第301話 悪役令嬢、帝都ベーラート上空を飛ぶ(!?)
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢、先触れ派遣のため、帝都ベーラートを訪れ、その上空を飛びます(!?)
[『いいね』いただきました皆様方に心よりのお礼を申し上げます]
アリッサさんと聖国の聖騎士さんの計四名を帝都ベーラートに送り届けるにあたり、前日に一度わたしが帝都ベーラート上空に飛び、転移先として適切なポイントを選定、ピンを打って、いつでもそこに飛べるようにして、ついに本番がやってきた。
経験者のアリッサさんと、未経験の聖騎士さんじゃ、緊張具合が違うみたいで、聖騎士さんたちのガチガチっぷりが面白かったわ。
ま、昨日初めて生身で飛んだわたしも、そのときは正直気持ち悪くなったのは確かなんだけれどね。
HMD越しに体験するのと、実際に生身の身体で瞬間移動するのは訳が違うのよ?
それはまあ仕方のないことでしょうよ。
で、わたしは四人を送り届けた後、ミスラク王国ゴーテ辺境伯領の砦に戻る振りをして、帝都ベーラート上空に飛んでいた(これは『飛ぶ』の意味が違っていて、本気で飛んでいる)。
うん、はっきり言っていい?
超怖い!
落ちないように座標固定してあるとはいえ、足裏に確固たる地面がないんだもの!
HMD越しだと、視覚だけでそういう感覚なかったものね。
生身でやってみたら、怖過ぎだわ。
メグウィン殿下たちも(いきなりこれで)よく耐えられたなあとか思っちゃう。
「はあ、落ち着け」
まだ幼いメリユの声がわたしの喉から漏れる。
上空の突風に晒されているせいで目が痛くて、シリンダーバリアを張り、暫く腹式呼吸をして、自分を落ち着かせる。
ファンタジー系の漫画とかアニメで、超能力や魔法で空を飛ぶキャラ出てくるけど、これ、ゴーグルと防寒着必須でしょ?
というか、生身で飛ぶってなかなかに怖いなあ。
こんなことなら、バンジーかスカイダイビングでもやっておけば良かったかな?
バリア内で風がなくなったことで、肌寒さも多少何とかなって、腹式呼吸で落ち着いてきたところで瞼を上げる。
眼下に広がるのは、中世風世界にしては巨大な都市。
もちろん、石造りかレンガ造りの低層の建物しかないし、高速道路や鉄道なんてものもない、大昔の都市なのよね。
ほぼオレンジ色一色に統一された屋根が綺麗。
川や水路が煌めいているのが分かって、何よりゴマ粒みたいな『人』たちが動いているのが見えて、これがリアルなのだと分かる。
これがわたしたちが特使として訪れる帝都ベーラートなのね。
そして、帝都の中央に建てられた立派な尖塔つきのお城。
ミスラク王国の王城や聖都の建物も見てきたけれど、こっちのは格段に大きい。
贅を凝らしたヨーロッパスタイルに近い白いお城ね。
昨日は郊外にしかピンを打っていなかったんで、エレベーター代わりの厚み極薄のシリンダーを下ろす場所を選定する。
まあ、お城の入口前の広場が良いわよね。
念のため、予備のピンも打っておくか。
良し。
あとはシテ○・デスト○イヤー=UFOを飛ぶす経路の確保だけれど。
「“Linear collision detector between current position and pin-id 75”」
……あかんか。
現在の高度は千五百m。
普通に山に当たってしまうみたい。
二千mまで高度を上げて、再チェックするべ。
「“VerticalMove 500.0”」
ひょえ!
この上昇感、これはこれで結構怖い。
変な汗出たわ。
そして、高度二千mで、チェック。
で、まだ当たるんか。
まあ、アルプス山脈じゃないが、なかなかに美しい山脈があるもんね。
明日の移動の際には、UFOの通過する空間を真空のバリアにして、移動させるつもり。
このグッド、いや、ベストアイデアに辿り着くまで、どれだけ頭悩ませた分かる?
