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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第272話 悪役令嬢、タダ一人記憶を残したまま、今後のことを考える

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、タダ一人記憶を残したまま、今後のことを考えます。


[『いいね』いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 大きな雷鳴と共に奇跡の数分が終わり、メグウィン殿下=メルカ、ハードリーちゃん=リーラ、メルーちゃん=メルサは、前世の記憶を再び失い……いえ、今度こそ完全に失って、晴れやかなうれし泣きの中、(彼女たちは精神的疲労もあってか)あっという間に眠ってしまったの。

 多分、彼女たちは、もう二度と前世のことを思い出すことはないのだろうと思う。


 そもそも、メリユが関与しなければ、彼女たちも、わたしも取り戻すことが叶わなかったはずの記憶だもの。


 多嶋さんだって、わたしたちを現生で再会させるだけで義理を果たしたつもりだったのだううし、『人』にはあまりにも悪影響が大きい、前世の記憶を復活させる行為は避けるつもりだったのだろうしね。

 けれど、それでは、かつての悲しい『別れ』の記憶が永遠に封印されたまま、残り続けることになると、メリユ一人が危惧して、この奇跡の数分間をわたしたちに与えてくれたのだわ。


「まさか、わたしタダ一人が、記憶を残し続けることになるだなんてね」


 彼女たちが眠りについて、雷鳴が全くしなくなっても、記憶を留めていられるんだから、やっぱりわたしは『人』ではないのね。

 大天使ファウレーナの記憶の中でも限定的なものとはいえ、普通の『人』には耐えきれるものではないと思うもの。


 この地上で本当にメリユとわたしだけが、『人』のものではない魂を持っているのだわ。


 ああ、それでも、吐きそう。

 精神的にどうにかなりそう……というほどではないけれど、あまりにも辛過ぎて、吐きたくなるような気持ち悪さがある。

 まさか、こんな喪失感を覚えてしまうだなんてね。


 メルカ、リーラ、メルサたちがいなくなっても、ここにはメグウィン殿下、ハードリーちゃん、メルーちゃんがいるといっても……思い出してしまった前世の彼女たちとの記憶のせいで、もう先ほどのような会話を交わすこともできないのかと思うと、あまりにもキツ過ぎる。


「はあ」


 もちろん、ケリを付けることができたのは本当に良かったと思っている。

 それでも、理屈じゃないのよ、この悲しみは。


 わたしは小さなメリユの手の指で、メリユの唇をなぞる。


 お互い生まれ変わった別人の身体にはなってしまっていたけれど、それなりに昔の面影もある姿にはなっていて……そんな彼女たちと、気持ちを確かめ合うことができたのよね?

 ああ、良かったと思っていても、彼女たちと唇を重ね合えた数分前の(幸せだった)自分に戻りたいと思ってしまう。


 時間はもう巻き戻せないのに、わたしはこんなにもメルカ、リーラ、そして、メルサを愛していたのだということを実感して、もっとあの奇跡の時間を大切にすれば良かったとも思ってしまう。


 ええ、きっと、彼女たちは満足してくれたと思うのだけれど、もっと言葉にして伝えるべきことがあったのではないかって、堂々巡りな思考にハマってしまうのよ。

 どうして気付けなかったのだろう?

 封印されていたとはいえ、わたし、その気になれば、もっと早く思い出すことだってできていたのではないかって思えてしまう。


「ダメ、これじゃ、わたしがファウレーナに飲み込まれてしまう……」


 たとえ、わたし一人だけが覚えていられるのだとしても……わたしはわたし、久世麗奈という『人』として出会ったメグウィン殿下、ハードリーちゃん、メルーちゃんたちとの絆を大事にすべき……なのよね?


 分かってる。


 ええ、そうよ。

 今更だけれど、この記憶を封印させていた理由も分かってきてしまう。

 封印がもっと早く解けていたなら、わたしは、彼女たちに前世の彼女たちを重ねて見てしまい、今のような関係を構築できていなかったでしょうしね。


 だから、もう心を強く持って、久世麗奈として、もう一人のメリユとして、彼女たちを幸せにしてあげるべきなのよね?


