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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第279話 悪役令嬢、エルゲーナで朝を迎える

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、エルゲーナで朝を迎えます。


[ブックマーク、『いいね』いただきました皆様方に深く感謝を申し上げます]

 朝、目を覚まして、目の前に広がる天井が見慣れないものだったなら、


『知らない天井だ』


 と、オタなら呟いてしまうものだろうと思う。

 ……いや、Z世代は知らないだろうって?

 さすがにあんな有名作品、映画版含めサブスク配信で一通り鑑賞済に決まってるじゃん。

 もちろん、TV放映時は生まれてすらいないんだけどねぇ。


 で、視界情報が大事なのは当然なのだけれど、異世界に来て、思っていた以上に馬鹿にできないのが嗅覚。


 瞼を上げるより先も、何だろう、これ、知らない匂いだわって思ったものね。

 家の自分のベッドと違うのはもちろん、ホテルとかのリネンの匂いとも違うの。

 海外のホテルは……どうだったろう、嗅げば思い出すかもだけれど、あまりはっきり覚えていないなあ。

 文明レベルを考えれば、テラのような防臭・消臭クリーニングなんてできないのは分かっているけれど、香水とかそういうのは使っているのかな?

 取り合えず、不快ではない匂い。


 でも、何だろう。


 昨夜も嗅いだこの匂いは……『人』の匂い?

 ああ……って、思って、ヒロインちゃん=メルーちゃんの匂いなのを思い出す。

 そして、そしてね、昨日寝る前にメルーちゃんからキスされたのも思い出すのよ。


「ぅっ」


 ヤバイ、思い出しただけで、頬が火照ってくる!

 ヒロインちゃん視点でエターナルカーム本編をテストプレイしたわたしだけれど、まさかそのメルーちゃんにここまで好感を持ってもらえて、キスしてもらえる日が来るだなんてね。


 うん、分かってるわ。


 メルーちゃんがメルサだったことも覚えているし、その前世のときからメルーに好意を持たれているんだなって自覚していたのも覚えている。

 だから、生まれ変わったメルーちゃんがそうなるのも不思議ではないと思うし、家族、姉妹としてマウス・ツー・マウスのキスをわたしからしたことだって後悔はしていないわ。

 でも、あの奇跡を終えた後に、そのメルーちゃんからキスをしてもらえるのは、想定外だったと言って良い。

 メグウィン殿下、ハードリーちゃんたちは……どれくらい、あの奇跡の時間、その間のことを覚えているのかしらん?


「んんぅ」


 右耳にこそばゆくなるような寝言が聞こえて、わたしはハッとなって、枕の上で頭を回転させる。


 九十度回転した視界に飛び込んできたのは、何とメルーちゃんの寝顔。


 かろうじて触れ合っているところはないものの、近い、近過ぎるよ!

 髪と同じ色の長い睫毛に、日本人じゃあり得ない顔の造形、お肌のテクスチャー。

 どれにしたって、リアル過ぎて、変な汗が滲んできちゃうよ。

 そりゃ、リアルなんだって分かっちゃいるんだけれどさ。


 今だってね、聞き耳立てれば、メルーちゃんの寝息だって聞こえてくるんだよ?

 いやあ、もう、これASMRですわ。

 うん、Yotubeにアップしたら、間違いなく、BANされるんだろうなあ。


「本当に、わたし、エルゲーナにいるのね?」


 まだ幼い響きを持ったメリユの声が自分の喉から漏れるのを感じつつ、わたしは左手を顔の前まで持ってきて、わたしがエルゲーナのメリユの身体になっているのを実感するのよ。

 HMDの4Kパネルがどんなに高精細になったとしても、自分の焦点を変えるのに合わせて、視界のピンボケ具合が変わるなんてことはできない。

 嗅覚だけでなく、視覚もわたしはエルゲーナの『人間』としてのそれを持っているのね?


 それを言ったら、五感全てでエルゲーナの世界を感じ取っているのは、間違いないのよね。


「おねぃちゃん、むにゃ」


 メルーちゃんがかわいらしい唇を震わせて、そんな寝言を呟くの。


 わたしは思わず、目の焦点をメリユの左手からその向こうに見えるメルーちゃんに合わせる。

 手のサイズ、指の長さ、手相含めて違和感たっぷりなメリユの手、それを伸ばせば、今もメルーちゃんに触れることができる……なんて、信じられないくらいよね?


