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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第284話 帝国皇女殿下、聖国アディグラト家令嬢と話をし、憧れを抱く

(帝国第二皇女視点)

帝国第二皇女は、聖国アディグラト家令嬢と話をし、憧れを抱きます。


[ご評価、『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に深く感謝申し上げます]

 昨夜寝る際には、アレムお兄様とは別室の、小部屋の寝室を与えられて眠ることになったわたくし。

 無骨でろくに装飾もないのは、国境の砦内ということもあり、仕方がないことなのだろう。

 以前のわたくしであれば、捕虜であるにも関わらず、見張りの騎士たちに不平不満を零していたに違いないと思うわ。


 けれど、今は違う。


 神よりのご神託、ご神命があったにしても、戦の最前線にいらっしゃっているメリユ・サンクタ・マルグラフォ・ビアド聖女猊下、メリユ聖女猊下に瓜二つなメルー・サンクタ・ヴァイクグラフォ・ダーナン聖女猊下、そしてサラマ・サンクタ・プレフェレ・セレンジェイ聖女猊下もこの砦でお泊りになられていらっしゃるのだから。

 今まで、聖教はもちろん、聖女猊下というご存在さえ軽視して、脅したり、お金で与えることで操り人形にできるものと不敬極まりないことを考えていたのだけれど(神のお怒りによりくだされた)ご神罰のご執行にすら心を痛められ、傷付いた皆のご救命に必死になられていた聖女猊下方のお姿を見て、本当にこの世界、エルゲーナのために尽くされる聖女猊下の真のお姿を知ることができたのだわ。


 わたくしとアレムお兄様が生かされたのには訳がある。


 それはもう今ははっきりと分かるのだもの。

 本軍を止めるための調停には、わたくしたちが全力で取り組まなくてはならないと。

 もしわたくしたちが調停に失敗すれば、帝国は神よりのご神罰により滅ぶことだろう。

 昨夜サラマ聖女猊下がおっしゃられていたように、経典に書かれていたことは決して嘘でも誇張でもなく、ご神罰は実在していて……神が本当にエルゲーナの在り様に失望されたときには、この世を灼熱地獄にして滅ぼすことも、大洪水で沈めてしまうことも躊躇なくされることだろうと思うの。


 それを抑えてくださっているのもまた聖女猊下方。


 聖女猊下方はこの世界=エルゲーナの希望そのものと言って良いと思う。

 神よりご神託、ご神命を賜り、それをご執行されるほどのお力をお持ちでありながら、『人』の側に立ち、敵味方関係なく『人』が傷付くのを良しとされない聖女猊下方がいらっしゃらなければ、わたくしたちもどうなっていたことか。


「はあ……我が帝室の者がそのような力を手にしていたなら、この世は地獄になっていたのでしょうね?」


 帝国の力を過信し、帝国に適うような存在はないと傲慢になっていた帝室の一員として、もし皇族の誰かがそのようなお力を手にしていたならと考えると、本当に怖ろしい。

 よくそれだけのお力を手にしていながら、ご自身の欲望のために振るわれることのない聖女猊下方には敬意を払わずにはいられないの。


「テーナ・インペリアフィリーノ・オドウェイン第二皇女殿下、お目覚めでいらっしゃいますでしょうか?」


 昨夜、サラマ聖女猊下よりご紹介いただいたルーファ・スピリアージ・アディグラト様のお声がして、わたくしはハッとなる。

 帝国の毒牙にかかったアディグラト枢機卿猊下の孫娘でいらっしゃるルーファ様のお世話になるだなんて、本当にわたくしは恥ずかしく、情けなくなってしまう。


 もちろん、謝罪はさせていただいたわ。


 ルーファ様は気にされていないとおっしゃってくださったけれど、今のお声の硬さにドキッとなってしまう。


「は、はい、起きております」


「至急の案件がございまして、失礼してもよろしいでしょうか?」


「ぇ、ええ、もちろんでございます」


 やはり、何かあったよう。

 悪い報せであるのは間違いないようね。

 まさか、本軍がもう動いたとかではないでしょうね?

 わたくしは借り物のネグリジェの胸元を右手で掴みながら、不安が膨らんでくるのを感じてしまう。


「おはようございます、テーナ・インペリアフィリーノ・オドウェイン第二皇女殿下」


「おはようございます、ルーファ・スピリアージ・アディグラト様。

 わたくしのことはどうぞテーナとのみお呼びくださいませ」


 わたくしは少しでも場の空気を和らげようと努めるのだけれど、入ってこられたルーファ様の表情は真剣そのもののご様子だった。


 いえ、ルーファ様が聖職貴族として正装を(昨夜以上)にしっかりとされていらっしゃることにゾクリとなってしまう。


 一体、何が起きているのだろうか?


「では、テーナ殿下にお伝え申し上げます。

 メリユ聖女猊下が新たなご神託、ご神命を賜られまして、すぐにでもご執行されることとなりました。

 つきましては、テーナ殿下にもお立合いいただきたく存じます」


 それは……ルーファ様がそういう態度になられるのも当然ね。


 ご神命のご執行?


