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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第255話 ハラウェイン伯爵令嬢、悪役令嬢の食事の準備を手伝いつつ、悪役専属侍女と話をする

(ハラウェイン伯爵令嬢視点)

ハラウェイン伯爵令嬢は、悪役令嬢の食事の準備を手伝いつつ、悪役専属侍女と話をします。


[『いいね』いただきました皆様方、誠にありがとうございます]

 パースニップのポタージュを作っていただいている間、わたしは砦の窓から、鏡の御柱=バリアを眺めていました。

 日が暮れ始めてから、その鏡の御柱自体が時折光の粒を散らしているのが分かるようになり、その神々しさに一部の聖騎士の方々が祈りを捧げられているのが見えるんです。


 神のおわされる天界にまで届くほど、高く聳え立つ巨大な鏡の御柱。


 メグウィン様から王都に出現された鏡の御柱のお話は伺っておりましたけれど、これほどまでの聖なる奇跡を見ることになるなんて思いもしませんでした。

 ええ、きっとメリユ様にお会いする前のわたしなら、『鏡の御柱にオドウェイン帝国の大軍を閉じ込める』なんてお話、信じるに値としないと鼻で笑っていたことでしょう。

 いくら、聖教を熱心に信仰していても、そのような聖なる奇跡を自分が目の当たりにするなんて思いもしていなかったんですから。


 ですが、メリユ様は、人知れず、聖なるお力を振るわれて、この国を、ミスラク王国を護られてこられたんです。


 その場で対処できないお相手には、『時』の流れさえも変えられて、あちらこちらに飛び回り、解決されてこられたメリユ様。

 同い年であるはずのメリユ様は、今や(本来年上の)カーレ第一王子殿下と変わらない『時』を生きてこられたと!

 この地上で(メリユ様以外)誰も動いていない静かなる世界で、孤独にも平和を護られてこられたメリユ様のことを考えると、それだけで泣けてきてしまいます。


「わたし、絶対にメリユ様をお一人になんてさせませんから!」


 そうです。

 これからはメリユ様のご負担にならない範囲で、わたしも、メリユ様と同じ『時』を過ごして、支えていきたいと思うんです。

 『時』が止まった世界で、メリユ様が何かをされるというのなら、わたしも絶対にお供して、寂しい思いなんてさせないんですから!


 ええ、きっと、メグウィン様もわたしと同じお気持ちでいらっしゃることと思います。


 これから、わたし、わたしたちは、『人』よりも少し早く歳を取ることになるのでしょう。

 『人』より早く大人に、そして、早く老いていくのかもしれません。


 ふふ、十一歳の貴族令嬢の考えることではありませんね?


 ですが、良いんです。

 ずっとメリユ様と一緒にいると決めたんですから。

 それに、『時』の止まった世界で、メリユ様と一緒にお休みするのって、素敵だと思いませんか?

 既にセラム聖国で経験したことではありますけれど、もっとメリユ様との関係が深まった今、色々と期待してしまいそうになります。


「ハラウェイン伯爵令嬢様、最後にもう一度味見をお願いさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「はい、もちろんです」


 料理長様のお呼びにわたしはすぐに戻り、パースニップのポタージュの味を確かめたのでした。





 メリユ様用に軽めのお食事をご用意し終えるとわたしはミューラ様と一緒に(わたしたちが泊まらせていただいている)お部屋へと向かいました。

 わたしよりも五つ上でいらっしゃるというミューラ様。

 癖毛なダークアッシュの髪に、そばかすがチャームポイントなお方です。

 何度かお話もさせていただきましたが、メリユ様は専属侍女のミューラ様にもご正体を明かされておられなかったのですよね?


