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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第267話 ハラウェイン伯爵令嬢、大事なものを取り戻し、大事なものをまた失う

(ハラウェイン伯爵令嬢視点)

ハラウェイン伯爵令嬢は、一度大事なものを取り戻しかけますが、またそれを失ってしまいます。


[『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 メグウィン様がアリッサ様とお部屋を出て行かれてから、わたしは(意識のない)メリユ様の左手を両手で握り締めながら、(思わず頷いてしまった)メグウィン様のお言葉の意味を考えてしまっていました。


 『二度』も引き裂かれたくない。


 それはつまり『一度』があったということなんです。

 どうして……わたしは、その『一度目』があったように自然と思えてしまったのでしょうか?

 ええ、もちろん、我が領での出来事はしっかり覚えています。

 聖なるお力を全て使い果たされた、変身が解けてしまったメリユ様を見てしまったときの気持ちは、一生忘れられないでしょう。

 あの後、メリユ様が目を覚まされるまで、メグウィン様と必死に看病した日々……あれだってある種の、一時的な『別れ』と言えなくはないと思います。


 ですが、もっと……こう、辛い『別れ』があったような気がするのは、気のせい、なのでしょうか?


 馬車の中で、光と水の聖女様がメリユ様の変身されたお姿だと知って、そのメリユ様が倒れられていたときに感じたものは、何かに重なるような気がするんです。

 そう、光の水の聖女様=メリユ様のご正体に気付いてしまったときの、あの気持ちは、決して『初めて』のものではないと、そう思うんです。


「メグウィン様は……一体何をご存じでいらっしゃるんでしょうか?」


 今も止まらない涙。

 胸がズキズキと痛みます。

 わたしは………多分、何かを後悔しているんだと思います。


 それが何か分からないのですけれど、とても嫌な予感がするんです。


 『一度目』の『別れ』

 それはわたしのせい、だったのではないでしょうか?

 初対面でメリユ様を引っ叩いてしまったことへの後悔、それを上回る何かがわたしの中に残っているみたい、なんです。


「わたし、わたしは、何をしてしまったのでしょう?」


「……ハードリー様」


 メリユ様の反対側の手を同じように握り締められているメルー様が、心配そうにわたしを見てこられます。

 ええ、意味が分からないですよね?

 メリユ様とお会いするより前に、わたしがメリユ様に一体何をしたって言うのでしょう?

 おかしな話だと思います。

 タダ、それでも、メリユ様への誤解、勘違い……それが別のものに塗り替えられたときの気持ちは、やはりとても似通っているように感じるんです。


 わたし、わたしがメリユ様のご正体を暴いた?


 ど、どうして、そんなことを思ってしまうんでしょうか?

 心の臓がドキドキして、それが締め付けられているような気がして、とても苦しいです。


「ハードリー様、どうかし、されたんですか?」


 う!

 メルー様がせっかく声をかけてくださっているのに、そのメルー様にすら既視感を覚えてしまいます。


 いえ、この言葉。


 わたしがメリユ様に言ったもののような、そんな気が。

 わたし、わたしは……?


 わたしが、わたしでなかったとき、わたしは……メリユ様のご正体を暴いてしまった?


 そうなんでしょうか?

 何だか、苦しさが増してきているような、気がします。

 でも、わたし、『一度目』に何があったか、知りたいんです。

 メグウィン様の確信の籠ったお言葉。

 絶対にわたしも知る何かがあったに決まっています。


「ハードリー様、ハードリー様っ」


 ああ、何なんでしょうか、これ。

 メルー様の焦り様が、昔のわたしに重なるような気がしてきます。

 もちろん、呼んでいる御名こそ違いますけれど……この後、わたしは……あなたは『人』ではないの? と問うてしまって…………。


 うぅ!


 頭が割れそうです。

 で、ですが、ぃ、今ならはっきりと分かります。

 わたしが、わたしでなかったわたしだったとき、わたしはメリユ様が使徒様だと気付いて、余計なことを言ってしまったせいで、メリユ様は天界にお戻りになられてしまったんです。


 どうして、こんな大事なことを忘れていたのでしょうか?


 思い出すきっかけなら、今までも、あんなにたくさんありましたのに!

 わたし、馬鹿です!

 せっかく、こんなにも大事な、大好きなお方に再会できていたのに、いきなり頬を引っ叩いてしまうとか、毎回、毎回、わたしは何をやっているんでしょうか?

 うれしくて、悔しくて、悲しくて涙が止まりません。


 ああ、わたしはもう一度、あなたに会えていたんですね?


 そして、わたしはもう一度あなたを愛すことができた。

 こんなご奇跡、そうあることではないと思います!

