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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
255/322

第254話 悪役令嬢、湯浴みを終えたダーナン子爵令嬢を寝かし付け、王女殿下と向き合う

(悪役令嬢・プレイヤー視点)

悪役令嬢、湯浴みを終えたダーナン子爵令嬢を寝かし付け、王女殿下と向き合います。


[ご評価、『いいね』、ブックマークいただきました皆様方に厚くお礼申し上げます]

 もはやイベントスキップされることもなくなった湯浴みをして、(連泊中の)砦の士官用のお部屋に戻ったわたしたち。

 いや、何というか、その、同性同士だから良いようなものの、ヒロインちゃん=メルーちゃんの生まれたままの姿を見てしまうことになるとは……。


 ごほんっ!


 ゲーム本編がリアルでない別世界線シミュレーションのようなものだったとしても、一応メルーちゃん視点でテストプレイやっていた身からすると、感慨深いものがありますわ。

 何より、お揃いのネグリジェに着替えたメルーちゃんに、『お歌を歌って、お姉ちゃん』とせがまれる日が来るだなんてね。

 どうやら、メルーちゃんは、わたしの歌った『アヴェ・マリア』をよほどお気に召したみたい。

 少し声量を抑えて歌ってあげると、(疲労困憊気味な様子だった)メルーちゃんはあっという間に眠りに落ちちゃったわ。

 そんなメルーちゃんの頭をタッチコントローラで優しく撫でてあげるわたし。


 ああ、感触が分からないのがこんなにも辛いだなんて!


 マジ尊死レベルの寝顔がそこにあって、向こうのメリユは直接触れられているっていうのに、わたしには無機質なタッチコントローラの感触しか感じられないのがマジ辛い。

 メルーちゃんとはまだそんなに長く一緒にいないはずなのだけれど、ゲーム本編でずっとメルーちゃんをやっていた分、本当に姉妹のような絆を感じてしまうわね。

 ふふ、この世界に肉体的には同一のメルーちゃんとメルーちゃんバージョンメリユがいるっていうのが何とも不思議。


 この子に、わたし、聖女役を押し付けて……もうすぐこのゲーム(?)を終えることになっちゃうんだ。


 うん、ゲーム本編でメルーちゃんの生い立ちとか、性格、人柄なんかも分かっている分、一人になっても健気に頑張るメルーちゃんの姿を想像しちゃうと、やっぱり泣けてきちゃうな。

 神様=多嶋さんには、可能な限り、抗うつもりだけれど、メルーちゃんはわたしのことを……覚えていてくれるのだろうか?

 アニメやラノベでもよくあるじゃない?

 完全な記憶改変を免れたとしても、その誰かの姿をはっきり思い出せなくなって、その声も思い出せなくなって、最後にはその誰かを失った悲しみすらも忘れてしまう。

 (たとえわたしが抗ってとしても)いずれ、そんな風になっちゃいそうな気がして、やっぱり怖い。


「メルー、あなたはわたしのこと、覚えていてくれるわよね?」


 メルーちゃんにとっては、双子姉妹にしか見えない自分の姉のような存在なんだもの。

 さすがに姿を思い出せないってことはないだろうと思う。

 いや、変身中の姿を覚えていてもらっていても、意味ないのかもしれないけれど……ううん、わたしがメルーちゃんの姿でメルーちゃんと一緒にいることを選んだのだから、それはそれで良いんじゃないかしらん?


「メリユ姉様」


 扉の開く気配と共に、耳をくすぐるメグウィン殿下のお声。

 向こうの世界での、大事な人ランキングじゃ、最上位なメグウィン殿下の方を振り返って、そのお姿にドキリとなってしまう。


 メルーちゃんはほぼ妹(?)として大事に思っているけれど、その大事さとはまた違った大事さを感じているのがメグウィン殿下。


 戦争前に、メグウィン殿下としてしまったマウスツーマウスのキスのこともあって、わたしは頬が熱くなってきてしまうのを感じる。



『どうして、全てを終えられたなら、いなくなってしまわれるような目をされるのですか?

