第28話 悪役令嬢、貴賓室での休憩中に多嶋さんと話をする
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
貴賓室で休憩していることになっている悪役令嬢こと女子大学生ファウレーナは、ゲーム会社の多嶋さんとLi-neで話をします。
今の時代、アニメやラノベ、Web小説なんかでは、女の子が、女性が最前線で活躍する物語が多数描かれている。
例えば、戦闘機や戦闘ロボットのパイロット、宇宙船や戦艦の艦長にオペレータ、勇者と一緒に戦う魔法使いから内政無双する女王様まで色々ある。
そんな中でも、女性がパイロットやオペレータを務める作品は特に好きだった。
『NAL065、ランウェイ15 ウィンド120アット15』
『フラップ30°』
『アプローチングミニマム』
専門用語が飛び交う中、平然と対応する女性キャラの活躍は見ていて痛快だった。
自分もそんな風になってみたいと思った。
でも、アニメやゲーム好きなオタクのわたしの視力は悪く、運動神経も反射神経もあまりよくないのもあって、パイロットは無理かなと思うようになった。
そして、ゲーム好きなら、プログラミング、つまりプログラマーを目指すのがいいのでは? と思うようになった。
何せゲームの世界なら、パイロットでもオペレーターでも何にでもなれる!
本当にやりたいことが好きなだけできるんだから!
そんなこんなで、ネットで知り合ったゲーム会社の多嶋さんのアドバイスも受けながら、独学で勉強し、それなりのコーディングもできるようになり、大学も無事情報系の学科に受かった。
それにコーディング自体も、かっこいいのよ。
英単語に無知だった小学生の頃の自分が見たら、小難しい英単語が大量に並ぶプログラムをコーディングしているわたしをきっとかっこいいと思うでしょうね。
まあ、今は素で読めてしまうから、特別な感情は湧かなくなってしまったけれど……それを思い出させてくれたのが、このエターナルカームのVRデモ版。
まさか、スクリプトをちょっと書くだけで無双できるとは思わなかった。
まさか、こんなちょっとしたコーティングで大騒ぎになったり、喜んでもらえたりするとは思わなかった。
何より、外皮(?)はあの悪役令嬢だっていうのに、カーレ殿下やメグウィン殿下と仲良くなれると思わなかった。
だって、メグウィン殿下には抱き付かれたのよ。
本当に神展開だって!
あああ、もうこうなったらVR系研究室に入って、ハプティック(触覚)系の研究をやって、メグウィン殿下に抱き付かれてる感触を再現でもしてやろうかしらん?
ピロン
PC版Li-neトーク着信を見ると、多嶋さんだった。
『ファウレーナさん、エターナルカームVR版の具合はどうだい?』
多嶋さんもゲームの進行具合が気になったんだろうか?
ゲームサーバのログ見れば、分かるとは思うのだけれど……まあ、確かにログだけだと雰囲気は掴み難いのかもね。
『あの……何か、とんでも超展開になってきているんですが……これシナリオにありました?』
『ほほう、とんでも超展開とね』
『しらばっくれないでくださいよ。
帝国が攻め込んでくるとか、メリユが聖女だとか、本編とは別時系列なんですか、これ?』
『うーん、テスト版なんで、ライターさんとはそこまで打ち合わせしていないから、分からない……本当申し訳ない』
おいおい……多嶋さん、結構お偉い立場なんでしょう?
そんなチェック体制でいいのかと問い詰めたくなってしまう。
ああ、あとアレを訊きたく思っていたんだった。
『そうなんですか……。
あと、vrTapWaterGenerationって、これ何です?』
『vrTapWaterGeneration?』
『これ、水道水程度にNPCとかプレイヤーキャラが飲んでいい安全な水を出すクラスなんじゃないんですか?』
そう思っていたんだけど、NPCの反応がちょっと異常過ぎたよね?
『ああ、あれねー……確か、ちょっとした回復効果のある水を出すクラス名を考えようとしていたときに、運動部出身の担当が部活後に飲んだ水飲み場の水道水の旨さが忘れられなくて……とかで、ああいうクラス名にしたとか言ってたかなあ?』
……はあ!?
今時、水道水飲んでる運動部員とかいるの!?
大学のサークル棟の冷水器ですら止められて、廃棄されそうだってのに!
いや、まあ、激しい運動後に水飲むと、すごく回復するような気になるのは、何となく理解できなくはないけどさ!
ポーションとか、エリクサーとかそれっぽいのあるじゃんよ?
まあ、エターナルカームは、そっち系のファンタジーゲームじゃないから、ネーミングとしてまずいのかもしれないけれど、もっとマシなクラス名あったでしょうよね?
『で、回復効果……ホントにあるんですね?』
『ああ、うん、そうだね。
ただの水を出したいなら、vrSPHの方を使ってよ』
あああ、担当さんも回復効果あるならリファレンスに分かりやすくそう書こうよ。
はあ、普通に水道水程度の水って思うじゃん? 普通そう思うよね?
『こんなファンタジー要素放り込んで、世界観的に大丈夫なんです?』
『それを言ったら、ファウレーナさん自身がとんでも超存在になってるでしょ?』
多嶋さん、分かってて訊いてきていたか。
『はあ、本当にこれ好きにしちゃって大丈夫なんですよね?』
『もちろんだとも。
メリユもすっかり国外追放の危機を脱したんじゃないかい?』
いや、まあ戦力的に王国として手放せない状態になっているんじゃないかなーとは思いますけれども、今後の展開がものすごく不安。
ベースのシナリオ書いたライターさんはどこまで想定していたんだろう?
『分かりました。
取り合えず、メリユとして帝国の侵攻は防いでみせます。
それでいいんでしょう?』
『ふふ、頼もしいね、さすがはファウレーナさん。
ああ、そうそう、おまけにメリユのアップデート版VRMxファイルを渡しておくよ』
『メリユのアバター用のVRMxファイル、ですか?』
『まあ、適用してのお楽しみってことで。
それじゃあ、後はよろしくね』
そのトークを最後に、多嶋さんは仕事に戻ったようだ。
はあ、まあメリユが管理者(?)無双して、帝国を追い返すっていうのは、ほぼシナリオ通りってことでいいみたいね。
にしても、ゲーム内一日の展開が濃厚で、ゲーム世界にどっぷりと浸かってしまいそうで怖いわね。
わたしはペットボトルを手に取って、二百ミリリットルほど水分を補給してから、オケラスを被り直したのだった。
この10年くらいで、電車やバスの運転士、車掌から研究者まであらゆる分野で女性の活躍が目立つようになってきたこのご時世ですが、まだまだ男女比のアンバランスな分野も多くありますし、アニメや漫画のように女性が主役・主役級の活躍をするリアルが早く訪れて欲しいものです。
中世風乙女ゲーだと、実際の中世よりは現代寄りの価値観になっていることも多いのでしょうが、エターナルカームでもぜひ活躍してもらいたいものですね!




