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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第298話 バフェタ騎士爵令嬢、帝国先遣軍司令官と内通する

(バフェタ騎士爵令嬢視点)

バフェタ騎士爵令嬢は、帝国先遣軍司令官と内通します。


[『いいね』いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 影が交代のために、一度ブラオ卿が幽閉されている部屋から離れた頃合いを見計らって、わたしは入室した。

 皇族の捕虜を捕えておく部屋すら不足しているため、ブラオ卿といえど、割り当てられたのは明り取りの窓すらない部屋。

 それでも、士官が使える程度の家具が用意されているだけ、マシと言えるだろうか。


 緊張のあまり、手足の先が普段以上に冷たくなっているのを感じる。


 ミスラク王国にとって、もはや明確に敵となったオドウェイン帝国。

 その帝国と内通しているわたしは、叛逆罪、内通罪で間違いなく絞首刑か、火刑となるだろう。

 開戦前ですら重罪であるのに、既に戦が始まっているに等しい状態になっている今、わたしの罪の重さは更に増していると言える。

 いくら人質を取られていたとはいえ、貴族法廷で裁かれれば、一騎士爵家に過ぎないバフェタ家は連座制で、家族全員が処罰されるのは確実だ。


「せっかく、近衛になれたというのに……」


 そう、近衛騎士団の女護衛小隊に入り、王妃陛下外向時警護担当にまで叙任していただけたというのに、わたしは王妃陛下を裏切ってしまった。

 わたしの漏らした情報は、既にオドウェイン帝国軍の工作活動に反映されてしまっていて、もはやどのような言い逃れをすることも不可能だろう。


 そして、今わたしは……メリユ聖女猊下の聖女護衛隊に属していないがら、今度はその猊下まで裏切ろうとしている。


 これは聖教への背信行為でもあり、破門と異端裁判だって逃れることはできないだろう。

 それだけではない。

 メリユ聖女猊下は(家族のためとはいえ)裏切ったわたしをどのようにお思いになられるのだろうか?

 そして、神は、わたしの動きをどのようにご覧になられるのだろうか?


 ブラオ卿が、どのような指示を出してくるのかは分からないが、それを実行すれば、確実にわたしは破滅するだろう。

 今の時点ですら、神の怒りを買い、雷に打たれ、黒焦げになってもおかしくないと思うのだから。


「メルカ・メイゾ・バフェタ、ブラオ卿の警護、監視の任に就かせていただきます」


「バフェタ? あのバフェタか。

 ようやく来たのか、遅いぞ」


 皇子殿下、皇女殿下の部屋に比べれば、かなり暗い部屋の奥から、ブラオ卿の声が聞こえる。


「遅くなり申し訳ございません」


「王家の影は大丈夫なのだろうな?」


「はい、今交代のため、一時的にわたしのみ、こちらにおります」


 そもそも、この会話をもし影に聞かれでもすれば、その時点でわたしは『終わり』なのだ。

 それくらい慎重に慎重を期して動いているわ!


「殿下らは無事なのであろうな?」


「はい、殿下方は、先ほどメリユ聖女猊下の儀式のご執行に立ち会われていらっしゃいました」


 本当に、あの儀式にブラオ卿も立ち会わせておけば、大人しくなっただろうにと思ってしまう。


「儀式だと!?

 まさか、あの音は……」


「はい、先遣軍にはご神罰がくだり、全滅いたしました。

 もはや、捕虜となった者たち以外で動いている者は誰一人おりません」


「ぜ、全滅だとっ!?

 馬鹿な……そんなことあり得る訳が……」


 思わず絶句するブラオ卿。


 気持ちは分かる。


 神の怒りに触れるということがどれほどのことか。

 それでも、神と地上の『人々』の間に、メリユ聖女猊下が緩衝のお役目をしてくださっているおかげで、この程度で済んでいるのだ。


「ブラオ卿、今は神がメリユ聖女猊下にご神託をくだされ、地上にご介入されておられます。

 どうか、無謀なことはお考えになられませんよう」


「黙れ!

 先遣軍が全滅など、皇帝陛下にどのように報告すれば良いのだ!?

 このままだと、我が家門は一族郎党、叛逆罪で絞首刑になってしまうわ!」


 そんなことは知ったことじゃない!

 姉の命がかかっていなければ、この場で即座に斬り捨てたいところだというのに。


「しかし、閣下も、ご自身で聖女猊下のお力はご覧になられたはず。

 ご神意に逆らうのは得策ではないかと」


「五月蠅い!