 ええ、前から気になっていたのです。

 メリユ様はご自身を大切にされていないって、まるで仮初のお命でこの場におられるような感じがして、正直に申しまして、怖かったのです』



『安心しては、怖くなって、安心しては、怖くなって。

 メリユ姉様は、本当にずるいお方です!

 わたしはもうメリユ姉様と添い遂げると決めていますのに!』



 AI補正(?)のかかっているはずのわたしの挙動からも何かしら感じ取ってくれていたらしいメグウィン殿下のあの言葉を思い出す。

 『添い遂げる』 

 十一歳のメグウィン殿下に、そんな風に言ってもらえるだなんてね。

 ネットでの人付き合いがあり過ぎて、人間関係が希薄だとか、異性との恋愛とか、結婚願望とかがあまりないって言われるZ世代のわたしだけれど、乙女ゲーの、ネットなんてない『異世界』での恋愛に憧れを持っていたのは事実。


 人と人とが向き合って、時間をかけて相手を知って、好きになる。


 良いと思う。

 どうしてもスマホで繋がってる時間が長くなっちゃってるわたしたちだって、それは『あり』だって思っているわ。

 でも、メグウィン殿下みたいに真っ直ぐにわたしの目を見て話してくれて、感情高ぶったときにはダイレクトに抱き着いてきてくれて……そんな風に、直球に好意を示してくれるのはとても心地良かった。

 乙女ゲーで想像していたものよりもずっと、それは尊いものだったの。


 サブカルでも、腐……ううん、ガールズラブにだって偏見ないわたしだから、できることなら、メグウィン殿下の気持ちに応えてあげたい。


 心の底からそう思う。

 神様=多嶋さんに、『向こうの世界に行くか?』って言われたら、躊躇なく行くと思う。

 それでも、『一生に向こうにいることになるぞ』って言われたら……?

 うん、それはさすがに怖い。

 こっちに家族や友達だっているんだから、こっちで頑張ってきたことだってあるんだから。

 どうしたら良いんだろう?


「メルー様、お休みになられたようでございますね?」


 わたしが寝かし付けたばかりのメルー様の寝顔を優しく眺められてから、わたしの目を見て、ニコリと微笑まれるメグウィン殿下。

 ああ、よきよきのよき!

 メグウィン殿下のお姿も仕草も、当然尊死レベルですわ!!

 湯浴みをされて、頬が少し上気されているのがまたたまらないのよ!


 普段のメグウィン殿下でだっていくらでも愛でられるわたしだけれど、これは鼻血噴き出すレベルね!


「ハードリー様は、今お食事のご準備を手伝っていらっしゃいますわ。

 何でも、あのパースニップのポタージュを料理長に作らせているとか。

 ゴーテ辺境伯領では少し味付けが違うみたいで、色々ご注文なさっていらっしゃいましたわ」


 金髪の長い髪を掻き揚げられながら、そっとわたしの傍(ベッド脇)にお座りになられるメグウィン殿下。

 うん、こうして並んで座ると、(今のメグウィン殿下と同い年のメルーちゃんになっているだけあって)視線の高さが揃っているのがとても良いわね。

 横顔を眺めていると、長い睫毛と碧眼が少し震えているように見えるの。

 何気ない会話をしているようで、メグウィン殿下、まだ何かに怯えられているよう?


「すぅ、はぁ……メリユ様、本当に、此度はオドウェイン帝国との戦をおさめていただき、改めましてお礼申し上げますわ。

 その、先ほど、ハードリー様もご確認されていらっしゃいましたけれど、聖なるお力の方、バリアの維持には、問題ないという理解でよろしいでしょうか?」


 お顔をこちらに向けられて、上目遣いにわたしを見詰めるメグウィン殿下。


「ええ、このままバリアを維持するだけでしたら、聖力の回復量も考慮しますと、特に問題ないかと存じますわ」


「それは良うございました………」


 わたしの返答に一旦はホッとされたご様子だけれど、多分、メグウィン殿下が訊かれたいのはそれだけじゃない、と思う。


「メグウィン様?」


「いえ……その、メリユ様が打ち明けられたいとおっしゃっていたことが気になってしまいまして」


 うん、やっぱりそうよね。

 一旦、戦争の危機は回避された今、メグウィン殿下が気にされるのも当然だと思う。

 一体、何をわたしが隠しているのか?

