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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第268話 悪役令嬢、再度エルゲーナに戻り、ハラウェイン伯爵令嬢と向き合い、気付いてしまう

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢は、再度エルゲーナに戻り、ハラウェイン伯爵令嬢と向き合い、あることに気付いてしまいます。


[ブックマーク、『いいね』いただきました皆様方に深く感謝いたします]

 目を覚ましたら、そこはいつものわたしの部屋で、ベッドの傍にはゲーミングチェアがあって、その向こうにHMDとノーパソを置いてあるL字型デスクもあって、後ろに手を伸ばせば、ベッドのスマホ置き場がある。

 意識を失っている間に、色々な認識がリセットされてしまっていたわたしは、『そんなつもり』で目を覚まし、妙な感覚に戸惑ってしまっていた。


 自分の両手を握り締める誰かの手。


 うん、弟君のものじゃない。

 手の感じから言って、女の子……?

 しかも、何だろう、この香りは………まるで海外製の香水のような、って!

 忘れられる訳ないじゃない、ハードリーちゃんのお香りだもん。


「っ」


 そっか、わたしはまたエルゲーナに戻されたんだ。

 『良きメリユライフを』……ね。

 すぅっと大きく香しい匂いを吸い込んでから、瞼を上げると……涙を流しながらも心ここにあらずな表情をしているハードリーちゃんと、そんなハードリーちゃんの方を向きつつ、何かにビクッとなって目を瞑っているヒロインちゃん=メルーちゃんの姿があった。


 神経がメリユのものとリンクしていき、何かがゴロゴロいっているのが分かる。


 雷? うん、多分、そう。

 メルーちゃんは雷怖いんだなと思うと同時に、その音にすら反応していないようなハードリーちゃんにゾッとなる。


「ハードリー……様?」


 輝きを失ったハードリーちゃんの瞳がすぅっと落ちてきて、わたしを映し、急に悲しさと苦しさが入り混じった表情を浮かべて、肩を震わせて泣き出すんだ。


 ああ、もう、訳が分からないってば!


 いや……ううん、もしかして……もしかしなくても、わたしのせい?

 また、わたしが意識を失ってしまっていたから、ハードリーちゃんは何か責任を感じちゃって、ショックを受けていたのかもしれないよね?

 わたしのHPの管理とかやってくれていたんだし、そのわたしが急に意識を失ったりしたら、そりゃあこんなになっちゃっても仕方ないかもしれない。


「ハードリー様、わたしは大したことございませんから、ご安心くださいませ」


 わたしがそう(違和感がまだあるメリユ声で)声をかけてみると、


「ごめんなさい、ごめんなさい、全てはわたしのせいですのに……ああ、それすらも覚えていられないなんて……」


 雷鳴の響きが残る中、ハードリーちゃんは顔を左右に振って、泣きじゃくるんだ。

 そんなに重々しく考えなくたって良いのに、そもそもメリユが急なバトンタッチを……って、ちゃうわ、今回のはわたしのせいだったか?


 う、ちょい待って?


 もしかして、さっき、わたし……ハードリーちゃんにキスされて、もう一度『添い遂げさせて欲しい』って言われた直後にぶっ倒れたんだっけ?

 うわあああ、やらかしたああああ!!

 そんなの、ハードリーちゃんが自分を責めても無理ないじゃんよ!


「お姉ちゃん!?

 ハードリー様!?」


 メルーちゃんがパニクっているのも無理ないよねぇ。

 戻って早々まさに地獄絵図かよって感じ。

 全てはわたしのせいなんかーい!


「せっかく、『一度目』を思い出せましたのに、こんなの、こんなのって!!

 いや、いやぁぁぁ」


 うぅ、セルフ突っ込み入れている場合じゃないわ。

 ハードリーちゃんを落ち着かせないと!


 わたしが上半身を起こすと、メルーちゃんが空気を読んだように右手を離してくれる。

 うん、ありがとう。

 その右手をハードリーちゃんの、わたしの左手を握り締めている手に重ねて、わたしは言うんだ。


「ハードリー様、落ち着いてくださいませ。

 わたしはここにおりますわ」


「どうか、どうかわたしを置いていかないでくださいまし!

 全てはわたしが悪いんです、わたしがあなた様のことをもっと知りたいと思ってしまったせいで、あんなことに!」


 え、ハードリーちゃん、何言ってるの?

 『あなた様』って、そんな風にわたしのこと、呼んでいなかったよね?

 嫌なデジャヴュのようなものを感じる。


 何、これ?


 もしかして、わたしが拒否ったはずのファウレーナの記憶で、見たヤツ?

 目の前にいるハードリーちゃんと、走馬灯のような勢いで見せられたあの記憶の中にいた誰かが重なる。

 いや、まさかとは思うけれど、ハードリーちゃんが……あの二人の女の子、その内の一人ってことはないわよね?


