第257話 悪役令嬢、悪役令嬢と邂逅する(!?)
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、悪役令嬢との邂逅を果たします(!?)
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ブラックアウトした視界に『やられた』と思った。
そう、向こうの世界との接続を切断されたのだと、わたしは思ったのよ。
HMDパネルはもう二人、ううん、メルーちゃんを入れて三人……を映すことはない。
神様=多嶋さんは本当に監視していて、わたしが不都合なことを喋り出す前に、メリユとわたしを切り離したんだって思ったわ。
でも、違う。
何、何なの、この浮遊感は?
そもそも、わたし、HMDをしてない?
何がどうなっているの?
わたしは、装着している、いたはずのHMDの存在を確かめようと顔に手を伸ばしたところで、激しい違和感を覚えたんだ。
「何、これ……!?」
わたしの喉から、わたしの声でも、変身中だったはずのメルーちゃんの声でもない、メリユの声が漏れていたのよ!?
何より、ふわふわしているわたしの髪!
浮遊感はともかくして、わたしよりずっと長い気がする!?
一体、多嶋さん=神様はわたしに何をしたって言うの!?
全身に鳥肌が立つのを感じながら、わたしは真っ暗な空間を見回して、目を凝らした。
空気の流れや(ほぼ無音だけれど)音からすると、広い?
とてつもなく広い空間に、わたし自身が浮いている?
無重力状態……とは違う、気持ち悪さのない浮遊感が続いていて、まるで天使モードのメリユのようだったわ。
これから何が起きるのかと、わたしが警戒心を強めていると、
『間に合って良かったですわ。
もうせっかちなんですから』
自分の目の前の空間から、よく聞き慣れた……ううん、メリユの声がしたの。
メリユ?
もう一人のわたし……じゃなくて、眠らされていた本来のメリユ、だって言うの!?
『正解って申し上げたいところですけれど、少し勘違いされていらっしゃるようですわね』
「……あなた、あなたが、本来のメリユ、なの?」
『ええ、お初にお目にかかります、わたしはメリユ・マルグラフォ・ビアド。
本人で合っておりますわ』
彼女=メリユがそう名乗ったところで、目の前に(プレイ初日にメリユが着ていた)ドレス姿のメリユがスポットライトを浴びたようにパッと現れて、わたしはビクッとなった。
わたしが動かしている訳じゃない、完全にわたしの意識とは切り離されたメリユ本人。
こうしてカーテシーをしているメリユ本人を見ていると、本当に彼女が辺境伯令嬢=貴族令嬢の女の子なんだと分かる。
そう……やっぱり、そうだったんだ。
AI補正だと思い込んでいたメリユの自動動作補正、でも向こうがリアルなのだとしたら、わたしが割り込む前のメリユがいるはずで……そのメリユがわたしの動作をアシストしてくれていたって言うの?
「そんな……でも、どうして……いや、そうか!」
つまり……多嶋さん=神様は、わたしを本来のメリユと接触させ……違うわね、わたしが余計なことを言う前に、本来のメリユとわたしを入れ替えたっていうことかしらん?
でも、なぜ本来のメリユに?
悪役令嬢メリユでしょ?
このタイミングで交代させるとか、最悪じゃない!?
『そ、それはさすがに失礼ですわよ? 麗奈様』
「わたしの名前、知っていたの?
いや、全てメリユ本人に筒抜けになっていたなら、そりゃそうなのかな?」
『いいえ、そうではございませんわ。
もう一人のわたし、わたしの片割れ、わたしの半身、元大天使ファウレーナだった魂の欠片。
それがあなた』
少し寂しそうに笑う、きれいな赤髪で、少し気の強そうな美人な少女。
ぃ、一体、メリユは何を言っているの?
『もう一人のわたし』?
確かにわたしがリモート操作していたのは事実。
でも、『わたしの半身』『元大天使ファウレーナだった魂の欠片』とは?
まるで理解が追い付かないわ!
