第273話 悪役令嬢、入れ替わっているのを実感する(!?)
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、エルゲーナの悪役令嬢本人と入れ替わっているのを実感します(!?)
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石化魔法もどきの、ローカルタイムインスタンスによる敵兵さんフリーズ大作戦に目途が立ったところで、トイレ……お花を摘みに行きたくなって、わたしは改めてリアルなメリユの身体になってしまっているのを実感させられていた。
う……コーディング中はあまり気にならなかった(気にしないようにしていた)けれど、自分の小さな手とか細い腕とか、こうして見ると違和感がすごいな。
HMD越しに見ていたのとは訳が違う。
だって、タッチコントローラ越しではなくて、メリユの手を動かしている訳で、手の肌の感触だって自分のものとしてあるんだから。
「髪も……いや、声も、だよねぇ」
頬に触れてこそばゆいストレートロングな赤毛の髪も、今こうして自分の喉から出る(少し幼い)メリユの声もとても変な感じだ。
ボイスチェンジされた声としては聞いていたものの、多分、自分の出す声と、人の聞く声の高さが少し違って感じるせいかもしれない。
何より、背も縮んで、胸もほぼなくなって、随分と若返ったものだよねぇ。
JD=女子大生からJS=女子小学生まで逆戻りしたことになる訳か。
まあ、そのメリユの中身は、わたしよりもファウレーナ寄りであったようだから、わたしより実質年上なのかもしれんけれどね。
「はあ、マジで生理から解放されたの、快適なんだが」
麗奈の方は生理始まったばかりだったから、身体が縮んだこと以外はかなり楽な感じがする。
メリユはまだ初潮、迎えていないのかな?
わたしは、十一歳のときには来ていたけれど、こっちの栄養状況とか考えるとよく分からない。
中世ヨーロッパの貴族って偏食で栄養面ではちょっとまずかったらしいような話はどこかで読んだ記憶があるんだけれど、どうなんだろうね?
何にせよ、実質的には『入れ替わってる!?』状態、なんだよね。
あの映画、わたしも好きだったけれど、自分が異世界(年下)女子と入れ替わるとは。
大天使ファウレーナの転生先の一つって見れば、他人ではないのかもしれんけれど、わたしにとっちゃやはり他人でしかない。
ファウレーナとして、彼女たちと過ごした時間だけは……別物で、そのときのファウレーナとしての自覚は…………って、ダメダメ、それは危険だって、変なことは考えないようにしよう。
「さて、トイレ……お手洗いに行ったら、寝ることにしましょうか?」
ふと、ベッドを見て、定員オーバー状態になっているそれに苦笑いしてしまう。
いつもメリユの両隣には誰かがいるのがデフォルトになっていたけれど、今夜ばかりはそれは難しそう。
皆、現生でも仲が良くて、何より何より。
……はあ、涙滲んできちゃうな。
彼女たちが目覚めとき、わたしはどんな風に振る舞えば良いんだろうか?
彼女たちはどれくらい、あのキスをしたときのことを覚えていてくれているんだろうか?
わたしだけが全て覚えているというのは、本当に辛い。
生まれ変わった彼女たちがここにいて、一緒にいられて、今もキスを交わすような関係になっていることは、これ以上ないほどの幸せだと思うけれど、失ってしまったものは確かにあって、胸の底に溜まった悲しみに心を掻き乱されるような思いを抱かずにはいられないの。
「わたし、もう裏切れないよね?」
彼女たちの中から消えていった[彼女たち]に、わたしは変わらぬ絆を誓ったのだから、今更エルゲーナを離れる選択肢なんてあり得ないだろう。
テラのJDのわたしは、納得できるだろうか?
もちろん、今までわたしが学んできたことは、アドミニストラ システモ デ ダイバーサ モンドをエルゲーナで動かすあたっても大いに役に立ってくれていて、わたしは普通の『人』には持ち得ない力を手にしていると言える。
だから、テラでの人生は、今エルゲーナにいるわたしにとって必要不可欠なもので、向こうで育ったことは良かったんだって言えると思う。
でも……でも、自分の部屋に戻って、自分のベッドで寝たいっていう気持ちもある。
だって、突然、バトンタッチさせられたんだよ?