「あ、あ、ああ、分からないんです。

 わたしのせい、わたしが悪いことをしたせいですのに、それすら思い出せないんです。

 わたしは……何を?」


 ハードリーちゃんの言葉にわたしはゾッとなる。


 ハードリーちゃん、もしかして、記憶操作された?

 多嶋さんが神様だと気付いてからの最大懸念事項ではあったけれど、この雷といい、神的な何かと無関係とは思えない。


 ううん、そもそも神的な……という意味では、わたしも無関係ではいられないのか?


 わたしがメリユと直接繋がって、ファウレーナの記憶の一部が解放されかけたのとタイミングが一致し過ぎているよね?

 もしかして、もしかしたら、わたしが記憶の取り戻しかけた余波で、ハードリーちゃん……ううん、もう一人の誰か(メグウィン殿下?)も、前世の記憶を取り戻しかけちゃったのかもしれない?


 あはは、何だか、これじゃ、全部わたしが悪いみたいじゃない。


「ハードリー様」


 前世、使徒ファウレーナが、あの二人の女の子たちと別れた理由は……思い出せない。

 けれど、その内の一人の子が罪悪感に苛まれるようなことがあった、のよね?


 ああ、でも、そんなのもう良いの。

 わたしはわたし、麗奈だし、ハードリーちゃんはハードリーちゃんだし。

 メグウィン殿下はメグウィン殿下で、メルーちゃんはメルーちゃん。


 タイムリミットはあるにせよ、メリユがくれたせっかくの機会だもの。


 わたしは愛すべき彼女たちと、お別れが来るその時間まで一緒にい続けるんだから。

 前世は前世、もし本当にハードリーちゃん、メグウィン殿下たちと繋がりがあったとして、再び新しい自分でも繋がり合えたなら、それは喜ぶべき運命って思うじゃない。


 わたしは、右手をハードリーちゃんの手の甲から離して、その震える肩に回し、抱き寄せたんだ。






 エターナルカームでは、主人公のヒロインちゃん=メルーちゃんの親友役として、(同性の)押しキャラであったハードリーちゃん。

 そのハードリーちゃんの十一歳バージョンとこうして、メリユ十一歳バージョンになって抱き合っているなんて、信じられないよね?

 体温も、肌の汗ばみも、『人間』としての匂いもある。

 生きている一人の女の子として、わたしの腕の中にいるんだよ?


 お姉さん、ハードリーちゃんの幸せを護らなきゃってなるよ!


 オタな自分を暴走させている場合じゃない!

 暫くオタな部分は、テラに行っているメリユに任せておけば良いよね?

 まあ、そりゃ、尊過ぎて……どうにかなりそうなのは確かだけれどさ?


「メリユ様、ありがとう存じ……ありがとうございます」


「いえ」


「あの、メリユ様、もしテラに戻られるのなら、わたしも連れて行っていただけないでしょうか?」


 ………え?

 唐突なお申し出に、わたしは一瞬思考が停止してしまっていた。


 だって、真正面から抱き合っていたハードリー様が少し身体を離して、その大きな瞳にわたしを映しながら上目遣いにそんなことを言うんだもん!


「テラに……ですか?」


「はい。

 も、もちろん、テラにお戻りになられても、メリユ様がお忙しいのは存じております。

 ですから、地上から祈りを、ぁ、愛を捧げることくらい、お許しくださいませんでしょうか?」


 いや、考えたこともなかったけれど……多分、テラにハードリーちゃんたちを連れて行くのは、厳しそうよね?

 少なくともわたしが生身でテラからエルゲーナに行くのは、病原菌、ウイルスがぁ、免疫がぁって感じの心配もあったし。


 そもそも、今だって、メリユの身体に繋げているだけで、麗奈が身体ごとエルゲーナに行けている訳じゃないのよ?


「待って?」


「はい?」


 そう言えば、さっきメリユ、意味深なことを言っていたような?

 『スマホ、ネットとかのないエルゲーナでも大丈夫そうか』……って、それじゃなくて、『どうか、正しいご選択を』って方ね!

 いや、もしかして……メリユ、わたしが『エルゲーナ側をメインにする選択もありなのでは?』って言いたいの?


 ああ、マジか!?


 そりゃ、多嶋さんに一泡吹かせることだってできそうだけれど、これは………究極の『選択』だわ!

 メグウィン殿下も、ハードリーちゃん、メルーちゃんたちを悲しませたくはない。

 でも、テラの家族や友達だって簡単に切り捨てられる訳じゃない。


 これ、オドウェイン帝国に戦争する気をなくさせるまでに決めなきゃいけないってことよね?


 わたしは、潤んだ瞳で見詰めてくるハードリーちゃんを前に、激しく動揺してしまっていた。

ブックマーク、『いいね』、ご投票等で応援いただきました皆様方に深く感謝いたします!!

麗奈さんじゃないですが、これは究極の『選択』となりそうでございますね、、、

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