 きっと、それはほぼ間違いなくご神罰と言えるものなのだと思う。

 この状況で和やかに雑談しようものなら、その者の神経を疑ってしまうくらいのことね。

 ルーファ様が昨夜と異なり、硬い表情をされていらっしゃるのも当然のこと。

 何より聖職貴族でいらっしゃるルーファ様にとって、ご神託、ご神命の重みはわたくしたちより遥かに重いことと思うもの。


 まあ、ご神罰をくだされる側のわたくしたちの方が状況は深刻ではあるのだろうけれど。


「承りました。

 わたくしはタダ立ち会うだけでよろしいのでしょうか?」


「はい、わたくしの正装とヴェールをお貸しいたしますので、今すぐにお着替えをお願いいたします。

 アファベト、何か至急の連絡があれば、知らせて頂戴」


「へい」


 その言葉を受けて、外に待機されていたらしい王国の侍女たちが入ってきて、ご準備をしてくださるよう。

 まさか、ルーファ様の正装とヴェールをお借りすることになるとは。


 帝室とて聖教の信者であり、聖教の聖職者に最後通牒をお願いしていたというのに、教会に赴けるような正装を準備してこなかったわたくし自身が本当に恥ずかしい。


 皇帝陛下はもちろん、皇族全体が破門を受けてもおかしくない状況で(戦を止めるお役目を担っているとはいえ)これだけの待遇を受けられるのは普通ならあり得ないことだろうと思うわ。


「ルーファ様、本当によろしいのでしょうか?」


「ええ、もちろんでございます、テーナ様」


 わたくしが顔を強張らせながらにそうお訊きすると、ルーファ様はようやくうっすらと笑みを浮かべてそうおっしゃってくださったのだった。






 着替えを終え、わたくしたちはルーファ様と、護衛の近衛騎士、聖騎士の方々と移動を開始したの。

 テキパキとご指示を出されるルーファ様は凛々しく、格好良くて素敵だった。

 聖女猊下方があまりにも凄過ぎるせいで、ルーファ様ですら霞んでしまいがちだけれど、同年代でこれほど頭の良い方はなかなかいらっしゃらないと思う。


 わたくしなんて、タダのお飾り同然で、先遣軍に同行していたというのに。


 それに対してルーファ様はまるで違う。

 サラマ聖女猊下にご紹介いただいた際も驚かずにはいられなかったのだけれど、聖都の学院で一、二位を争う才女でいらっしゃって、かつ、今はガラフィ枢機卿猊下より聖騎士団の先遣一個中隊のオブザーヴァントを任されていらっしゃるのだから。

 しかも、兵站の管理にも関わられたり、背教者が出た場合には逮捕権限もお持ちでいらっしゃるとか。


 ほぼ、聖騎士団のお目付け役と言ってもおかしくない権限をお持ちでいらっしゃるのだ。


「はあ」


 それに対して途中で合流したお兄様の何と情けないこと。

 先遣軍の頭であり、捕虜であるため、目立ってはいけないとはいえ、ヴェールを被せられておどおど歩いていらっしゃる様は、痛々しい限りだわ。


 ええ、神にいつも監視されているのをご認識されて、怯えていらっしゃるのは分からないでもないのだけれど、戦を止める大役を担っていることは自覚して、もう少ししっかりしていただきたいと思う。


「……テーナ、随分聖国の正装が似合っているではないか?」


「そういうお兄様こそ、ヴェールがとてもお似合いでしてよ?」


「ぅ」


 まあ、男性でいらっしゃるお兄様には良い薬ね。

 ヴェールは、基本的には女性がするものですもの。

 もちろん、聖教の儀式では、一部男性がヴェールをすることも存じているから、必ずしも恥ずかしいものという訳ではない……のだけれど、今アレムお兄様がされていらっしゃるのは女性用のヴェールですものね。


 聖騎士団の先遣が到着しているとはいえ、宗教的儀式が発生するのまでは想定していなかったのに違いないわ。


 神のご介入がなければ、タダ聖国、王国と帝国がぶつかり合う戦場でしかなかったのだもの。

 男性用のヴェールの準備をしていなくても当然だと思う。


「なあ、テーナはご神命が何なのか、聞かされているか?」


「いいえ、ご神託、ご神命がくだったということだけですわ。

 それでも、ほぼ間違いなく、ご神罰についてだとは考えておりますけれど」


「ご神罰……か」


 身体をブルッと震わせられるアレムお兄様。


 時間が経つにつれて、あの、わたくしたちが体験したご神罰の凄まじさに、何としてでも戦を止めて、帝国を滅びから救わねばという思いが強くなってくる。

 もちろん、それがそう簡単ではないということも、ね。


 帝室の『人間』は、神、聖教すらも軽視しているのだもの。


 わたくし自身もそうだったから分かるの。

 皇帝陛下は……最後までご神罰なんて敗戦の言い訳を作るための嘘八百とお思いになられるでしょうね?

 おそらく、神はご警告を発せられると思うのだけれど、帝都にはどれほどのものがくだされるのかしら?


 最も近いラマーティン山脈が崩れ落ちるとか、帝都傍のニグラ湖が涸れ果てるとか。


 はあ、それだけでも大災厄と言って良いものでしょう。

 帝室を、皇帝陛下を動かすまでにどれほどの被害が出るのか?

 わたくしは今から頭が痛くなってくるのを感じるのだった。

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