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悪役令嬢、母国を救う  作者: アンフィトリテ
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第250話 ダーナン子爵令嬢、悪役令嬢の救命作業に手伝いを申し出る

(ダーナン子爵令嬢視点)

ダーナン子爵令嬢は、悪役令嬢の行おうとしている救命作業に手伝いを申し出ます。


[『いいね』いただきました皆様に深く感謝申し上げます]

 天へと続く、鏡の御柱=バリア。

 それはあたしの想像を大きく超えるものだった。

 一辺が千フィート以上もある、銀色……ううん、鏡にしか見えない柱なんだよ。

 商会で扱っている鏡だって、あんなに歪みのない鏡はないと思う。

 それが神の住まわれる天界まで続いている光景は、あまりに凄くて言葉にならないよ。


 何より、この鏡の御柱が現れたときの衝撃。


 爆風って言うんだっけ。

 悪者のオドウェイン帝国の先遣軍の兵士の『人』たちを飲み込むように鏡の御柱が現れたとき、お姉ちゃんから聞いていた通り、御柱はとんでもない風を引き起こして、雲が地上に生まれたの。

 これが『神話の世界』なんだと思った。

 お姫様=メグウィン様たちは、こんな神話に出てくる奇跡を何度も見てきたんだと思うと、少し胸が苦しくなった。

 そして、何より、あたしの張ったバリアが、皆様を護れたことに心躍ったわ。

 あたしも、お姉ちゃんと同じ奇跡を地上にもたらす特別な力があるんだって思って、胸が熱くなった。


 怖くないかって?


 そうね、少し怖い。

 でも、空からお姉ちゃんがかけつけて、あたしを護ってくれたあのときから、お姉ちゃんはそれくらいの奇跡を起こすのは朝飯前なんだって、思っていたから大丈夫。

 瞬間移動だって、雷落としたりだってできるんだから、お姉ちゃんは、あたしたちが神話の中の奇跡って思っていたものを現実に引き起こせる力があるんだと思うわ。


 あたしだって、商家の人間。


 自分勝手な理由で商隊を襲う盗賊たちを護衛の方たちが戦ってやっつけることだってあるのは分かっている。

 そう、盗賊の話を聞く度に、そんなのやっつけられて当然だと思っていたわ。

 (幼馴染の友達は、多分そういう血生臭い話は苦手だと思うから、商会の家に生まれ育ったあたしが特別なのかもしれないけど)

 それにね、あたし自身、盗賊じゃないけれど、あのオドウェイン帝国の工作兵って『人』たちに命を狙われたのだもの。

 『絶対に殺せ!』

 なんて言ってる大男たちに追われていたときの記憶は今もはっきりと残っているの。

 あのとき、お姉ちゃんが護ってくれていなかったら、あたしは今ここにいないわ。


 だから、爆風が悪者=兵士の『人』たちを吹き飛ばしていく光景を見ても、悪いことをしようとしたんだから、仕方がないことだって思っていたの。






 ……でも、お姉ちゃんは違った。


「つきましては、オドウェイン帝国先遣軍の残党の追撃許可を賜りたく、お願い申し上げる」


 王子様=カーレ第一王子殿下(?)のお言葉に、


「条件付きで許可いたします。

 その条件としましては、わたしを救命作業に加えていただきたく存じます」


 鏡の御柱が現れたときの衝撃が思っていた以上に強くて、兵士の『人』たちが吹き飛ばされ、大勢怪我をされたのを見て、心を痛められたような様子のお姉ちゃん。


 そのお姉ちゃんの言った『救命』という言葉にびっくりしたわ。


 盗賊は斬られて当たり前。

 敵の兵士の『人』たちは斬られて当たり前。

 商家にとっての盗賊、王家や貴族家の方々にとっての敵の兵士の『人』たち、は、そんな扱いなのが普通のことだと思っていた。


 もちろん、あたし自身が剣を持って戦うとか絶対に考えられないし、多分、あたし自身が盗賊を倒したりするようなことはないんだろうって思うけれど、護衛や王国の兵士の方々がやってくれるんだと思っていたの。


 それなのに、お姉ちゃんは敵=オドウェイン帝国の兵士の『人』たちを助けるって言ったの。


 衝撃的だった。

 お姉ちゃんがいなければ、あの兵士の『人』たちは、躊躇うことなく、王国の兵士の方々や街の『人』たちを斬っていっていたのだろうと思うもの。

 そんな、許してはいけない『人』たちを助ける?

 どうしてって思った。


「オドウェイン帝国先遣軍の後列の方々が衝撃波に巻き込まれ、大怪我を負われた方もかなりの人数いらっしゃるかと存じます。

 その方々の救命をお許しくださいませ」


 でも、お姉ちゃんが王子様に真剣な瞳でそう言っているのを見て分かったの。


 これが『本物の聖女様』

 使徒ファウレーナ様の生まれ変わりでいらっしゃるお姉ちゃんにとって、味方も敵も関係ないんだって分かった。

 誰であれ、タダの強さによって傷付けられた『人』たちを見過ごすことはできないんだって。


 そっか、そうなんだよね。


 あたしも、お姉ちゃんを見ていて、分かった。

 ううん、考えが回るようになったって言った方が良いのかな?

 あのあたしが悪者だって決め付けた『人』たちの中にも、きっと良い『人』はたくさんいるんだと思う。

 その『人』たちにも家族がいて、無事家に戻れなければ、その家族の『人』たちは悲しむことになるんだろうと思うわ。

 国の悪い『人』たちがミスラク王国を攻めるから『行け』って一方的に命令されたのよね?


