表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
277/322

第276話 ダーナン子爵令嬢(?)、自ら悪役令嬢に口付けする

(ダーナン子爵令嬢視点)

ダーナン子爵令嬢は、二人分の自分の気持ちをまとめ、自ら悪役令嬢に口付けします。


[ご評価、『いいね』いただきました皆様に深く感謝申し上げます]

 お姉ちゃんがお花を摘みに行かれて、お部屋が静まったところで、あたしはメルカ様=メグウィン様、リーラ様=ハードリー様を起こさないようにこっそりとベッドの上で起き上がったの。


 商隊にいたときには考えられないくらいに快適なベッドと、お姫様とお貴族様だとすぐ分かるお二人から漂う香しい香水の匂い。


 マクエニ商会の会頭の孫娘にすぎなかったあたしが、ダーナン子爵様=お父様の庶子っていうだけでもびっくりだったのに、お姉ちゃんと遠縁の親戚で、あたし自身も聖女様になって、聖なるお力まで使えちゃって、お姫様やお貴族様と同じベッドで寝てて……しかも、しかもね、前世でもお姉ちゃんと繋がっていて、お姉ちゃんを慕っていただなんて、今でも信じられないよ。


「あたし……ちゃんと、覚えてる?」


 あたしは、お姉ちゃんにキスしてもらった唇を人差し指でなぞりながら、涙が目に込み上げてくるのを感じるの。

 だって、あの、身体がビリビリ震えるくらい大きな雷のあと、あたしたちは、前世の記憶を全て失うはずだったんだもん。


 そう、あたしが、わたくしがメルサ・サンクタ・スピリアージ・アリファナードだったことは本来思い出せるはずもない、いえ、思い出してはならない記憶なのよ。


 でも、あたしはちゃんと覚えてる。

 あたし、わたくしがメルカ様とハードリー様を後押しするために、いつも一歩引いたところにいたことも、そして、本当はお姉ちゃんのことをお慕いしていたことも。


「はあ」


 今こうして振り返ってみてもね、前世に何の後悔はないの。

 『ウヌ・クン・エンジェロ』というお立場をメルカ様とリーラ様のために用意できたことも、ちゃんと今に繋がっているんだからね。

 そう、今のお二人は、聖教としても、お姉ちゃん=ファウレーナ様とご一緒になられて何の問題ないんだもん。

 よくやりましたわ、あたしって思っちゃう。


 それでね、そんなあたしの頑張りを神は見てくださっていたんだろうかって今は思うの。


 だって、このあたしがお姉ちゃんに助けられ、(遠縁とはいえ)姉妹になって、口付けまでしてもらえたんだから。

 しかも、今のあたしは、お姉ちゃんの支えになれるだけの力だって授けられているんだから。

 うん、前世分、本当に報われたって思う。


「ふふ」


 記憶を取り戻して、あたしはね、すぐにファウレーナ様とメルカ様、リーラ様の再会の邪魔しちゃいけないって思ったの。

 だから、できる限り気配を消して、見守らせてもらっていたんだけれど、まさか、あたしだけ記憶を残すことになっちゃうなんて、思ってもみなかったわ。


 どうして、どうしてこんなことになっちゃったんだろ?


 あたしだけ、聖なるお力を使える聖女に選ばれたから?

 それとも、前世も聖女だったから?

 『ウヌ・クン・エンジェロ』にはなれない分、神にご配慮いただけたのかなあ?

 ううん……もしかしたら、あたしだけ、前世のメルサとしての自分と現生のメルーとしての自分が混じっちゃっていたからかもしれない。


 そうなんだよね。


 あのご奇跡の間、メルカ様とリーラ様はほぼあの頃のご自身を取り戻されていたのに、あたしだけ、現世の自分も強く残していたんだから。

 今だってそう。

 あたし自身も不思議なんだけど、ちょっと幼いかなあと思えるあたしと、メルサとしての大人のわたくしが混じっちゃってる。

 お姉ちゃん=ファウレーナ様には、あのときのあたし、どんな風に見えていたんだろう?


 メルサ?

 メルー?

 もしかしたら、混じっちゃってるあたしに違和感を覚えられちゃっていたかもしれない。


 うん、これは良くない、良くないよね?


 もしこれが神の思し召しでないとすると、あたしは何かの手違いで記憶を残しちゃってるのかもしれないんだもん。

 その場合、もしそれに気が付かれちゃったら、あたしも記憶を残しておけなくなっちゃうかもしれないよね?


 そんなの絶対に嫌。


 妹分でも良いの。

 お姉ちゃんに大事にされて、お姉ちゃんに甘えられて、ずっといられる立場を手に入れられたんだよ?

 手放せる訳ないよね?

 現生は、あたしだって死ぬまでお姉ちゃんのお傍にいたいんだもん。


 もっと抱き締められたいし、もっと頭を撫でてもらいたいし、もっと口付けだってしてもらいたい。


 幸せなの。

 メルーの願望だけじゃない、メルサの願望だって混じってて、それらが叶ったって思えるんだよ?

 本当に、あたしにお貴族様=ダーナン子爵令嬢としての立場が加わったのは大きいことだけれど、そんなことより、現世でも(また)聖女様になれたっていうのは何よりも大きいよね。

 だって、ファウレーナ様=お姉ちゃんと同じ聖女様として、並び立つことができるんだもん!


