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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第29話 悪役令嬢、己自身をアップデートする

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

貴賓室で休憩していることになっている悪役令嬢こと女子大学生ファウレーナは、多嶋さんからもらったVRMxファイルを使ってメリユのアバターをアップデートします。


[ご評価、ブックマーク登録いただきました皆様方、心よりお礼申し上げます]]

 オケラスを被るとそこは中世ヨーロッパ風のゲーム世界。

 わたしはメリユ・マルグラフォ・ビアド辺境伯令嬢で、ミスラク王国王城の貴賓室にいるんだ。

 先ほどよりも日は傾き、レースのカーテンを透過して室内に差し込む陽光が花瓶に活けられた花々を輝かせている。


 これがVRだなんて信じられないくらいのリアリティ。


 わたしは頭を傾けて、その輝く花々を覗き込む。

 視差を考慮して左目と右目個別にレンダリングされた立体視はほぼ完璧で、VR酔いも感じない(勝手に歩いているとき別だけれど)。

 まるでそこに本物の花々があって、自分の手で掴めてしまいそうな錯覚すら覚えてしまう。


「取り合えず、メリユとして帝国の侵攻は防いでみせます、か」


 視線を落とすと、わたし自身は着たこともないようなドレスが自分=メリユの下半身を覆っている。

 まあ、小学校低学年くらいのときに、親戚の結婚式でフラワーガールをしたときに似たようなドレスで着たような記憶はあるけれど、こっちはより貴族っぽい本格的なものだ。


 ノブレス・オブリージュ。


 この時代の辺境伯令嬢ともなれば、その高貴さに応じた義務が生じるのだろう。

 オリジナルの悪役令嬢メリユには、そんなものなさそうだったけれど、もし彼女にもそんな道徳観があったなら、帝国の侵攻という王国の危機に立ち向かうことになったのだろうか?


『それじゃあ、後はよろしくね』


 多嶋さんとの最後のトークがずっしりとわたしに圧し掛かる。

 VRテスト版とか言いながら、わたしに悪役令嬢メリユとして王国を救ってみせろってこと?

 聖女メリユへのNPCたちの過剰な反応を除けば、まだバグらしいバグに遭遇していない状態で、ゲームを投げ出したくはないのだけれど、急にゲームのリアリティが増したような気がしてしまう。


 もしわたしがゲームを投げ出したとしたら、カーレ殿下もメグウィン殿下もみんな命を落としてしまうかもしれない、ということなの?


「はあ」


 わたしの言動に合わせて反応を返してくれるNPCたちにわたしはすっかり思い入れを抱いてしまっている。

 所詮、訓練データを学習したAIの作りだした虚構でしかないと分かっていても、さっき抱き付いてきてくれたメグウィン殿下を見捨てるなんてこと、できそうにないわ。


 正直、エターナルカームのVR版の没入度は、ノベルゲー版とは比較的にならないほど高い。

 というか、完成度が高いのよ。

 ノベルゲー版は、スチルの、手描きならではのタッチが尊かった。

 それのよさは絶対にある。

 対して、VR版は、色々リアルの画像やモデルをAIが学習して作ったのだろうリアリティ高い形状やテクスチャで誤魔化されている部分もあるのかもしれないけれど、一番怖いのはAIが作り出すNPCの反応だわ。

 わたしとのコミュニケーションを着実に積み重ねて、その関係性の変化に応じた反応をNPCたちがするというのは、NPCたちに対して疑似的な友情や愛情すらも抱きかねない状況を作り出してしまう。


 テスターとして言えるのは、中毒性はかなり高そうということ。


 この辺りは多嶋さんにもちゃんとフィードバックをかけていかなくちゃいけないわね。


「メリユ様、ご休憩のところ失礼いたします。

 メグウィン第一王女殿下よりお言付けがございます」


 貴賓室の扉が開く後がして、振り返ると、そこにはメイド姿のハナンさんがいた。


「ハナンさん、何でございましょうか?」


「もしメリユ様さえよろしければ、この後、お茶をご一緒できればとのことでございますが、いかがでしょうか?」


「謹んでお受けいたしますとお伝えいただけますか?」


「承知いたしました」


 メグウィン殿下とお茶……ね。

 先ほど抱き付かれたメグウィン殿下の仕草と表情を思い出して、ドキドキしてきてしまう。

 学院では、あんなかわいらしいメグウィン殿下を見たことはなかった。

 今の十一歳の少女らしさも兼ね備えた、今のメグウィン殿下の大胆さは強烈過ぎる。

 いや、もちろんいい意味でだけどね。


「三刻後にはお迎えにあがりますが、それまでにメリユ様専属のミューラ様もお戻りになられるかと存じます。

 この度はミューラ様を急に招聘させていただくようなこととなり申し訳ございませんでした」


「いいえ、お役に立てましたなら幸いでございますわ」


 そういえば、そばかす素朴&素直専属侍女のミューラが招聘(?)されていたのよね?

 一体何だったのかしらん?

 王城のメイドさん不足で一時的にお手伝いにまわっていた?

 そんな風には見えなかったのだけれど。


「外に侍女を二名を付けておりますが、室内にて待機させた方がよろしいでしょうか?」


「いいえ、構いませんわ」


 うん? 昨日の一件もあって、気を遣ってもらっちゃってる?


「念のため、貴賓室外裏通路に影を三名待機させております。

 また貴賓室に通じる通路には、近衛騎士二十名を見張りに立てておりますので、何かございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」


「承知いたしました」


 ……何気に警護レベルが上がってる?

 ちょっとした小隊規模の近衛騎士が通路見張ってるって?

