第256話 悪役令嬢、王女殿下とハラウェイン伯爵令嬢に全てを打ち明けると決める
(悪役令嬢・プレイヤー視点)
悪役令嬢は、王女殿下とハラウェイン伯爵令嬢に全てを打ち明けることを決めます。
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ハードリーちゃんとミューラたちがお食事を持ってきてくれて、準備が整ったところで、ミューラとメイドさんたちは部屋を出て行った。
どうやらまたハードリーちゃんが付きっきりでお世話をしてくれるみたい。
うん……わたしだって小学生の頃までは結構風邪とかで学校を休むことがあったんだけれど、その度にお母さん、甲斐甲斐しく看病してくれていたっけ?
いや、わたしにとっちゃ年下、メリユにとっても同い年のハードリーちゃんにお世話されちゃっている、この状況ってどうなのよって思ってしまう。
そりゃ、ゆりゆりな漫画で、後輩ちゃんが先輩にそうやってしてあげているようなシーンは見たことがあるけれどさ、大学生のわたしが小学生高学年のハードリーちゃんにこんなことされているとか……ヤバくない?
まあ、こんなハードリーちゃんを傍で見られるなんて、いや、もう尊過ぎて、頭変になりそうなくらいなんだけれどさ。
「一応、すぐお召し上がりいただけるくらいの温度だとは思うんですが、念のため、少し冷まさせていただきますね」
スプーンに救った(湯気が漂っている)ポタージュを口元に近付けて、ふぅふぅされているハードリーちゃん。
かわゆすかわゆす!
あまりにもかわゆ過ぎて、語彙崩壊しそうなほどのハードリーちゃんをこんなに近くで見られるだなんて。
HMDの有機ELパネルの解像度じゃ、肉眼で直接見るよりかは劣るかもだけれど、ふぅふぅのために突き出されている唇も(この距離じゃ)はっきりと見えて、ついじっくりと見詰めてしまう。
うん、わたし、このふぅふぅしてくれている唇に、わたしの唇を奪われちゃったんだ。
いや、メルー版メリユの方の唇なんだけれどさ。
う、どうしよう。
メグウィン殿下とハードリーちゃん、ゲーム本編じゃヒロインちゃん=メルーちゃんの一番の親友になるお二人にガチ恋、されちゃっているんだよね、多分。
添い遂げるってさ、ずっと一緒いるよってことでしょ?
彼氏なんて作ったこともないわたしだけれど、こんな良い子たちにずっと一緒にいたいって思われるだなんて、なんか現実じゃないみたいでふわふわしちゃう。
二人の気持ちは受け入れたい。
わたしもメグウィン殿下もハードリーちゃんも、ものすごく好き。
ゲーム本編の別世界線シミュレーションで、メルー視点で一緒にいるのをプレイヤーとして体験したときより、ずっと好きになっていると思う。
わたしのこの口から発した言葉一つで、喜んでくれたり、怒ったり、悲しんだり、心配してくれたりする、リアルの二人なんだもの。
選択肢選んで、毎回決まった反応を返すゲームなんかじゃないのよ?
生身の『人間』なの。
タダ、HMD越しにしか見ることができない、異世界の『人間』ってだけ。
直接は触れ合えないけれど、アバターメリユは確かに二人と触れ合っていて、わたしたちはお互いに(確かにある)その絆を感じ取っているんだと思う。
ちくせう!
多嶋さん=神様、ゲームとしちゃ、今はハッピーエンド間近なんだろうけれど、リアルって考えたら、テスター業務終了した途端、別々の世界に引き裂かれるバッドエンド以外の何物でもないじゃないのよ!
わたし、神様にアレコレ要求するつもりにはなっていたけれど、神様が拒否ったらそれでおしまい。
「はあ、そんなのってないわよ」
あのね、子供の頃、大長編ドラえも○の映画にハマっていたことがあるのよ。
一本の映画の中で、別の時代、別の宇宙に行って……友達を作って、絆を深めて、時には好意だって持たれて、それでも最後には離れ離れになる。
映画としちゃ、それで正しいのだと思う。
映画版だけのキャラが本編に干渉してきても、困るだろうしね。
でも、一生の親友だって思っていた相手が、恋してこの人と一緒になりたいなって思っていた相手が、もう二度と会えないかもしれない……なんて、耐えられると思う?
ハッピーエンドのようでハッピーエンドじゃない終わり方。
わたし、この後どうなっちゃうのって、ヒロインちゃんに感情移入して、号泣したこともあったわね。
最後に頬にキス一つして、もうそれっきりとか悲し過ぎじゃない?
物語の終わらせ方としては、正しいのかもしれないけれど、ヒロインちゃんの気持ちを考えたら、『そりゃないよ』って感じでしょ?
大人にそれはタダのフィクションだからって言われても、小学生のわたしは納得できなかったな。
そんな思い出もいつしか思い出すこともなくなっていたけれど、まさかこんなタイミングでわたし自身に降りかかってくるだなんてね。
「はい、メリユ様、あーん」
ハードリーちゃんがスプーンをわたしのお口に運んできてくれて、ポタージュスープが目の前にまでくるの。
わたし自身が直接メリユの口をコントロールできている訳じゃないと思うんだけれど、AI補正で、向こうのメリユは自分で口を開けて、それを受け入れたみたい。
AI補正?
本当に?
今まで自動で動作補正とか、自動での歩行補正だってできていたけれど、本当にそうなのかな?
そもそもよ、さっきも疑問に思った通り、オリジナルのメリユはどこに行ったのよ?
向こうの世界はリアルなんでしょ?
わたしがアバター代わりに(メルーちゃんに変身中の)メリユの身体を動かしているつもりになっていたけれど……もしかして、メリユの潜在意識的なものでフォローされていたって可能性はない?