 ああ、忌々しい聖女め。

 まさか、神が聖女を遣って、帝国の進軍を阻むなど、考えられぬわ!」


 そもそも、ブラオ卿の命を救われたのも聖女猊下だというのに、本当に、この期に及んでご神意に背かれるとは!


「ふぅ、はあ……落ち着かねば、はぁ。

 でっ、神はどのようにして先遣軍を殲滅されたのだ?」


「鏡の御柱、バリア内に囚われていた者全員が、時を奪われ、立像と化しておりました。

 神のお赦しがない限り、未来永劫そのまま、この場にその姿を留めることになるのかと」


「時を奪われ(ゴクリ)立像と化しただと!?

 意味が分からんぞ」


「伝承にある『人』を石像と化する悪魔と同じようなものかと。

 ほぼ全員が怯え、嘆きの面持ちで立像と化しておりました」


「ば、馬鹿な……そんなことが」


 あれは、本当にあの場にいなければ分からないもの。

 やはり、伝聞では、信じ難い内容なのだろうと思う。

 それでも、わたしの口調から、もはや先遣軍が砦を占領し、ブラオ卿を救出するようなことは起こり得ないというのは伝わったようだ。


「閣下、神は本気でいらっしゃいます。

 ご神意に背けば、帝国が滅ぶやもしれません」


「帝国が滅ぶだとっ!? そんなことある訳が……。

 いや……待て、神は聖女を遣って、神命を執行させているのであったな?」


「は、はい」


 ブラオ卿は一体何を考えている?


「そうか……ふむ、神は聖女に力を下賜し、神託をくだして、神命を執行していると。

 あれほどの力は脅威だが、神がエルゲーナに直接介入されている訳ではないのだろう?」


「いえ、それは、メリユ聖女猊下が緩衝のお役目を担われていらっしゃ……」


「もう良いっ、口を閉ざせ!

 ふむ、ならば、神命の代行執行者たる聖女を殺せば良いのか?」


「閣下っ!?」


 あり得ない!

 何ということを考えられておられるのか!?


「閣下、神がどう動かれるか分かりません。

 お止めくださいっ」


「口を閉ざせと言った!

 神命の代行執行者の聖女を消せば、神の地上への干渉はなくなるのであろうなあ、くくく」


 それは逆だ!


「ち、違います!

 王都で不敬を働いた近衛たちが『神隠し』に遭わなかったのも、メリユ聖女猊下が『神隠し』が起きぬよう取り計らってくださったからで……」


「黙れと言った!

 そうだな、元々はアレム第二皇子殿下が聖女を殺すよう命じられたのだ。

 そうであれば、たとえ異端行為の罪に問われることがあろうと、その責はアレム第二皇子殿下が負うことになるのであろうな」


 怖ろしい。

 ま、まさか、ブラオ卿はわたしに聖女猊下の暗殺を命じられるおつもりなのか!?


「ふふ、では、単刀直入に言おう、聖女を殺せ!

 皇帝陛下の名代であらせられるアレム・インペリアフィロ・オドウェイン第二皇子殿下からの勅旨だ。

 光栄であろう?」


 ………な、何ということをっ!


 姉の命のために、わたしがメリユ聖女猊下のお命を奪うだと!?

 あり得ない、それでは、わたしは神敵となってしまうではないか!

 わたしを、このわたしを取り立ててくださった方々を裏切り、王国を護るために動いてくださっている聖女猊下のお命を奪うなど、もうわたしは『終わり』だ!


 一体どうすれば…………ぃ、いっそ、この場で自害して果てた方が良いのではないか?


「メルカ・メイゾ・バフェタ、良からぬことは考えぬ方が良いぞ。

 姉を悲しませたくはないだろう?」


 この男、全てを分かっていて!?


 確かに、わたしが自害すれば、わたしを可愛がってくれた姉はさぞ悲しむことだろう。

 とはいえ、メリユ聖女猊下を殺害し、この場を乗り切ったとしても、結果的にはバフェタ家の破滅は避けられまい。


 本当に詰んでしまっているのだ、このわたしは。


 神よ、もしわたしがこのような新たな悪行に加担しようとしているのを察知されておられるのなら、この場でご神罰をくだし、わたしを立像に変えて欲しいと願う。

 既にもうどうしようもないほどの悪行を積み重ねてきてしまったこの身。

 もはや姉と笑顔で再会できることも叶わないだろう。


 神でも、聖女猊下でも誰でも良い、タダわたしを止めて欲しいとそう願った。

『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます!!

それにしましても、本当の悪人はなかなか心折れないものでございますね、、、

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