第294話 悪役令嬢、星船の真実に気付く
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、星船の真実に気付いてしまいます。
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インディ○ンデンス○イのシテ○・デス○ロイヤーにサイズ感が近い、オリジナルUFOをダウンロードしたわたしは、エディタでstlファイルの中身を確認しながら、スケール調整を始めていた。
うん、これ、ほど良い倍率でデッカくしたら、直径二十キロくらいになるわね。
二十キロ、二十キロかあ……。
現代のテラでも、こんなものが空にいきなり出現したら、大パニックになるわ!?
しかもな、ゲームエンジンの付随エフェクトがあるから、マジ怖い。
これさ、体積もバカデカいんだけれど、多分、いきなり上空に出現させたら、そこにあった大気押し退けて……うん、例によって衝撃波が発生するわよねぇ。
バリアですらあの様だったんだから、このUFOを出現させたりしたら、国境線を超えて聖国の周辺都市にまで被害が及ぶわ。
「(あかん)」
うん……これは、大気圏外に出現させた後、ゆっくり降下させるしかないか。
まあ、人工衛星で言う低軌道(LEO)の高度二百キロくらいで良いかなあ?
ちょっと前に『星落とし』やったけれど、今度はシテ○・デス○ロイヤーを落とすのねぇ。
……って、規模が違うわ!
「(取り合えず、降下速度に気を付けないとなあ)」
タダの3Dゲームの中ってんなら、そこまで気にしないけれど……下手に速度ミスるとコロニー落としレベルになっちゃうって、これ!?
多分、直径二十キロもあるから、大気への影響もデカ過ぎるよね?
速度ミスるとどれくらいの衝撃波が発生するか。
いや、万が一、普通に重力に引っ張られて大気圏突入する感じで落下させたら……これ、多分衝撃波っていうより、音速を超えるレベルの爆風が領都どころか、王都まで吹き飛ばすんじゃね?
ヤッバ……。
その手のアニメ、映画を見たくらいの知識と、大学生の物理かじった程度の理系JDですら、その危険性が分かっちゃいますわ。
くしゃみのせいで、バカデカいバリアを発生させちったわたしの前科を考えると、コロニー落としをやりかねない訳で……これは念には念を入れなきゃいけないわねぇ。
「(下手に降下速度、一桁間違っただけでも、大惨事じゃん、これ)」
…………いや、ちょっと待って。
直径二十キロ、厚み五キロのUFOの自由落下?
え、えっ、もしかして、テラの恐竜さんたちを滅ぼしたチクシュルーブ隕石よりデカくない?
う、アニメ演出に囚われんな、さすがにちょっとシャレにならんぞ、これ!?
この質量物が(地表到達時で)マッハ二十以上の速度で大激突?
こりゃ、最低でもTNT換算で数十万メガトン級、ううん、もう一桁上、行くかな?
あー……、これはエルゲーナ、滅びますわ。
帝国の帝都どころじゃない、エルゲーナの全て国家、ううん、ほぼ全ての生命が全滅するわね。
ぬお……相変わらず、頭おかしいことをやりかけてしまう自分が……怖い。
「あ!」
そんなこと考えてる間に、穴が塞がれちったっ!!?
テラのネットとの接続が断たれて、ページ更新すらできんとなっ!
いや、まあ、多嶋さん=神様からすれば、またファウレーナが変なことし始めてるって気付いて、ビクッとなっていたかもしれない。
実際、チクシュルーブ隕石の再現をエルゲーナでしかねない状況だった訳で、言い訳のしようもないが。
これで、多分エルゲーナにいる限り、テラのネットには接続できなくなったんじゃないかな?
つまり[メリユ]と入れ替わって、テラに戻らない限り、ネットの海をさまようこともできないと。
「はあ」
オタ友に連絡を取ることも、動画や音楽のストリーミング配信を楽しむこともできなくなっちった訳で、状況は最悪ね?
まあ[メリユ]には警告されていた訳だが、Z世代のわたしには結構キツいかもしれない。
何せ、こう、一度繋がった安心感があったものだから、余計にね。
もちろん、テストプレイ中は、それだけに集中していた訳だけれど、今はここにエルゲーナのリアルがあるだけな訳で……現実逃避できる手段はほぼ失ったって言えるのかもしれないわね。
う、この喪失感、あとで急にドカッと来ちゃうのかも?
覚悟は決めていたはずだけれど、結構怖いなあ。
わたしは、別のコンソールウィンドウの方に移ろうとして……ふと、そのウィンドウの下にあるテーブルに顎をのせているメルーちゃんが上目遣いにわたしを覗き込んできているのに気付いてしまう。
「お姉ちゃん?」
うおっと!?