 これも、神のご采配によるものだったのでしょうか?

 種蒔きの月限りの、神の思し召しだったのでしょうか?


 短過ぎます!

 メリユ様=使徒ファウレーナ様=大事なお方が、テラの使徒様になられていて、一月限りの再会でしかないなんて、酷過ぎます!

 せっかく、ようやく思い出しましたのに、また引き裂かれなきゃいけないんですか?


 わたしは、生涯をかけて、添い遂げるって決めているんです。


 神のお考えが、ご神意がどうであろうと、わたしはメリユ様に付いていくって決めているんです。

 でなきゃ、メリユ様をエルゲーナに引き留めてみせるんですから!

 『楔』になるって決めたわたしの覚悟を甘く見ないでください!!


「そうですとも」


 わたしが決意を固め直した瞬間のことでした。


 ゴロゴロゴロ……。


 壁越しに遠雷が響いてくると同時に、全身に鳥肌が立つのを感じたんです。


 ええ、まるで神が……今わたしが『一度目』のことを思い出したのを察知され、動き出されたかのように感じたんですから。

 分かります。

 神でなくたって、分かりますもの。


 これは覚えていてはいけない記憶だって。


 多分ですけれど、メリユ様も、メグウィン様も、わたしも、昔の記憶を取り戻しているという状況は、きっと……いえ、間違いなく、神にとっては都合の悪いことなんだと思います。


「ハードリー様っ!」


 メルー様のお声が頭の中に入ってきて、ハッとなるんです。


 何でしょうか、今の、すごく良くない感じは?


 遠雷の音が続く中、わたしは……ほんの今まで、はっきりと思い出していた何かを、今少し失ってしまったように思うんです。

 記憶だけでなく、考えていたことだって、何だか、よく分からなくなってきているような気がして。


 いえ、きっと気のせいじゃないのだと思います!


 ええ、そうなんです。

 メリユ様が倒れられたのも、わたしと同じ原因なのではないかって今なら思えますもの。

 聖なるお力の問題ではなく、神によって封印されていたご記憶に、何かがあったからこそ、メリユ様は倒れられた……きっとそうなんです!


 そして、わたしも、う!


 また一つほんの今まで考えていたことが分からなくなってきたような気がします。

 嫌です、嫌です。

 せっかく、こうして再会できていたっていうのに、わたし……わたしは、また分からなくなってしまうんでしょうか?


 メリユ様とこうして再びご一緒にいられ、触れ合えていられるご奇跡がどれほど特別なものか、分からなくなってしまうって言うんでしょうか?


 ええ、神にとって、わたしが、以前のわたしの記憶を取り戻していることはきっと邪魔なのでしょう。


 そうなれば、わたしはきっと今まで以上にメリユ様に執着し、絶対に離れまいとするでしょうから。


 それでも、手遅れ、なんですよ、神よ。


 たとえ、神がわたしの、この大事な記憶を再び消し去られても、わたしのメリユ様への愛が減ったりなんてしないんですから!

 わたしがどれほどの大恩と敬愛と、純粋なる愛を抱いていると思っているんですか?


 ええ、とは言っても、この記憶、絶対に失いたくないです。

 こんな運命的な再会を、たとえ神に祝福されなくたって、わたしは本当にうれしく思っているんですから。

 『一度目』を思い出せていなくても、わたしは、とても幸せだったんです。


 ああ、この気持ち、ずっと抱えたまま、もう一度メリユ様と愛し合いたい。


 それはきっと許されないことなのでしょう。

 頭の中から次々と零れ落ちていく、記憶。

 『一度目』にお会いしていたときのメリユ様のお顔すら、はっきりと分からなくなっていくんです。

 悔しい、悲しいと思っていても、次第に何が悔しくて悲しいのかも分からなくなりそうです。


 これが『再会』の対価だと言うのでしょうか?


 もしそうなら、わたしは神を恨むことになるのかもしれません。

 そして、次、雷が落ちたとき、わたしは……その恨み含めて、今のこの気持ち全てを失ってしまうように感じるんです。


「ダメ!」


 心の中が空虚になっていっても、止まらない涙。

 まるで涙がわたしの大事な記憶を失わせていっているようにも思えます。


 次の瞬間、嫌な予感が走りました。


 ガラガラピッシャーン!


 室内の装飾品がビリビリと震えるほどの落雷が轟いた途端……






 わたしは目を見開いたまま、『過去』の全てを失っていたんです!

『いいね』、ブックマーク、ご投票等で応援いただきました皆様方に厚くお礼申し上げます!

ついにハードリーちゃんの正体(?)も明かされたようでございますね!

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