「あの、ミューラ様。

 また少し、メリユ様のことを伺っても?」


「ぇ、はい、もちろんです。

 何をお知りになられたいのでしょうか?」


 わたしより年上で、貴族令嬢でもあり、聖女専属侍女頭にもなられたミューラ様にこんな丁寧に接していただくと、わたしも少し緊張してしまいます。


「前に、結構前よりメリユ様の行動に違和感を感じていらっしゃったということを伺いましたが、具体的にどのような感じだったのか、教えていただいてもよろしいですか?」


「そうですね。

 お嬢様は、その、一度も手を出されたりはなさらなかったのですが、どうにも意地悪で、頻繁を姿を隠されてはわたしを困られていましたね」


「つまり、ミューラ様を困らせるために、かくれんぼのようなことを度々されておられたと?」


「はい」


 ……なるほど、ご聖務で領城を離れられる際、『時』を止めて動かれるにしても、何らかのご対処をおこなうには、結局『時』を進める必要もありますから、どうしても不在の時間ができてしまうのですよね?

 それを隠蔽されるために、ミューラ様を困らせる悪い子を演じられていたということでしょう。


 おそらく、領城の方々もそういうご認識で、メリユ様がご不在になられても、領城のどこかに隠れているものと都合良く解釈されていたのでしょうね。


「あ、いえ、今ならわたしも、お嬢様が神からのご神託で密かに動かれていたのだろうなというのは分かっています。

 かくれんぼから戻られたお嬢様は……その、意地悪そうに振る舞ってはいらっしゃいましたけれど、今思えば、いつも申し訳なさそうにされていたようにも思えるんです」


「はい、わたしもそう思います」


 ご意見の一致を見て、ミューラ様とわたしは思わず笑い合いました。


「はあ、本当にお嬢様が素晴らしいお方で良かったです。

 特に、お嬢様の使徒様のお姿、とても素敵で……わたし、そんなすごいお方にお仕えできていたんだって、今思い出しても泣きそうになるんです」


「分かります。

 メルー様のお姿のメリユ様も好き、ではありますけれど、やはり、メリユ様はメリユ様でないと!」


「はい!」


 おそらく、ミューラ様はこれからも『時』の動き続ける中で、メリユ様を支えることになるのでしょう。

 メリユ様が『時』を止め、離れられることがあっても、メリユ様のいらっしゃるべき場所を整えるお方は必要ですもの。

 メグウィン様やわたしとはまた違う形ではありますが、ミューラ様も同士と言って良いお方。

 これからきっと長いお付き合いになるのだと思います。


「……タダ、問題は、メリユ様が秘められていらっしゃること、ですよね?」


 無事、鏡の御柱=バリアの展開(?)にご成功され、当面はオドウェイン帝国軍を弱体させるだけになりました今、メリユ様はそれを明かしてくださるのでしょうか?

 正直、聞くのが怖いです。


 あのメリユ様に限って、わたしたちを悲しませるようなことをおっしゃるとは思えない……ですが。


 それでも、メリユ様は神とのご意見の相違もあるようでいらっしゃいますし、神との取引で、この地上から天界へ去られるようなこともあるのではないかと、そんな不安があるのも確かなんです。


「はあ」


 権限問題とおっしゃっていらっしゃった以上、神絡みであることだけは間違いなのでしょう。


 いくらメリユ様が神認められし聖女猊下であり、神の意に対して異論をぶつけられるほどのお方であっても、わたしたちに権限の問題で伝えられないことがあるということは、間違いなく神による『縛り』がメリユ様にかけられているということに他なりません。


 もし、もしですよ?


 神がメリユ様に、このまま地上に残ることは許さないとご神託をくだされた場合、メリユ様の側に抗う術はあるのでしょうか?

 わたしは……ないように思えるんです。

 いくらメリユ様でも、どうしようもないことってあるでしょう。

 先ほどだって、あんなに必死にご救命されていらっしゃいましたけれど、本当に全ての『人』を救い続けるなんてことは不可能だと思いますもの。


「どうか、神よ。

 何卒、わたしたちを離れ離れにしないでくださいまし」


 わたしはミューラ様には聞こえないような小声で、そう神に祈るしかできないのでした。

『いいね』ご投票等で応援いただいております皆様方、誠にありがとうございます!

少し体調を崩しまして、連休中の更新が遅れており申し訳ございません!

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