日本人ではあり得ない虹彩の色と、そこに映り込む自分自身に、二重の意味でドキッとなる。
何だろう、この感覚。
何ともノスタルジックというか、知らないはずなのによく知っているような懐かしさのようなものを感じる。
わたし自身は、ファウレーナの記憶の大半を拒んでいるし、こうして麗奈でいる限り、懐かしいっていうのは、ないはず……なのに、どうして?
「何か、良くないこと、あった?」
純粋に心配してくれているのが分かる声音。
瞬きの頻度や目の動きですら、メルーちゃんの気持ちが分かってきてしまう。
そう、そうね、ネットはないけれど……その代わりに、こんなに近くに大事な『子』たちがいるんだっていうのを今更ながらまた感じてしまう。
あ、分かった。
この感覚、あれだわ。
夏休みの日中、弟くんとか、親戚の『子』たちが集まっていて、勉強したり、遊んだりで、わたしがついていてあげないといけなかったときの感覚に似てる。
もちろん、わたしだってまだ一般的なスマホは渡されていなくて、体感している時間の大半が誰かと一緒に過ごしていたのよね。
頭を撫でてあげたり、腕を絡め合ったり、肌と肌が触れ合う時間もそれなりにあって、『誰か』が傍にいるっていうのを常に感じていられた特別な時間。
JC、JKにもなってくると、自室で勉強したり、遊んだり、友達とSNSで連絡し合ったりする時間も増えて、すっかりそういうのもなくなってしまったけれど、JSの頃は、確かにそんなのがあった。
「大丈夫よ」
「嘘言わないで」
「え」
口調こそ、メルー=ヒロインちゃんのままだけれど、『嘘言わないで』その一言には何かこう強いものを感じたの。
まるで、長い年月を一緒に過ごしてきた相手から、気持ちを見透かされたかのような、そんなのがあって、わたしは……メルサのことを思い返してしまっていた。
「お姉ちゃん、隠し事してる」
まさしく長年連れ添ってきた妹分にそう言われたように感じて、わたしは苦笑いしてしまう。
「そう、ね」
「ねぇ、お姉ちゃん、あたしにも言ってよ」
「ええ、メルーにも言っておかなければならないわね」
わたしがそう言うと、メグウィン殿下とハードリーちゃんたちも寄ってくる。
「メリユ姉様、それは、あのこと、についてなのでしょうか?」
「あのこと?」
「メリユ姉様の身一つでこの大陸を滅ぼせるというあのお話ですわ」
この四人以外には聞こえないように、声を落として、そう告げられるメグウィン殿下。
ああ、聖都ケレンで、メグウィン殿下にお話したあのことね。
さすが、勘が良いというのか、よく分かってくれているというのか、これでこそメグウィン殿下よね?
「え!?」
メルーちゃんが明らかに動揺した声を漏らして、慌てて口を押さえている。
「ふふ、ほぼ正解と言ったところかしら?」
「じゃあ」
「けれど、完全なる正解ではないの。
その鳥船なのだけれど……わたしの身を捧げずとも、その鳥船一つで、このエルゲーナを消し去ることができると分かってしまって、ね」
メグウィン殿下が目を見開いて、息を呑んで、(暫くして)大きく息を吐かれるの。
「……そういうこと、ですか。
神は、その手段をもう一つ、メリユ姉様に委ねられたと、そういうことなのでしょう、メリユ姉様!?」
「ええ、そうね」
「あの、どういうことなんですか!?
その鳥船というものは、世界を滅ぼせる武装を備えられていると!?」
うん、メルーちゃんだって混乱しちゃうわよね?
「詳細は言えないのだけれど、鳥船の使い方によっては、それ単体でエルゲーナを滅ぼすことが可能なの」
「ま、まさか、それほどとは」
メグウィン殿下とハードリーちゃんを目を合わせ、とても心配そうな表情で頷かれる。
まあね、気持ちはよく分かるわ。
そうするつもりではなくとも、そうできる手段がもう一つ増えるというのは、気持ち悪いったらありゃしない。
まあ、手段が増える原因が作ったのは、わたしっていうのは……とても言える雰囲気じゃないけれどもね。
「特使を運ぶ手段としてだけでなく、オドウェイン帝国どころか、この世界=エルゲーナを滅ぼすご神罰をくだすための手段にも使えるとは、神は、そこまで本気であらせられるのですね」
う……また、何か勘違いさせるようなことをしちゃったような気が!
でも、この空気じゃ、もう何も言えないよ!
あああ、もう、何やってんだ、わたし!
わたしはメリユの頭の髪の毛を掻き毟りたくなるような衝動にとり付かれながらも、必死にそれに耐えたのだった。
ご評価、『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます!
相変わらず、周囲を勘違いさせるムーブはさすがでございますね!
明らかに原因を作ったのはファウレーナ=麗奈本人なのですが……。




