第281話 ハラウェイン伯爵令嬢、『終わり』を失い、『始まり』を改めて実感する
(ハラウェイン伯爵令嬢視点)
ハラウェイン伯爵令嬢は、『終わり』を失い、『始まり』を改めて実感します。
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とても幸せで悲しい夢を見ていました。
『終わり』と『始まり』があって、『終わり』が近付くことを悲しく思い、『始まり』が来ることに喜びを覚えていたんです。
わたしの中から消えていく『終わり』を迎えつつある何か。
まるで胸にぽっかりと穴が空いていくような感覚があるのですが、次第にその空洞に何があったのか、思い出せなくなっていくんです。
怖い……『始まり』があると分かっていても、失うのがとても怖いんです。
せっかく(あるべきもので)満たされていたというのに、またそれを失うなんて、怖ろしくてなりません。
ですが、『始まり』を知っているわたしは言うんです。
あなた=わたしは今度こそ添い遂げると決めたのでしょう、と。
あなた=わたしはもう罪悪感を抱いたまま生きていかなくて良いのよ、と。
この『二度目』では、あのお方を精一杯愛して、お世話して、一緒にいられる幸せを堪能なさい、と。
ああ、ありがとう、リーラ。
わたしは、もう一人にお礼を伝え、白い世界へと旅立っていく誰か=わたしの微笑みを見ていました。
「はっ」
目を覚ましたとき、わたしは、夢で見た誰かの笑顔に手を伸ばして、泣いていました。
天井に伸ばされた、細く白い腕と小さいな手。
ほんの少し、違和感を覚えて、自分の手を顔の前に持ってきます。
これはわたしの手。
ですが、先ほどまでのわたしはもっと大人の腕と手をしていたように思ってしまったんです。
そんなこと、ある訳ないですのに。
わたしは、わたし、ハードリー・プレフェレ・ハラウェイン。
ハラウェイン伯爵家の第一子、お父様とお母様の最初の子。
それ以外であるはずもないですのに。
「っ!」
そして、わたしは傍にあるべき、大事なお方の体温を感じられないことに焦りを覚えて、飛び起きます。
もはや肌と肌を合わせていないと不安になってしまうほど、片時も離れたくないわたしの大好きなお方。
「メリユ様っ!」
少なくとも同じ寝台でお休みになられていないのはすぐに分かりました。
大好きなお方の気配と匂いがあるかどうかくらい、分かるんですもの。
まさか、また置いてきぼりになっていたり、しませんよね?
思わずゾッとするものを感じつつ、わたしは(少し気になる気配を感じて)隣の寝台の方を見たんです。
きれいな赤髪をされた(わたしと同じ齢十一の)メリユ様。
そのメリユ様のお腹に、メグウィン様が抱き付かれ、顔を擦り付けていらっしゃいました。
ああ……本当に良かった。
どれだけわたしがホッとしたか分かりますか?
一度は(わたしのせいで)手の届かないところに赴かれてしまって、二度と会えなくなってしまったことで悲嘆にく……あれ、わたしは今何を考えていたのでしょう?
二度と会えなくなるとか……メリユ様がテラにお戻りになられてしまったら、そうなるかもしれませんけけれど、わたし、そうなっても、わたしだってテラに行くんだって決めましたのに。
そもそも、メリユ様が一緒にいられる手立てを考えてくださるっておっしゃってくださったんですから、それを信じないでどうします?
大好きなメリユ様のお言葉は絶対なんですから。
「ハードリー様?」
メグウィン様の頭を撫でられていらっしゃったメリユ様が、ゆっくりとこちらを見られて、いつもの笑顔で微笑んでくださるんです。
何という幸せなんでしょう。
今日もまた一日メリユ様とご一緒できる、お話しできる、そのご尊顔を眺めていられるのだと思うだけで、元気が出てきます。
こんな幸せがいつまでも続いて欲しい。
そう思うのは当然のことでしょう?
「メリユ様っ」
わたしは寝台から下りると、隣の寝台で上半身を起こしていらっしゃるメリユ様に抱き付きに行ったのでした。
メリユ様の体温、匂い、お肌の感触に安心感を覚えます。
これは絶対に手放したくないものなんです。
わたしが、いつか、その命尽きる日まで、ずっとお傍に感じていたいものなんです。
ええ、わたしが天に召されるその瞬間も、こんな風にメリユ様の存在を感じられていれば、わたしはそれだけ本当に幸せに命を終えることができるって思うんですもの。
『一度目』は叶わなかった、願い。
わたしは、今度こそ叶えてみせると決めたんですから。
そして、『楔』として、エルゲーナであれ、テラであれ、メリユ様にはお幸せになっていただいて、孤独にさせず、必ずこの地上に留めてみせるって決めたのですから。
「メリユ様、大好きですっ!」
わたしは(メグウィン様には場所をお譲りいただいて)今日この日一番最初の口付けをさせていただいたんです。
先ほど空いてしまった胸の穴をいっぱいに埋めるほどの愛情を込めて。
メリユ様、今日も一日精一杯お世話いたしますから、どうかご覚悟くださいましね!
わたしはそんな思いを視線にのせて、メリユ様の美しい目を見詰めたんです。
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