第295話 悪役令嬢、皆と昼食を取る
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、皆と昼食を取ります。
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メグウィン殿下、ハードリーちゃんにメルーちゃんを心配させちゃって、さっきから三人に引っ付かれているわたし。
押しゲーの押しキャラに挟まれちって、何て贅沢なんだいって感じよね。
何がすごいかって、このわたしが(借り物とはいえ)自分の手で、三人の手とか腕とか肩に触れられることだと思う。
王女殿下に、それなりに高位の貴族令嬢がこんなにスキンシップしていて良いんかいって思わないでもないが、そこは前世の関係性も影響しているのかもね。
まあ、基本、手袋をしているんだが……。
それでも、尊って感じはするよ。
結局ネットに繋げられる穴は塞がれちったけれど、エルゲーナのリアルが濃厚過ぎて、ネットしている暇なんてものはないわって感じ。
まあね、こっちじゃ王族ですら、テラの一般人よりも娯楽に触れられる時間、短そうだもんね。
これで娯楽にお金かけられない一般人ともなれば、吟遊詩人とか、そういうのくらいしかないんじゃないかな?
だから、身近な『人』と『人』の付き合いがものすごく濃いんだと思う。
「ふふ」
ほら、中世ヨーロッパ風異世界の乙女ゲーなんて、常に誰かと誰が何してるっていうのでお話が成り立っているんじゃない。
現代テラみたいに寝る前に一時間半ほどスマホ弄ってましたとか、そういう時間はないのよね。
ま、ある意味『人』としては、こっちが健全かもしれん。
今のテラじゃネット断ちのために、そういうプログラムにお金払って参加する『人』までいるのよね?
それくらい画面と向き合っている時間が長いテラよりか、『人』と『人』が見詰め合って、触れ合っているエルゲーナの方が自然なのよね。
多分、というか、間違いなくエルゲーナの方が平均寿命は短いでしょ?
でも、大切な『人』と目を合わせて、話をしている時間は……一生分で考えると、エルゲーナの方が長いのかもねぇ。
「殿下、お嬢様方、ご昼食をお持ちいたしましたよ」
扉が開いて、カールしがちなダークアッシュの髪に目はぱっちりしたそばかす顔のミューラたちが入ってくる。
いやー、最初は出世し過ぎて可哀そうなくらいオロオロしていたミューラも、大分慣れてきたみたいね。
「ようやく白パンも安定的に提供されるようになりました。
まずは温野菜の盛り合わせからご用意いたしますね。
そのあとに、山羊チーズを使った卵料理、ハーブソースを添えた仔牛の煮込みと、デザートと続きます」
おお、ミューラも『人』を使うのがうまくなったものね。
ミューラの部下になったメイドさんたちがテキパキと動いて、お昼ご飯の準備をしていってくれる。
わたし自身、前世はともかくとして、メリユとしてはちゃんとエルゲーナの料理を味わっていないから、こういう現地料理はありがたいんだわ。
初料理は、朝食だったんだけれど、儀式(?)のこともあって質素だったしね。
実質これが初現地料理って感じかもしれない。
わたしが何気なく席に座ると、右手側にはメグウィン殿下、左手側にはハードリーちゃん。
正面にはメルーちゃんが座る。
というか、朝食のときよりも椅子と椅子の間が……近い。
肘が当たりそうなんだけれど、それで良いの?
うわあ、輝かしいほどの笑顔。
この距離感がお好みでいらっしゃるようで。
うん、少し肩凝りそう。
いや、うれしいんだけれどね、もち。
こんなんキュン死しますわ!
「おいしそうですね、メリユ様」
うん、入れ替わるまでもHMD越しに見てはいたけれど、食料事情は大分改善したみたいよ。
カーレ殿下が色々持ってきてくださったんで、まあ、高貴な方々に必要な物資も、それなりにねぇ?
前菜も、うん、旬のお野菜がおいしそう。
名前がよく分からん、野菜も混じっているんだが。
こっちだとビニールハウスとかもないから、年中同じ野菜を食べられるテラみたいにはいかないんだろうなと思う。
全ての食べ物が旬ってそれはそれで素敵じゃない?