何せ、直径二十キロ、高さ五キロの円盤じゃん。
物理的な影響を検討したら、この高度二千mでマッハ2で巡航させただけで、地表面に向かって衝撃波と圧縮流が発生し、地表の風速は最大瞬間風速で300m/sに達するみたい。
いやー、直下の建物は全て倒壊、森林も全て薙ぎ倒しちゃう訳で、マジUFO動かすの無理じゃんってなった訳。
でもさ、それって大気があるせいでしょ?
付随エフェクトが発生しない透明バリアで通過領域を囲って、中身(大気)をクリッパーで別のところに移動させ、真空にしてから移動させれば、衝撃波も突風も発生しないのよ。
わたしってば頭良い!
やっぱり、ゲーム、アニメとか映画って映え重視だから、そこまで物理計算されてないのねぇ、という感想。
こっちはリアルなんでね、本当に注意しないと、わたし自身が破壊神、邪神みたいになっちゃうわよね。
ははは、多嶋さん=神様も焦ったかなあ?
ま、取り合えず確認のために二日かけてUFOを下ろしてみたんだけど、バリア外には影響出ていないみたいだから、これでいけると思うのよ。
いやー、どれだけ面倒なゲームなんだよ(ゲームじゃないが)!
って、そもそもシテ○・デス○ロイヤーをエルゲーナに出現させた張本人が言うなって?
まあ、そうなんだけどさあ。
普通のゲームクリエイターは、細かな物理的な影響まで計算しねぇっつの!
「“VerticalMove 500.0”」
高度二千五百m。
そこまで再上昇して、ようやく衝突判定なしになった。
この高度までなると、恐怖心も麻痺してきそうね。
スカイツリーの四倍近い高度だっけ?
うーん、遠くミスラク王国の方を眺めると、雪を被ったアルプス……じゃなくて山脈が連なっているのが分かる。
そして、その上空に浮かぶUFO=シテ○・デストロ○ヤー。
遠過ぎて少しぼけて見えるけれど、高さ五千mは伊達じゃない。
SF映画なら、ゴーテ辺境伯領が攻撃を受けていておかしくないような光景よね?
衛星軌道からの降下時には、帝都ベーラートからも見えていたと思うけれど、『人々』はこれをどう思ったのかしらん?
「はあ」
明日には、あれを動かして、このベーラート上空にまで移動させるのよね。
衝突判定出ていないとはいえ、line上でのピンポイントでの当たり判定だから、もしかするとどこかの山の山頂を削っちゃう可能性は否定できんのよね。
まあ、当たっても許容範囲、かな?
で、あとは……。
「そうだ。
雷のテストしなきゃだっけ?」
そう。
UFOはガワだけなんで、武装なんてないんでね。
それっぽい威嚇をしようと思ったら、前に実装した雷バッチを実行するしかないんで、一度試しておこうかなっと。
「“Execute batch for lightning-effect with pin-id 105”」
ま、雷なんて鳴りそうにない晴天なんだが。
しかし、この雷に使っているモデルも雷の形状を模したタダのサーフェスモデルだったんだよね?
どうして、普通の落雷としての物理現象が発生しているのか?
まるでわたしに忖度してくれているみたいに、起こるべき現象が発生しているみたいよね?
やっぱり、ゲームシステムもといアドミニストラ システモ デ ダイバーサ モンドはマジヤバい。
中身ブラックボックス過ぎて、わたしもどうなっているのかはさっぱりなんだよね。
うん?
「……あ、これ、なんか勝手な雲が湧き出してくるヤツだっけか!?」
三秒経っても雷落ちんなあと思っていたら、黒い雲がもくもくと湧き出してきた!?
ヤッバ!
シリンダーバリアで防御されているとはいえ、間近で雷雲に巻き込まれるのはごめんよ?
「“VerticalMove -1500.0”」
高度千メートルまで緊急回避。
確か夏場と違って冬場(春にはなってきているが)の電荷分布は、高度が低めなのよね?
二千mだとかなり危険だったはず。
心臓をドキドキさせながら、わたしは高度千mまで降下したのだった。
高度千mから高度二、三千m辺りに広がる謎の黒い雲を見上げる。
それも、生身で宙を浮いたまま……って、身の危険をマジで感じるわ。
テラの科学文明を知っている理系JDとしては、避雷針を所望したいところ。
あれだよね、たまに航空機に雷が当たってる映像あるけど、航空機は対策されているから良いのであって、生身だとどうなる?