 ああ、お姉ちゃんにはまたあたしと同じお姿になってもらいたいって思う。

 双子のお姉ちゃんができたようなあの幸福感は、多分もう一生忘れられないよ。

 それがあのファウレーナ様だなんて、幸せ過ぎる。

 『ウヌ・クン・エンジェロ』にはなれなくても、それ以上に満たされているように思えるんだもの。


「お姉ちゃん」


 お花を摘みに行かれたお姉ちゃんが戻られたら、同じベッドで並んで寝たいって思っちゃうんだ。

 今夜くらいはせめてお姉ちゃんの体温を感じながら、お隣で寝たいって思っちゃう。

 そうしたらね、きっと、きっと今まで一番幸せな夢を見られると思うんだ。

 そして、あたしは、リーラ様のお隣でもう一度横になって、お姉ちゃんが戻ってくるのを待つことにしたの。






 護衛の騎士様が静かに扉を開けられて、薄暗いながらも燭台の灯りが部屋に入ってくるのが分かるの。


「ありがとう存じます、皆様」


「いえ、とんでもございません」


 声を落としたお姉ちゃんの声。

 メルサとしてのあたし、ううん、わたくしの記憶が、お姉ちゃん=ファウレーナ様への思いを強くしてるのが分かる。

 メルカ様、リーラ様の後ろ盾として、頑張ったけれど、わたくし、あたしだって、本当はもっとお姉ちゃんと触れ合ってみたかった。

 メルーとしてのあたしだけでも、この短い間にお姉ちゃんのことが大好きになったのに、メルサとしてお姉ちゃんを慕ってきた気持ちも加わって、どうにかなっちゃいそうだよ?


「おやすみなさいませ、猊下」


「ええ、おやすみなさい」


 扉が閉められ、暖炉の灯りだけになったお部屋で、お姉ちゃんのの気配が近付いてくるのが分かるの。

 ああ、お姉ちゃんに甘えたい、抱き付きたい。

 お姉ちゃんと一緒に寝たいよ。

 でも、いっぱいいっぱいになっちゃってるこのベッドじゃ、さすがに四人は眠れないよね?

 多分、お姉ちゃんは隣のベッドを使うんじゃないかな?


 うん、それなら……。


「ぅうん……」


 案の定、隣のベッドに入られようとしている気配を察して、あたしは『今』目を覚ました振りをするんだ。


「………お姉ちゃん?」


「あら、メルー、起こしちゃったかしら?」


 メルカ様=メグウィン様、リーラ様=ハードリー様相手とはまた違う、お姉ちゃんとして接してくれるお姉ちゃん=ファウレーナ様。

 この特別感に胸が熱くなっちゃうの!

 お姉ちゃんと姉妹だなんて、報われ過ぎだよね、あたし。


「お姉ちゃん、どこかに行ってたの?」


 あたしは、眠そうに目を擦りながら、お姉ちゃんに尋ねるの。


「ええ、少しお花を摘みにね」


「お姉ちゃん、どこにも行っちゃヤダぁ」


 ベッドから起き上がったあたしは、怖い夢でも見ていたかのように、お姉ちゃんに抱き付くんだ。

 すごく良い匂い、香りがするの。

 あたしと同じ姿になってくれていたときとは違う、メグウィン様やハードリー様の香水ともまた違う香り。

 お花の香りだと思うけれど、何のお花なのかは分からない。

 何だろう、でも、とても大好き!

 この香りを嗅いでいると、とても安心できるの!


「あらあら、心配しなくっても、わたしはどこにも行ったりしないわ」


「ほんと、本当に?」


「ええ」


 本当に期待しちゃって良いのかな?

 お姉ちゃんは、本当は異世界テラの使徒様で、こちらのメリユ様と入れ替わっていて、戦が終わったら、またテラに戻らなきゃいけないって言っていたよね?

 メグウィン様がメルカ様で、ハードリー様がリーラ様で、あたしがメルサで、前世のあたしたちが必死に思いを伝えて、こっちに留まる手立てを考えてくれるって言っていたけど、テラの使徒様のご聖務(?)を放り出してまでこっちの世界にいられるものなのかな?

 メルーは心配でならないよ、お姉ちゃん!


 あたしは、少しだけ身体を離して、お姉ちゃんの目を見詰めるんだ。


 こんな幸せ、絶対に手放したくない。

 お姉ちゃんの妹でいられるのなら、あたし、どんなことだってするよ?

 コンソールだってちゃんと使いこなせるようになって、お姉ちゃんの手助けだってちゃんとできるようになるんだから!


「お姉ちゃん」


「どうかしたの、メルー」


 あたしの、わたくしの記憶にあるファウレーナ様とは、当然顔立ちだって違うのだけれど、それでも、この優しさで包み込んでくれるような雰囲気は変わっていないと思うの。


 メルカ様とリーラ様に向けられていた愛情が、あたしに向けられることはないと思っていたけれど、現生では妹、妹分として、愛情を向けてくださっているという奇跡。


 さっきはお姉ちゃんから口付けしてくれたけど、今度はメルーだって!


「お姉ちゃん、大好き!」


 あたしは、目を瞑って、お姉ちゃんの唇に口付けしたんだ!

ご評価、『いいね』、ご投票等いただきました皆様に深く感謝申し上げます!

年度末でお仕事の状況が厳しくなっておりまして、更新頻度が下がっており、誠に申し訳ございません。

何とか今週末は二話分ほど更新できればと存じますので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。


メルカ、リーラたちと同じく記憶を取り戻していたメルーでございますが、メルーだけ少し反応・言動がおかしかったのは、こういう状態になっていたからなのですよね。

聖女メルーも幸せになってもらいたいものですね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