それにしても、銀髪聖女サラマちゃんや、ルーファちゃん、マルカちゃんたちが参加できていないのが本当に残念。
「メリユ様、本日は本当に、かくも重きご神命を果たされ、我が王国に平穏を齎していただきましたこと、僭越ながら、深くお礼申し上げます。
今はどうか安らかな時をお過ごしくださいませ」
前菜が並べられたところで、メグウィン殿下がかしこまったことをおっしゃってくるの。
まあね、午前中に先遣軍の蝋人形化事件なんかもったのに、こうして(意外と落ち着いて)昼食にあり付けているのが不思議なくらいね。
「それでは、神に感謝の祈りを」
こっちじゃ『いただきます』言わないんだよね。
まあ、日本じゃないんだし、当然か。
VRだったときは、[メリユ]が動作フォローしてくれていたけれど、今は自分で手を合わせなきゃいけないから、ちょっとおたおたしちゃうな。
まあ、テーブルマナーはテラとそう変わらないし、HMD越しに見ていたから何とかなるか。
でも、有機ELパネルに表示されている映像と、裸眼で見ているリアルは別ものだ。
テラの技術はすごくて4Kレベルだと、立体感すら感じるけれど、裸眼で見る質感はやっぱり本物だもの。
テーブルクロスとか、食器とか、そういうものもね。
帰省するときに、テラに持って帰れないだろうかとか、そんなこと考えちゃう。
「メリユ様?」
「ええ、はい、いただきましょうか?」
あ……言ってしまったわ。
まあ、良いように翻訳されていると信じたい。
「ええ」
「はい」
フォークで、アスパラガスの仲間と思われる野菜を突き刺す。
季節的に若干早い気もするけれど、そういう品種なんだろうか?
あと、ねぎっぽいのもあるな。
英語だとリーキとか言うんだっけか? 間違っていたらごめん。
「(……)」
うん、スーパーで売ってるものよりも、若い割に味が濃い気がする。
まあ、ハウス栽培もないし、天然ものだものねぇ。
「お姉ちゃん、おいしいね」
「そうね」
タダ茹でてあるだけじゃなくて、ハーブとかバターか何かで軽く味付けされているみたい。
身体に優しい感あるわね。
「こうして、普通にお食事できていることが夢のようですね。
わたし、今も戦が起きなかったことがまだ信じられない気分で、拍子抜けしてしまったと言いますか、何か変な感じなんです」
バリアの解除が早まったのもそうだけれど、バリアの解除に伴って、戦意を残した敵兵さんとの戦闘はあるものと想定されていたものね。
もしそうなっていれば、誰か命を落としていたことでしょうよ。
まあね、エルゲーナの医療水準じゃ、戦争がなくても、適切な医療を受けられなかったり、流行病で命を落とすことも珍しいないから……これだけの人数いれば、そういうことは起こり得ると思う。
でも、でもね、戦争は……本当に今このときに失われるはずじゃなかった命が失われちゃう訳だから、認めたくないって気持ちも強いのよね。
ローカルタイムインスタンスで何とかなって、本当に良かった。
「しかも、鳥船で帝国に赴くだなんて、またしても神話の中に飛び込んでしまったかのようで……」
ハードリーちゃん、目をキラキラさせちゃって、シテ○・デス○ロイヤーに乗船するのがそんなに楽しみなのかな?
乗船?
んん、乗船!?
ヤバイ、シテ○・デス○ロイヤー似のあのモデル、CG用のサーフェスモデルだから、よく考えたら、ハリボテ同然だったわ!
ええ、どうしよ、どうしよ!?
中身マジで何もないんだが!!
ネットにも繋げなくなっちゃったし、どうするべ!?
中に巨大なキューブを浮かべて……ああ、テクスチャで誤魔化すか?
テクスチャ、富士山のアレで、ダウンロードした画像はいくつかあった気はするけれど、良いのあるかなあ?
「メリユ様、鳥船の中は、どのようになっているのですか?」
「そうそう、メルーも聞きたい!」
ひえ、そんなに期待しないでよ。
今必死にどうするか考えている最中だってのに!
「……それは乗っての、お楽しみ、ということで」
「そう、ですね」
「楽しみはあとに取っておくのがよろしいでしょうね」
ホッ、何とか誤魔化せたか?
しかし、これは何とかせねば、期待を裏切るようなことはしたくない。
直径二十キロ、厚み五キロね。
富士山すら中に放り込めるサイズじゃんかよ!?
どんな内装にしろっちゅうんねん!?
「(何もない真っ白な空間にフォグエフェクトでもかけて誤魔化す、か?)」
わたしは新たな難題に頭を抱え込みそうになった。
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さて、ファウレーナ=麗奈=メリユは、シテ○・デス○ロイヤーの中身をどうするのでしょうか?