「はあ」


 大きな溜息を吐きながら、わたしは借り物のメリユの目から溢れ出しそうな涙を拭うの。

 最初はタダのアバターだと思っていた生身のメリユの身体で、わたしはエルゲーナの一人の少女となって、エルゲーナで生まれ育った三人の幸せそうな寝顔を見守るの。


 テラとは文明レベルが少なくとも数世紀はずれているけれど、年相応にかわいらしく、それでいて、テラの同年代よりも少し大人びた彼女たち。


 リアルを懸命に生きる彼女たちは尊く、あれから数百年後の今であっても、愛すべき存在だと思える。

 わたしがエルゲーナに飛び込んでいなければ、彼女たちの命は失われていたかもしれない訳で、それを思えばわたしのしてきたことも少しは誇らしく思える。

 そう、いつまでも、前世のことで悲しんでいる場合じゃないのよね。


 わたしは、彼女たちを幸せにしなくちゃいけない。


 まずはオドウェイン帝国の戦争を終わらせなきゃいけない。

 そして、そこで入る多嶋さん=神様の介入をも乗り越えなきゃいけない。

 ううん、それ以前に、テラの現代人であるわたしがこのエルゲーナに耐えられるか……それなりの覚悟は決めなきゃいけないのだろうと思う。


 大丈夫なの、久世麗奈?


 (本当なら片時も手放せない)スマホなし、(大学の課題やテスター業務で使っている、愛用の)ノートパソコンなしの世界で生きられる?

 サブスクの動画配信も、電子書籍も見られない世界で生きていけるの?

 うん、正直、いきなりメリユに繋げられちゃったから、正直まだスマホやノートパソコンに触れることができないって実感がないのよね……?


「ああ、もう、しっかりしろ、久世麗奈!」


 大事なことはコンソールを使って、以前と同じ管理者権限でエルゲーナに干渉できるかってこと。

 だから、わたしは、彼女たちに毛織のベッドカバーをかけてあげながら、まず確認しなければいけないことを考えたの。






「“Show console”」


 結論から言えば、わたしはメリユの生身の身体になっていても、コンソールを操作することができた。

 驚いたことに空中に浮かぶキーボードらしきものは、パンタグラフキーボードみたいな感触があって、テラでのキーボード入力と同じように操作できたの。

 さすが、ゲーム会社やってる多嶋さん=神様だけはあるわね。


 まあ、キーボード変わるとわたしも結構キツイからありがたいっちゃありがたい。


 音声コマンドも普通に使えているし、ゲームエンジン(と思っていたもの)への介入実行だってできるみたい。

 プロセス一覧も普通に表示されるしね。


 ああ、全くどういうシステムなんだよ、これ!?


 テラでは、インターネット回線経由で接続していたはず……なんだけれど、コンソール上で他サーバーへの接続するようなことはなかったし、できそうなコマンドもなかったから、エルゲーナからテラのインターネットには接続できない……のかな?


「とはいえ、インターネットに未練残してる場合じゃないのよねぇ?」


 わたしがやろうとしていることは本物の戦争への介入だ。

 今日だって、衝撃波が発生したり、山の一部が崩壊したりしたように、生身の『人間』たちにはまず耐えられないような事態だって、わたしは簡単にこの世界に生じさせることができてしまうんだ。


 でも、その結果、敵軍とはいえ『人』が大怪我をして、それこそ内臓が食み出しているような光景が発生したら……?


 絶対にわたし病むよねぇ。

 耐えられないよ、そんなの!

 前世の限定的記憶が封印解除されたっていっても、他の記憶は拒んで、結局はテラの女子オタ大学生でしかないんだもん。

 いや、第二次世界大戦でだって、近年の世界の紛争でだって、前線の兵隊さんたちは心病んじゃう『人』普通にいるでしょう?


 そんなのが発生する事態だけは絶対に避けたい。


「どうやって、戦争を鎮めるかなあ」


 今だってバリア内には、生きた敵兵=兵隊さんたちが閉じ込められている訳で、もしかしたら、大怪我している『人』だっているかもしれない。

 加えてさ、オドウェイン帝国の首都に乗り込むとかなったら、いざこざ発生するだろうしね。


 ……どうするべ?


 わたしは、コンソールを眺めながら、(たまたま出していた)アクターIDのリストを眺める。

 アクターIDが……分かっていれば、ローカルタイムインスタンス、弄れるんだけれど…………あれ、もしかして、わたし、石化魔法みたいなもの、使える?


 あああああ!

 いけるじゃん、時間凍結させてしまえば、怪我が悪化することもなく、石像……いや、蝋人形のごとく何年経っても変化しないような状況を作り出せるんだよね?


 いける、いけるよ!


 血への耐性が低いわたしは、打開策をついに思い付いてしまったのだった。

『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます!

余裕がない状況が続いておりまして、更新が遅れて申し訳ございません。

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