……うん、あり得そうだよね?
「どうでしょうか?
その、ハラウェイン領のパースニップのポタージュに近い味付けにはなっているかと思うんですが」
「ええ、とても美味しいですわ」
味なんて分からないから、罪悪感にチクリと胸が痛む。
わたし、本当に嘘つきだ。
本来のメリユが目覚めた後のことが、とても怖い。
たとえ、今からわたしが本当のことを伝えたとして、メグウィン殿下とハードリーちゃんは、わたしが抜けたあとのメリユを受け入れられるんだろうか?
「良かったです。
ひと眠りされているメルー様にもぜひ飲んでいただきたいですわ」
ハードリーちゃんが眠っているメルーちゃんの寝顔を優しく見詰める。
今ここにいるのは、メグウィン殿下とハードリーちゃん、そして、眠っているメルーちゃんだけ。
主要ヒロイン勢揃いっていうのが凄いわよね?
そっか、聖女役を押し付けることになるメルーちゃんにも、うん、やっぱりしておいた方が良いのかな?
この状況って、多分、そういうこと、なんだと思う。
「ハードリー様、交代させていただいても?」
「え、メグウィン様、わたし、まだひとさじしか!」
「では、ひとさじずつ交代することにいたしましょう?」
もう、こんなときに笑わせないで欲しい。
本当にメグウィン殿下とハードリーちゃんのこんなやり取り一つにしたって、微笑ましくてたまらなくって、尊死しそうなレベルだけれど……涙が零れそうになってきちゃうじゃない?
ああ、何て名残惜しい。
これからもずっと二人のそんなやり取りも、メルーちゃんの寝顔だって見ていたいのに、やらせることだけやらせといて、要らなくなったらポイッて、多嶋さん=神様、あまりにも酷過ぎる。
でも、でもね、ゲームプレイの終わりが近付いているのをはっきりと分かっているわたしと違って……わたしの異変だけ感付いているっぽい二人が、いきなりわたしを失ったら、どうなっちゃうんだろうって思ってしまう。
うん、それはもう多嶋さん以上に酷いわ、わたし。
映画、ドラマ、漫画でも、唐突に主要キャラがいなくなるってトラウマものなのよ?
『添い遂げる』とまで言ってくれた二人に、そんな仕打ち、わたしは鬼かって感じよね?
だから、言わなきゃいけない。
わたしは悪役令嬢メリユの身体を乗っ取っている別人だって。
元々わたしが調子に乗って、メリユを悪役令嬢ルートから回避させようと好き勝手やったのが原因なの。
それに、あれだけ盛大に勘違いさせるだけ勘違いさせて、訂正を一回すらもしてこなかったのはわたしの罪なんだわ。
チャンスなら何度もあったと思う。
わたしは何者なのか?
それをメグウィン殿下とハードリーちゃんに伝えるチャンスはね。
「メグウィン様、ハードリー様、お話したいことがございます」
「……メリユ様?
それって、まさか!?」
さっきのメグウィン殿下とわたしの会話なんて知らない、部屋に戻られたばかりのハードリーちゃんは戸惑った様子で一度メグウィン殿下の顔を伺い、ハッとしたようにわたしを見るの。
そうね、切り出したのは、やっぱりハードリーちゃんだったんだもの。
分かる、わよね?
「メリユ様、それは、その……神のご許可を得られたということでしょうか?」
「はい、ええ、そう取っていただいて構いません」
許可も何も、わたしが勝手に自制していただけなんだけれどね。
でも、ここまで来て、神様に遠慮なんてするつもりはない。
一人……ううん、一柱(って言うんだっけ)勝手に向こうの世界に出かけ、高みの見物をしては注文ばっかりしてくる神様に、今更配慮する必要なんてあると思う?
神様がわたしを大天使ファウレーナとか勝手に呼ぶんだったら、わたしもその大天使とやらの権限で二人、ううん、三人に全て明かしちゃうんだから。
スープ皿の受け渡し中だったお二人は顔を見合わせて、頷き合ってから、そっとスープ皿を(ベッド傍の)猫足のミニテーブルに置いて、わたしの両側に腰掛けるの。
聞きたいけれど、聞きたくない……そんな感じの雰囲気が二人からは伝わってくる。
そりゃ、わたしも言いたくないわ。
多分、わたし、全てカミングアウトしたところで号泣すると思う。
残り僅かな時間で、『添い遂げる』とまで言ってくれた二人に何をしてあげるんだろう?
聖女として残されるメルーちゃんだって、同じよ。
神様が望むところまでわたしがサポートするとしても、そのあとは……もうわたしはいない。
皆も、悲しんだり、怒ったりするんだろうか?
ふふ、もちろん、神様に対抗して、記憶改変を防げた場合の話にはなるんだけれどね。
「お聞かせくださいまし、メリユ様」
わたしの腕をギュッて抱き締めて、上目遣いで訊いてくるハードリーちゃん。
反対側でも、メグウィン殿下がわたしの腕を抱き締めてくる。
わたしには(HMD越しに見る以外)何も感じられないけれど、それでも、幸せだわ。
意図として、二人の好感度を上げようとまでは思っていなかったけれど、神様を驚かせることはできたみたいなんだから、テスターとしては、誇っても良いんじゃないかな?
わたしは、お二人の顔を交互に眺めてから、頷いて、口を開こうとした…………その瞬間だった。
気が付いたとき、全てはブラックアウトしていたの………。
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ついに悪役令嬢メリユ=ファウレーナが動きましたね。
戦争の危機を一旦回避したこのタイミングというのは、確かに今しかないという感じではございますが。