 タッチコントローラでリモートでメリユの手を動かしていたのとは訳が違うもの。


 触れられるのなら触れたい。

 この気持ち、エターナルカームのプレイヤーの皆なら絶対に分かってくれると思う。

 スチルから3Dモデルになったとかいう次元じゃなくて、遺伝子情報によって原子レベルから構築された正真正銘生身のメルーちゃんがすぐそこにいるんだからね。

 わたしは自分の、メリユの左手をメルーちゃんの右頬に、ゆっくり、ゆっくり近付けていくんだ。


 わたしの指が触れるか触れないかの距離で、指の肌にメルーちゃんの肌の体温を微かに感じる。


 尊い。

 ヒロインちゃん=メルーちゃん=メルサが(昨日だけじゃなくて)今もこうして目の前に存在していてくれることが尊いの。


 そして、メルーちゃんの肌に触れて、ダイレクトにそのプニプニのお肌と体温を感じる。

 いや、これ、エターナルカームプレイヤーでこんなことできたの、わたしが第一号なんじゃね?

 ……当たり前か。

 普通の『人』はエルゲーナに行くことができないのだものね?


「おねぃちゃん、ん、行かないで」


 メルーちゃんの睫毛が震えて、苦しそうな寝言が漏れるの。


 すわっ、こんなんキュン死するわ!!


 悪夢でも見て、わたしと離れ離れになるような夢でも見ちゃってるのかしらん……とは思うけれど、わたしの夢を見て、そんな風に求められるとか、たまんな過ぎる!

 って、思っていると、


「っ!???」


 メルーちゃんの右手がメルーちゃんに頬に宛がってるわたしの左手を捉えるんだ!?


 ほんの少し汗ばんで、しっとりとしたメルーちゃんの右手。

 痛く……はないけれど、確かにわたしの手を逃すまいとする力が込められていて、わたしはドキドキしてしまった。


 こ、こんなの、もう姉冥利に尽きるってものよね?


 メグウィン殿下やハードリーちゃんたちとはまた違って意味で、胸が苦しくなってきちゃうわ!

 小さい頃の弟君も最高にかわいかったけれど、妹ちゃんが欲しかったのも事実で、まさかメルーちゃんが妹枠になるとか、神展開過ぎんか!?

 ああ、もう限界っ、お姉さん、愛でずにはいられませんことよ!






 はい………メルーちゃんの悪夢が去るまで、ひたすら合法な範囲内で愛で続けた結果、メルーちゃんは幸せな夢の方と旅立ったようで、ようやく手を離してくれた訳。

 お姉さん、頑張った。

 うん、理性はちゃんと手放さなかったよ。

 リアル、リアルだからね、これ。


「ふぅ」


 わたしは上半身を起こして、クラシックカーテンの隙間から漏れる日差しを見詰める。

 暖炉は付けてくれていて(夜中も管理してくれていたんだろうか?)寒過ぎることはないけれど、ひんやりとしているのは分かる。

 春の朝。

 日本の感覚で言うと、一月以上は巻き戻ったような感じ?

 思わずスマホのロック画面を見ようとか思ってしまって、スマホがどこにもないのに今さら気付く。


 うん、分かっていますことよ?


 麗奈のスマホはテラの方にあって、こちらにはない。

 ノートPCはもちろん、デジタル時計なんてものすらない。


 ううう、ムズムズする!


 いや、もはやスマホを自分の一部としているZ世代女子がスマホを失ったらどうなるか?

 まだわたしはPCあれば、何とかなる方だけれど、それすらないのか!

 メリユにはああ言われちゃいたけれど、とっさにスマホ・PCを求めてしまうのは、テラのJDには仕方のないことなのだよ。

 はっきり言って良い?

 異世界転生、マジヤバイっす。

 スマホ持ち込み可能系を除けば、結構これ発狂しそうになるかもなあ。

 情報がマジでないんすよ。


 せめて今何月何日何時何分か知りたい。


 あれ?

 ……ちょっと待て、エターナルカームで出てきたカレンダーって独特なヤツだったような気が。

 ああ、寝ぼけてるな、わたし。

 今は『種蒔きの月』とか言うヤツだったはず……何月だよ!

 地球暦に変換してくれや。


「“Show console”」


 我慢ならなくなって、わたしはコンソールを呼び出す。

 ふむ。

 このパンタグラフ風空中キーボードの存在、マジ落ち着く。


 いや……インターネットに繋がらないんだった。


 ノォォォ、ギブ ミー インターネット!!

ブックマーク、『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様方に深く感謝を申し上げます!

年度末で暫く執筆ができず、申し訳ございませんでした!!

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