このバリア、雷、通さないよね?
そんな不安に、わたしは顔を引き攣らせる。
というか、前よりもリアルさが上がった分、雷が発生するまでのタイムラグ、長くなってない?
「もしかして、雲の展開が完了するまで、雷落とせない?」
前回、再度雷を落としたときは、結構すぐに落とせたんだよね?
あれ、最初の雷を落としたときってどれくらい時間かかっていたっけ?
よく思い出せないけれど、こんなに時間はかかっていなかったはず。
あー、いちいちリアリティ上げるために変なバージョンアップしなくて良いからさあ。
即効性の方が大事でしょ?
なんて、神様への文句を考えていると。
ゴロゴロ。
雷が鳴り出した。
多分、わたしのいる場所は、雷形状的に当たらんと思うのだけれど、大丈夫よね?
ピシャン、ズドン!
わたしが身構える前に、目の前が真っ白になって、見覚えのある形の雷が天空から地上へ向かって走り落ちる。
「ひっ」
雷落とした張本人が何ビビってんだって?
怖いものは怖い、タダそれだけだよ!
バリア越しでも、結構な音だったしね。
……いや、雷マジ落ちたよね?
雷モデルの設置ポイントのピンは、お城の傍だったはずだけれど、雷のモデル複雑な形状しているから、真下に落ちる訳じゃないんだなあ。
「って、あかんやん!?」
み、民家に落ちたりしていないよね?
わたしが(目防御のために)顔の前に持ち上げていた両腕をそっと下ろして、足元に広がる帝都ベーラートをおそるおそる見てみる。
お城の外側で二重になっている壁……何だっけ、内城壁と外城壁、かな?……その外、お城の傍に高い建物……教会か、があるんだけれど。
あー、教会の礼拝堂の(尖がっている)天辺が崩壊して、燃え上がっていますわ!!
すご。
これはやってしまいましたなあ。
今まさに礼拝堂の天辺が崩れ落ちていっているんだが。
これ、どうすれば良い?
うわー、教会周辺の『人』たちが、大騒ぎして、逃げ惑っているのも分かるわー。
屋根の部分がそれなりにある分、『人』に当たることはないと思うけれど、結構ヒヤッとなる。
オドウェイン帝国を威圧する気は満々だけれど、人的被害は出したくないから、こういうのは気を付けないとね(テヘペロ)
まあ、それでも、教会=オドウェイン帝国中央教会に雷が落ちたことに関しては、『当然の報い』と考えてしまっている自分がいる。
何せ、戦争前の工作活動や開戦にも教会関係者が関与していたのだもの。
今こうして『神の怒りを思い知れ』と思ってしまうのは、わたしの前世が使徒ファウレーナだったからだったりするのだろうか?
「はあ、そろそろ戻らないとね」
戻る前にピンの打ち漏らしを再確認。
お城周囲の降下予定地点には打っておいたけれど、あと何かあるかなあと眺めて……ベーラートの港に並ぶ大きな……軍艦らしきものを発見する。
おおう、何やら活発に『人』が動いているんだが?
ミスラク王国は海がない国なんで、あの軍艦が攻めてくるはないだろうけれど、何か悪いことを企んでいるような気がして、軍艦の一隻一隻をピックして、オブジェクトIDで管理する。
本当に何かやらかす気なら、いつでもデリートしてあげようじゃないのよ?
わたしは、メグウィン殿下、ハードリーちゃん、メルーちゃんたちの待つ砦に戻るべく、”pin-id 75”に座標指定して、瞬間移動で帰還を果たしたのだった。
『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様方に心よりのお礼を申し上げます!
ピン打ちのために、帝都ベーラート上空を飛んだメリユ=ファウレーナさん、無意識に何かを考えていたのか、教会に雷を落としていったようでございますね?
大丈夫なのでしょうか?
ちなみに帝都ベーラートでも、UFOは見えておりましたので、それなりの騒動はあったようでございます。。。