『混乱されるのも無理はございませんわね。
あなたに、神はほとんどそうした事実をお伝えされていらっしゃらなかったようですし』
「何を言っているの?」
『ですから、あなたとわたしは、元々同じファウレーナという使徒であったということですわ。
『人』として生まれ変わることにしたわたしは魂を分割し、あなたをテラに送り、わたしをエルゲーナに残したのですわ』
わたしが使徒ファウレーナ?
あれって、多嶋さん=神様の冗談……なんかじゃなくて?
本当に、わたしが大天使ファウレーナだったって言うの?
『その通りですわ。
そして『人』に生まれ変わった時点で、わたしたちは使徒としての知識を失い、聖力の制御方法、いえ、その概念すら理解できなくなってしまった。
けれど、それでは、使徒ファウレーナとして愛した『人々』を救うために聖力を振るうことができなくなってしまう。
そのため、神はアドミニストラ システモ デ ダイバーサ モンドをお作りになられ、その概念を理解できるような教育を受けられるテラにわたしの半身は行くことにした。
それがあなた』
アドミニストラ システモ デ ダイバーサ モンドって何?
いや……分かる? 分からないって訳じゃない?
多分、ゲームエンジンのことを言っているんだ。
そう……つまり、エルゲーナで『人』に生まれ変わったわたしは、(教育や技術水準の問題で)せっかく作っていただいたアドミニストラ システモ デ ダイバーサ モンドを動かすことができないから、コンピューターが発達したテラ=地球にも、もう一人のわたしを送った。
それがわたしだと?
『少しは記憶がお戻りになられたようですわね?
エルゲーナを守護する使徒ファウレーナ、それがあなた、そして、わたしなのですわ』
「でも、あなたは悪役令嬢で……いや、あれはゲーム本編で、別世界線シミュレーションだから、あれ?」
混乱してきてヤバイ!
悪役令嬢メリユが大天使ファウレーナの半身、片割れって!?
どうして、そんな子がミューラやカーレ殿下たちを困らせたりしていたのよ?
まさか、全て……演技だったと?
『ええ、正解ですわ。
神のご指示のもと、わたしはあなたのおっしゃる悪役令嬢メリユらしい振舞いをしておりましたの』
なる……ほど。
確かにミューラが変に納得していただけはあるわ。
意地悪なことを言いつつ、実害はない程度だったみたいだし、ああ、なるほどね。
「じゃあ、まさか……」
『ええ、ご想像されました通り、わたしは聖力を扱える『聖女』として、ビアド辺境伯領を密かに護っておりましたの。
ですから、ご懸念されていたことは、そう、勘違いでも何でもなく、事実なのですから、心配ご無用なのですわ』
おいおい、マジかよぉ!!
メリユ、マジ天使で、辺境伯領も、国も護ってくれてたんじゃん!
はあ、やるじゃん、もう一人のわたし!
って、まだ納得できた訳じゃないんだけどね。
「で、それは分かったけれど、どうしてこのタイミングで邪魔をしたの?」
『あなたの勘違いを正したかったのですわ。
あなたは、決してこの後退場するエキストラではない、わたしの一部、わたしの半分。
あなたの学んできたことは、時間をかけてわたしの中にも流れ込み、今こうして、同じ概念を理解できる者同士とお話しできるまでになれたのですわ』
「……どういうこと?」
『そうですわね?
一方通行ですけれど、あなたの知識や考え方は、わたしにも流れ込み、わたしの一部にもなったということですわ。
あなたが接続してくれていた間、わたしはあなたを学んでいたのです』
なるほど、わたしにはメリユのことは分からないままだけど、向こうのメリユにはわたしの頭の中身がちょっとずつコピーされていたって訳ね?
……って、納得できるかいっ?
まさか、オタ知識まで……全部?