 もちろん、剣を振るうことに喜びを感じて、進んで攻めようとしていた『人』たちもいると思う。


 でも、お姉ちゃんが助けようとしているように、全てが『悪』という訳ではないんだわ。

 まだ戦いが始まってもいない今、命の奪い合いを知らない『人』たちまで、お姉ちゃんの力で傷付けたことに、お姉ちゃんは胸が締め付けられるような思いを抱いているのかもしれない。

 ああ、何て凄い『人』なんだろう、あたしのお姉ちゃんは。


「……お姉ちゃん、あたしにも、お手伝いをさせてください」


「メルー、本当に良いの?

 血を見ることになるのよ」


「大丈夫だよ、ううん、大丈夫です、お姉ちゃん。

 これでも、商家育ちですから、商隊に加わるのを決めた時点で、それくらいの覚悟はできてるから」


 本当にあたしが聖女様になれるって言うのなら……あたしは、これからもずっとお姉ちゃんをお手本として、『本物の聖女様』になりたいと思う。

 改めてそう思ったの。


「分かったわ。

 マルカ様と一緒に新しいバッチ……ご命令を覚えてもらうけれど、良い?」


「うん、はい!」


 そして、あたしは、『人』の傷を癒せる特別な、聖なるご命令を教えてもらったのよ!






 聖女専属護衛隊(?)の騎士様たちに護衛してもらいながら、あたしは、後列(?)の兵士の『人』たちが吹き飛ばされた現場に来ていた。

 うん、正直、見ているだけで涙が出たわ。

 あまりに酷い惨状だったの。

 腕がおかしな方向に曲がっていたり、骨折して骨がお肌を突き破って酷い出血をされていたり。

 思わず吐きそうになったわ。


 これが神話の裏側なんだと思った。


 お伽話とか、辺境伯領での武勇伝なんかで出てくる戦いのお話だって、裏側では、これだけたくさんの傷付いた『人』たちがいたっていうことなのね。

 でも、お姉ちゃんはそんな『人』すらも見捨てないんだ。


「“SwitchOn light-2 with intensity 0.04”

 “Execute batch for water-generation-on-hand with flow-speed 0.05”」


 あたしと同じ姿のお姉ちゃんが、聖なるご命令を発せられて、その掌から傷を癒す聖水を生み出されるの。

 凄いのよ。

 掌に光の珠が現れたかと思ったら、そこから聖水が溢れ出したんだから!


「大丈夫ですか?」


 出血の止まらない大怪我をしている兵士の『人』に近付き、聖水を傷口にかけていくの。

 そうしたらね。

 細かい光の粒が聖水のかかったところから漂い出して、本当にびっくりしたのだけれど、傷口が塞がっていったのよ!


「おぉ」


「光と水の聖女様」


 あまりに奇跡的な光景に、護衛の騎士様たちも涙ぐまれるの。

 ううん、あたしだって泣いちゃった。


 神話の裏側で、記録に残らなくたって、『人』の命を救おうとする『本物の聖女様』


 こんなに素晴らしい聖女様が、あたしと血の繋がりのあるお姉ちゃんだなんて、何て誇らしいんだろうって思う。

 あたしも、こんな風になりたいと思ったわ。


「スイッチオン ライトスリー ウィズ インテンシティ ゼロ ドット ゼロ フォー。

 エクセキュート バッチ フォー ウォータージェネレーションオンハンド ウィズ フロースピード ゼロ ドット ゼロ ファイブ」


 マルカ様と一緒に確認して、必死に覚えた聖なるご命令をあたしも発するの。

 右手の掌が少し温かくなったかと思ったら、光の珠が現れて、そこからコポコポって聖水が湧いてきたわ。


 凄い!


 あたしもお姉ちゃんと同じ聖女様らしいことができるんだって、うれしくなった。


「メルー様!」


「メルー聖女猊下」


 これでお姉ちゃんの役に立てるんだよね?

 あたしは顔が少し緩むを感じながら、お姉ちゃんの方を見たの。


「メルー、凄いわ。

 その聖水は、傷付いた『人』たちを救うことができるの。

 メルーも手伝ってもらえるかしら?」


「もちろんです、お姉ちゃん!」


「ありがとう。

 じゃあ、もう少しわたしのやり方をしっかり見てから、救命作業を手伝って頂戴ね」


「分かりました!」


 見た目、出血の止まった兵士の『人』は、先ほどと違って、苦しみから解放されたようにも見えるけれど、これだけじゃあ、ダメなのかな?


「はあ、はあ、はあ」


「わたしの声が聞こえますか?

 出血はほぼ止まりましたが、内臓が傷付いているおそれがあります。

 それを癒すために、この聖水をお飲みくださいませ」


「はあ、ぁ、ああ」


 護衛の騎士様が上半身を起こさせて、お姉ちゃんは兵士の『人』に聖水を飲ませられる。

 そ、そうか。

 血が止まっても、身体の中の怪我が治っていないこともあるのね。

 だから、聖水を飲ませて、身体の内側からも治させなきゃいけないんだ。


 でも、何て神々しい光景なんだろう。


 乗馬服に着替えられたとは言っても、(姿はあたしと同じなのに)お姉ちゃんは『本物の聖女様』と感じられる。

 あたしも早くお姉ちゃんのような『本物の聖女様』になりたいと思える、一生忘れられないような光景だったわ。

『いいね』、ご投票でいただきました皆様に深く感謝申し上げます!

悪役令嬢メリユ=ファウレーナさん、やはり自分のせいで誰かが命を落としたりしないよう動くようでございます。

その姿を見て、ヒロインちゃん=メルーちゃんも動くことになったようでございますね!

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