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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第271話 悪役令嬢、神を出し抜き、懐かしい顔ぶれ(?)との別れを終える

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、神を出し抜き、懐かしい顔ぶれ(?)との別れを終えます。


[ご評価、ブックマーク、『いいね』いただきました皆様方に心よりの感謝を申し上げます]

 メルカ、リーラに、その二人を支えたメルサ。

 今のメグウィン殿下、ハードリーちゃん、そして、メルーちゃんたちにも、ちゃんと彼女たちの面影があって、あまりの懐かしさにどうにかなっちゃいそう。


 メリユにわたしのアニモをリンクさせたときから、わたしはわたしでなくなってしまっていたのだろうか?


 前世のわたしだったという大天使ファウレーナの記憶を拒んだはずでも、メルカ、リーラ、メルサの記憶だけは……確かに今もわたしの中にあって、それが本当に特別だということが分かるの。

 ううん、多分、それは……ほんの今までプロテクトされ続けていて、あるトリガーによって解除されたって言い方をした方が正しいかしらね?

 神様だって、こういう形でわたしが記憶を取り戻すことになったのは、想定外だったのに違いないわ。


 ええ、本当によくやってくれたわ、メリユは。


 生来アドミニストラ システモ デ ダイバーサ モンドの概念を理解できない側の『人』として生まれ変わったにも関わらず、逆にスクリプト処理ではどうにもできない、記憶操作の方に長けているとか、わたしにも分からなかったわよ。

 でも、こんな風に黒子役に徹するだなんて、メリユは寂しくないのかしらん?

 もちろん、役割分担上、仕方なかったと言われればそれまでだけれど。


「……もしかして、三人の記憶を封印して残していたのはわたしの側だけだったとか?」


 大天使ファウレーナはこうなることを予期して、メリユとわたしの役割分担を決めたうえで、己の魂を分割したとでも言うのかしらね?


 こうやってまでして多嶋さん=神様を出し抜くとか、大天使様は気のお長いことと思わなくもない。


 女子大生の久世麗奈の時間感覚は、ごく普通の『人間』のそれと変わらないもの。

 うっかり、大天使ファウレーナの記憶を全部受け入れたりでもしたら、確実に『人間』としての感性は全て失われることだろう。

 いや、それってどうなるの?

 仙人とか、そんな感じにでもなるんか?

 よくは分からないけれど、すごく嫌な感じがする。

 もしかして、メリユ、あんた、そういう感じになっちゃってる?

 そうよ、もはや『人』を辞めちゃったりしてるってことなの?


「……まあ、さっきの様子じゃ、自分のことなんて気にせず、メルカ、リーラ、メルサを大事にしてあげてとか言いそうだけれどさ」


 ゴロゴロゴロ……。


 んで、多嶋さん=神様はご機嫌斜めって感じなのかしら?


 ええ、分かっているわよ。

 メグウィン殿下がメルカの記憶を、ハードリーちゃんがリーラの記憶を、メルーちゃんがメルサの記憶を維持できるのは、ほんの僅かな間だけってね。

 メリユ……そして、このわたしはともかく、タダの『人』である彼女たちに前世の記憶を持たせ続けるのは無理がある。


 いや、わたしでも、結構ぎりぎりなラインであるんだけれどさ。


 もう一人分の記憶とか持っていて、平気でいられると思う?

 最悪、自分の人格が丸ごと上書きされて、別人になるか、廃人になるかのどっちかよね?


 いや、だから、そういう意味でも、本当にすごい奇跡なのよ。


 何せ、メルカ、リーラ、メルサも、この奇跡が長続きしないことを認識した上で、この数百年ぶりの再会を(今の生まれ変わった自分自身に悪影響を及ぼさない範囲で)全身全霊でその喜びを噛み締めてくれているんだから。


「ああ」


 うん、泣きたい。

 素直に泣きたい。

 彼女たちが彼女たちでいられて、こうして会話もできて、触れられもするというこの歓喜を(時間を止めてでも)ずっと味わっていたいと思ってしまう。


 今も掌から零れ落ちていく、奇跡の砂は残り僅か。


 ネグリジェがどんなにびしょびしょになっても構わない。

 メルカ、リーラ、メルサがわたしのこの借り物のメリユの身体に自分を擦り付けてくれる幸せをわたしだって噛み締めていたいのよ!


「メルカ」


「はい、ファウレーナお姉様」


 三人それぞれ思い思いにわたしの胸とかお腹とかに抱き付いてくれていたのだけれど、(まだささやかな)胸に顔を埋めてくれていたメルカ=メグウィン殿下が顔をあげて、わたしを見る。


 ええ、表情がいつもメグウィン殿下と少し違うのよね。


 メルカはメルカ、あの子が今ここにいるって分かる。

 大天使ファウレーナは、大天使のクセに、こんなにもメルカを愛していたのね?