『その通りですわよ。
ふふふ、随分と娯楽の多い世界で……エルゲーナの別の形まで、ゲームでプレイできてしまうだなんてすごく素敵な世界ですわね。
おかげさまで、悪役令嬢にもこれまで以上に詳しくなりましたわ』
何てこと、オタ知識を吸収した異世界人爆誕とか、やめてよね?
世界観が壊れる!
『よろしいではございませんか?
あなただけが娯楽を堪能されているというのも悔しいですし、何より楽しませていただきましたわ』
「はあ……まあ、それはいいや。
それより、あなた、もう一人のわたしとして、これからどうする気なの?」
そう、メグウィン殿下、ハードリーちゃん、メルーちゃんに、何を、どう説明するってのよ?
『あなたからお別れ、まあ予告段階であっても、それをされると困るのですわ。
神よりその兆候があれば、止めるようご神命を賜っておりますし』
「そう言っても、わたしは……もう少ししたら、ここを去らなきゃいけないんでしょ?」
メリユの言っていることが事実なら、わたしはタダの、メリユへの知識提供者で終わってしまう。
そうね、それなら、確かにメリユはわたしの代わりを務められるかもしれない。
けれど、わたしという人格はそこにない。
そうでしょ?
ああ、悔しいな。
メリユの真実を知って、安心すると同時にこんな悔しい思いをすることになるだなんて。
『いいえ。
わたしはあなた、あなたはわたし。
もしお望みでしたら、あなたはこのわたしと入れ替わることができましてよ?』
は?
え、何て、ちょっと理解できなかったんだけれども?
わたしがメリユと入れ替わることができる?
どうやって? How?
『もちろん、わたしがあなたの代わりをすることも可能ですけれど、ええ、麗奈様、あなたもメリユとして彼女たちと触れ合いたいのでしょう?
あなたがお忙しく、ずっと入れ替わったままという訳にはいかないのも分かりますけれど、ぜひお礼として、暫く『わたし』になってくださいませ』
いやいやいやいやいや……わたしがメリユになる?
HMD越し、タッチコントローラ越しではなくて?
『ええ、この身体はあなたのものでもあるのですもの。
五感全てで、彼女たちを愛してあげてくださいませ』
ま、まさか、そんなことって!!
わたしが異世界エルゲーナにいるメリユと入れ替わって、VRじゃなくてリアルのメリユに成れるって言うの!?
『はい。
アニモ間のリンクが繋がっている限り、あなたは世界の壁を越えるすらできるのですわ。
あなたが寂しさを覚えたとき、彼女たちの温もりを欲したとき、わたしはあなたにこの身体を差し出すことができますわ』
ちょっ、そんなの聞いてない!
多嶋さん=神様はそんなの臭わせてすらなかったじゃない?
『ふふ、わたしだって、たまには神に抗い、少しばかりの小細工をしたくもなりますのよ?
ええ、これは少しばかりのわたしの独断。
あなたへのささやかなプレゼントですわ』
ああ、これは……わたしだわ。
わたしの知識を吸収したって言ってたし、まあそういうことも思い付くわよねぇ。
「そう、ありがと、もう一人のわたし」
『どういたしまして。
メグウィン様、ハードリー様、メルー様には、わたしたちが二人で一人、一人で二人であるというのをご説明差し上げてくださいませ』
ええ、まさか、このまま、入れ替わるつもりなの?
ちょ、ちょい待ち、まだ心の準備が!
『取り合えずのタイムリミットは、オドウェイン帝国皇帝に停戦を認めさせるところまでですわ。
あなたの考えるゲームプレイ終了はそこに設定されておりますのよ』
何さらっと重要な情報垂れ流してるかなあ、この子=メリユ=わたしは!
まあ、いいわ!
オドウェイン帝国皇帝とやらを黙らせて、二度と戦争させる気をなくさせてしまえば良いんでしょ?
それくらいやってやる、やってやるわよ!
『ふふ、頼もしい限りですわ。
それでは、良きメリユライフを、麗奈様』
それが急に光を失い、暗がりに消えていくメリユから最後に聞いた言葉だった。
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