『なろう』の異世界もので、異世界に行ったっきりになるっていうのはこういうものなのかな?
もちろん、メリユの言葉通りなら、必要に応じてテラに戻ることもできるんだろうけれど、これからのわたしの拠点はエルゲーナになるんだから、そうそうテラに帰れる訳もないだろう。
例えば、お盆や年末に帰省するような、社会人の『人』たちみたいにテラに里帰りするようになったりするのかな?
「ええい、動揺してんな、わたし」
少なくとも、今のわたしは孤独じゃない。
生まれ変わった彼女たちがずっと傍にいてくれるって言っているんだ。
里帰りする手段があるなら、もっと彼女たちと、この世界と向き合うべきだろう、そう思う。
まあ、多分、この数世紀ずれたこっちの世界に馴染むまでは苦労しそうだけれどね。
わたしは愛おしいメグウィン殿下=メルカの頬にメリユの小さな手をそっと宛がってから、部屋の外に出ることにしたのだった。
「猊下っ」
「姫様のご様子は? 姫様はどうされたのでしょうか?」
メグウィン殿下が近傍警護の女性騎士さんやメイドさんたちを追い出していたこともあって、自分の力でいかにもな扉を押し開けると、少し距離を置いてセメラさんやアリッサさんたちが(顔色の良くない様子で)待ち構えていた。
まあ、『入って来ないで!』って、頭が痛そうにしながらメグウィン殿下が追い出したんだもの、心配して当然よね?
「ご安心くださいませ。
今は頭痛も鎮まり、ぐっすりとお休みになられていらっしゃいますわ」
「そ、それは何よりでございます。
さすがは猊下、ご治療してくださったのでございますね!
深謝申し上げます!」
……いや、治療というほどのものはしていないんだけれどさ、キスしただけだし。
はあ、今のわたしからすると、(跪かれているとはいえ)体格差は明確な、大人の女騎士のセメラさんに持ち上げられても変な感じよね?
もちろん、頭脳はJDのままなんだけれど。
「それで、猊下は、お休みになっていらっしゃらなくてよろしいのですか?」
「その、少し、お花を摘みに……」
「ああ、それでしたら、このセメラが警護いたします!
アリッサは殿下たちの警護をお願いね」
「あ、あぁ」
おおう、セメラさん、リアルだと圧が……。
アリッサさんよりセメラさんの方がメリユ信者的なものを感じちゃうんだよなあ。
セメラさんって(アリッサさんと比べると)かわいい系大人女子という印象な一方で、しっかり者っていうのが最初の頃のイメージだったんだけど、随分と変わっちゃった。
「エルたちもお願いできるかしら?」
「はい、わたしの命の限り、猊下をお護りすると誓います」
「はい、我が身を盾とし、猊下の安全を脅かす者を決して見逃さないと誓います」
なんか……大袈裟になってきてるなあ。
十一歳のメリユの視点で見ると、皆、大人なのに、こんなわたしを必死に護ろうとしてくれているのが伝わってきて、ビビっちゃうよ。
まあ、約束通りにバリア内に敵兵さんを閉じ込めることもできたし、わたしの存在価値もその分だけ上がっているということなんだろうけれどね。
うーん、辺境伯令嬢かつ聖女か。
どうにも自分のことって感じがしないというか、ピンと来ないよね?
それでも、彼女たちとは長い付き合いになるのだろうと思いつつ、思いの外薄暗い、砦の廊下を歩き始めたんだ。
なんか、最初は抱き抱えた方が良いかとか色々聞かれたんだけれどね、そんなの恥ずかしくて○ねる!
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この数週間ほどお仕事が立て込んできておりまして、遅くなり申し訳ございません!