 いや、まああんなことしでかした以上、メリユの重要性が上がっているのは間違いないだろうけどさ。


 微笑みと一緒にハナンさんを送り出すと、わたしは立派な貴賓室で一人きりになれたことにホッとしながら、今の内だからこそできることをしておこうと多嶋さんからもらったデータを確認するのだった。






 多嶋さんからもらったデータ名は、“Meliyu_ver2.vrmx”

 メリユのアップデート版VRMxファイルっていうことだった。

 いきなり適用するのは少し怖いのだけれど、ゲーム進行中でミューラも戻ってくるとなると今の内に試しておくしかないか。


 ふーん、ちなみにメリユのスペルって“Meliyu”なのね。

 これは日本人が正しく発音できないヤツですわ、あははは。


 さてとっ。


「“Show console”」


 これはちょっとキーボード使って打ち込まないといけないわね。


“vrVRMxReader vrmxReader_tmp”

“vrmxReader_tmp SetFileName "./Meliyu_ver2.vrmx"”

“vrPolyDataMapper vrmxMapper_tmp”

“vrmxMapper_tmp SetInputConnection [vrmlReader_tmp GetOutputPort]”

“${avatar_${admin_meliyu_id}} SetMapper vrmxMapper_tmp”

“${avatar_${admin_meliyu_id}} Update”


 ささっとメリユのアバターをアップデートするスクリプトを組んでバッチ実行することにする。

 このゲームエンジン、独特のパイプライン構成が何気に難しいのよねー。

 うん、多分間違ってはないと思うのだけれど。


 まっ、いいか。

 ミューラが戻ってくるまでにさっと実行しちゃいましょう!


「“Execute batch for update-avatar-of-meliyu”」


 ${avatar_${admin_meliyu_id}}=メリユのアバターに関するデータがコンソールに流れた後、カーソルが点滅する。


 さあ、メリユはどうなるのかしらん?


 一、二、三っ!


 メリユの身体が、メリユのドレスが淡く輝き始める。

 思わず自分の掌を開いて上を向けてみると、掌から光の粒が空中に広がり散っていく。

 見た目はとても綺麗だけれど、まるで身体が分解されるエフェクトのようで少しばかり不気味かなー。


 掌から、身体から、ドレスから放出される光子みたいな粒が一気に増えて、メリユが真っ白に光る。

 オケラスのHDR有機ELが最大輝度となり、思わず目を瞑った次の瞬間、貴賓室は真っ白な光に満たされ……そして午後の日差しが差し込む元の部屋の明るさを取り戻していく。


「………」


 ありゃ……ドレス、変わった?

 まるで漂白されたように、真っ白になったドレスは……うん、デザインも変わってるね。

 さっきまではパニエで膨らませたような感じの典型的な中世貴族令嬢のドレスって感じだったのに、今はそういう膨らみ方をしていなくて、足の爪先まで隠せそうなほど長く、透き通るような純白のドレスになっている。

 うん、これってドレスって呼び方でいいのかな?

 『ファッションに疎いオタク女子でマジすまん、多嶋さん』ってな感じだ。


 そして、何だろう?


 わたしの周りでキラキラしている、これは?

 わたしはガラス窓(世界観的にはどうなのだろう?)の方を眺めて、反射するわたしの姿、その背から白い翼が左右に一・五メートルほど広がっているのに気が付いた。


「天使……?」


 そう、キラキラした光子みたいものが周囲に散っている大元は、わたしの翼みたいだ。

 うん、あ、そう………。


 あ、そう……じゃねーよ、わたし!

 え、何、メリユバージョン2が天使形態だと!?

 マジなの、嘘、本気?

 こんなの人様の前に出したら、間違いなく大混乱巻き起こすよね?

 多嶋さん、どういうつもりでこんなVRMxファイル渡したかなー。

 エターナルカームの本編シナリオ、マジ無視もいいとこじゃん!

 メリユ=天使とか、ヒロインちゃん出番ないから!


「はあ」


 あー、あかん、絶対ヤバイヤツですわ。


 思わずエセ関西弁を脳内で垂れ流しつつ、元に戻そうとして、元のアバターからマッパーデータをバックアップするのを忘れていたのに気付く。


「ひゅっ!!!」


 マズマズマズーっ!

 やらかしたーっ!

 多嶋さんの方は “Meliyu_ver2.vrmx”だけでなく、オリジナルの“Meliyu_ver1.vrmx”を持っているのかもしれないけれど、わたしは持ってない訳。

 服装データくらいはアップデートできるけれど、背中の翼……隠せないーっ!


 オワタ、オワタですわ!


 これはあかん!

 ミューラが戻ってくるまでに“Meliyu_ver1.vrmx”を手に入れないと、またおかしなことになってしまう。

 できる人なら、自分でVRMxファイルを加工するんだろうけれど、わたしにそういう技能はないのよ!


 これは、多嶋さんに緊急連絡せねば……と、オケラスを頭から外そうとした途端、

 バタン!


「「きゃあ」」


 扉が開き、何かが倒れるような音と合わせて、かわいらしい二人の女子声が部屋に響く。

 …………。

 えっと。


 なぜ、ミューラにメグウィン殿下がここにぃ!?

 というか、ミューラも戻ってくるの早過ぎでしょう!


「メグウィ……」


「「あああああ!!!!」」


 あかん、メグウィン殿下が壊れたっ!!

 メグウィン殿下が目を潤ませて、奇声をあげながら突然指を組んで合掌し始めるとか只事ではないわ!!

 わたしはAIがバグってことを祈りながら、二人が落ち着くのを待つことにしたのだった。

あー、あかん……(エセ関西弁)

GW、少し頑張りたいと思いますので、皆様これからも応援いただけますと幸いでございます!


なお、『光子』は正しくは素粒子の話になってきますが、表現上のものとして流していただけますとありがたく存じます。

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