 そして、わたしの身にもうすぐ何が起きるというのか?


 わたしが悪役令嬢メリユの身体を乗っ取っている別人だ、って伝えるのは、今すぐにだってできる。


 メグウィン殿下は制限がかかっていると思っているようだけれど、わたしの口は別に糸で縫い付けられたりしちゃいないのだもの。

 多分、説明しようと思えば、今だって……ううん、ハードリーちゃんがいないときに伝えるのはちょっとまずいか……二人が揃ったら、いつだって説明してあげられる。

 タダ、多嶋さんが強制介入して、このHMDと向こうの世界の接続を切るっていう可能性があるのは否定できないわね。


 さて、どうしたら良いものかしらん?


 何より、わたしがプレイを終えたとき、メリユがどうなるのか分かっていないのもまずいわよね?

 ああ、どうしてそんな大事なこと、多嶋さんに繋がっていたときに訊かなかったのか!!

 頭悪過ぎる!!

 少なくとも、向こうの世界のメリユがゲーム本編と同じく我儘令嬢で、カーレ様に強引に言い寄るような、とんでもない子っていうのは事実なのよね?

 わたしとの接続が切れた瞬間、メリユが元のメリユに戻って、豹変してしまったとき、メグウィン殿下やハードリーちゃん、メルーちゃん、マルカちゃんたちは耐えられる?


 う、なんかバッドエンドになる未来しか見えない気がする。


 別にわたしが善人だなんて言うつもりはないわ。

 単にゲーム本編(あっちはタダのシミュレーションだろうけれど)で客観的に皆のことを見てきて、ハッピーエンドに導くメリユは『こうあるべき』みたいな姿を取り繕っていただけだもの!

 でも、そんなわたしを見てきた皆は、あまりに違う悪役令嬢メリユに絶望するんじゃないかしら?

 サブカルでも、複数人格キャラでよくあるパターンよね。


 もちろん、最悪なストーリー展開のヤツだけれど。


「メリユ様?」


「いえ……」


「今のメリユ様、戦前にハードリー様が『そういう目をされますよね?』とご指摘されたときと同じ目をされていらっしゃいましたわ」


 う、やっぱり見透かされちゃってるか。


 二人には隠し事をできる気がしないなあ。

 もちろん、打ち明ける気ではあるのだけれど、本来のメリユのことをどう伝えれば良いのかがまだ分からない。

 だって、真実をありのままに伝えたら、わたしだって、号泣しちゃうよ。

 二人だって、きっと『これからメリユ、別人になります』とか言われても、意味分からないよね?


 普通のゲームだったら、『ハッピーエンドなので、シナリオはこれで終了です、後のことはご想像にお任せします』みたいにできるのに、リアルっていうのがこんなにもキツイものだなんてね。


 メリユの元人格に、全て委ねて、わたしだけ去るとかできないでしょ?

 とはいえ、残り時間はもう少ない。

 オドウェイン帝国に戦争を諦めさせたところで、きっとわたしは(表向きの)テスター業務から外され、向こうの世界に関わることを許されなくなるんだろうと思う。


 『パートタイム使徒ファウレーナ、悪役令嬢メリユになります!』


 そんなゲームだったっていうことで納得してって多嶋さんなら言いそうよね。

 ああ、もう生理中だからって悪いことばっか考えるな、わたし。


 絶対にハッピーエンドにするって決めたんだろ、わたし!


 わたしは、愛しいメグウィン殿下の頬に、その決意を示すかのようにそっとキスをしたのだった。

ご評価、『いいね』、ブックマーク、ご投票等で応援いただいております皆様方に厚くお礼申し上げます!!

私用や出張のお仕事が入っておりましたため、半月ほど更新できず、大変申し訳ございませんでした!

本当にお待たせいたしました!

次の連休は、少し多めに書ければと存じますので、今後とも何卒よろしくお願いいたしますね!!

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