしまう。
ああ、ちなみにね、この式典にあわせて、ゴーテ辺境伯領城からもゴーテ辺境伯様=マルカちゃんのお父さんやディキル君たちも駆けつけて、なかなかすごいことになってるの。
そうよね、やっぱりクラスマックスシーンじゃ、主要キャラ勢揃いってならなきゃねって思う。
さすがに、王都の国王陛下や宰相様、教皇様なんかは駆け付けていないけれど、ま、それは仕方ないっしょ!
「諸卿、諸君、神の守護を賜りし臣民たちよ。
我らは、このエルゲーナに平穏を取り戻すため、オドウェイン帝国へ特使を派遣することとなった。
王国と聖国は心を一つに合わせ、帝国に停戦の勧告を行うことを決したのだ。
この務めは、ご神意にもとづくものであり、聖女を戴く王国、聖国にとって極めて重きものと言えるだろう。
されど、帝国は、神の警告を顧みず、この砦へ刃を向けた。
その傲慢が、神の怒りを買い、かくして神はこの『鳥船』を遣わされたのだ。
王国、聖国の兵力では勝目のない戦であったが、神のご寵愛を受けし聖女たちが我らには付いている!
見よ、この『鳥船』の威容を!
この『鳥船』は帝国に神の威を示し、必ずや、帝国の野望を砕くであろう。
神の御心と我らの信心があれば、正義の前に屈するものなど何もないのだ。
たとえ今はこの暗き道を歩もうとも、神は我らを見守り給う。
信ぜよ、神を、信ぜよ、我らの聖女たちを。
我らの祈りと共に、いざ特使の出立である!」
「「「「「おおおおおお」」」」」
ひゃあぁぁ、シテ○・デストロ○ヤーのせいで、滅茶苦茶盛り上がってるじゃん!
まあ、直径二十キロのUFOとか、現代テラですら、最強の軍事力になるもんね?
しかも破壊不能オブジェクトとか……核ミサイルぶち込んでもビクともしないのよ?
いや、まあ、それを置いておいても、こんな挨拶文よく思い付くよねぇ、カーレ殿下。
まだ高校生くらいだよね、凄過ぎない?
すごく雰囲気も出てるし、ゴーテ辺境伯様とか近衛騎士団長とか重鎮の皆さんも、頷きまくってるじゃん。
年齢では年上JDのわたしでも、あんな演説、リアルだとちょっと無理だわあって思うもの(HMD越しなら、まだしもね)。
それでもね、わたしたちにしかできないことだってあるのよ?
「じゃあ、メルー、お願いね」
「はい!
“ゴーイングダウン エレヴェイティング・プレーン トゥ ピンアイディ セヴゥンファイヴ”」
一、二、三、はい!
エレベーター代わりのシリ……白い円形のエレベーターがUFOの中央からゆっくりと下りてくるのが見えるのよ。
直径は三百メートル。
まあ、特使の皆が乗らなきゃいけないんで、余裕を持たせてみたけど、普通にデカい!
今はまだ高度があるからそれほど大きさが分からない白い円でしかないけれど、下りてきたら、まさにSFね。
「凄い、白いものが下りてくる!」
「下がれぇ、潰されるぞ」
「下がれぇ」
聖女専属護衛隊の皆がエレベーターの着地予定の円内から、追い出しにかかっている。
いや、本当にあれ、わたしがデリートしない限り、目標高度まで確実に下りるから、その下に『人』がいたら、ベチャって潰れちゃうのよね。
警告しまくったから、騎士さんたち、大分気合い入ってんなあ?
「大きい……あれで乗り込むというのか?」
「何と、あれが、迎えの小舟だというのか?」
うん、『鳥船』と言っちゃってる手前、あれが『迎えの小舟』なんて表現が出てくるのか?
まあ、テラでも航空機関係は、船用語を転用しているから、そういうものかもしれない?
「うぅ、風が!」
「うぉぉ」
……三百メートルの円盤が下りてきたら、やっぱり風が吹くのね。
まあ、シ○ィ・デス○ロイヤーだと、ここにいる皆吹き飛ばされるレベルだから、まあ、マシだけれど。
砂埃ヤベェ!
「メリユ様っ」
「殿下も!」
女騎士さんたちがわたしたちをそんな突風から護ってくれる。
ありがてぇ! って、最初から対策しとけやって感じだけれどねぇ。
間もなく、白い円盤が地表面に到達する。
目の前を通り過ぎていく円盤の厚さは僅か一ミリ。
はい、わざとそうしましたとも。
SFのエレベーターって言ったら、まさにこれでしょ?
「な、何という薄さだ!」
「すごい」
そして、接地。
う……なんか、飛び出してる岩とか石がゴキャとかいって、押し潰されたっぽいんだけれど……。
マジで破壊力パネェっす!
多分、“pin-id 75”のワイングラスも潰れたんじゃね?
「ぉ、お姉ちゃん、これに乗るんだよね?」
目を輝かせて、目の前に降臨した白い円盤を見てはわたしを見てくるメルーたん!
自分の力で降臨させた円盤だから、そりゃあ、興奮もするわよね!
しかも、発音練習はしたとはいえ、実質ぶっつけ本番だったし。
「凄い、凄い、凄いっ」
「これほどまでに平らな円盤など、初めて見ますわ!」
ハードリーちゃんも、メグウィン殿下もテンション高っ!
まあ、わたしも肉眼で真っ平らなシリンダー上面を見てると、やっぱり感動してしまう。
リアルにこんなものを顕現できるとか、本当にこの力、とんでもないなあ。
多分、このエレベーターを直径数キロにして、街に落とせば、街ごとペチャンコにできるよね?
はあ……わたし、どんだけ、破壊神的な力手に入れているんだろう?
クリッパーは消滅、エレベーターは押し潰し、UFOは圧倒的な衝撃波と圧縮流。
ついでにローカルタイムインスタンスで人形化。
どんどんヤバさが増していってる気しかしないんだが。
「メリユ様、乗船のご許可を」
「はい、皆様、ご乗船くださいませ」
サラマちゃんに言われて、わたしは乗船(?)の許可を出す。
(どういう理屈か)白く輝く円盤に真っ先に飛び乗ったのは、メグウィン殿下。
やはり、そこは譲れなかったよう。
「ふふっ、これがエレヴェイティング・プレーンというものなのでございますね!」
「メルーも!」
「わたしもです」
騎士さんたちがおそるおそる近付いていく中、さっさと飛び乗っていく前世からの大事な『人』たちに、わたしに笑わずにはいられなかった。
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