 生身の身体で、わたしからメルカ=メグウィン殿下にキスをしようとするのは、これが初めて。


 もちろん、マウス・ツー・マウスで。


 それでも、愛情だけを込めて。

 チュッとキスをしてあげる。


「………」


 ちょっと短過ぎたような気もしないでもないけれど、目を開けたとき、メルカは顔を真っ赤にして、目を潤ませてくれていた。

 これは相当に喜んでくれたみたい。


「リーラ」


「はい!」


 上下入れ替わって、リーラ=ハードリーちゃんがベッド上で膝立ちして、わたしを上目遣いで見詰めてくる。

 ああ、もう……最初からその気で来られると照れるな……。

 でも、これがリーラよね、とも思う。


 ハードリーちゃんとも少し違うけれど、リーラはリーラ。


 今まで一度も思い出さなかったクセに、リーラの仕草とか、強気な喋り方とか、色々なものが蘇ってきてしまう。

 メルカに対してもそうだけれど、わたし、リーラに対して本気でラヴだったみたいだわ。


 麗奈が生身で自らするマウス・ツー・マウスのキスの二回目。


 ちゃんと愛情をもってチュッてキスをしてあげる。


「っ!」


 唇を離したあと、両手で自分の唇を押さえて、大事そうにしている姿がとてもかわいらしい。

 ああ、リーラもリーラでかわい過ぎ、ずっとこのまま見ていたい気持ちになる。


「メルサ」


 そして、最後はメルサ。

 現生は完全に妹度百パーセントだけれど、あの当時から妹感はそこそこあったのよね?

 いや、現生で、本当に救ってあげられて良かったよ。

 メルサだけ救い損なったりしていたら、罪悪感でどうかになっていたかも。


 前世でだって、ちょっと貧乏くじを引いてる感はあったのも事実だし。


 メルカ、リーラを優先するあまり、もうちょっと自分の思いに素直になっても良いのよって思ったりもしたけれど、現生でこれだけ甘えられるようになっているんだから、生まれ変わりは大成功だったわよね?


「あ、あたしはこっちで大丈夫だよ?」


 健気にも自ら右頬を差し出してくるメルサ。

 いや、あんた、さっきも気配消したり、空気読みまくりだったよね?

 そこまでして毎度のように一歩引かなくてもね、お姉ちゃんは心配だよ。


 だから、家族、姉妹としてのキスとして、頬を押さえて、マウス・ツー・マウスでしてあげる。


「んっ!??」


 ちょっ、そんな劇的な反応せんでもええやん?

 目をぐるぐるして、明らかにパニクッてるメルサに、わたしの方こそパニックになりそう。

 もしや、もしかしなくても、ファーストキスだったりしたのかなあ?


 ええい、メルカ=メグウィン殿下、リーラ=ハードリーちゃんのせいで、わたしのキス感覚が狂っとるわ!


 でも、メルカとリーラが『ようやくしてあげたか』みたいな顔して、笑い合っているのが何ともホッとしちゃう。


 この雰囲気、あのときにも、確かにあったのだわ。


 壊したくなかった、特別で和やかで優しくて、微笑ましくて、楽しくて、ずっとこの空気を吸っていたいと思えた、あの時間。

 もう二度と戻らないけれど、わたしたちは、現生で再び出会えた。


 目に溜まった涙が思わず溢れて(メリユの)頬を伝ったとき、


 ガラガラピッシャーン、ドドドドドドン。


 みたいな世界を震わせるような雷が落ちて、蜜蝋の灯りも一瞬暗くなって……彼女たちの瞳から光が失われたのが分かった。

 雷に怯えたとか、そういう訳じゃない。


 そう、そのときが来たんだ。


 メリユが出し抜いてくれて生まれた、三人との奇跡の数分間が終わる。

 わたしは……多分、もう二度と忘れないんじゃないかなって思うけれど、『人』である彼女たちはもう覚えていられないだろう。


 それでも、わたしたちの絆は現生でも変わらない。


 彼女たちが覚えていられなくても、とても大切な時間が今ここであったことだけは何となく残ることだろうと思う。

 ああ、本当にありがとう、メリユ。

 ある意味、もう一度、メルカ、リーラ、メルサをここで失うことはわたしにとって大きな悲しみではあるけれど、引き続きメグウィン殿下、ハードリーちゃん、メルーちゃんと一緒にいられることは大きな幸せであるのだから。


 ねぇ、あなたには、この『人』ならではの『出会い』と『別れ』への特別な感情は残っているのかしら?


 たとえ、仙人じみた『人』ばなれした存在になっているのだとしても、わたしのサブカルの記憶で、少しでも『人』としてのそれを取り戻して欲しい。

 そう願わずにはいられなかった。


 そして、間もなく、三人の瞳に輝きが戻ってくる。

 彼女たちは、間違いなく、異世界エルゲーナの今を生きる十一歳の少女たちで……きっと数百年前から残してきた思い残しをさっぱり洗い流した……今のわたしが愛すべき女の子たちなんだと思いながら、涙を拭ったんだ。

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